「野獣の血」チョンウ、ノワール映画に初出演“大きなプレッシャーを抱えていたが最善を尽くそうと思った”

OSEN |

写真=KidariStudio
韓国映画界の低迷期、厳しい状況に特別な責任感を持って作品に臨み、初のノワール映画「野獣の血」で観客に挨拶した俳優チョンウ。

「野獣の血」は、1993年、もっとも悪い奴だけが生き残る釜山(プサン)郊外にある“グアム”の実力者ヒス(チョンウ)と、そこで生き残るために繰り広げられるヤクザたちの激しい戦いを描いた作品だ。主人公のヒス役を熱演したチョンウは、最近取材陣とオンラインで作品について話を交わした。

K-コンテンツに対する関心がいつにも増して高い今。チョンウは新型コロナウイルスの感染拡大により韓国の映画市場が撮影から上映まで、決して容易ではない状況であることを強調した。「簡単に投資を受けられる監督もあまりいません」とのこと。それにもかかわらず、彼は「厳しいと感じることはなくはないけれど、韓国映画界を応援している方々が必ずいると思います」とし、低迷期の中で公開を控えている心境を淡々と語った。特に、彼はキム・ガプス、チ・スンヒョン、チェ・ムソン、ユン・ジェムンなど共演した俳優やスタッフに言及し、「俳優の方々からエネルギーをもらって演技をしました。おかげで現場で精力的に撮影できました」と強調した。

実際、チョンウの故郷である釜山で作品が撮影された点も、彼にエネルギーを与える要素だった。「釜山で生まれ育った方々ならではの情緒があると思います」という彼は「その情緒を、本能的に感じられる現場だったので楽しく感じました。その相乗効果を感じることができて個人的には良かったです」と、撮影を振り返った。ただし、「作品の時期的な背景が冬でしたし、真夏なのに何重にも服を重ね着して寒さを表現しなければならないのは大変でした」と話した。

出演に出演を決めた過程も運命的だったという。チョンウは「頭と理性で選択したというより、本能的にこのシナリオに惹かれました」とし、「頭ではなく心で選択した作品です」と話した。特に彼は「ノワールというジャンルを一度もしたことがありませんでした。僕が演じたら、このジャンルがどのように表現されるか気になりました。特に、魅力を感じたのは、1人の人物の叙事を描く作品なので、その部分も作品を選択する上ですごく共感できました。俳優として成長できる貴重な経験をする作品になると思いました」と話した。

彼は「キャラクターがおじさんで、妻を失ったような男性の雰囲気が強かったんです。なので、40代のおじさんの雰囲気を少し取り払ってみたらどうかなと思いました。若者の雰囲気が入って、自分だけのキャラクターを描いてみたらどうかと思いました。重くて真剣なだけのノワール作品ではなく、周りの環境、裏切りと陰謀のためますます怪物へと変わっていく人物を描いたらどうだろうと思いました。なので、これまで僕が披露した演技との違いを見せるよりも、観客の方々が違和感なしに自然に観ることができるトーンで演じようと思いました」と説明した。

さらに、「ノワールジャンルというものが、一歩間違ったら全体的な映画の雰囲気からセリフが浮いてしまう可能性があるので、セリフが軽く見えないように心がけました。中盤から感情が溜まって怪物に変わっていきますが、その過程で自分の感情が伝わるようにトーンを維持することに集中しました。なので何度も現場でセリフを繰り返し練習しました」と強調した。

演技をしながらチョンウが最も大切に思ったのは、「僕がヒスを理解すること」だった。チョンウは「僕がヒスを理解してこそ、キャラクターをしっかり理解できると思いました。特に、この作品は一人の人物のストーリーを描く作品なので、本当に自然で肩の力を抜きながらも、どうすればヒスの感情をうまく表現することができるか、すごく悩みました」と話した。

しかし、彼は「制作陣は、お酒とタバコに溺れているヒスを望んでいました。しかし人生に疲れ切っているように見せたくはなかったんです。僕はヒスがどんな理由であれ、セクシーで魅力的に見られたいと思っていました。その魅力をどのように見せられるか悩みました。重すぎず、少しユーモアを混ぜれば、感情の幅が感じられるんじゃないかと思って演技に挑みました。衣装を着飾ったり髭剃りなどはほとんどしませんでした」と付け加えた。

