【3D映画のすべて】「ライフ・オブ・パイ」と「ホビット」はどのようにして撮影されたのか?

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映画「ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日」(以下「ライフ・オブ・パイ」)を観た。美しかった。「ホビット 思いがけない冒険」(以下「ホビット」)を観た。不思議だった。あ、これが3D映画だなと思った。でも、突然3D映画とは何だろう?と考えるようになった。どうして、どのような原理でこんなに美しくて、不思議な映画が作れるのか気になり、勉強し始めた。関連書籍を探し、インターネットで検索した。そして、現場を訪問し、専門家に聞いてみた。決して簡単ではなかったが、思ったより難しくもなかった。読者たちも同じだと思い「10asia」で3Dと3D映画に関する基本概念と実際に適用された事例をまとめてみた。もっとも基本的な概念は取材をもとに「明日は10冠王」バージョンで再構成し、これを独立3D映画の実際の現場写真を使ってより直観的に理解できるように作った。そして「アバター」以降、「ライフ・オブ・パイ」と「ホビット」が制作されたハリウッドのように、韓国で3D映画元年を切り開くことが期待される「ミスターGO!」の3D専門家とのインタビューを掲載した。

「ライフ・オブ・パイ」を観に行った?

はい。新年早々朝早くから映画館に行って観た。待ちに待った映画だったので。

そう?私は、友達が観て来て凄く興奮していたから、何がそんなに面白いのかなと思い観に行った。だけど本当に美しかった!

そうだろう?アン・リー監督が3D映画を作ると言った時、皆はどんな映画になるんだろうと気になっていたが、ジェームス・キャメロン監督の言葉通り「3D映画のパラダイムを破った作品」だった。

その3Dというものだけど。私は何も考えずにIMAX3Dの映画館で観たが、これは本当に素晴らしいものだなと思った。一体どれほど高価で特殊なカメラで撮影したら、こんなに素晴らしいものを作れるのだろう。やはりハリウッドの資本の力は凄いものなのでしょう~

えぇ?3Dについて全然知らないんだ。もちろん「ライフ・オブ・パイ」の制作費が高かったことも事実で、お金持ちのハリウッドだから可能だったことも事実だけど、それは3Dに高価なカメラを使ったからではない。3D映画を撮影するために基本的に二台のカメラが必要なことは知ってる?

えっ!本当?知らなかった。しかしなぜ?

はあ、君は私のように優しくて博識な友達がいることを幸運だと思いなさい。君の目はいくつある?右左、2つあるよね?目は2つあるから、実際に物を見る時、両方の目は少しずつ異なる角度で物を認識する。そして、そのようにして入ってきたそれぞれの信号が合わさって1つとして認識される過程を、脳においては物の3次元的な遠近と深さで認知するんだ。だけど、一般的な2D(2次元)映画は平面スクリーンに映し出すから、それぞれの目に伝わる映像が同じになるしかない。だから、実際のように立体感を感じることができないだろう?ところが、これを逆に考えたのが3D。両目に異なる角度の映像を見せることができれば、平面に表示される映像を見ても実際のように立体感を感じることができるということだ。

だから右目の役目を担当するカメラ一台と、左目を担当するカメラ一台がそれぞれ必要ということね。

君、思ったより賢いね。その二台のカメラで同じシーンを撮影すると考えてみて。右側のカメラと左側のカメラの物理的な位置の差が生じるだろう。だから、それぞれのカメラで撮れる画像に物理的な差が生じるの。この差がまさに立体感を作っているだね。

それでは二台のカメラで撮影すれば、誰でも3D映像が撮れるということ?

理論的には可能な話だけど、そんなに簡単なものではない。ひとまず二台のカメラを正確に一列に配置すればいい。これを“アラインメント(alignment)”というけど、それがとても難しい。同じ製造会社で作ったカメラでもハードウェア自体で微細な差があり、人間がすることだから物理的に100%きちんと並べることは不可能なことだ。それでこの左右のカメラをできる限り同じ列に並ばせて設置した後、細かく調節できる特殊装置とシステムが必要だ。これを普通“リグ(rig)”という。

それは高いの?私も買えるでしょうか?

どうかな、高いものは何十億ウォンを越えるから、私たち二人で10年間お給料を一切使わずに、貯めたら買えるかもしれないね。でも最近は利便性を考えて、左右のカメラを初めから合体して一台にしたものもある。3Dビデオカメラのようなものもあるし。

しかし、なぜ左右の画像が完璧に合わなければならないの?適当に合わせたらいけないの?

