「ファッションキング」イ・ジェフンはチョ・インソンのように、こぶしに食いついたりはしない?

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写真=SBS

彼らの間に流れる並行宇宙……映画「Bleak Night(原題:番人)」のギテが思い浮かぶ

誰もが着こなせるわけではない柄のスーツを着たチョン・ジェヒョク(「ファッションキング」)を見ていると、どこかからスーツにバックパックを背負ったチョン・ジェミン(「バリでの出来事」)が現れ「実はこいつ、俺の弟なんだけど」と言い出しそうだ。偶然にも名前も近い。クールさとみっともなさは紙一重だということを教えてくれるこの二人のキャラクターは「ファッションキング」と「バリでの出来事」の間の平行宇宙を確認する標識のような存在だ。

持っているもので言うと、カン・ヨンゴル(ユ・アイン)に劣るところのないジェヒョク(イ・ジェフン)だが、皮肉にも彼は“欠乏”の象徴だ。長身で、ハンサムで、金持ちだが、求めていた心は得られない。まったく隙がなさそうだったジェヒョクは、ここから少しずつ崩れ始める。

8年前「バリでの出来事」のチョン・ジェミン(チョ・インソン)がそうだった。外見は立派でプライドは天を突くほどだが、好きな女性が絡むと、こぶしひとつを口に入れないと止められないほど号泣する男。強がっても、結局は情ひとつでダメになるチョン・ジェミンは、それまでの、貧しいシンデレラを救う白馬の王子様に過ぎなかった“財閥男”のキャラクターを、隙の多い“みっともない男”に作り上げた。


お金は僕の力、ママも僕の力、そして嫉妬は僕の力

ジェヒョクは、自分と会うのを避けるガヨン(シン・セギョン)がヨンゴルと一緒にニューヨークへ向かったというニュースを聞いて、それについていく。しかし、ニューヨークにまで行っても、ガヨンにまともに話しかけることも出来ない。

ガヨンが帰国する日に合わせて「僕もその日に帰る」と喜び、裏でエアチケットの日時を変更するほどの執着を見せる。飛行機では、エコノミークラスのガヨンを、自分が取った別の広い席に呼び寄せる“機内ナンパ”までして「ゆったりと過ごして」と気をつかう。

「ファッションキング」チョン・ジェヒョクや「バリでの出来事」チョン・ジェミンが使える唯一の力は、結局はお金なのだ。しかし、両キャラクターを語る上で見逃せないのは、そのお金でも人の心が買えなかった時の敗北感だ。ガヨンがヨンゴルと座っていた窮屈なエコノミークラスの席に戻った後、ジェヒョクの表情はクールを貫いていたこれまでとは一変する。

面白いのは、ジェヒョクとジェミンのどちらも、両親によってのトラウマを抱えていることだ。特に父親への恐怖感が共通している。チョン・ジェヒョクが、ニューヨーク・ファッションショーの失敗で会社の損失を招くこととなり、会長の父に殴られて震えるシーンは、父が怖くてテーブルの下に隠れたチョン・ジェミンを思い起こさせる。

二人の男性キャラクターにおいて、母が富の源であるとすると、父は富を維持することへの責任を意味し、かつ愛情欠乏の根源と思われる。


チョン・ジェヒョクは「バリでの出来事」のチョ・インソンのように、こぶしに食いついたりはしないだろう

二人の何よりの動力は、嫉妬だ。「ファッションキング」が語りたいのも結局、ファッションよりは4人の男女の行き交うロマンスと愛憎の四角関係ではないか。小麦粉をつければ“製パン王”になり、卓球のラケットを握らせれば“卓球王”になったかもしれないが、たまたま洋服を作っているから「ファッションキング」になっただけのこの切ない青春ドラマで、一番人間らしいキャラクターは恋と嫉妬からわがままに振る舞うチョン・ジェヒョクだ。

そして、チョン・ジェミンとの並行宇宙から方向を変えられる鍵は、2012年のチョン・ジェヒョクが握っている。8年前チョン・ジェミンは、結局四角関係の中で愛する女を手に掛けることとなり、自殺するという破局を迎えた。チョン・ジェヒョクはその嫉妬の力をどう使うかが気になるところだ。

酷似したキャラクターという限界はあるが、チョン・ジェヒョク役のイ・ジェフンは、決してチョン・ジェミンの“それ以降”を演技しているわけではない。

眉間にしわを寄せて笑っているのか泣きそうなのか分からない特有の表情は、みっともなさとクールさの境界にあるチョン・ジェヒョクに似合うと言えば似合う。そしてそれは権力と友情の間で歪み、息をつまらせた映画「Bleak Night」のギテ(イ・ジェフン)をも思い起こさせる。ギテほどの爆発力をもってすれば、こぶしに食いついたり、型破りの演技に無理に挑戦したりしなくても、チョン・ジェヒョクの魅力を表現を十分に表現できるだろう。

記者 : イ・ヒョンジン