Vol.1 ― 「ゴールデンタイム」イ・ソンミン“ファンができて初めはこれって何だろうと思った”

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韓国で9月25日に最終回を迎えたMBC月火ドラマ「ゴールデンタイム」の俳優イ・ソンミンとソウル鍾路(チョンノ)にあるカフェで出会った。無精ひげに目尻が下がっているイ・ソンミンは依然としてチェ・イニョクのようだった。彼は低い声であいさつをして「タバコを吸ってもいいですか?」と聞いた。

「ゴールデンタイム」で息を引き取った患者を抱いて走ってきたイ・ミヌ(イ・ソンギュン)に向かって「まさか死亡宣告ができなくて僕を呼び出しましたのか?」と怒鳴るチェ・イニョクの顔は忘れられない。その瞬間、イ・ソンミンという俳優の価値を再発見させてくれた「ゴールデンタイム」と視聴者の本当の出会いが始まったからである。

「『ゴールデンタイム』は俳優としての人生のどんでん返しだ。ソンギュンさんとクォン・ソクチャン監督のおかげだ。監督が俳優イ・ソンミンはどんな俳優なのかと聞いたときに、ソンギュンさんが積極的に僕を薦めてくれた。ソンギュンさんも『特にこの作品はソンミンさんに演じてほしい』と言ってくれた。本当に感謝している」

これまで俳優イ・ソンミンが演じてきたキャラクターはチェ・イニョクとは違う。役の重要度も高くなった。以前は主人公を輝かせたり、作品に面白さを与えたりするキャラクターだったが、「ゴールデンタイム」のチェ・イニョクは登場するだけで存在感を放った。変身を試みることができたのは、舞台上の俳優イ・ソンミンではなく、舞台裏のイ・ソンミンをよく知っているイ・ソンギュンのおかげだった。

「ソンギュンさんとは家族ぐるみで仲が良い。僕の日常の姿と劇中でのキャラクターは違うが、こういう僕の姿をソンギュンさんが見てきたので、監督に薦めてくれたようだ。僕個人的にもチェ・イニョクのようなキャラクターは演じてみたいと思っていた。運良く監督とソンギュンさんのおかげで演じることができたので、二人に感謝している」

彼にチェ・イニョクと自身の似ているところについて聞いてみた。彼は「仕事ばかりしているところが同じだ」と答えた。彼の右手の人差し指と中指の間には一本のタバコが挟まれており、煙の向こうにはチェ・イニョクのような顔をしているイ・ソンミンが語り続けていた。

「僕はチェ・イニョクのように早く決断したり、勇気ある人物ではない。仕事ばかりしているのは同じだ。特にこれといった趣味もないし、お酒も飲めない。飲めないから飲み会にも誘われないし、年を取れば取るほど寂しくなる。飲み会に誘ってくれないので、代わりにお茶を飲んだり、コーヒーを飲む」

ドラマ「ゴールデンタイム」はシーズン2の制作を求める声が多かった。まだ描かれていないエピソードもある。ソウルに向かったイ・ミヌがどんな試練を味わって挫折を経験するのか、婚約者と別れて病院に残ったシン・ウナ(ソン・ソンミ)とチェ・イニョクの関係はどうなるのか、第23話でその幕を下ろした後も続きが気になるドラマだった。

それでイ・ソンミンにシーズン2について聞いてみた。彼は「多くの俳優たちがこのメンバーがそのまま出演したら、シーズン2にもできると言っていた」と言いつつ「僕はそんなことを思ったことがない」と答えた。彼は疲れているように見えた。イ・ソンミンは熾烈な人生を生きたチェ・イニョクと別れたばかりだから、当然のことかも知れない。全23話に渡る大手術を終えて手術室から出たイ・ソンミンにとってシーズン2はしばらく先延ばしにしたいところだった。

「このドラマを無事に終えることに精一杯だった。肉体的にも、精神的にもしんどかった。初めて重要度の高い役を務めて責任を感じていた。もちろんプレッシャーも感じていた。何としてでも倒れずに終えなければならないと思った。家族にもなるべく『ゴールデンタイム』の話はしないようにさせた。本当に大変だったが、大きな変化があった」

その変化とはどんなことかと聞いてみたが、彼はその変化に戸惑ったと明かした。イ・ソンミンに、これまで自身とは関係のない、他の俳優たちの話だと思っていたことが起こった。

「急にファンができて、プレゼントをくれるファンもいるし、僕を見るために撮影現場を訪ねるファンもいた。これって何だろうと思った。こういうことは想像もしなかった。僕にも、他の俳優たちの話だと思っていたことが起こるとは思わなかった。こういう変化に戸惑った」

しかし、ようやく気付くようになった。多くの人がイ・ソンミンという俳優の演技に対する情熱に気付き、遅ればせながらも彼の演技に熱狂しているような気がした。イ・ソンミンはデビュー後、刑事、シェフ、ポップコラムニスト、検事、医師、大統領、国王など、様々なキャラクターを演じてきた。様々なキャラクターを演じて不自然に感じられなかったのはイ・ソンミンの努力があったからだと思った。またはイ・ソンミンの天才的な才能なのだとも思った。しかし俳優イ・ソンミンは「出発は“普通の人”だ。彼らも“普通の人”だったと思う」と語った。

「こういう想像をする。大統領が公の場にいるときと、家で妻と一緒にいるときはどう違うかという想像だ。普通の人だと思う。ドラマ『キング~Two Hearts』でイ・ジェガンは執務室で国王としての役割を果たすだけで、弟の前では普通の兄弟ではないかと思った。僕は時代劇で王を演じてもこのように演じる。これが俳優としての僕の考えだ。チェ・イニョクを演じるときもそうだった。白衣を着て縁なしメガネをかけている上品な姿だけが医師ではない。手術室に入って怒鳴ることもあると思った。実際病院でもそうではないか?隣の優しいおじさんのようだが、実は専門医だ。また僕がずば抜けたルックスの持ち主では無いから、逆に親しさを感じてリアルさが伝わったと思う」

さらに彼は“普通の人”であるイ・ソンミンの話を聞かせてくれた。彼は「僕も俳優としてこういうインタビューを受けるときは美容室にも行く。ぎこちないけれど我慢する。でも、仕事が終わったら元の髪型と服に着替えて家に帰る。多くの人が芸能人はドレスアップした姿で出かけると思っている。でも僕はその反対を考える方だ。華やかな俳優役を演じても、彼が普段はどんな姿をしているんだろうと考える。『その俳優がスンデ(豚の腸詰)を食べるときはどうだろう?』と考える。『あの俳優がスンデを食べるの?』と思うのは僕たちの勘違いだ。あ、ソン・ソンミさんはサンナクチ(タコの踊り食い)が食べられなかったな(笑)」と語った。

記者 : イ・スンロク、写真 : ソン・イルソプ