「フェニックス」マ・ドンソク“心臓停止、転落事故…死を超越したターミネーター”

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主演に負けない助演として観客の視線を捉える役者たちがいる。人々は彼らのことをシーン・スティーラー(scene stealer)と呼ぶ。爆発的な存在感で劇の雰囲気を左右する彼らのおかげで映画が一層面白くなる。なめらかで洗練されたイメージはないが、荒っぽさの中から妙な魅力が感じられるマ・ドンソク(42歳)が、まさにそのような役者である。

ホスピス(末期がん患者に対して緩和治療や終末期医療を行う施設)を舞台にしたヒューマン映画「フェニックス~約束の歌~」(監督:ナム・テクス、制作:ホンフィルム、以下「フェニックス」)で、マ・ドンソクは元ヤクザだが、子供のような純粋さを持っている脳腫瘍患者ムソンを演じた。映画に出演するたびに強いキャラクターを演じてきた彼だが、今回は優しいキャラクターに破格の変身を図った。無謀な挑戦だと思ったが、意外や意外、この男切ないラブストーリも絶妙に似合う。

「これまでは暗い雰囲気の映画に多く出演してきました。だから『フェニックス』に出演したくなったのかも知りません。自分を癒すためにチャレンジしました。これまで殴ったり、壊したり…精神的にかなり辛かったんですよ(笑) 自分なりには恋愛演技も可能な男なんですが、観客のみなさんはまだ知らないみたいです。こう見えてもガラスのハートなんですけどね(笑)」


実際のモデルは死を前にして平然といられたのか

マ・ドンソクは、すでに忠武路(チュンムロ:韓国の映画界の代名詞)で有名なシーン・スティーラーだ。最近は、主演のタイトルまで手に入れ、観客の心までも盗む人となり、映画の中でとても重要な存在になった。マ・ドンソクのいない映画だと思うと、何だか寂しくさえ感じるくらいだ。

そんな彼が余命宣告を受けた患者として戻ってきた。生と死を描いた映画であるだけに、軽い気持ちで出演を決めることはできなかったはずだ。マ・ドンソクは、「役者なら耐えなければならない宿命だ」と言いながら照れくさそうに笑顔を見せた。しかし、すぐに「正直、怖かったです」と本音を打ち明けた。

実話を映画化した作品であるため、さらに慎重になったという彼は、「ナム・テクス監督からたくさんの話を聞きました。死を前にした人たちの物語なので、『もし僕が故人に迷惑をかけることになれば』というプレッシャーもありました」と思い返した。

実際に、マ・ドンソクが演じたムソンは、ナム・テクス監督が以前からボランティア活動を行っていたホスピスのある患者をモデルにしている。末期の肝臓がんで世の中との別れを準備していた故人のストーリを脚色し、マ・ドンソクだけのムソンとして表現したのだ。彼にモデルとなった患者に映画を見せることができなくて残念だと思わないかと尋ねると、もし彼が生きていたとしても映画は見せたくないという答えが返ってきた。

「モデルになってくれた方は、残念ながら映画を見ることができない場所に旅立ってしまいました。でも、もし彼が生きていたとしても、映画は見せたくないです。映画ではいずれにせよ死を描いているからです。辛かったでしょうね。死の前にして平然とはいられないと思います。ただ、残る人々のために淡々としたふりをしながら配慮するんですね。死が怖くない人は誰もいないでしょう。ムソンも最後には本音を漏らしますから。いざ死のうとすると怖いって…」


死を超越したターミネーター

21日、「フェニックス」試写会後に行なわれた記者懇談会で、マ・ドンソクは驚きの告白で場内を騒がせた。余命を宣告された患者を演じた感想を語る過程で、かつて心臓が止まったことがあると話したのだ。

驚きながら当時のことを尋ねると、マ・ドンソクは「たいしたことではありません」と豪快に笑った。彼は、「今はこうやって普通に生きているんですから。僕の人生の中の小さなハプニングに過ぎません」と冗談めかして話した。

マ・ドンソクは、「アメリカでボディビルダーをしていた時のことです。僕の人生の中で最もたくさんトレーニングをした時でした。いつものように朝起きてトレーニングを始めましたが、突然手が麻痺するのを感じました。不安になってすぐに911に電話をかけて救急車を呼びました。電話を切ったとたん体の状態が悪化し、そのまま気絶しました」と答えた。

あの時救急車を呼ばなかったら、今ここにいることもできなかったという彼は、「目を覚ましたら、人工呼吸器をつけて病室に横になっていました。恐らく、トレーニング用のサプリメントが体質に合わなくて副作用を起こしたんだと思います。医者も正確な病名は分かりませんでした」と肩をすくめた。死さえも乗り越えた彼の姿からは、ターミネーターのイメージが浮かび上がるのはなぜだろうか。

「他にもいろんなことがありました。4年前、SBSドラマ『太陽を呑み込め』に出演した時は、アフリカでの撮影中に、ビルから落ちて脊椎を損傷したことがあります。墜落した場所には鉄柱が何本も立っていたんですが、幸いにも鉄柱と鉄柱の間に落ちて一命を取り止めることができました。それこそ即死につながるかもしれない大きな事故でした。当時は下半身麻痺になるかもしれないと言われましたが、手術が上手くいったおかげで今はこうして両足で歩いています。ひやりとした経験が多いからか、死についてたくさん考えるようになりました。毎日最善を尽くしながら生きようと努力しています」


“演技アイドル”一夜にして成るスターはいない

「フェニックス」は、マ・ドンソクが初めて恋愛演技に挑戦する作品として注目を集めたが、グループFTISLANDのイ・ホンギの初主演映画としても話題となった。韓流をリードするスターイ・ホンギが出演しただけに、日本ではすでに制作費を上回る収入を上げたという。

日本での熱い反応にマ・ドンソクは、「韓流という言葉は聞いていましたが、こんなに高い関心を見せてくれるとは知りませんでした。僕のような俳優は、ヨン様(ペ・ヨンジュン)でない限り、肌で実感することはできないと思います。遠い話だと思っていましたが、この映画のおかげで全身で感じています。正直、イ・ホンギが日本でこんなに人気があるとは知りませんでした」と恥ずかしがった。

試写会で映画が初めてマスコミに公開される日、緊張するイ・ホンギの姿が可愛かったというマ・ドンソク。彼は演技をする間、ずっと真心を込めようとするイ・ホンギの態度に感動したと称えた。また、「イ・ホンギは思っていたよりいい奴だ」と言いながらイ・ホンギに対する愛情もアピールした。

ところが、マ・ドンソクの話とは違い、一部ではアイドルの演技活動に対して懸念の声も高い。マ・ドンソクも多くの人々が心配する部分については見逃さなかった。しかし、彼は心配はさておき、自分だけの信念を持ってイ・ホンギに対する信頼を最後まで語った。

「演技に挑戦するアイドルが増えたせいで自分の仕事が奪われたと嘆く俳優もいます。いきなり登場したスターにみんなが戸惑っているとも聞きます。でも、僕はいきなりスターになる人はいないと思います。アイドルたちもデビューするまで骨身を削るような努力をするでしょう? その過程できっと力を積んできたんだと思います。イ・ホンギも同じです。もちろん子役出身なので他の人よりはセンスがあったかと思いますが、心構え自体が人並み外れていました。今、演技の面で好評を受けているアイドルたちもみんなそうだと思います。何も簡単に手に入れることはできません。もう少し温かい目で彼らを見守ってあげて下さい」

記者 : チョ・ジヨン