Vol.2 ― ソン・ヘギョ 「楽しいほど辛くなる。もっと上手くやりたくなるから」

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※この記事は2008年当時のものです。

「秋の童話」「ホテリアー」「フルハウス」。恋愛ドラマのヒロイン、ソン・ヘギョ。もしくは明るくて凛々しいソン・ヘギョ。私たちはよく“ソン・ヘギョ”という名前からこうしたイメージを思い浮かべる。それはソン・ヘギョがスターではあるが、典型的なジャンルの中で動く女優として覚えられている話でもあった。しかし、ソン・ヘギョはある時点から変わり始めた。彼女は映画「ファン・ジニ」に出演し、完全に自分が引っ張っていく映画を経験して、インディペンデント映画(自主映画)「Fetish」でその年ごろの女性スターが歩かなかった道へ進み始めた。「彼らが生きる世界」は、そんなソン・ヘギョの新しい試みに傍点を打つことになるかもしれないターニングポイントだ。「彼らが生きる世界」で彼女は悲劇やコメディではない日常の人々と、ドラマの制作現場の中に入り込んだ。彼女はなぜドラマの中のヒロインの代わりに、そのドラマを撮る監督の現実の中に入り込んだのか。ビール一杯を添えてソン・ヘギョに質問を投げかけた。

―ジュニョンは他人の痛みをよく理解できなくて上手くいかないのに、逆にあなたは周りの人々の考えについてすごく慎重になるようだ。

ソン・ヘギョ:私は仕事をすると仕事に集中するけど、私の周りの人全部に気を遣う性格。周りの人々に気を遣わないと、気になって仕事ができないこともある。だからジュニョンがうらやましい時もある。

―もともとそういう性格なのか。

ソン・ヘギョ:生まれつき。そのために会う人の幅が狭まるところもあるし。会う人をまとめて、私が気を遣ってあげられる人としか会っていない。その人たちは私が間違えた時も、私のことを理解してくれるくらい深い関係の人たちでもある。多くて7人くらい?

「人と同じ道へ進みたいとは思わない」

―そんなに人に気を遣うとストレスがたまるのではないか。

ソン・ヘギョ:自分のためにしていることだから。デビューして10年が過ぎたけれど、現場に遅れたことはほとんどない。私は自分のせいで誰かが自分を待つということが大嫌い。現場でも私の気分が悪くて険しい顔をしていて、誰かに「あの子、どうしたの」という顔で見られると、気になって演技もうまくできない。

―そうなると、我慢すべきことが多いのではないか。

ソン・ヘギョ:現場でそういうことはあまりなくて、外で私と親しくない人々が私に変なことを言うとき、争えないと死にそうになる。私はどうしてこうやって生きなければならないんだろう?私と何の関係もない人になぜあんな話をされなければならないんだろう?と。それに対抗することはできるけど、そうすると事態が大きくなるからそうすることもできなくて。

―今回は演技力をめぐる議論についての記事も出た。あなたが作品に参加するたびに、演技力の議論とか、今回は成功するかどうかとか、あなたに負担を与える記事が出る。そんな記事を10年間見ているわけだが、そのときの気分はどうなのか。

ソン・ヘギョ:傷付く。でも、私の職業上、そう評価されるのは当たり前だと思っている。それに、私も自分のどんなところに問題があるかは知っていて、直すために努力する。ただ、今回のいくつかの記事には憤りを覚えた。例えば、私は「彼らが生きる世界」を撮っているのに、「フルハウス」の基準だけで私を見る場合もある。私は依然として「フルハウス」のような作品に縛られているのが問題だけれど、結局、「フルハウス」みたいな演技しかできないから、「フルハウス」みたいな作品だけしなければならないという風に。それは矛盾ではないかと。それに、その記事を見たら、ドラマも観ないで記事をそのまま載せている場合もあった。そういうときもただ淡々と受け入れることは難しい。

