ホン・ソクチョン「ゲイだと石を投げた人々、今や僕を“トップゲイ”と呼ぶ」

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午前3時、暗闇の中をかき分け江原道(カンウォンド)旌善(チョンソン)郡に向かった彼は、午前中MBCの新しい月火ドラマ「トライアングル」の撮影に参加した。その後再びソウルに戻り、JTBC「魔女狩り」の収録を終えた彼に会えたのは午後7時30分だった。2時間後には映画の撮影のために仁川(インチョン)に行くという。風邪気味の鼻声で話しながらも彼は「体はしんどいが、たくさん仕事をしたい。失った時間を埋めたいと思っている」と話した。

大概のアイドル歌手よりも忙しいこの男性は、“トップゲイ”と呼ばれるホン・ソクチョンだ。ソウル龍山(ヨンサン)区梨泰院(イテウォン)洞にある彼のレストラン「My Hong」で、役者として、芸人として、そして事業家として活発に活動しているホン・ソクチョンの話を聞くことができた。

「撮影現場で感じた喜び…演技に飢えていた」

ホン・ソクチョンは韓国で5日から放送がスタートする月火ドラマ「トライアングル」で、プライベートカジノのマネージャー、マンガン役を演じる。ドラマの中でチャン・ドンチョル(JYJ ジェジュン)とプライベートカジノのマダム・チャン(イ・ユンミ)に確執が生じる状況で暴力を働いたりする役どころだ。ホン・ソクチョンは「太陽をのみ込め」で一緒だったユ・チョルヨンプロデューサーのオファーで「トライアングル」に出演することになった。この日最初の撮影を行なった彼は、現場の雰囲気を伝えながら目を輝かせた。

「一睡も出来ずにソウルを出発した。車の中で爆睡してから撮影現場に到着したが、車から降りてスタッフを見た瞬間“うわっ”とテンションが上がった。体はしんどくても精神は明るく輝いていた。事前にセリフの練習をした時、あまり上手くできなかったので心配していたが、現場でイ・ユンミさんとリハーサルした時は上手くできた。“こういうことだったのか。演技に飢えていた私は、こういうことに幸せを感じるんだ”と気が付いた」

性同一性障害を告白後、彼へのオファーはぷつりと途絶えた。最も輝くことができたはずの30代をそのように送りながら、カメラに対する渇望を常に感じていた。役者ではあるが、久々にカメラの前に立ってみると違和感を覚えたりもした。そういう意味で「トライアングル」は、少しではあるがホン・ソクチョンの渇きを満たすことのできる作品だろう。一緒に出演するJYJ ジェジュンもまた、撮影現場でホン・ソクチョンを歓迎した。ホン・ソクチョンは「撮影の間、ずっと幸せだった」と微笑んだ。

「2000年に全てを失ったが、13年後にこんな日が来るとは」

ホン・ソクチョンが忙しい日々を送るようになったのは、2013年MBC「黄金漁場-ラジオスター」の「日の出特集」からだ。JTBC「魔女狩り」で“トップゲイ”のキャラクターを確立させ、今や視聴者が一段と親しみを感じるキャラクターになった。今、どこに行ってもホン・ソクチョンという名前より“トップゲイ”と呼ばれるという彼は「自分の全てをオープンにしてカミングアウトした2000年、全てを失ったが、13年後にこのような日が来るとは想像もできなかった」と打ち明けた。

「私が初めてゲイであることを公開した時、人々は私に石を投げた。でも13年が経った今はトップゲイという言葉に熱狂している。私にとってそれは非常に大きな意味があり、驚くべき経験だ。今まで全国をめぐりながら大学生に性的マイノリティーの人権について講義を行い、ゲイフェスティバルで運動も起こし、事業家としての能力も見せた。でも、とにかく今、僕はトップゲイだ。13年間の闘争に対する報酬を今貰っているようだ」

一時期は彼の女性らしい仕草や言葉遣いなど、ゲイに対する偏見と先入観で人々は彼に対して否定的だった。しかし今、彼は「ギャグコンサート」などに出演し、このような姿を演じることもある。「(お笑い芸人の)後輩たちが悩んだ末に頼んだことだと分かっているから」と話すホン・ソクチョンは「私にとって世間との距離を縮めることを意味している。実際、その役割をしたがる役者は数少ないが、その中の一人が私だ」と説明した。

梨泰院の事業家ホン・ソクチョン、龍山区役所長を夢見る理由

ホン・ソクチョンは役者であり、タレントでもあるが、実は事業家でもある。2001年から梨泰院でレストランを始め、ホン・ソクチョンが展開する「My」レストランシリーズのお陰で梨泰院に対する偏見も大分変わった。彼は「思ったほど派手な世界ではない。失敗もたくさんしたし、詐欺にも遭い、痛みも経験した。運良くそれらを乗り越え、複数あるレストランの中でいくつかの店舗は好調で、損をしない程度に運営できている」と説明した。

「私のイメージに皆が先入観を持っていたように、梨泰院に対する先入観もあった。そして、それを打ち破る作業はまったく同じだった。初めて私がここに来た時、梨泰院は馴染みのない危険な場所というイメージだった。でも今は週末になると家族連れが梨泰院に遊びに来る。最初は認められたいという気持ちで店を始めたが、実は今政治にも興味を持っている。次の選挙あたりには、龍山区役所長に立候補したい。情熱もアイディアもある」

10年以上にわたって梨泰院でレストランを営みながら、誰よりもこの場所に対する愛着が湧いたという彼は「私は現場で走り回り、一番底辺から上まで這い上がって来たから、民衆の言葉に耳を傾け、痒いところにも手が届くと思う。それに、私は性的マイノリティーの代表でもあるので“誠実に生きていれば夢を叶えられる韓国”というのを見せたい」と付け加えた。

「依然として不安だが」…“貴重な縁”が人生の支え

この日のインタビューには、お笑い芸人キム・ギスも登場した。彼は「この前兄さんの誕生日だったし、思い出したから買った」と言いながら、スニーカーを手に持って現れた。暖かい風が吹く春だというのに、未だに冬用の靴を履いていたホン・ソクチョンは、その場でスニーカーに履き替えて満面の笑みを浮かべた。周りからは「稼いだお金はどこに使っているの?自分に使えばいいのに」と言われているが、靴一足で暮らすのがホン・ソクチョンの普段のスタイルだ。

「この前、タイから遊びに来た友人たちと三清洞(サムチョンドン)に行ったのだが、正読図書館前の垣根でギターを弾きながら歌を歌っている人がいた。照明もなく暗闇の中で声だけが聞こえ、私は4、50分ほど立ち止まってその歌を聞いていた。そしたら急に涙が流れた。その人が歌う『明日に架ける橋(Bridge over Troubled Water)』の歌詞がまるで自分の人生のように思えたんだ。忙しい日々を送りながらも、私は寂しかったみたいだ。今でもまだ不安に思う時がある。“二度と呼ばれないかもしれない”と考えたりする」

ホン・ソクチョンは「魔女狩り」で常に冷静を保ち、自分をコントロールしてくれるシン・ドンヨプと、「トライアングル」のユ・チョルヨンプロデューサー、「完全なる愛」に呼んでくれた脚本家のキム・スヒョンを恩人として挙げた。最近ではキム・ウビン、チョン・ソグォン、ヨン・ジョンフン、ジェジュンなどと貴重な縁を結んだ。自分に厳しく、人にはどこまでも優しいホン・ソクチョンは、このような縁に支えられながら生きている。

記者 : イ・オンヒョク