そんなふうに適当に生きているから、発展がないんだ……ま、とにかく。基本的に3D映像は焦点をスクリーンに調節して、私たちの目の動きはスクリーンに前後して行われるから、その不一致のせいである程度の目の疲れは避けられない。ところが、二台のカメラで撮った二つの画像が完璧に一致しないと、被写体が前に飛び出したり、後ろに消えて入って見えるので、目の違和感や異物感が酷くなるのだ。立体鏡(ステレオスコープ、stereoscope)って聞いたことある?双眼鏡のような装置でそれぞれ違う角度で撮った2枚の写真を配置し、それぞれの目で見ると立体に見える。これを利用した映画がすでに19世紀の初めに出たが、観客がめまいを起こすという理由で結局放っておかれた。

では3Dのメガネをかけないとダメなの?私のようにもともとメガネをかけている人は、2つのメガネを重ねてかけるのは違和感を感じるし、耳も痛くなる。

そのメガネを使うことで左右の映像が一つになって認識されるから必ず必要だ。もちろん携帯電話や携帯型ゲームのような小型3Dディスプレイの場合は、メガネがなくてもディスプレイ自体に装置を装着して見れる。だけど、映画のように大きなスクリーンで観なければならない場合は、原則的にメガネをかけなければならない。それに、普段3D映画で明るさが問題になるのも、このメガネのせい。メガネをかけたら暗くなるから。だからといって、そのことを考えて、ただ明るく撮ることもできないんだ。そしたら、画像が白飛びしてしまうから。

私は3D映画というと、「アバター」のようなファンタジーが一番最初に思い浮かぶのだけど?「ライフ・オブ・パイ」はまったくそのような映画ではなかった。オープニングで動物園の動物たちにゆっくりとフォーカスした時、立体感があって不思議だった。
先に話したキャメロン監督の言葉がまさにそういう意味だったと思う。私たちは3Dと言うと、「うわっ!」と驚くのが先だと思うね、例えば、「ライフ・オブ・パイ」でトラのリチャード・パーカーがパイの前に突然現れた時のように。だけど、それは厳密に言って3Dで作れる“サプライズ”効果であって、3Dの本質ではない。飛び出て見えるものと、飛び出して驚かせることは違うから。

では3Dの本質って何でしょう?

いろんな角度から説明できるけど、まず基本的に3Dは“立体”という現象だね。二台のカメラがあって、その二台のカメラの光軸が交差する地点を基準にして、前のものは飛び出し(突出)、後ろのものは引っ込みながら(後退)立体感を出す。この交差する点を“コンバージェンスポイント(convergence point)”というんだけど、韓国では“ゼロ視差”ともいう。映画を観る時、スクリーンに映写されることを“ゼロ視差”だと思うといい。これを基準にして“デプス(depth)”と呼ばれる視差量をどのシーンでどんな被写体にどれだけ与えるかを決めて、それを物語の流れに適用させたのが3D映画の演出なんだね。そのような点でアン・リー監督が3Dの本質を理解して、映画を撮影したことを確認できる場面がある。

例えば?

技術的に3Dは、観客の視線が下から上へ向かう時、立体の効果がより生きる。だからカメラのアングルや美術のセッティングにおいて、カメラの上部というか、画面のフレームの上の部分を強調することで立体効果をより出すことができる。

おぉ~

ところが「ライフ・オブ・パイ」は全体的に少し上を見上げるアングルで撮影している。映画の前半でプールの中から水面の上を見上げるシーンやパイの目線でトラを見上げるシーンもそうだ。もちろん、皆が言っている鯨やトビウオの群れ、クラゲが登場するシーンや、パイが海の底を覗く時の動物たちは本当に美しくて、3Dの効果がよく出ていた。だけど、個人的には最初、海に落ちたパイが目の前で沈没する貨物船を眺めていたシーンでのぴったり合うアングルと立体感が本当に最高だった。その時、パイが感じた絶望感がそのまま伝わってきた。

本当にそう!では「ホビット」はどうだった?先週末に「ホビット」も観た!よく分からないが、「ライフ・オブ・パイ」とは雰囲気が違った。

「アバター」以降、ハリウッドで試行された3D映画の中で「ホビット」は、「アバター」が作った3Dの映像文法に比較的忠実に従い、技術面で手を加えた感じであり、「ライフ・オブ・パイ」は従来のものとは異なる文法を使ったと言えるのかな。「ホビット」と「アバター」は美術やカメラワーク、そして3D効果を出そうとするポイントやカットのポイントが非常に似ている。一言で言うとバージョンアップした映画。特に「ホビット」で一番印象深かったのは、俯瞰撮影したシーンだった。

俯瞰撮影?

