「タッチ」ユ・ジュンサン“外泊15日目…今は家族にタッチする時”

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第17回釜山(プサン)国際映画祭(BIFF)で「韓国映画の今日-パノラマ部門」に招待された映画「タッチ」(監督:ミン・ビョンフン、制作:ミン・ビョンフンフィルム)に出演した俳優ユ・ジュンサン(43)はミュージカル「Jack the Ripper(ジャック・ザ・リッパー)」の日本公演を終え、「タッチ」の広報のため急いで釜山へ飛んだ。

元韓国代表の射撃選手だったが、アルコール中毒のせいですべてのものを失い、中学の射撃部でコーチを務めているドンシク役を演じたユ・ジュンサン。「タッチ」は15年来の友人であるミン・ビョンフン監督と意気投合した作品である。だからなのか、釜山で会ったユ・ジュンサンは多少疲れているように見えたが、誰よりも積極的な態度を見せてくれた。

ユ・ジュンサン:日本公演を終え、家にも帰れずすぐに飛んできた。家に帰れない生活が15日間続いているため、子供たちの顔も忘れるくらいだ。昨年に撮影した映画の公開とミュージカルに入るタイミングが同時に重なり、やたらと忙しそうに見えたけど、実際はそれほど忙しくはない。40代半ばなのにこんなに忙しく過ごすことができて、光栄に思っている(笑)


「ユ・ジュンサンを捨てて、ドンシク役そのものになろうと努力した」

―「タッチ」が釜山国際映画祭で初めて公開された。今の気持ちは?

ユ・ジュンサン:観客と初めて出会う時は、いつも緊張し、胸がドキドキする。大きなスクリーンで「タッチ」を観るのは僕も初めてだ。観客との対話を楽しみにしている。客席からの質問がかなり深いと聞いたが、僕は淡々と答えるつもりだ。

―「タッチ」を初めて観た感想は?

ユ・ジュンサン:映画を一回観ただけでは判断しにくいと思うが、全体的な感じはよかった。たくさんの物語が登場するが、結局同じテーマに沿って展開される。観る角度によって人それぞれ違う感想を持つだろうと思う。様々なストーリーが面白い。

―暑い中、撮影が大変だったと聞いたが。

ユ・ジュンサン:大変だったというよりは、楽しく撮影できた気がする。映画の内容のために、つらい気持ちで撮影した時もある。でも現場では本当に楽しかった。ユ・ジュンサンという人をしばらく他のところに置いて、そのままドンシクになった瞬間だった。そう言えるくらいに撮影に熱中していた。撮影現場では活気があった。スタッフたちはみんなこの映画に夢中になっていた。「僕も夢中にならないとついていけないだろう。ユ・ジュンサンのままだとやりきれない」と思い、全てを注ぎ込んだ。

―KBS 2TV「棚ぼたのあなた」では“国民の夫”だったが、「タッチ」では“国民の悪い夫”だ。

ユ・ジュンサン:順番に考えると“国民の悪い夫”が先だ。「タッチ」は昨年に撮影したから。多分観客には「タッチ」の方がもっと面白いと感じるだろう。「棚ぼたのあなた」で見せた面白くて優しい姿は多くの方々が愛してくれた。「タッチ」を観た方には、僕のような夫に対して悩み、周りを見渡してほしい。これが僕の職業の長所だ。多くの方々が僕を見て多くのことを感じてほしい。


「親友ミン・ビョンフン、撮影現場での呼称は絶対“監督”」

―ミン・ビョンフン監督がクライマックスから撮影を始めたと聞いたが。

ユ・ジュンサン:本当に片っ端から撮影した。ミン・ビョンフン監督に対する信頼があった。「タッチ」に対しては以前からたくさんの話を聞いていたので心配しなかったけど、ミン・ビョンフン監督の演出スタイルは気になった。親友だけど、演出しているところを一度も見たことがなかったからだ。いざ撮影に入ると、ミン・ビョンフン監督の演出は素晴らしかった。おそらく僕はその瞬間から熱中していったんだと思う。

―撮影現場ではミン・ビョンフン監督をどのような呼称で呼んでいたのか?

