「ハナ~奇跡の46日間~」 - スポーツ映画というより「JSA」に近い

OhmyStar |


民間人統制区域で会ったムン・ヒョンソン監督、ありふれた南北のハッピーエンドは“いやだった”

「何も知らずに手をつけてしまったんだな」

撮影が始まって間もない頃からこんな思いがした。今から20年前、千葉で開催された世界卓球選手権大会に南北単一チームが出場した感動的な実話があり、それを映画にしようと張り切ったが簡単ではなかった。

これは、ムン・ヒョンソン監督が演出した「ハナ~奇跡の46日間~」の話だ。俳優を卓球選手のように見せるための過程も難しかったし、南北選手たちが感じた胸にジンとくる感情を表現することに対してもあまり自信がなかったと、ムン監督はその当時を回想した。

韓国最北端の民間人統制区域内に位置した“統一村”で「ハナ~奇跡の46日間~」の試写会があった26日夜、ちょうど村の会館で観客に挨拶を終えて出てきたムン・ヒョンソン監督に会うことができた。


卓球で韓国が勝利した話?「それなら『ハナ~奇跡の46日間~』は作らなかったはず」

「『ハナ~奇跡の46日間~』がインターネット上ではスポーツ映画に分類されていると思います。『私たちの生涯最高の瞬間』や『国家代表』等、スポーツ映画を見ましたけど、結局私は『JSA』を多く参考にしました。その映画では南北の思想や政治・社会的対立ではなく、人対人としての人間関係が描かれていると思います。その作品を境に北朝鮮を題材にした映画が変わったと思います。基準になったわけですね。もし“南北が会って一生懸命訓練して単一チームとして金メダルを取った”というような話をするつもりだったら『ハナ~奇跡の46日間~』は作らなかったでしょう」

事前の企画から俳優の卓球訓練期間、そして本格的な撮影と後半の作業まで合わせれば、1年を越える時間だった。普通だったら、映画2本は作れるほどの時間だ。卓球を題材にし試合をするシーンが登場するため、卓球の形に気を遣わなければならなかったが、監督は他のところに価値を置いたという。

「決勝戦を控えて選手たちが別れる場面だけを3日間撮りました。後半の作業の時、その場面を数百回見ても“あれをどうやって撮ったのだろう?”と不思議に思いました。私の演出によるものではなく、不思議にも言葉で表現できない何かに俳優らとスタッフを一つにまとめる力があったのだと思います」

ムン監督は撮影当時、中堅俳優はもちろん、1991年の記憶さえない新人俳優たちと3日間雨に降られながら一緒に泣いたという。お互いに対する切ない気持ちが表れたということだ。

ムン・ヒョンソン監督にとって「ハナ~奇跡の46日間~」は、勝利のスポーツ映画というより人の出会いと別れから出る感情を伝えるドラマだった。特に、南北単一チームという題材は、韓国人の特殊な情緒を考えれば、共感を得られるはずだった。


新派劇と催涙性?認めるけれど、それがリアリティだった

確かに「ハナ~奇跡の46日間~」は、スポーツ映画から大きく離れてはいない。厳しい訓練と勝利への渇望から出る感情の起伏があり、試合場面から受ける迫力や感動もあるためだ。

だが、意外なことにムン・ヒョンソン監督はいわゆる“インディーズ志向”だった。映画「ビフォア・サンセット」を見て感動し、インディーズミュージシャン「Zitten」が好きで、映画のバックミュージック作業に参加させるなどのマニア志向があった。それでも、彼は韓国最高の俳優たちと商業映画を作り出した。

「映画の大衆性より、観客に気楽に近付きたかったと思ってほしいですね。題材自体が涙腺を刺激します。確かに心に響くというような常套的な表現があったでしょう。実際に、私たちが持っている北朝鮮に対する偏見を意図的に活用した部分もあります。韓国社会の現実がそうでしょう。そして、わざと涙をこらえるようにしようと淡白に描くよりは、ありのままを表現した方がよりリアルだと思いました。卓球シーンも同じです。映画には、面白さはもちろん、意味も盛り込まなければならないと思いました。それをあえて強調せずに、映画のところどころに盛り込みました。俳優が46日間一緒にいながら感じた感情もそうだったはずです」

現実自体が新派だったという1991年当時を思い出すと、ムン監督の説明は十分理解できるものだった。今になって話せることだが、ムン監督は俳優が撮影前のリハーサルから泣きすぎて撮影が困難になったことについても話した。

「俳優が撮影前から脚本だけ読んでも目頭が赤くなっていたりしました。今から泣いてはいけないと言うのに泣く俳優もいました。映画後半を見れば俳優オ・ジョンセさんが頭を深く下げているのを見ることができるでしょう。それは、リハーサルのとき泣きすぎて涙が乾いてしまったからです。実際の撮影で涙が出なくて本人もかなり困っていました(笑) エキストラの方々も全体の脚本を見たわけでもないのに、該当する部分だけを見て涙を流していました」

ムン・ヒョンソン監督は一例をあげたが、様々な俳優が、撮影当時切ない感情が込み上げて、忘れられない撮影だったと言った。覚えておかなければならないのは「ハナ~奇跡の46日間~」を見る時に大事なことは、勝利の記憶より南北の人々の縁から出てくる胸にジンとくる感情だということだ。

そして、統一村の村会館で試写会が終わった後「早く統一にならなきゃ」と言いながらゆうゆうと席を立った村の年配の方の心にも、ムン監督の心が伝わったようだ。

記者 : イ・ソンピル