カメラのレンズを上から下に向くように垂直に立てたと言えば分かりやすいかな。3Dというのは左右の映像の間に垂直方向(Y軸)、水平方向(X軸)、奥行き方向(Z軸)の座標で立体的な空間が現れるだろう。ではカメラを逆さまに立てたら、このZ軸が前後ではなく、上下方向になり、上と下にも立体感を作れる。だからエレボール王国の金鉱を見せる時や小人の遠征隊がゴブリンの洞窟に落ちた時、そして、ビルボがゴラムがいる洞窟に落ちたシーンがものすごく効果的に演出された。

そう!私は「ホビット」をHFR3D上映劇場で観たのだけど、このHFRというものも3D技術の一種なの?

それは違う。HFRとは“High Frame Rate”の略語。普通私たちが観る映画は、24fps(Frames Per Second)で上映されるけど、「ホビット」は48fps。何の話かと言うと、映画は普通1秒に24枚の画像を映写し、これらの残像効果を利用して動く絵、すなわち“モーションピクチャー(motion picture)”を作る。1秒に24枚が基準である理由は、これが人の目に一番自然だから。だけどHFRである48fpsは、1秒に48枚の絵を映写するから、フレームが多くなるだけにそれぞれの画像の切り替えが滑らかになって、動きの早いアクション映画などで効果を得られる。

それで遠征隊がゴブリンと戦うシーンがどこか違って見えたというわけね。だけど人々が「ホビット」に対して「フィルムルック(film-look)」や、「テレビの雰囲気」と言っているが、それはどういう意味?うちのテレビがまだブラウン管のせいか、私は明るい感じが良かった。

このHFRというものは、画面の鮮明度と関連がある。ピクセルの数が多いほど、画面が鮮明になるから。それに24fpsでは同時に撮るといっても、左右の画像のフレームを同時に重ねるのは難しい。だけど、フレームが増えると、二つのイメージを最大限に重ねることができるので、3Dでは画面の明るさや目の疲れにも役に立つ。でも「ホビット」は一部のシーンでHDのテレビ画面やビデオゲームを見ているような感じがする。特に白かったり、黄色いトーンの照明を使った時。これに関しては、いろんな意見があるけど、過度な室内照明と扮装が原因だと思う人もいる。前半のビルボの家のシーンで、彼に当てる照明があまりにも明るかったので、結果的に観客は映画ではなく、ビルボの家、だからセットの中で実際に俳優を見ているような感じを受けるだろう。だけど技術的にはHFRだからといって、映画のような(film-llike)雰囲気を出せないこともない。後半の作業で色調補正をすればいいから。しかし、これがまた難しい問題になる。

なぜ?

色調補正というのは本来スクリーンに映写される画面を基準とするものだろう。3Dは立体だからゼロ視差を仮想の平面において色調補正をする。でも従来の2D方式で色調補正をすると、立体感がおかしくなる。人物が飛び出してくるシーンでゼロ視差に色調補正をして、これを重ねると、人物がその隙間から突き出てしまうかもしれない。だからと言って、飛び出る部分に色調補正をすることもできないし、できる限り3Dでは色調補正をしない方が良いという人もいる。そうすると、カメラで撮った映像のスタイルがそのまま表示される、テレビやビデオの画面を見るのと同じだね。

以前私が「第7鉱区」を観た時、何か少し違和感を感じたのはこの技術がまだ開発される前だったからなの?