ユ・ジュンサン:撮影現場では徹底して「監督」と呼んだ。その瞬間だけは友達の関係ではなく、俳優と監督の関係だから。多くのスタッフを率いるリーダーだから、それに相応しい待遇をするべきだと思った。撮影が終わってもミン・ビョンフン監督とはプライベートな話はしなかった。

―親友であるほど、お金の貸し借りと同業はするなという言葉があるが。

ユ・ジュンサン:僕もその言葉をたくさん言われた。それで「タッチ」に出演してみて、ミン・ビョンフン監督の演出スタイルがまあまあで、スタッフとの仲も良くなかったら二度と一緒に仕事をしないと思った。建前で「いいね。本当に上手だね」と言っておいて避けようとしたけれど、一度一緒に仕事をしてみると、様々な理由からミン・ビョンフン監督の作品にまた出演したくなった。

―映画の中で妻を演じたキム・ジヨンと顔を合わせるシーンが意外に少ない。

ユ・ジュンサン:ミン・ビョンフン監督はコミュニケーションが取れない家族のことをドンシクとスウォン(キム・ジヨン)を通じて言いたかった。映画自体は救済や希望、奇跡を物語っているものの、その全ての前提はコミュニケーションだと思う。ドンシクの家族はコミュニケーションが全くできない家族だ。映画はドンシクの家族のことだけでなく、私たちが生きているこの社会の問題を描いている。全ての問題はコミュニケーションと関係があると思う。コミュニケーションが取れないから、家族のような親しい関係も歪んでしまうのだ。ミン・ビョンフン監督はこのような社会を表現しようとした。そういえば、今の僕の家族もコミュニケーションができない状態だ。15日間会えなかったから。早く帰って「タッチ」してあげなくちゃ(笑)


「観客に刺激を与えようとしたが“青少年観覧不可”」

―「タッチ」で披露した射撃のフォームが素晴らしかった。

ユ・ジュンサン:僕はノワール世代だ。かつて香港映画を観ながらたくさん練習した(笑) 基本技が身に付いていたから、ある程度自然だったと思う。また最近うちの子供たちがおもちゃの銃を持って遊んでいるので、一緒に遊んであげながら銃を取ってみた。最後には映画のために射撃選手に学んだ。先生も僕のフォームを見て「どこで学んだのか。フォームがプロの選手みたいだ」と褒めてくれた。ただオリンピックをちょっと見ただけなのに(笑)

―「タッチ」では児童性犯罪問題を取り扱っている。二人の子供の父親としてつらかったのではないか。

ユ・ジュンサン:もしこんなことが本当に起きたとしたら、僕は多分正気ではいられないと思う。僕には息子しかいないが、父親という立場から見ると、そのような演技に敏感にならざるを得ない。本当にひどい状況だ。最近言葉では言えない、とんでもないことがあまりにもたくさん起きているけれど、他人事だと思っているのが問題だ。「まさか私にそんなことが?」と思いながら「タッチ」を観たら、そんなに実感できないかも知れないが「十分あり得ることだ」と思いながら観ると、映画の状況はすごくつらく思うだろう。僕も演技をしながらとてもつらかった。

―「タッチ」が青少年観覧不可の判定を受けたが。

ユ・ジュンサン:青少年たちが「タッチ」を観て希望を持ってほしかったのに、残念ながら青少年観覧不可の判定を受けた。子供たちには、映画を観て感じたことを通じて今後の人生を選択できるようになってほしかった。納得できないのは、娯楽映画では許容されることが「タッチ」のようなジャンルの映画では許容されないことだ。そのような壁にぶつかると私たちはつらい。観客に刺激を与えようと思って作った映画なのに、選択の幅が制限されてとても残念だ。

―観客が「タッチ」を観てどんなことを考えてほしいのか。

ユ・ジュンサン:この映画を通じて、奇跡と希望がまだ残っていることに気付いてほしい。ただの遊びで映画を観るのではなく、一日くらいは自身の人生を映しているところを探して、比べてみるのもいいだろう。大げさな言葉のごまかしではなく、映画を通じてシンプルな何かを感じてほしい。

記者 : チョ・ジヨン、写真 : ムン・スジ