キム・スヒョンがおすすめする「僕を引きつけた強烈なカラーを持った映画」

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危うげな存在は、時として見る者を虜にする。誰もが羨ましがる地位、頂点の座を得たが、すべてのものを失ってでも手に入れたかった、ただひとつのものを手にすることができなかった彼「太陽を抱く月」のイ・フォンもそうだった。イ・フォンは哀れな王だった。実権を握ることができず、体も強くはなかった。そして、もっとも大切な彼女を守れなかった深い自責の念にかられることにもなる。

そんなイ・フォンをキム・スヒョンは、常に厳格な姿でなく、時には顔いっぱいにシワができるほど豪放に笑ったり、時にはいら立ちが抑えきれず大声で怒鳴る姿で演じた。キム・スヒョンの体を借りたイ・フォン、いわゆる“キムスフォン”が多くの女性の心をときめかせる理由がここにあった。

多くの人が感じるキム・スヒョンの魅力も、やはり彼自身の少年らしさによるものではないだろうか。成長した男の体に、まだ育ち盛りの少年の表情を見せる25歳の若者は今、境界線に立っている。みんなが注目する境界の上で時には疾走して、時にはたじろぎながら、キム・スヒョンは今を生きている。

「太陽を抱く月」は40%を越える驚異的な視聴率を記録したが、作品の完成度が視聴率に比例しているとは必ずしも言い切れない。特にキャスティングのことで非難された撮影現場やストライキによる放送休止など、様々な悪条件が重なったが、キム・スヒョンが出演していたから、作品に対する不満を抱きつつも彼の顔を見るためにドラマを見た視聴者がいた。そのためストーリー自体はもちろん、作品の内容以外でも努力を要することになった「太陽を抱く月」は、キム・スヒョンにとってチャンスであり課題でもあった。

「実は、初めてセリフを言うまでに本当に時間が空いたんです。撮影開始が遅すぎると思うほど。制作発表会のときまで、フォンとしてひと言もセリフを言ったことがなかったんです。これほど時間を使いながら、自ら深く悩み、それがストレスにもなりました。僕が声を出したとき、みんながっかりするのではないかと心配もしました。それに『まだかな、まだかな』と悩みながらだんだん混乱してきて、自分の声を出すまで本当に時間がかかりました」

とは言え、もう、何もわからなかったときのように演技をすることはできない。しかし、「何でも少しずつわかってきて、その分、戸惑ってしまいますよね。今は心配した分、ある程度、目標に近い演技をすることができたので胸がいっぱいです」という彼の言葉のように、つらい時期ではあったが、それによって結果的に大きな一歩を踏み出すこととなった。

同じ世代の俳優の中でもかなり安定しているキム・スヒョンの演技力は、すでに確かな評価を得ている。そして「太陽を抱く月」を通して、作品の欠点まで薄める力、すなわち“スターの力”を見せてくれた。演技に対して常に熱く真剣なこの若いスターが選んだ映画は、彼を引き寄せた強烈なカラーを持つ作品ばかりだ。それはキム・スヒョンが演じている姿を見たい作品の数々でもある。どれも見た人をハラハラドキドキさせる内容で、魅惑的な映画となっている。

1.「トレインスポッティング」(Trainspotting)
1996年/ダニー・ボイル


「この映画が持っているカラーがとても好きです。公開当時に見てはいませんがこの映画を見てイギリスにも関心を持つようになりました。文化も大きく違うし、距離も遠く、映画の中の時代も今と違うけど、そのときだからこそ感じられることが描かれているようです。演技も素晴らしかったです。俳優のセンスというか、そんな部分も良くて、演技をする立場から勉強になった作品でした」

この映画を見るために、放課後の自習時間に教室の窓から逃げ出す学生がいた。ユアン・マクレガーとダニー・ボイルという名を世間に知らしめた「トレインスポッティング」は麻薬、暴力、セックスをテーマとした青春映画だ。イギリスのエディンボロを舞台に青年たちの希望と挫折を描いた1990年代を代表する問題作である。タイトルの意味は、イギリスで汽車が作られた当時人々が行った、プラットホームに集まり駅に戻ってくる汽車の番号を当てるゲームを意味する。

2.「ベルベット・ゴールドマイン」(Velvet Goldmine)
1998年/トッド・ヘインズ


「最初は『オオ!』と言うほどの衝撃を受けました。本当に衝撃で、この作品もやはり特有のカラーのがあります、何というか強烈なカラーが。この映画を見ながら色々な想像をしました。僕も演技をするとき、あのように自分の殻を破って身を投げ出すことができるかと、自分を省みるきっかけになった作品でした。ユアン・マクレガーの演技にも驚くべきものがあります。ジョナサン・リス・マイヤーズの演技もとても印象的でした。目を動かすことから手のしぐさまで、すべてが徹底されてました。だから好奇心が湧いてきて、もし僕がこの映画に挑戦するとしたら、二人の役を両方とも演じてみたいです」

