「薬売り」キム・イングォン“おしろいをつける父の人生…崖っぷちの生き残りをかけた戦い”

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コミカルな演技で愛されてきたキム・イングォン(37)。スクリーンに映る彼の実際の性格は驚くほど予想を裏切る。自らも「憂鬱に近いほど人見知りが激しい」性格だと明かす彼は、場を設けてもらえば楽しく盛り上がれる俳優だという。

そんな彼が映画「薬売り」(監督:チョ・チオン、制作:26カンパニー)でしっかりとした場に立った。「薬売り」は健康食品や生活用品を売る広報館、いわゆる“トッタバン”を舞台に、病気の娘の治療費のために広報館に就職したイルボムの生存記を描いた映画だ。キム・イングォンは娘の治療費のために広報館にやってきたおばあさんたちの前でお尻を見せて人を笑わせ、こっけいな踊りを披露する、金と生活のために奈落の底まで落ちるイルボムをリアルに表現した。ない“茶目っ気”をかき集めてお年寄りを笑わせ、泣かせる。本当に人生とは辛いものだ。

映画は運転代行業でなんとか生活を続けているイルボムの疲れた姿から始まり、顔におしろいをたっぷりとつけ、お年寄りと踊るイルボムの顔でピリオードを打つ。笑っているのか泣いているのか分からないほど歪んだキム・イングォンのクローズアップは妙な余韻を残す。キム・イングォンは映画のポスターにも使われたエンディングシーンを撮りながら「本当に悲しかった」と打ち明けた。

「薬売り」について「おしろいをつけて生きる父(俳優という職業柄)として、一度は押さえておきたい人生のある地点を描いた映画」と説明した彼は、映画がヒットするかどうかとは関係なく、作品を通じて省察と慰めの時間を過ごせたということだけでも作品に対する愛着は特別だと伝えた。実際、キム・イングォンという人間とイルボムには似ているところがかなり多いという。韓国では4月23日、「「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」(以下「アベンジャーズ2」)と同じ日に公開されるが、それに気後れしないのも映画と自分自身の演技に対する強い誇りがあるためであろう。

彼は小市民のため息と顔を代弁する自分の位置が好きだと話した。今は崖っぷちに立ち、一日一日を耐える辛い人生だが、いつか立派な趣味を持てる地位に立つことができれば、その時はまた違う顔で観客に会えるじゃないかと笑顔を見せる。彼は近く映画「ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~」(監督:イ・ソクフン)撮影のため、スイス・モンブランへと向かう。再び大変な撮影が彼を待っているが、カメラの前で演技ができるため幸せだという。どの瞬間も本気でカメラの前で遊ぶ彼の姿をよりたくさん見ることができるよう願っている。

以下はキム・イングォンとの一問一答である。

―「アベンジャーズ2」と同じ日に公開される。

キム・イングォン:パク・チョルミン先輩に「君は『アベンジャーズ2』を心配するコンセプトで行け」と言われた。心から「アベンジャーズ2」のヒットを願っている。(「アベンジャーズ2」は)韓国で撮影までしたのに、迷惑をかけちゃダメじゃないか(笑) (パク)チョルミン先輩も僕も根拠のない自信に溢れている。

―映画「救国の鋼鉄隊列」(2011年)以来のパク・チョルミンとの共演だ。

キム・イングォン:すごい方だ。その真価とエネルギーをまだ全部見せていない。自分も先輩の年齢になってもあれほどのエネルギー、元気があるだろうかと考えさせられる。アーティストとしてのエネルギーがすごい。

―パク・チョルミンがマスコミ向け試写会の時に、“ハニーバターチップ”に言及して話題になった。

キム・イングォン:そうだ。僕は撮影現場で見たあのお菓子が“ハニーバターチップ”であることすら知らなかった。話題になることをものすごく見つけてくる。すごいと思う。

―二人ともアドリブで有名だ。

キム・イングォン:「救国の鋼鉄隊列」の時もそうだったが、お互い息がぴったり合う。問題は僕たちがバラバラになってそれぞれの作品で演技をする時は少し浮くことだ(笑) 二人でいる時だけは最高だ。劇中のチョルジュンの「オメガ3が入ったシャンプーだ」という台詞はチョルミン先輩のアドリブだ。僕はいくら何でもシャンプーにオメガ3はやりすぎだと思って反対したが、監督は気に入っていた。チョルミン先輩が愛着を持っているアドリブだ(笑)

―映画の中でのふざけるキャラクターとは異なり、実際の性格は静かだ。

キム・イングォン:憂鬱に近い性格だ。パク・チョルミン先輩は現場に来てすぐに雰囲気を盛り上げてから始める。

―その面でイルボムと実際のキム・イングォンの姿が似ているところが多い。

キム・イングォン:そうだ。恥ずかしがり屋で、人見知りも激しい。やりたくないことをやりながら肩身の狭い思いをするイルボムを理解しやすかった。心情的な面でも似ているところが多かった。

―人見知りが激しいのに俳優になった。演技が天性なのか。

キム・イングォン:演技もキャラクターが与えられてこそ動く。そうでないと足踏み状態になる。僕は場を設けてくれるとやるタイプだ。少しでも僕に合わないと苦労したり、照れたり、こなせない姿がイルボムにすごく似ている。