半々かな。技術が不十分だった部分もあるけど、技術を活用する能力と意志、あるいは哲学が足りなかったのだろう。まず、「第7鉱区」は3Dで撮影していない。2Dで撮影したものを3Dに変換した映画だ。これを“コンバーティング”と言う。2Dは3次元の物と空間を2次元の平面に記録するものだ。これを3Dに変換することは、2Dに内包された情報を手がかりとして、もう一度立体の情報を作り出すこと。簡単に言えば、CG(Computer Graphics)だ。仮想のイメージをもう一つ作ることだから。もちろんお金もかかるし、それに比べて完成度が落ちるしかないから、観客の満足度も低くなる。このような加工を過度期な方法と考えている人もいるけど、部分的には3D撮影では難しかったり、不可能なものを作ることもできる。例えば、空中撮影は被写体までの撮影距離が遠すぎるので3D撮影が難しいけど、変換だとしたら、これも可能になる。

話を聞いていると、3Dのほうが興味深い!何か途方もない最先端のグラフィック技術というよりは、物理的な領域のよう。では、近い未来韓国でも「ライフ・オブ・パイ」のような映画を制作できるの?

そう、現在韓国で進行中の3Dプロジェクトはキム・ヨンファ監督の「ミスターGO!」があるけど、まだ公開してないから断言はできない。ただし、コンバーティングではなく、3D撮影をした映画だし、専門家が集まってたくさん準備をした映画だと聞いた。だけど「アバター」がそれ以降、ハリウッドに及ぼした影響を考えると、進化はできると思う。それに3D自体は結構昔に発明された技術だ。ただ、定期的に3D映画ブームが浮き沈みを繰り返している。「アバター」以降、再びブームを起こしながら、2010年を“3D元年”と言う人もいる。別の見方をすれば、3D技術はすでに発明されていたけど、ジェームス・キャメロン監督が“真の3D映画”を発明したと言える。ハリウッドでは「アバター」以降、何十作もの3D映画が制作されいるけど、韓国では「第7鉱区」以降、水の泡になったプロジェクトが多い。ひとまず、たくさん制作されてこそ、良い作品も出るだろう。

だけど、3D映画のチケット代は高いでしょう?お金儲けのためにわざと3D映画を作っているのでは?

事実劇場収入を狙って、あえて3D技術が必要ない作品なのに、苦悩や目標意識なしに効果だけを入れてチケットの価格を上げた作品も多かった。だけど、3Dとは技術の一種。技術自体が正しいとか間違っているという判断は難しい。だけど、とりわけ3Dに対しては、より鋭い判断をしなければならないと思う時がある。君が言ったように、どうしてもチケット代が高くなるから、観客の立場でどうして私がお金をもっと払ってこの映画を観なければならないのかということに対する理由を探すのは、正当な欲望なのかもしれないけど。

あなたが高い料金を払って3D映画を観る理由は何?

高い料金だということは相対的な概念だと思う。「ホビット」や「ライフ・オブ・パイ」を観た時、チケット代が高いとは思わなかったよ。ピーター・ジャクソン監督とアン・リー監督が言っていたことだけど、映画を作る人は観客を2時間の間、虜にさせるために映画の期待値を高める努力をしなければならない。少なくとも私は期待値と満足感が重なる地点で、十分に心を奪われてうっとりしていた。「アバター」以降、3Dが「映画の未来なのか」と大げさに話す人たちもいるけど、私が考える3D自体は、ただ映画の現在進行形だと思う。それも根本的な限界と可能性が明確な。これを映画として作るのか、アトラクションとして作るのか、アミューズメントで楽しむのか、映像美学として探求すればいいのかも選択の問題だと思う。根本的な問題と向き合った演出方式で3Dがうまく使われたら、観客である私たちはより新しくて、より面白い、より感動的な経験ができると思う。

知り合ってから何十年も経っているが、こんなに賢く見えたのは初めて!

ああだこうだ偉そうに話しているが、詳しく知らなくても3D映画を観るのには何の問題もない。映画は目で観るのではなく、心で観るものだから。フフフ……ただし、分かって観れば、新しく観える部分もあるし、もっと面白いかもしれないから~そういうわけで映画の前売り券が2枚あるんだけど、もし良かったら一緒に……

うわっ!本当に私にくれるの?ありがとう!最近彼氏が「ライフ・オブ・パイ」が観たいって言っていたから、もう一度観に行こうかなと思っていたの。

そ……そう…だね。まぁ作る人の意図が、必ず観る人にそのまま伝わるわけではないから。だけど、君は本当に、私が君の彼氏に映画を見せたいから、今までこの話をしたと思うのか……

記者 : カン・ミョンソク、キム・ヒジュ、翻訳 : チェ・ユンジョン