キム・テウ「『その冬、風が吹く』は、僕にとって天国のような作品」

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完璧な変身だった。典型的な弁護士や医師の外見を持っていたキム・テウが、殺人請負業者チョ・ムチョルになりきったのだ。このような姿を“凄まじい演技力”というのだろうか。キム・テウの新たな姿に、自分も知らぬ間にはまっていくのを止めることができない。

一時期、忠武路(チュンムロ:韓国映画の中心地)で縦横無尽に活躍していたキム・テウはいつの間にかお茶の間に帰ってきて、「愛の贈り物」と「その冬、風が吹く」の2本に出演し、まったく異なる役で演技力を発揮した。「愛の贈り物」では殴りたくなるようなダメな夫として、「その冬、風が吹く」では悪役チョ・ムチョルとして活躍した。

一体いくつの顔を持っているのだろうか。キム・テウに実際に会って話を聞いてみた。


「凄まじい演技力?大先輩が見たら…」

最近、「その冬、風が吹く」を見た人なら口を揃えていう言葉。それはキム・テウの演技に対する絶賛である。“凄まじい演技力”という修飾語が当然のようについてきた。

しかし、いざ本人は“凄まじい演技力”という絶賛に淡々とした様子だった。「いや~」と手を横に振ったキム・テウは「大先輩が見たら笑う。演技?いやいや~先生方が見たら笑うはずだ。今、チェ・ブラム先生が僕の演技をご覧になったら笑うだろう」と恥ずかしがった。

「人間であり、人なので十分に準備した演技が好評を得れば感謝するし、嬉しい。しかし、年齢もあるので次の作品でさらに驚かせる演技もしなければならないし、そうするのが正しいと思う。褒められて嬉しいけれど、嬉しいで終えるべきだ。自惚れると生意気になる。そんな俳優になるつもりはまったくない。褒めてくれた気持ちを受け取って、次のシーンにさらに集中し、次の作品に集中するのだ。俳優が自分で自分を上手だと思うと、初心を忘れ、演技がめちゃくちゃになる。常に集中していなければならない」

「キム・ギュテ監督とノ・ヒギョン脚本家は、どう演技したいかまず聞いてくれる」

“ノ・ヒギョン社団”ではないかという話があるほど、ノ・ヒギョン脚本家とキム・テウの息は幻想的だった。1998年KBS 2TV「うそ」以来15年ぶりの共同での作業だったが、完璧な二人の呼吸により、そのような話が出たのだ。キム・テウは「社団と記事に書かれたことがあるが、それは違うと思う。僕はただ、脚本家に呼ばれて脚本家が書いてくれたものを演技で見せるだけだ」と話した。

ノ・ヒギョン脚本家はすべてのキャラクターにストーリーを与えることで有名だ。どんなに小さな役でもストーリーを吹き込み、キャラクターの正当性を引き立てる。そのため、悪役チョ・ムチョルも単なる悪役ではなかったのだ。

「ノ・ヒギョン脚本家の文章を読むと理解できないことがない。文章そのもので理解できるのだ。そのような点にとても感謝している。台本の読み合わせが終わった後の食事会でノ・ヒギョン脚本家が僕に『台詞、気楽にして』と言ってくれた。監督も一緒だった。現場で『どう演じるか』と僕の話を先に聞いて受け入れてくれた」


「チョ・ムチョル、典型的な悪役にしたくなかった」

キム・テウが演じたチョ・ムチョルは、典型的なクラブの雇われ社長、殺人請負業者とはまったく違った。ファッショナブルなライダースジャケットとスキニージーンズはもちろん、終始口にくわえていた棒キャンディーもそうであった。このすべてがキム・テウの考えた組み合わせであることに再び驚かされた。

「元々ムチョルも典型的なクラブの雇われ社長であり、殺し屋だった。殺し屋のイメージだとビーニー(ニット帽)やミリタリージャンパー、雇われ社長だとコートにスカーフだった。しかし、そうはしたくなかった。だから、ライダースにスキニーを思いついた。ヘアスタイルもかなり悩んだ。キャンディーをくわえて、典型的な悪役にはしなかった」

