「イカゲーム」「愛の不時着」「ヴィンチェンツォ」Netflixの人気の影で課題も…韓国のOTT市場は大激戦

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写真=Netflix

この数年間、日本で「愛の不時着」「ヴィンチェンツォ」「梨泰院クラス」などのコンテンツが人気を集めているが、これらはすべてグローバルOTTプラットフォームから配信されたという共通点がある。今やコンテンツはテレビだけでなく、OTTプラットフォームを通じて楽しむ時代になり、新型コロナウイルスの感染拡大で自宅で過ごす時間が増えた今、さらに需要が増えている。

こうした現状をうけ、「第34回東京国際映画祭(TIFF)」と併催されたアジアを代表するコンテンツマーケット「TIFFCOM 2021」では、韓国のローカルOTTプラットフォーム「wavve」の政策企画室のイ・ヒジュ室長が、韓国のOTT市場やコンテンツ戦略、さらにNetflixオリジナル作品の課題まで幅広く語った。

 

韓国市場は激戦!メディア業界は大きな課題も

写真=「智異山」ポスター
インターネットはボーダレスのため、過去とは異なり、“グローバルメディア戦線”が形成されていると明かしたイ・ヒジュ室長。韓国国内でもNetflix、YouTubeなどのグローバルOTTが拡大し、「特にNetflixは現在190ヶ国に進出し、韓国のOTTプラットフォーム(wavveなど)だけでなく、韓国の伝統的なメディアにも影響を及ぼしています。メディア業界では相当大きな問題、解決しなければならない課題となっています。このグローバルメディア戦線を逃してしまうとメディア政策を誤ってしまうことになります」と指摘した。

韓国国民のOTT利用率は毎年15%ずつ増加。性別、年齢別に見ても増え続けており、10、20、30代が多いが、中高年もOTTサービスに適応しつつあるという。アメリカには数百のOTT事業者がいるというが、韓国のOTT市場と関連して、イ・ヒジュ室長は地上波放送局とSKテレコムが提携して作った「wavve」、KTの「seezn」、LGユープラスの「モバイルTV」、CJ&JTBCの合弁による「TVING」、WATCHAの「WATCHA PLAY」、Coupangの「Coupang Play」を紹介した。韓国でwavveはNetflixに続いて2位、ローカルOTTの中で加入者数は1位だ。彼は「韓国のOTT市場の中心にはNetflixがあり、加入者もずば抜けて多いです。Netflixだけでなく、『智異山(チリサン)』も中国で制作、投資されていますし、またDisney+は韓国ではローンチ前ですが、韓国の大手制作会社とコンテンツ制作について話し合いを行っています。それだけ韓国のコンテンツは世界的に大きな人気を博していると言えます。『イカゲーム』もその一つです」と話した。
 

Netflix「イカゲーム」が大ヒット!及ぼす影響は?

写真=Netflix
「イカゲーム」が大ヒットした中、韓国国内では、Netflixとドラマ制作会社間の契約の形態について、問題点を指摘する声が上がっているという。イ・ヒジュ室長は「キングダム」を例に挙げ、「キングダム」のようなオリジナルコンテンツをNetflixで配信する場合、Netflixが実制作費の110、120%ほどを支払い、全ての権利をNetflixが買い取るシステムを問題として語った。彼は「Netflixは知的財産権だけでなく、流通権までも買い取ります。つまり、『キングダム』の制作会社であるASTORYは、作品が世界的な反響を呼んでいるのに、制作費以外に追加の収益をあげることはできないのです。コンテンツは“付加価値産業”と言われるように、作品が大ヒットした時、追加の収益、莫大な収益を得られるという点が魅力的なのに、韓国の制作システムではそれらは期待できません。しかし、逆に安定した制作はできるということです」と説明した。

Netflixは最近グッズ事業も展開しており、「イカゲーム」のグッズも公開されている。しかしこれについても「Netflixの事業領域なので、『イカゲーム』の制作会社には権利もなく、グッズ販売による収益配分はないため、韓国でも懸念の声が上がっています」と指摘した。

写真=Netflix
しかし、当然メリットもある。イ・ヒジュ室長は「Netflixという巨大なネットワークに乗り、韓国のコンテンツを世界に広めることができ、グローバルな視聴者、ファンができます。韓国コンテンツへの関心も高まります。出演者、監督、作家たちへのファンが増えることにより、例えば『イカゲーム』シーズン2を作る時に出演料、監督料などが上昇するということもあり得ますね。また、『やはり海外進出をするしかない』という影響を与えている部分もメリットだと思います」と明かした。

それでも「やはり全ての知的財産権を譲渡し、追加の収益を期待できないというのは明白な短所です。Netflixに比べて資本の弱い韓国メディアの場合、Netflixが台本を先に見て、Netflixが断った台本などで制作しなければならないという部分で、良質なコンテンツの需給が難しくなり、ベストなコンテンツを自社で配信できないということもあり得ます」と指摘。そのようにしてプラットフォームのパワーが弱くなると、コンテンツ産業が委縮してしまうという懸念があり、文化的な面でも、アメリカのプラットフォームであるNetflixやYouTubeが配信するコンテンツをフィルターなしで見ることにより、文化の歪み、従属の危険性があると弱点を挙げた。
 

