“the”を付けてあげたい「悪いやつら」ハ・ジョンウの演技

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「もっと、もっと、もっと」―― 一日、また一日、目を疑わせる俳優ハ・ジョンウから聞こえてくる気がする言葉である。

ハ・ジョンウの演技が上手いのは、昨日今日の話ではないが、映画「悪いやつら」(ユン・ジョンビン監督)でハ・ジョンウはさらに目立つ。ハムレット型俳優チェ・ミンシクとツーショットで映るときも、この上ない素敵なアンサンブルを作り上げ、一人でもスクリーンの余白を埋められる数少ない俳優の一人だ。

だから、ある人はハ・ジョンウという名前の前に「the」を付けるべきだと絶賛する。どんなに華やかで、大げさな修飾より、「the」ほどハ・ジョンウをシンプルかつ淡白に表現できる言葉があるだろうか。

「悪いやつら」は実際、チェ・ミンシクのための、チェ・ミンシクの映画だと言っても過言ではない。権力と暴力の味をしめ、徐々に破滅していく男の後ろ姿をチェ・ミンシクのように寂しく演じることができる俳優は少ない。しかし、ハ・ジョンウというロゴス型俳優がいなければ、話は変わってくる。

チェ・ミンシクの演技は変わらず輝いたはずだが、ハ・ジョンウの幅広いリアクションが支えていなければ、どこか寂しかったかも知れない。相手の小さい空白まで緻密に計算し、埋めたのがハ・ジョンウだった。全体を見下ろすような、そんなマインドを持っているのだ。孤掌鳴難、片手では絶対拍手することが出来ない。

個人的に「悪いやつら」でのハ・ジョンウの演技でもっとも印象に残っているのはシェービングシーンだった。ノ・テウ政府が宣布した犯罪との戦争のため、指名手配リストに載ったヒョンベが、深夜、理髪店でのんきにシェービングしてもらうシーンだ。釜山(プサン)で大物になったヤクザの組長らしい雰囲気と余裕を同時に見せる、象徴的なシーンだった。

父親ぐらいの年配の理髪師にまるで大統領のように君臨し、シェービングを受けながら、片手ではタバコを吸うヒョンベの姿が軍部独裁最高の権力者のように見えたからといったら、大げさだろうか。信じられないのは、このシーンがハ・ジョンウのクランクインだったという事実だ。ロケ地選定が難航を極め、順番通り撮影することが出来ず、あいにくこのシーンが初日になったそうだ。負担が重かっただろう。しかし、状況が厳しいというのは、その分やるべきことが多いということを意味する。驚くべきごとに、ハ・ジョンウは前後のシーンと自然につながるように、リズミカルにヒョンベを演じた。

さらに驚きなのは、シェービングシーンに続いたヒョンベのデモ隊合流シーンと交番でライバル組のパノ(チョ・ジヌン)が送りつけた者に刃物で刺されるシーンがクランクアップの日に撮影されたという点だ。俳優の能力を過信した監督の無鉄砲さというべきだろうか。それとも、そんな監督に感動的な演技を見せつけたハ・ジョンウの以心伝心だっただろうか。

ハ・ジョンウは映画スタートから20分で登場する。民間人が盗んだヒロポンを日本に売り返すために、つまり、お金になることに乗り出したのだ。この過程で慶州(キョンジュ)チェ氏家の上の代というイッキョン(チェ・ミンシク)に出会い、「何してんだ、曾祖父にあったら、早く頭を下げろ」というイッキョンを笑う。少し前までビジネスパートナーイッキョンに、「好きなように呼んでください。チェ社長で」と話した彼は右腕のチャンウ(キム・ソンギュン)にイッキョンを殴らせた後、「仕事しにきて、なんでいらんこと言うのか」ととがめる。

ハ・ジョンウの演技が素晴らしいのは、繊細な仕草、眼差しなどが非常に細かいからだ。父が加わり、やむを得ず、イッキョンを「大父」にすることになったが、ぎこちなくヤクザのふりをするイッキョンがヒョンベは気に入らない。しかし、イッキョンがチャンウに手形で小遣いをあげ、いばったり、「一緒に便所行こう」と話す時も、イッキョンの後ろからすべての行動に気を遣う。例えば10cmの演技を1cm単位で細かく切って演じるため、繊細な仕草でもハ・ジョンウがやれば、違って見えるのはこのような繊細さのためだ。


「大父は、自分のことをなんだと思いますか」「学生は勉強を、ヤクザはケンカの時に、ケンカすべきです」と爆発するシーンより、ヒョンベの凄まじい気運を感じさせたのは、むしろ一人で中華料理店でご飯を食べるか、刃物に刺され、病院で寝ている時だった。イッキョンに裏切られた気持ちと、敵対心を台詞なしに表現するとき、彼の顔はさらに険しく歪む。

優れた緩急調節のおかげで、「パノ?ケンカなら俺が100回勝つ」「ヤクザのクセに、ちょっと殴られたからって訴えるか?」「また騙される、騙される」のように休止符を打つシーンでは、しっかり笑わせてくれる。1978年生まれのハ・ジョンウは主な映画祭の男優主演賞候補の中で、最年少だ。彼はこれがプレッシャーで、宿題だと話す。「なぜ、自分のことを大事にせず、多作するのか」という心配交じりの指摘も受けるが、その度「まだ若いのでよく分からないから、もっとぶつかって、砕けたいから」と答える。

知らないことを知らないといえる人ほど何か会得している人ではないだろうか。ハ・ジョンウの演技に「the」を付けてあげたい本当の理由だ。

記者 : キム・ボムソク