―この年頃の人と違う生活をして失ったものも、得たものもあるようだ。

ソン・ヘギョ:失ったものがあるとは思うが、たくさん失ったとは思わない。むしろ、小さいころ早く社会に出て、安定することで得たものがはるかに多いと思う。

―そうやって安定した今のあなたは、あなたが楽しめて学びたいことにチャレンジするのか。

ソン・ヘギョ:人気はずっと続いてほしい(笑) でも、私も30に近付いているし、私の本分が演技だから、そこでちゃんと認めてもらいたい。人と同じ道へ進みたいとは思わない。もしそうしなくてはいけないなら進むだろうけど、前に道が2つあるのに、あえて皆が知っている道へ進む必要はない。

―海外進出はそんな道の一部分なのか。

ソン・ヘギョ:海外に行くのは、私が自ら満足したい部分が大きいと思う。海外は韓国とシステムがかなり違う。プライドも全部捨てて活動する覚悟がないととても辛いし。そこでは新人より低い地位で扱われることもある。

「仕事は楽しいほど辛くなる。もっと上手くやりたくなるから」

―経験してみたら、進出したいという欲が出たのか。

ソン・ヘギョ:欲が出た。ハリウッドの映画を観て名前しか知らなかったプロデューサに実際に会って、彼らに自分のことをアピールしなければならなかった。その過程でチャレンジしてみたいと思った。

―海外市場に出るにつれ、考えている方向性はないか。アジアの女優はまだ配役の選択幅が狭いが。

ソン・ヘギョ:そんなものはないけれど。とりあえず、ジョン・ウー監督の「生死恋」に出演する予定。ジョン・ウー監督が「ファン・ジニ」を観て私をキャスティングしたそうで、女性らしい配役になった。育ちのいい女性で、戦争が始まって夫を戦場に送る役。その他は具体的に決まっていることはないけれど、自分のためにもたくさん働きたい。中華圏をよく行き来するから、現地の俳優に会ったり、プロデューサーにも会って学ぶことが多い。小さなところでは、パーティーにふさわしい振る舞いやジェスチャーまで。韓国にはパーティー文化が全然ないから、気まずくても彼らと一緒に過ごして性格も変わった。国籍が違っても俳優同士お互い通じるものがあるから、何とか会話をして近付いて。

―広い市場に向かう恐ろしさなどはないか。

ソン・ヘギョ:ない。私がそこで成功を収めた後は、怖くなるかもしれないけれど、私はそこではまだスタート段階だから、とりあえず行ってみる。私が好きな女優がナタリー・ポートマンで、彼女は髪を剃ったり、たまにおもしろいミュージックビデオも撮ったり、古典的な映画に出演したりするじゃない。私もそんな女優になりたい。

―それとなく勇敢なところがあるようだ。

ソン・ヘギョ:少し無鉄砲(笑) それで周りの人たちがどことなく苦しんでいる(笑)

―あなたの今の悩みは何か。女優として、そして人間として。

ソン・ヘギョ:セリフ?(笑) 発音から、私が台本をどう理解すればいいのかまで全部悩んでいる。今こんなことを悩むなんて、10年間いったい何をやってきたのか(笑) それと、人間としては……私の周りにとてもいい人たちがたくさんいて、今はドラマの中のチュ・ジュニョンについての悩みが多い。

―仕事を楽しんでいるのか。

ソン・ヘギョ:楽しいほど辛くなる。もっと上手くやりたくなるから。いやなことを聞いてはいけないし。それで、もっと鋭敏になって難しくなっているみたい。

―それでは、あなたが未来になりたい姿とは。

ソン・ヘギョ:はっきり分からない。とりあえず、演技を頑張りたい。それと、結婚をしたら家庭がいちばんになりそう。幼いころから自分の家庭を築きたい気持ちが大きかったから。それでも演技は続けるだろうけど、家庭をいちばん大事に思うようになると思う。

記者 : カン・ミョンソク、ペク・ウンハ、翻訳 : ハン・アルム、写真 : イ・ウォンウ、編集 : イ・ジヘ