【K-POP制作所】チョ・ヨンチョルPD「聞く人に刺激を与える歌手、音楽を作りたい」

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写真=LOENエンターテインメント
人々の好みは簡単には予想できない。変化を求めていながらも馴染みのある物を探す。冒険するにしても、人々が好んでいるその何かは残さなければならず、ヒットの方程式に従いながらも新鮮さを見せなければならない。

今月初めにカムバックしたIU(アイユー)は、この難題にどう対処すべきかを示す優れた事例になりそうだ。いつの間にか自然に付いた“国民の妹”という愛称。その“国民の妹”に相応しい音楽を求める人々と、もう“妹”ではないのではという視線の狭間でどのような路線を選択するのか、音楽業界でかなりの関心を集めた。

活動を終了したばかりの状況で結果論的に言うと、IUは綱渡りに成功したと言える。スウィングジャズを取り入れ、従来の“リズム”を脱しながらも彼女ならではの明るい雰囲気は維持した。今回のアルバムを総括指揮したチョ・ヨンチョルプロデューサー(以下PD)が“国民の妹”について“毒の入った聖杯”と表現したことから並大抵でない苦悩があったことが伺える。

平凡なボーカルグループであったBrown Eyed Girlsにセクシーな大人のアイドルのコンセプトを与え、ガイン(Brown Eyed Girls)を通して初めて女性の性を可能な限りストレートに扱い、歌の上手い若い歌手であったIUには思わず感心するほどの可愛いアーティストのイメージを吹き込んだチョ・ヨンチョルPDとインタビューを行った。LOENエンターテインメント(以下LOEN)の新しいレーベル「LOENTREE」は、最初の作品であるIUの3rdアルバム「Modern Times」を終え、今はボーイズグループのHISTORYとガインのアルバム作業の真っ最中だ。

IU、アルバム作業の役割が増えた

―IUが音楽配信1位はもちろん、同じアルバム内の複数の曲が配信チャートで上位にランクインするというかなりの好成績を出しているが、結果には満足しているのか?

チョ・ヨンチョルPD:複数の曲が上位にランクインすることに期待はしていなかった。今回の収録曲はある意味リスナーたちには少し難しいかも知れないと思っていたからだ。だから収録曲を少しでも聞いてもらえたら良いなとの思いから、収録曲の事前PRに力を注いだ。その効果が表れたのだと思う。

―今回のアルバムが「LOENTREE」では初となる作品だが、LOENもこれからレーベル事業を本格化するということだろうか。

チョ・ヨンチョルPD:ユニバーサルミュージックやソニーミュージックのようにレーベルを傘下に置く形を想定している。その方向性は以前からあった。現在、枠組みは整ったので今後はレーベル別にどのような色を出すかが課題として残っている。

―最近、音楽業界ではレーベルが話題になっているが、このような形式の方がより効果的だと判断したのか?

チョ・ヨンチョルPD:単一レーベルでは音楽のジャンルの幅に限界がある。一つのレーベルで複数のチームが活動することは難しい。現在、レコード市場に大手資本が入り既存のメジャー会社が巨大資本となっている。どうしても規模の競争が展開されるのでその影響もある。今までアメリカや日本型のレーベルが無かったが、これがその第一歩になるだろう。

―「LOENTREE」はチョ・ヨンチョルPDが手掛けることになるが、妙に派手なカラーになりそうだ(笑)

チョ・ヨンチョルPD:何故だ?(笑) どうしても大衆音楽となると8割以上、恋愛感情を描くことになるが、それが全て献身的な愛とは限らない。恋愛の感情をありのままに見せたいという思いはある。

―Brown Eyed Girlsのように全くそうでなかった歌手をセクシーに変えた事例もあるではないか(笑)

チョ・ヨンチョルPD:全てその歌手の内面に元からあったものだ。セクシュアルなこと、性に対する話を避けたりはしない、必要であればする。

―実際、IUがセクシーにイメージチェンジする可能性も話題となったが、今回のアルバムはどのように企画し、準備したのか?

チョ・ヨンチョルPD:作業は今年の頭から始めた。構想を考えたのは昨年だ。映画「アーティスト」「ミッドナイト・イン・パリ」を見て、その時代にすっかりはまった。そこからインスピレーションを受け、あのような古典的な映画に相応しい音楽はどうだろうかと思い付いた。だから「モダン・タイムス」をもう一度見たし、1920~1930年代に流行ったスイング・ジャズにも注目するようになった。

―それがIUに繋がったと。

チョ・ヨンチョルPD:IUによく似合いそうな気がした。何故だか「アーティスト」のヒロインを見てIUが思い浮かんだ。

―アルバム作業はどういう風に進められたのか?

チョ・ヨンチョルPD:誰に曲を依頼しようか悩んでいる時、車の中でパク・ジュウォンさんの「悲しみのフィエスタ」を聞いたが本当に良かった。自分自身が元々南米の音楽が好きということもある。

―ガインの「元には戻れない」もタンゴがベースだったが、南米音楽の魅力とは何だろうか?

