Vol.1 ― イ・ソンギュン「相手役の女優と本当に付き合っているようだって?」

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「父親になるとみんな同じみたいです。どんな俳優になりたいかというより、家長として家族を養わなければならないと考える点で」

いつものように響きの良い声でイ・ソンギュンが言った。こんなに穏やかな声と目つきで、いつもヒロインの傍で待ってくれていたあしながおじさんは、自分の生涯のパートナーと子供を持つ本当のおじさんになった。そして、偶然だろうが、映画「坡州(パジュ)」と「オッキの映画」、MBC「パスタ~恋が出来るまで~」などにつながる最近の出演作品でも、彼は優しく天使のようにロマンチックな男の代わりに、時には暴悪で、時には“みっともない”姿を見せてくれた。

ラブコメディ映画「くだらないロマンス」を見て嬉しくなるのは、彼の恋愛復帰作であると同時に、依然としてあしながおじさんとは程遠い一癖ある主人公を演じ、二つの領域の共通点を見せてくれるからであろう。果たして、これまでの姿は変化だろうか、それとも進化なのだろうか。もちろん、彼についての判断は観客一人一人がするものだが、本人の口から出た言葉が正しい判断に役立つこともある。このインタビューのように。

「ベッドシーンが終わると、現場が楽になった」

―第一印象から口ひげが強烈に目に入る(笑)

イ・ソンギュン:今回の「くだらないロマンス」のために作った設定。実は、台本には生活に余裕のないキャラクターにもかかわらず、カッコよく描かれていた。モデルみたいで着こなしも上手で。それが厳しい生活の状況とマッチしなかった。それに、僕自身のビジュアルにも自信がなくて。いくら着飾っても“わぁ~”という反応が出ないから。だから、そんな美化された面を取り除こうと監督に提案した。絵描きでデビューもできず、お金も稼げないのだから、弘大(ホンデ)の駐車場の路地で酔っ払っている人のように見せないとって。東大門(トンデムン)で自ら洋服の準備をして、衣装のコンセプトをかなり変えた。また、洋服よりも髪の毛が大事だと思って、映画の中のようなパーマヘアーを一回やってみた。そして、その髪には口ひげを生やした方がいいと思った。だけど、撮影が終わって一度剃ってみると、それが何だか不自然だった。まるで眉毛を剃ったかのように。だから今もわざわざ生やして少し整えてる。周りは乞食っぽいとからかうけれど(笑) キム・フングクさんやパク・サンミンさんが口ひげを生やしているのは、剃らないのではなくて剃れないのではないかと思えた。

―もともと役作りをする時、ビジュアルの変化にも敏感なのか。

イ・ソンギュン:役作りを始めるとき、気を遣わないと、カッコよく見えないと、というわけではなくて、僕が納得して具体化させなければならないから。何でもないように見えるけど、それがキャラクターに近付く一つの方法だと思う。

―「くだらないロマンス」のジョンベは、自分がキャラクターに合わせたのか、それともキャラクターを自分に合わせたのか。

イ・ソンギュン:自分に合わせてきたと思う。「坡州」のようにすごく真剣な役を演じる時は、僕がキャラクターに合わせられるように努力して、軽快で面白いリアクションが大事な時は、その人物を具体化して自分のキャラクターに合わせようとする。

―そのようなジョンベを演じてどうだったか。

イ・ソンギュン:楽しく演じた。序盤だけ少し悩んだけど、最後はすごく気楽に負担を感じることなく演じた。

―序盤はどのような悩みがあったのか。

イ・ソンギュン:まず、序盤はキャラクターが明確に定められていなかった。そして、劇中にベッドシーンがあった。そのため、食事を管理しようとしょっぱいものを食べなくなって、味に敏感になっていたと思う。しょっぱいものを食べないとイライラする。しかし、ベッドシーンが終わると、現場でとても気が楽になった。本当に食べられなくて大変だった(笑)

―減量のつらさか?「パスタ~恋が出来るまで~」が終わってからは体を管理したいと言っていたが。

イ・ソンギュン:疲れて眠れなくて、ストレスがたまると、さらに太る。そして、ミニシリーズ(毎週連続で2日間に2話ずつ放送されるドラマ)をやる時はかなり太る。「パスタ~恋が出来るまで~」の時も、放送最終日に初回放送より5kgも太っていた。ご飯もそんなにたくさん食べたわけじゃないのに、ヒョジンがダイエットしろとからかったてきたこともある。それで、運動したいと思った。30代半ばにもなると“急”な管理ができない。20代はひと月だけ食べる量を減らすとお腹に「王の字」みたいなものを作ることができたけど…いや、30代前半に「ベスト劇場-テルン選手村」出演した時はとても楽だったのに、今は耐性ができてしまってその数倍の努力が必要になってしまった。ある程度は何でもしておいた方がいいと思った。そして、運動を始めて「くだらないロマンス」で60kg後半まで減量したけど、終わってからまた太っている。とにかく、地道に運動すると、後で減量する際に楽になるようだ。