韓国OTTによる投資競争が激化「オリジナル作品を強化」

写真=「ノクドゥ伝」ポスター
wavve、seezn、TVING、WATCHA PLAYなど、さまざまなOTTプラットフォームがある中で、投資競争が活発化。wavveは2025年まで、1兆ウォン(約1000億円)を投資するといい、TVINGは3年間で4千億ウォン(約400億円)、Seeznは2023年まで4千億ウォン、WATCHA PLAYも新規投資を誘致するなど、投資の競争が激しくなっているという。イ・ヒジュ室長は「wavveで今一番力を入れていることはコンテンツの強化ですので、オリジナル制作に投資するとか、制作コンテンツを独占するということを戦略として考えています。結局はwavveのオリジナルが重要です」と明かした。wavveはNetflixオリジナルのような形態の“wavveオリジナル”を制作しているほか、地上波ドラマが編成されると、wavveではその日からVODで提供するライセンスド(Licensed)形態、wavveで先に公開し、その後従来のチャンネルに提供される“wavveファースト”などの形で作品を配信している。さらに最近、スタジオwavveという企画スタジオを設立。他の制作会社とのコラボや、wavveのオリジナル作品を扱っていく。

写真=「トレーサー」スチール
wavveは昨年、700億ウォン(約70億円)規模のコンテンツを制作。KBSの「ノクドゥ伝」や、アイドル出演のバラエティにも多く投資した。メインはドラマで、次にバラエティの順に投資しているという。2021年は20本ほどのコンテンツに1千億ウォン(約100億円)規模で投資。最近ではユン・シユン&EXIDのハニ主演「ユー・レイズ・ミー・アップ」などがwavveオリジナルで配信され大きな反響を呼んだ。年末は大作「トレーサー」(イム・シワン主演)を配信する予定である。現在はMBCと一緒に進行している「黒い太陽」が人気を博しており、継続して投資することで、コンテンツ制作への投資のノウハウも増えてきているという。

「競争の中、wavveはオリジナルコンテンツを拡大しなければなりません」と話したイ・ヒジュ室長は「グローバルメディア戦線があるということを見過ごしてはいけません。グローバル戦略を持つこと、韓国のOTT間の協力、競争が必要で、アジア、世界的にも各国のローカルOTT間の協力を真摯に考えるべきだと思います。これまではプラットフォーム政策とコンテンツ政策が別々でしたが、これからは一緒にしていくべきです。wavveが世界に進出することは宿命であり課題であると考えています」と強調した。
 

日本OTTとの連携も視野に「競争力を育てていきたい」

写真=「黒い太陽」ポスター
最後にイ・ヒジュ室長は、日本のコンテンツ業界の関係者からの質問に答えた。

Q.韓国の市場規模は十分に大きくはないと思いますが、海外ユーザー確保のためにwavveではどんな努力をされていますか?

イ・ヒジュ室長:韓国の市場規模だけではやっていけません。OTTはボーダレスなインターネットを基盤にしているので、海外進出は絶対に必要だと思います。特に韓国は強力なコンテンツが多いので、グローバルOTTに必ず成長しなければいけないと思います。wavveは段階的に東南アジア進出を計画していました。第1段階として、韓国のwavve登録者が東南アジアに旅行した際、そこでもwavveが見られるようにする形です。これは今も施行されています。第2段階は、現地に住む韓国人、3段階で現地の人たちへのサービスですが、これはコロナのために支障がありました。今は東南アジア進出と共に、欧米など他の地域も含めて検討中です。

Q.グローバルプラットフォームに対抗するためには、ローカルOTT間でのコラボが必要だと思うのですが、コラボの予定や可能性を教えてください。例えば、日本のローカルOTT業者と提携してコンテンツの数を増やすといったこともwavveでは考えているのでしょうか。

イ・ヒジュ室長:一言で申し上げますと、Netflix以外の全てのOTTプラットフォームはコラボする必要があると思います。韓国でも、異種間のメディアにおいてもコンテンツの共同制作が進められています。例えばwavveと地上波放送局との協力を通じたコンテンツ制作、地上波放送とケーブルPPとの共同制作といった部分が進んでいます。なぜなら大規模のコンテンツを作りたいからです。もちろん韓国のOTT間で共同制作して一緒に編成するという戦略もあり得ます。世界的にNetflixに占有されている各国のローカルOTTもやられっぱなしではいられないので。世界的にそういった各国のローカルOTTの連帯が必要だと思います。日本のOTTプラットフォームと韓国のwavve、または(香港の)Viuなど、他国のOTTプラットフォーム同士で連帯したり、ファンドを作ることもできます。お互いのOTT事業に関する情報交換をしたり、ノウハウを分かち合ったり、コンテンツを共同制作したりしながら、クオリティの高いコンテンツを提供し、競争力を育てられればとても意味のあることだと思います。wavveもそういった提案については常にオープンでいます。

写真=wavveオリジナルウェブバラエティ「SuperMのMトピア」ポスター
Q.長期的に見て、グローバル進出のためのコンテンツ確保がとても重要だと思うのですが、戦略はありますか? 特に海外の優れたコンテンツだけでなく、最近注目されている韓国国内の優れた新しいコンテンツを確保する戦略はありますか?

イ・ヒジュ室長:韓国はコンテンツ強国と言えます。韓国のストーリーテリングに関しては、Netflixの創業者リード・ヘイスティングスも認めている部分です。韓国の独特なストーリーテリングを活かし、それをコンテンツ化するのも重要だと思います。しかし、Netflixが先に台本を読んだ場合、危険な部分もあるということは先ほども申し上げました。wavveだけでなく、他の韓国のOTTプラットフォームも台本の公募をするなど、新しい試みをやっています。何より韓国のコンテンツ産業のため、基盤の拡大が必要だと思います。例えば、大学でストーリーテリング学科は現在あまり多くないと思っていますが、そういった学科の定員を増やし、演出、制作など、今韓国が持っている強みをさらに強化できるような体制を作っていくことが重要だと思います。

■関連サイト
TIFFCOM公式HP:https://tiffcom.jp/

記者 : Kstyle編集部