チョ・ヨンチョルPD:洗練されつつ、どこか一般受けするような感じがする。偶然耳にしたパク・ジュウォンさんの曲も魅力的だったのでコラボレーションしたいと連絡したところ、ちょうどIUのことを気に入ってくれて2曲作って頂けた。「Love of B(乙の恋愛)」と「子供は私と歩こう」がその曲だ。「子供は私と歩こう」でチェ・ベクホさんがフィーチャリングされているのを見て、多くの方から意図的に計算された企画ではないのかと言われるが、それは違う。パク・ジュウォンさんが懇意にされており、推薦してくださったからだ。ちょうどIUも「ロマンについて」を歌ったことがあるし、その縁でチェ・ベクホさんのコンサートに招待されて行ったこともある。ヤン・ヒウンさんとのフィーチャリングもチェ・ガプウォンPDの推薦で自然に実現したものだ。最初から意図していたわけではない。

―新旧のフィーチャリングメンバーが絶妙だった。SHINeeのジョンヒョンがフィーチャリングした「憂鬱時計」もあったが、ガインも参加していた。

チョ・ヨンチョルPD:それも本当に意図的ではなかった。実の所、個人的な考えではイ・ハイとコラボレーションさせたかったが、IUが「ガイン姉さんとしてみたい」と言い、ガインも歌を聞いて承諾してくれたので実現した。ジョンヒョンの「憂鬱時計」は最初の計画にはなかった曲だ。2人は親しくしているのだが、ある日ジョンヒョンが自分で曲を作ったと言って聞かせてくれたそうだ。それをIUが気に入り、自分にその曲をくれないかと頼んだ。そして私にジョンヒョンが作った曲があるので聞いて欲しいと言ってきたが、実は少し心配した。アルバムに入れて欲しいと言われたらどうしようかと(笑) しかし、曲を聞いて驚いた。IUくらいの年頃の感情が本当に上手く溶け込んでいたからだ。だからジョヒョンが承諾してくれるのであればアルバムに入れてみようということになった。

―IUがA&R(アーティスト・アンド・レパートリー:レコード会社においてアーティストと会社の間に立ち、契約やレコーディングにおける企画・制作、宣伝戦略などを管理する業務)の役割まで果たしたわけだ?

チョ・ヨンチョルPD:アルバム作業の中でIUの役割がどんどん拡大している。

―タイトル曲「ブンホンシン(赤い靴)」は、予想とは少し違っていた。もっと変わると思っていたのだが。

チョ・ヨンチョルPD:何に重点を置くかによって皆の意見が分かれた。サビを中心に判断する方は、元からあるIUの曲の延長線上だと言うし、編曲や構成を重視する方は、かなり変わったと判断するようだ。

―私は典型的なメロディだけを聞くタイプだ(笑) 実際、冒険する事と従来のまま維持する事の割合はどうなっている?賢い作戦だったとの評価もあるが。

チョ・ヨンチョルPD:IUのリスナーたちの耳を魅了してきたメロディアスな感じのサビは捨てず、違った感じの編曲とパフォーマンスを見せた点が評価されたのだと思う。そのことで悩んだ点がなかったわけではない。当然、タイトル曲は人々に好まれる曲である必要があるので、正統派のジャズをタイトル曲にする訳にはいかなかった。難しいジャンルの印象を与えることなくIUのボーカルを活かすことが重要だった。

―IUのセクシーへのイメージチェンジも期待したのだが。

チョ・ヨンチョルPD:全体的には成熟したフェミニンな感じをコンセプトにした。それはIU自身が変わったからだ。18歳の子供のIUと21歳のIUとでは何もかもが違う、見た目にもとても変わった。

―そうだったのか(笑)

チョ・ヨンチョルPD:そうだ(笑) 内面も変わったし、その変化を反映しなければいけない。IUにもそのことをよく話した。「21歳になって君も大きく変わったのだから、昔の可愛いだけのIUに拘るよりも『私、こんなに変わりましたよ』と言ったほうが良いと思う」と。だから、必ずしもセクシーというわけではないが、「唇間(50cm)」の曲だけを聞いてみても、以前はなかった魅力的な感じが出ている。

―私は「Love of B」でそれを感じた。“私は恋愛には慣れていますよ”と言うような感じ?アルバムの最初のトラックだったこともあり、更に意味深だった。

チョ・ヨンチョルPD:どうだろう。前回のアルバムとは変わったことを象徴的に見せる曲ではあった。

―「ブンホンシン」のテーマはどのように作ったのか?