―前から“トッタバン”について知っていたのか。

キム・イングォン:僕の母方の祖母も通っていた。高校生の時、ソウルに留学できたが、その時の一ヶ月の家賃が50万ウォン(約5万5千円)だった。祖母が玉マットを27万ウォン(約3万円)で買ってきたが、もどかしかった。そのマットで寝ると体中がかゆくなった。販売先に問い合わせるとかゆいからこそ治ると言われた(笑)

―“トッタバン”の中にこんな社会があることは知らなかったのか。

キム・イングォン:まったく知らなかった。祖母がトッタバンに通い始めてからすごく綺麗になった。表情が明るくなり、活気を取り戻した。それほど楽しい時間を過ごしたから、騙されたと思って27万ウォンもの玉マットを買ってきたのではないかと、遅ればせながら知ることになった。

―イ・ジュシルとも息が合っていた。

キム・イングォン:僕もイルボムのように母性愛に馴染みのない人生を生きてきた。母を早くして亡くしたし、事業が上手く行かず、一緒に暮らすことができなかった。祖母と暮らしたり、叔母と暮らしたりもした。孤児のように育ったイルボムが他人の母に優しくする姿が、僕の母性愛に対する恋しさと重なった。

―エンディングの余韻が深かった。

キム・イングォン:そのシーンは撮影していて本当に悲しかった。一日中撮っていたが、20テイクぐらい撮影した。メイクも自分でやったものだ。パク・チョルミン先輩がメイクした僕を見てすぐに「いや、これ(雰囲気)あるね?」と感動したように話した。娘のために悪魔に魂を売ったイルボムの姿がすごく切ないじゃないか。

―キム・ヘジャが夢中になって踊った映画「母なる証明」(監督:ポン・ジュノ)のエンディングを思い出した。

キム・イングォン:そうか? そのシーンより遥かにいいとは言えないが……(笑)

―パク・チョルミン、キム・イングォンが出演するため、コメディーを期待してくる観客が多いと思うが。

キム・イングォン:笑うか泣くか分からない凄絶な映画だ。実際「薬売り」もコメディーの一種だ。すべての権威が崩れるじゃないか。親孝行に対する、資本主義による圧迫、娘と父の関係、夫婦の関係、検事と子どもの関係、すべての権威が崩れるという点でコメディーといえばコメディーだが、ひたすら笑えるコメディーではない。

―観客動員数1000万人を突破した映画(「TSUNAMI -ツナミ-」「王になった男」)2本に助演として出演した。主演作もヒットして欲しいと思っていないか。

キム・イングォン:「薬売り」はヒットするかどうかはさておき、おしろいをつける父として、自分の姿がしっかり盛り込まれた映画だ。一度は押さえておきたい、僕の人生のある地点を描いた自伝のような映画であるため、すごく好きだ。問題は観客の皆さんがこれに共感してくれるかだ。

―いつの間にか小市民を代表する顔になった。そんな視線にプレッシャーを感じたりはしないのか。

キム・イングォン:まだ俳優として、家長として成長しなければならない。より良くなる余地があり、自信もある。今の自分の姿が嫌いではない。美徳もあると思う。父親として、俳優として成長していくにつれて、キャラクターも変わると思う。今は崖っぷちに立っているように、生き残るために凄絶に生きている。そのため、顔からもそれが感じられるだろう。いつか、安定圏に入れば、僕もブランド品を使ったり、ゴルフをやったり、趣味も持てる安定した人生を暮らせるだろう。今はあえて欲張りたくない。

―映画前半で履いていた登山靴は「TSUNAMI -ツナミ-」の時から履いていた自前の靴だと聞いた。

キム・イングォン:ハハ、そうだ。履き慣れているので、今まで捨てずに履いている。靴底がすり減るほど長く履いてきた。恐らくイルボムならそんな靴を履くだろうと思って現場に持っていったが、監督が喜んでくれた。今回「ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~」(監督:イ・ソクフン)の撮影に行くために新しい登山靴を買ったが、この靴ほど足が楽ではなかった。

―「ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~」の撮影はどうだったのか。

キム・イングォン:ネパールには行ってきて、これからスイス・モンブランに行く予定だ。ネパールでも本当に大変だった。まず、高山病は基本だし、ウェットティッシュで見えるところをやっと拭く程度だ。雪が気化し、夜になるとさっと降りてくるが、悪魔のようだった。寝ているのに、あの冷たい空気が入ってくると5秒も耐えられない。どうにかなりそうだった。それでも良かったのは、180度広がる自然を見ていると怖いものがなくなる。ソウルであくせく人の顔色伺いながら生きることが大して重要なことじゃないように思える。涙が出るほどだ。もちろん、都会に戻ってからは怯えたが(笑)

―実際はどんな父親なのか。

キム・イングォン:平凡だ。権威的な家長ではないと思う。子どもたちが僕を甘く見ているというか。子どもたちは父親が小市民の役を演じるのがあまり好きでないようだ。カッコイイ役を演じればいいのに、毎回人生に疲れている姿を見せるから。娘にテレビで「パンガ?パンガ!」が放送されているので、ちょっと見てと言ったら、消してと言われた(笑)

記者 : キム・スジョン、写真 : チョ・ソンジン、映画「薬売り」スチールカット