殺し屋ものを一度でも見たことがある視聴者なら、殺し屋たちの典型的な台詞の対処にも慣れているはずだ。重いトーンで「殺せ」と叫ぶ彼らとは異なり、チョ・ムチョルの「殺せ」は少し軽かった。

「ムチョルは人を殺すことが簡単な人だ。すでにあまりにも多くの人を殺し、もう一人殺すことはなんでもないことだったのだ。だから、人を殺すことについていたずらをするかのように軽く台詞を放った。ムチョルにとって人を殺すことはまったく難しくない。それがもっと怖いのだ」


チョ・インソン、ソン・ヘギョ、キム・ボム、Apink チョン・ウンジ…「なぜ彼らが愛されるのかが分かった」

本当に初共演なのだろうかと思うほど、完璧だった。本当に何十年も一緒に顔を合わせて育ってきたような人々ではないかと思えるほどだ。ドラマでの呼吸がこれほどなのに、普段はどのくらい息が合うのだろうかと思う。

キム・テウは自分よりも10年、長くて20年も後輩である俳優たちに絶賛の言葉を惜しまなかった。性格にとげのある人がおらず、作品に対する情熱一つで、撮影現場での行動一つ一つがまっすぐだったというのが理由だ。

「なぜ、彼らが愛されているのかが分かった。作品に対する情熱を持って現場で取り組む姿勢や共演する俳優やスタッフに対する態度から、なぜ愛されているのかが分かるほど本当に素敵な人たちだ。後輩であるが、一緒に作品に出演することができてよかったと言えるほどだ。スタッフもそうだが、現場でこのような俳優たちになかなか会うことはできないのに、これからがさらに楽しみな俳優たちだ」

キム・テウは特に、現場で最年少として先輩たちに可愛がられていたApink チョン・ウンジに大きな拍手を送った。アイドル歌手で、演技を学んだこともないというチョン・ウンジの演技がものすごく感じられたのだ。

「本当に驚いたのは、チョン・ウンジが21歳のアイドル歌手ということだ。演技について勉強したこともないというのに、今、あんなにも演技が上手い。僕は21歳のとき、あんなふうに演技ができなかった。今の気持ちが変わることなく育っていけば、将来ものすごい女優になりそうだ」


「『その冬、風が吹く』は、僕にとって天国のような作品」

俳優にとって「その冬、風が吹く」はまさに、天国のような撮影現場だった。紙切れの台本や徹夜の撮影、Bチームの撮影がない撮影現場だったためだ。そのため、俳優たちは演技以外のことには気を使わなくてもいいシステムが完成されていた。

キム・テウはこれについて「撮影現場のお手本、撮影現場の教科書だ。俳優たちにとっては最高の撮影現場だった。誰一人、大きな声を出さなかった。撮影現場はいつも忙しく回っているので、いくら上手でも『おい、早く動かないのか?』といういらだった声が一度は上がるのに、『その冬、風が吹く』では一度も大きな声が出ることなく終わった」と絶賛した。しかも、最終回の放送を前にしても徹夜の撮影がなかったそうだ。

「正直、このような制作システムを実現すべきだ。日本やアメリカのように完璧な事前制作であればいいが、韓国のシステムではこれ以上にいいシステムはできないと思う。急がず、ゆっくり撮影した。俳優にとっては天国のような撮影だった」

「その冬、風が吹く」でチョ・ムチョルは、“もっとも彼らしい姿”で退場した。「その冬、風が吹く」も第16話で放送終了となった。キム・テウは「むしろ撮影を始める前に苦労するタイプなので、ムチョルにサヨナラするのはあまり難しくないと思う」と話したが、視聴者はなかなか彼を見送ることができずにいる。16話という短いドラマでも、深い余韻を残したチョ・ムチョルの存在感はしばらくの間、ずっしり重く残ると見られる。

記者 : ムン・ジヨン、写真 : ムン・スジ