チョ・ヨンチョルPD:曲が出来る前に、赤い靴というテーマが先に出た。キム・イナ作詞家のアイデアだった。運命に関するストーリーで、自分で赤い靴を選択したものの、その運命からは逃れられずに悲劇的な結末を迎える。そんなテーマが曲の中にも細かく散りばめられている。1節目のサビの後半はメジャー、2節目の後半はマイナーだ。

―それはどういう意味だろうか(笑)

チョ・ヨンチョルPD:1節目では、赤い靴を履いて楽しく踊る感じだが、2節目では「あれ、踊りが止まらない」と気づく。何故止まらないのだろうという不気味な感じを込めてエンディングの方は更に速くなる。靴を止めることが出来ないからだ。複雑に聞こえるとの意見もあったが、赤い靴のテーマに合わせたものだ。原作では足首を切ることで終わる残酷な童話なので、その感じを表現するためにステージ上でIUが消えるマジックも取り入れた。

“国民の妹”は、毒の入った聖杯

―可愛い歌手は寿命が短いとよく言われる。IUは代表的な“国民の妹”タイプだが、今回のアルバムで息の長い歌手への道を発見できたと言えるだろうか?

チョ・ヨンチョルPD:“国民の妹”の愛称は、毒の入った聖杯のように感じる。会社や歌手が決めたからといってそう呼んでもらえる訳ではない。どのような仕組みでそのような愛称を持てるのかは不明だが、その愛称を手にした瞬間、性格、能力、態度、音楽、芸能いずれも途方もなく期待されるようになる。そして、それに相応する人気を得るので責任は果たさなければならないが、ジレンマも生じる。当然長続きはしない。人は完璧にはなれないが、どこかで疲れた表情を見せただけでも騒ぎになってしまうからだ。

―開き直り疑惑!(笑)

チョ・ヨンチョルPD:それがスポーツのスター選手になることもあれば、役者になることもある。しかし、何でも自分でやろうとする本質が素晴らしければ“国民の妹”という幻想が壊れたとしても大丈夫だろう。IUも自分の感性、自分の年齢に相応しいシンガーソングライターとして発展しなければならない。ミュージシャンは“自分”がなくてはならない。世間やメディアから求められることを満たす人ではなく、自分の世界を表現できる人がミュージシャンだ。そのような方向に行けると思う。

―ガインの動きも興味深い。外見的にセクシースターの条件には当てはまらないのにセクシースターの仲間入りを果たした。

チョ・ヨンチョルPD:ガインは高校生の時から見てきたが、実は当初のBrown Eyed Girlsは、若いビッグママのコンセプトだった。しかし、ガインの魅力にファンが先に気づいた。ネットで当時まだ幼かったガインに対し、性的魅力について言及する書き込みが投稿されていた。最初は「何故だろう」と思ったが、その後Brown Eyed Girlsがパフォーマンスに入ると、私も驚くようなタレント性を発揮した。ファンの目は本当に正確だった(笑)

―「Bloom」は本当に新鮮だった。リスクが大きかったはずだが、音楽の幅を広げる役割にもなったのでは。

チョ・ヨンチョルPD:リスクはそれほど心配していなかった。音楽の幅を広げることは、私たちが特に実現したいことでもあり、音楽の幅があまりにも狭過ぎる。制作側も、メディアも人々も保守的だ。

―韓国の音楽は、片思いか失恋だ(笑)

チョ・ヨンチョルPD:映画と音楽の表現に対するダブルスタンダードでもある。音楽の幅や表現方法がもっと広がることが私の願いの一つだが、障害物も多い。

―そういう面でガインがジャンヌダルクのような役割を果たすことになるだろうか。

チョ・ヨンチョルPD:先頭に立たざるを得ないのではないだろうか。今、次のアルバム作業に懸命に取り組んでいるが、早ければ年末、又は来年の頭頃には披露できるだろう。

―「Bloom」よりも幅が広がるだろうか(笑)

チョ・ヨンチョルPD:今回はまた別の意味での驚きがあると思う。

―チョ・ヨンチョルPDはこの仕事をとても楽しんでいるようだ。実は最初から音楽業界で勤めていた訳ではないと伺っているが。

チョ・ヨンチョルPD:高額年俸を受けて金融会社で働いていた(笑) しかし、仕事があまりにも退屈だったので2002年に計画も無いまま辞めた。その後知人を介してNEGAネットワークの仕事を手伝うことになった。自分で曲を作らなくてもPDとして仕事ができることを知り、2007年Brown Eyed Girlsの「LOVE」から参加した。

―無計画に仕事を辞めたのに、その後天職が見つかるなんて。全てのサラリーマンのロマンだ。PDとしての目標は何だろうか?

チョ・ヨンチョルPD:物凄くお金を稼ぐとかではない。50年、100年後に名アルバムを選ぶ際、そこに私が参加した作品が一つくらい入っていれば嬉しい。聞く人に刺激を与える歌手、刺激を与える音楽を作りたい。人々にインスピレーションを与えることができれば満足だ。

記者 : イ・ヘリン