「カクシタル」正体を知られたチュウォン、どちらが仮面なのか

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写真=KBS

イ・ガントの苦悩は“バットマン”に共通する。

強盗がストッキングをかぶったり覆面をする理由はただ一つだ。素顔でお金を奪い、目撃者や防犯カメラによって気づかれることを恐れるからだ。ストッキングや覆面は、強盗の素顔を隠す仮面となる。仮面は、本当のアイデンティティを隠すための、偽のアイデンティティとして働くのだ。

「スーパーマン」のクラークがメガネをかけ、新聞記者になりすましているのは、スーパーマンという正体を隠すための仮面で、「スパイダーマン」のピーター・パーカーがコスチュームを着て空中を滑空するのもやはり、スパイダーマンの素顔を隠すためだ。

“影”をかぶった家族主義

KBS 2TV水木ドラマ「カクシタル」のイ・ガント(チュウォン)もそうである。イ・ガントは、真のアイデンティティである“愛国のヒーロー”という素顔を隠すためにカクシタル(韓国の伝統仮面の一つ)をかぶる。しかし、イ・ガントがカクシタルをかぶることで、二つのアイロニーが発生する。

もともとイ・ガントは、カクシタルになる気などまったくない親日派だった。カール・ユングの精神分析から見ると、カクシタルをかぶる前のイ・ガントにとって、カクシタルとは“影”である。大日本帝国の発展の足かせになる敗亡した朝鮮の半端な英雄であり、同時にイ・ガントの親日というアイデンティティとは正反対の“影”に過ぎなかったのだ。

そんなイ・ガントが、カクシタルという“影”をかぶることになる。カクシタルの正体がバカだと思っていた実の兄、イ・ガンサン(シン・ヒョンジュン)だということを知り、兄の遺志を受け入れ、カクシタルを引き継いだのだ。それから彼は、嫌悪していたカクシタルを、独自のアイデンティティとして受け入れ、活躍し始める。

自分の足かせ、もしくはただの悪党に過ぎなかったカクシタルを継いだのは“家族主義”のためだ。もしイ・ガンサンが赤の他人だったなら、イ・ガントはそのまま親日派の人生を生き、“影”であるカクシタルをかぶって愛国心を示す正当な理由もなかっただろう。ドラマの序盤で描かれる“家族主義”は、イ・ガントが嫌悪していた“影”をかぶる動機となる。“影”をかぶるイ・ガントのアイロニーは、“家族主義”がなければ不可能なことだった。


仮面と実体が逆転する

イ・ガントのアイロニーは、ここで止まらない。カクシタルをかぶることで、アイデンティティが逆転するというパラドックスが発生したのだ。イ・ガント自身が持っているアイデンティティは親日派の“佐藤宏”だ。佐藤宏は、骨の髄まで親日派なので、朝鮮人に歓迎される人物ではない。

25日の放送でオ・モクダン(チン・セヨン)は、初恋の人が他でもない佐藤宏であることを知り、驚愕する。思い出の中の人と佐藤宏が同一人物であるはずがないと繰り返す。カクシタルが初恋の人ということは理解できるが、目の前にいるイ・ガントがその人であるという現実は否定する。

驚愕に満ちたオ・モクダンの叫びは、イ・ガントとカクシタルのアイデンティティがいつのまにか逆転していることを証明した。イ・ガントにとってカクシタルは、あくまでも“愛国のヒーロー”というアイデンティティを隠すための仮面であり、自分の実体ではないはずだった。しかし、いつの間にかカクシタルがイ・ガントの真のアイデンティティになってしまった。イ・ガントが親日派でないことを示すのは、本当のイ・ガントの姿では到底不可能だ。

そのため、イ・ガントの実体、佐藤宏が仮面になってしまうというパラドックスが発生した。“愛国のヒーロー”というイ・ガントのアイデンティティが日本人に気づかれてしまうと、もはや救国活動ができなくなるだけでなく、命まで危うくなる。イ・ガントは、自分がカクシタルであるということを隠すために、佐藤宏という悪辣な日本人になりすまさなければならなかった。

皮肉なことではないか。仮面に過ぎなかったカクシタルが、イ・ガントの真の姿を知らしめるアイデンティティとして残り、実体は佐藤宏という仮面をかぶって生きなければならない。仮面とアイデンティティの逆転が起こっているのだ。このように、仮面とアイデンティティが逆転するパラドックスは、イ・ガントだけの苦悩ではない。

写真=Warner Brothers Korea
映画「ダークナイト」で主人公ブルース・ウェインは、会社経営は後回しにして、バットマンという自警団活動に熱中している。夜も眠らずバットマンとして駆け回るせいで、日中にうたた寝するのが常だ。ブルース・ウェインも、イ・ガントのように実体と仮面の逆転が起こっているといえる。

改めて「カクシタル」を見てみよう。以前はイ・ガントの言葉を素直に信じられなかったオ・モクダンも、怪我をして、カクシタルの仮面をとったイ・ガントの素顔を見て初めて、イ・ガントの真の姿が親日派の手先ではないことを知る。カクシタルという仮面を通じて初めて、イ・ガントが初恋の人であることを認識するのだ。カクシタルという仮面がイ・ガントという実体に取って代わる逆転は、「カクシタル」と「ダークナイト」に共通するアイロニーである。

記者 : パク・ジョンファン