「馬医」イン・ギョジン“間抜けなキャラクターは僕が作ったものです”

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俳優イン・ギョジンは、MBCドラマ「馬医」でギャップのある魅力を披露した。彼がこのドラマで務めた役は、典医監(チョニガム:医療行政と医学教育を管掌する官庁)の教授クォン・ソクチョル役だった。劇の序盤でクォン・ソクチョルは強い者に媚び、弱い者を無視する二面性を持った人物だった。ところが、そんなクォン・ソクチョルがいつの間にか間抜けな男になっていた。そんなクォン・ソクチョルを見て、ソ・ガヨン(オム・ヒョンギョン)は“間抜け”とからかい、笑いを誘った。二人は、“マドルフィン”(「馬医」+エンドルフィン)と呼ばれるほどドラマに活力を与えた。

実際のイン・ギョジンは、クォン・ソクチョルの“間抜け”な姿に近かった。俳優がここまで愉快で、率直でもいいのだろうかと思うほどだった。彼の豪快な笑い声とポジティブなエネルギーは、人々を自然に笑顔にする力を持っていた。彼は撮影現場でも“エンドルフィン”の役割を果たしていたに違いない。

「馬医」のクォン・ソクチョルが“間抜け”になった理由

「元々イ・ビョンフン監督の作品が好きだった」と話すイン・ギョジンは、「馬医」の出演オファーが来た時、その場で出演を決めた。そして共に撮影をしながら、イ・ビョンフン監督への信頼はさらに深くなった。イン・ギョジンは、イ・ビョンフン監督からいつかまたラブコールを受けたらどうするかと尋ねると、「とりあえず出演する」と確信に満ちた声で答えた。

「『馬医』は実際、勧善懲悪(善を勧め、悪を懲しめる)の要素が強く、一人の一代記を描いたストーリーだ。ある意味では陳腐な題材でもある。しかし、どろどろ系のドラマではなく、綺麗で美しいドラマだったことを評価したい。人々はイ・ビョンフン監督が年を取り、全盛期は過ぎたと言う。しかし、イ・ビョンフン監督が時代劇界の巨匠であることは確かだ。数十年間、同じ場所で働き続けるということはそう容易くない。今まで続けてきただけでも凄いことだ」

イン・ギョジンの時代劇出演は、今回が2度目となる。以前、イン・ギョジンはMBCドラマ「善徳女王」に出演したことがあった。イ・ヨウォンとは、「馬医」で2度目の共演になる。イン・ギョジンに時代劇の魅力を質問すると、長所と短所をはっきりと答えてくれた。ここ6ヶ月間、撮影現場にいた彼の姿が目に浮かんだ。

「ドラマの撮影は全てが大変だ。現代劇はたくさんの人々がいる場所で撮影をするというところが面白い。今回の『馬医』を撮影しながら、龍仁(ヨンイン)で食事をし、ヒゲをつけて、6ヶ月間を過ごした。初めの頃は、6ヶ月もの期間はいつ過ぎるのだろうかと遠く感じたりもした。しかし、時代劇の長所を挙げてみると、昔の人物を代わりに生きられるという点がある。正直言えば、衣装が変わることもあまりないし、髪型に気を遣わなくても良いというところが長所だ。けれど、食事の時はヒゲが口の中に入ったりして大変だった(笑)」

ドラマでクォン・ソクチョルは、ペク・クァンヒョン(チョ・スンウ)をいじめる意地悪な師匠だった。当時を振り返り、イン・ギョジンは「悪いことをたくさん言われた」と告白した。しかし、いつの間にかクォン・ソクチョルはユン・テジュ(チャン・ヒウン)、パク・テマン(ユン・ボンギル)と共に“間抜け3兄弟”として浮上し、ドラマの脇役として存在感をアピールしていた。実は、クォン・ソクチョルというキャラクターを変化させたのはイン・ギョジン自身だったという。

「第1話で、クォン・ソクチョルの存在感が大きかったので嬉しかった。けれど、時間が経つにつれ、ただ誰かの言葉を伝えるだけの役にすぎないような気がしてきた。俳優としてキャラクターを創造しなければならないのに、危機に陥ったような感じだった。本来は権力者に媚び、意地悪なキャラクターとして描写されていたけれど、伝言を伝える場面を間抜けな感じで演じてみると、新しいキャラクターが生まれた。それを見た監督も喜び、脚本家もその時からクォン・ソクチョルをそのようなキャラクターに描いてくれた」

イン・ギョジンは、残念ながらドラマの中で一度も手術を執刀したことがない。彼は、「手術室に入るシーンはあったけれど、針を刺すシーンは一度もなかった。台詞もなく、誰かが間違って施術をすれば『ホ~』と反応するだけだった。中国に行ったシーンでは、手術室で湯薬をうちわで扇ぐ場面が一回あっただけだ。針を刺すシーンがあれば、『あら、骨に触れたか』などのアドリブをしようと用意していたのに、残念だった」と語った。そして、「僕はじっと見ているシーンばかりだったが、医療ドラマの魅力が何なのかを感じることができた」と伝えた。


デビュー13年目、やっと“踏み石”を渡る

2000年にMBCの第29期公開採用タレントとして抜擢され、すでにデビュー13年目を迎えた俳優イン・ギョジン。これまで着実に演技の活動をしてきたが、彼の名前を知らせたのはここ数年間のことだ。イン・ギョジンは無名時代について、「辛くて大変な日々だった」と振り返った。過去を振り返る彼の瞳は、いつの間にか涙で潤んでいた。

「両親に胸を張れるカッコいい息子になりたかった。この仕事を6、7年間もやってきたのに、あまり上手く行かず、成果が出せなかった。両親の財産を食い荒らしているだけのような気がして、とても辛かった。そこで、当時持っていたお金を全部持って、“アメリカンドリーム”を夢見てとりあえずアメリカへと渡った。けれど、その時、映画『神機箭(シンギジョン)』にキャスティングされたという連絡がきたので、わずか2ヶ月で韓国に戻ってきた」

もし、「神機箭」にキャスティングされていなかったら、今の彼はどのような日々を送っていたのだろうか。「神機箭」は、彼の役者人生でターニングポイントとなった。イン・ギョジンは翌年「善徳女王」に出演し、精力的な活動を続けた。そして、2011年にSBSドラマ「明日が来れば」で人々に自分の存在を刻んだ。同ドラマで知的障がい者役を演じたイン・ギョジンは、好評を得た。出演のオファーがきた時、簡単ではない役だったが、イン・ギョジンは悩むことなく出演を決めた。どのような役であろうとも、演じきれるということを証明したかったためだ。

過去をパノラマのように振り返ったイン・ギョジンは、「小さい頃は、ただスターになりたかった。年をとるにつれ、演技を続けていると、演技自体に魅力があるということに気付いた」と告白した。イン・ギョジンは自分の位置について、やっと人生の“踏み石”を渡ったところだと表現した。役者人生の第2幕を始めようとしているイン・ギョジンは、すでに次回作を決めた。彼は現在、演劇「幸福アパート1004号」の準備に励んでいる。ステージの上で新しいエネルギーを放つ彼の姿が楽しみだ。

記者 : ソン・ヒョジョン、写真 : ムン・スジ