イム・スジョン、徹底的に予習する心優しい大きな瞳をもつ女優

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「あのときのあの人だっけ」と思うほど、目を見張って、見返す俳優に出会うのは喜びだ。しかし、最初の期待を裏切ることなく、着実に自身の才能を花咲かせていく俳優を見守るのも楽しいことだ。いわゆる、階段をひとつひとつ踏んでいく、ステップアップスタイルの俳優だ。

このタイプでもっとも目立つのはイム・スジョンだ。自分が得意で自信のあるジャンルにとらわれず、一度も踏み入れたことのない道を歩もうとする女優は思うより多くない。

むやみに挑戦して酷評されたり、できると思ったのにそうでもなかったという評価を受けることを恐れるためだ。2、3年間次の作品を選ばず、運動だけをしている俳優がいるが、そのようにするのは、多くは思慮深いためでなく、自身の演技力がバレそうで怖いからというケースが多い。

その点でイム・スジョンは変化を恐れない勇敢な女優だ。2009年公開した「チョン・ウチ 時空道士」での少ない出番と存在感を除けば、この女優はこれまで自身が主演した9本の映画すべてで期待を上回った。ムン・グニョンと姉妹役を演じ、高い演技力で注目を浴びた「箪笥」を始め、「アメノナカノ青空」「Sad Movie <サッド・ムービー>」「角砂糖」でホラー、恋愛、ヒューマンドラマといった幅広いジャンルで活躍した。イム・スジョンはどんなジャンル、どんな役を与えてもやり遂げる。

特に「角砂糖」では様々な逆境とハンディキャップを乗り越え、男性中心の騎手世界に立ち向かう女性騎手として出演し、忘れられないカタルシスを与えてくれた。主流世界に受け入れられない悲しみとかわいそうな自分の人生を、老いて弱い競走馬チョンドゥンに投影し、馬とひとつになって走ったハイライトシーンは今も記憶に新しい。

イム・スジョンの出演作は大体、有名監督の視線から描かれているもののイム・スジョンのキャラクターが薄まることなく、生き生きとしている共通点がある。パク・チャヌク、キム・ジウン監督の演出に埋もれる可能性もあるが、イム・スジョンは作品ごとに自身のキャラクターをはっきりと見せる力を持っている。

自我の分裂を患うヨングンを演じた「サイボーグでも大丈夫」は、イム・スジョンがどれだけ多くの伸びしろを持っている女優なのかを如実に見せ付けた。見方によって恋愛映画ともとれるこの映画で、イム・スジョンは世の中の不条理に向けて銃を乱射しながらもピュアだ。まるで、何の絵の具も出していない、新品のパレットを見ているようだ。

小柄であるためか、不完全なハンディキャップを抱えた役を数多く演じてきたイム・スジョンは、余命宣告を受けた男女二人の愛を描いた「ハピネス」でも病人ウニ役で人々を泣かせた。人生の最後にやってきた大切な愛が、男の回復と心変わりで、もつれ合ったときの困惑をイム・スジョンは完璧に演じきった。

「あなたの初恋探します」「愛してる、愛してない」のような実験性のある映画でもイム・スジョンは抜群の実力を見せつけた。10本目の主演作「僕の妻のすべて」で、再び魅力的なキャラクターを作り上げた。心の虚しさと孤独に耐え切れず、病的に周りの人に毒舌と小言を言い続ける結婚7年目の主婦、ジョンインだ。

どんなに美しくても、相手を気絶させるほど、息をする間もなく毒舌を浴びせるジョンインを見ていると「観客まで逃げそう」と思うほど、イム・スジョンは役とひとつになった。セリフの量が普通の映画の3~4倍になるため、人生最多のNGを出したというイム・スジョンは「作品ごとにこれが私の最後の作品になるかもしれないという深刻な気持ちで演じます」と話した。

復習よりも予習のほうが、5倍ほど効果が大きいという。過去の作品を早く抜け出し、新しい作品に大胆に自分を任せるイム・スジョンを見ていると、復習より予習に徹底した女優だという印象を受ける。彼女に聞いた。もし、タイムマシーンの搭乗券が1枚あるとしたら、いつの時代にタイムスリップしたいのかと。この“ワーカホリック女優”の答えは虚をつく。

「1960年代のアメリカに行ってみたいです。モノクロ映画の主人公たちに会って、彼らの演技と日常を覗いてみたいです。どうですか?すごく興奮するじゃないですか?チャンスがあって、彼らと演技することができれば、まるで雲の上を歩くような気分になると思います。想像するだけでも幸せです」

優しく、大きな瞳を持っているためか。監督たちがもっとも一緒に映画を撮ってみたい女優1位になぜイム・スジョンが選ばれるのか、その理由が分かるような気がした。

記者 : キム・ボムソク 写真:キム・ジェチャン