「トレインスポッティング」を通してユアン・マクレガーのファンになった人々が再び虜になったもうひとつの映画が、この「ベルベット・ゴールドマイン」だ。1970年代のイギリスのクレームロックの最大スターだったブライアン・スレイド(ジョナサン・リス・マイヤー)の死から10年後、記者アーサー・スチュアート(クリスチャン・ベール)は当時の事件を取材しながら自分の10代を激しく揺るがした記憶と向き合う。

3.「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」(Hedwig And The Angry Inch)
2002年/ジョン・キャメロン・ミッチェル


「僕にとってこの作品はミュージカル版の印象が強いですが、映画も本当に素晴らしかったです。この作品は韓国でもミュージカル版が公演されているので、いつか挑戦してみたいです。もちろん今は難しいと思いますが、もう少し時間が経ったらやってみたいです。そう言った意味で、もっとも近くにある映画と言えるでしょう」

チョ・スンウ、オ・マンソク、キム・ジェウク、チョ・ジョンソクなどの数多くの俳優の挑戦精神を呼び起こしたミュージカル「ヘドウィグ」は、2002年に映画として先に公開されている。トランスジェンダーの歌手ヘドウィグが愛する人々に利用されて捨てられる、波瀾万丈の人生を強烈なロック音楽に載せて描かれた物語は、もとは1994年、ドラァグクイーン専用の小さなバーで公演されたミュージカルだった。予想外の成功を収めた公演は映画化され、シナリオを書いたジョン・キャメロン・ミッチェルが監督を務め主役を演じた。2001年サンダンス映画祭で最優秀監督賞と観客賞を始め、数々の賞を受賞した。

4.「インセプション」(Inception)
2010年/クリストファー・ノーラン


「この映画は俳優としてではなく、観客としてのめり込んで見た映画でした。見た後に、余韻がしばらく残る映画です。音楽も本当に素晴らしかったです」

出す作品ごとに観客を驚かせる監督がいる。「メメント」を通して細かなアイディアを精巧に構成して、驚くべきの映画作りを見せたクリストファー・ノーラン監督。誰もが知っているキャラクターだったので、これ以上新しいストーリーがあるだろうかと疑った「バットマン」シリーズも、彼が手を加えると新鮮さを取り戻したようだった。そして夢と現実の曖昧な境界はもちろん、幾層にも重ねられた“夢の中の夢の中の夢”という中軸的な構造を通して魅惑的なストーリーを描いた「インセプション」は、この時代の新たなる巨匠の出現を知らせる作品となった。

5.「ブラック・スワン」(Black Swan)
2011年/ダーレン・アロノフスキー


「公開当時、映画を見て大いに褒めた作品です(笑) ナタリー・ポートマンの演技が本当に魅力的でした。映画の中で演技をしているという感じが全然しなかったので、本当にあの役を自分のものにしたんだなと思いました。僕は『太陽を抱く月』で人々にそのように感じさせることはできませんでした。でも尊敬させることはできます、それは(王の役なので)思いのままにできるから(笑)」

鋭敏な感受性をもつ芸術家が究極の芸術を完成させるために自らを破滅させる話は、往々にして人々を魅了する。しかし重要なことは、いつもほどよく努力して、ほどよく成就することに慣れている一般の人々を説得するために、このような芸術家を演じる主人公は、圧倒的に強烈な印象を残さなければならないということである。「ブラック・スワン」で芸術家の凄絶な切迫感を、狂気じみた演技で表現したナタリー・ポートマンは、第83回アカデミー賞の授賞式で主演女優賞を受賞した。

「今でもまだ子供です」。4年前のKBSドラマ「ジャングルフィッシュ」出演時のインタビューの記憶を辿りながら“幼かったとき”のことについてふれると、キム・スヒョンは少し顔をしかめてそう返した。ドラマの制作発表会の多くのカメラの前で、突然後ろを向き、涙声で会見した21歳の新人俳優は「自分に責任があったので、あらゆることをやらなければないというプレッシャー」を背負って限界に達し挫折したが、既に「だから、この作品に感謝しています。ひざまずくことができました」と笑える若者になった。4年前、そのときと変わっていないことは“左利きでくせっ毛のAB型”である自分や「まだ自分勝手にできるから幸せです」と話す姿だけかも知れない。今や、彼の未来は数多くの物語と人物で溢れることが予想される。テレビや映画はもちろん、カメラに映らない所でも彼に興味を持つ人も増えるだろう。そしてその変化がそれとなく、しばしば涙を見せもろい部分もある彼の明日への糧になれば、と密かに願っている。同時に心のどこかでは、依然として少しは危うい表情をして、緊張感を崩さないで欲しい。まだ未完成の才能を楽しむ余地もある“幼い男”なのだから。

記者 : キム・ヒジュ、写真 : チェ・ギウォン、翻訳 : チェ・ユンジョン