―一種の原点を作っておくということか。

イ・ソンギュン:それが大事だと思う。


「相手役の俳優にさり気なく投げてみれば、相手も絶えず何かを与えてくれる」

―そんな状態で受け入れたジョンベは、どんなタイプの人物なのか。設定だけ見ると芸術家的な自意識が強そうだが。

イ・ソンギュン:強い。だから、お金を稼げなくて。そうやって自意識が強くてカッとなる人が、作家(チェ・ガンヒ)を連れてきて、カッとなれずになんだかんだ言い争って、いつの間にか自分も知らないうちに女性として見るようになる話だ。一見ありきたりなストーリーだけど、ラブコメディというものはありきたりな話が多い。どんでん返しもないし。だけど、細かな面白さがある。12月にラブコメディを求める恋人たちが手を繋いで共有したいものを十分表現していると思う。気持ちのいい結末もあるし、チョン・ジェヒョン音楽監督の選曲もいいし、恋愛映画にふさわしい全てが盛り込まれている。

―そういう面で、「くだらないロマンス」というタイトルが絶妙だと思う。現実の中のロマンスというのは、くだらないことの連続ではないか。

イ・ソンギュン:だけど、僕は少し気に入らなかった。“くだらない”という言葉は良いが“ロマンス”という言葉が大嫌いだった。いかにもこれは恋愛映画だと定めてしまっているようで。しかし、タイトルに反対する人が自分しかいなかったので、そのままで行きましょう、となった(笑) ところが、映画を撮ってみたら、とてもマッチしたタイトルだった。恋愛自体がくだらないこともあって、男女の主人公があの手この手を使って掛け合いをするのも凄くくだらなくて。よくできたタイトルだなと思った。

―そんな過程を展開していくことにおいて、相手役の俳優との呼吸が重要だと思う。チェ・ガンヒとはSBS「マイ・スイート・ソウル」以降2度目の共演だ。

イ・ソンギュン:好感を持っていたので再度共演した。僕たちは「マイ・スイート・ソウル」が好きだ。他のドラマより視聴率が良くはなかったけれど。しかし、その時二人の関係が本当にドラマの中のヨンスとウンスのようだった。お互いを敬い合って高めているところが特に。(チェ)ガンヒさんの出番が多く、パク・フンシク監督も映画のように細かく長く撮る方なので、一緒に食事する時間もなかった。彼女も非常に疲れているようにも見えたし。それで、親しくなれなかった。今度は少しリラックスした、楽しく過ごすカップルとして作品で会えればいいな、そんな気持ちが僕にもガンヒさんにもあった。だからこそ、今回がいいチャンスだった。いくらやりたくても、縁がないとできない。僕が他の作品に出演でもしていたらできないじゃないか。

―恋愛ドラマに出演するごとに良い評価をもらうのは、女優たちと上手く息を合わせるからではないか。

イ・ソンギュン:僕が敢えてやることは特にない。特に優しくしたこともないし。いい女優と演じただけだ。例えば、「パスタ~恋が出来るまで~」の(コン)ヒョジンは、全然準備をしないのにとても上手だ。台本もあまり見ないし、いつもスマートフォンを持って遊んでるのに、不思議なことに、パッと撮影に入るととても上手く演じる。ビックリするほど。だからいい女優だと思う。僕の立場では、演じる時だけ飾り気なく演じようとするとできるみたい。飾り気なく投げかけると、相手も絶えず何かを与えてくれて、そうやって着々と進んでいる。そうやってこそ楽しいし。

―そういう自然さのため、「パスタ~恋が出来るまで~」の時は「本当に付き合っているんじゃないか?」という話も出てしまったが(笑)

イ・ソンギュン:誰かが妻にそんな話をしたそうだ。笑ってしまったよ(笑) 付き合うには、時間がないとね。あと……厨房で僕のセリフが多いじゃないか。後で断片的に台本をもらって「これを僕に全部覚えて演じろとでも言うのか?」と思った。一気に厨房シーンをまとめて撮るから。その時、みんなセリフが少なくて僕一人で騒いでいて、とても悔しかった。みんながスマートフォンを持って遊んでいるのを見ると、黙っていられなくなった(笑)

記者 : ウィ・グンウ、翻訳:ハン・アルム、写真:イ・ジンヒョク、編集:イ・ジヘ