1981年生まれで40代に差し掛かったチョンウは、その年齢とは思えない童顔も、今回の作品では弱点となった。彼は「僕が幼少時代から周りに、一見幼そうにも見えて、老けているようにも見えると言われてきました。それが俳優として有利なことだと思っていました。そのキャラクターを演じようとすれば自然とそれ相応の顔になると思います。ヒスとして生活する時は、少しは年を取っているように見えて、荒っぽく見えて、ヒスのことを考えれば考えるほどよく眠れませんでした」と話した。

何よりもチョンウは「監督や制作陣から『毎日、宿舎の部屋で台本ばかり見ないで、風にも当たって、酒はあまり飲めないけれどビールも一杯飲んで、海辺で散歩もしながら気楽にやるように』と言われました。しかし、そうするにはあまりにも多くのプレッシャーを感じてしまったんです」とし、作品に臨む上での、また主演としてのプレッシャーを打ち明けた。

彼は「実は僕たちの映画の予算が、そんなに少ない予算でできる映画ではなかったんです。途中で映画を撮影しながら投資の部分で難航したことがありました。今だから言えますが、その進行過程を僕が全く知らなかったら、僕も楽に故郷の釜山に行って、海辺を見て、刺し身も食べながら楽に撮影したと思います。しかし、そうするには僕があまりにも多くのことを知っていたし、やっとのことで投資を受けて撮影していることを知っていたので、ありがたい一方で僕が感じなければならない責任感が明らかにありました」と話した。

チョンウは「上手にやり遂げようとする思いが熱くなっている状態でした。投資者の方々、制作者の方々に主演俳優として最善を尽くす姿を見せたいと思いました。上手にできるかどうかはともかく、作品に臨む姿勢や過程においては本当に最善を尽くして努力する姿勢を見せるのが、その方々に対する礼儀だと思いました」と強調した。

また、彼は「ヒスというキャラクターは、見れば見るほどデリケートでリアルな人間性を感じました。僕はこの作品が初めての作品ではなかったので、演技をしていればそれに慣れていきます。慣れている中で安定した演技を披露するのも重要だと思いますがど、どうすればリアルな演技を見せられるかに集中しました。僕は役柄に集中しようとしました。そのせいで気楽に毎日を過ごすことができませんでした」と話した。

「作品によって性格が変わります」という彼は、「その後に撮影した『このエリアのクレイジーX』『メンタルコーチ チェガル・ギル』は、楽しく愉快に撮影しています。作品の性格によって作品に接する姿勢が変わるようです。しかし、ヒスというキャラクターと『野獣の血』という映画は、僕が現場で愉快にふざけながら取り組むことができる作品ではありませんでした。手に血をつけて刃物を持っていて港の周辺で撮影をしましたが、その周辺がすべて鉄の塊でした。そのような空間では、軽く笑って冗談を言いながら撮影することができませんでした」と話した。

さらに、「湧き上がる欲望、怪物に変わっていく過程を、目で表現をするので、目が重要でした。最初から最後まで、ヒスの目に澄んだ眼差しはありません。体調が良い日は特に不安でした。澄んだ目で演技をしてしまうと、他のシーンとの繋がりがスムーズにいかないのではないかという不安がありました。頬はいつもげっそりしていました。気楽に前日にラーメンも食べられませんでした。食欲もなく、好きな食べ物も気楽に食べられなかったけれど、翌日に痩せている自分の顔をモニターで見たら安心できました。荒々しい僕の顔、充血した僕の瞳を見ると安心しました。血色の良い顔を見ると悔しかったです。そこから来るストレスもありました」と話した。

韓国映画界そのものが低迷しているが、「結果がどうであれ、努力をして良くないのと、努力をしなくて良くないのとは明らかな違いがあります」と語り、どんな状況でも頑張る努力の大切さを語った。

記者 : ヨン・フィソン