パラサイト、Netflix、BTS…コロナ禍にも盛り上がり続けた韓流・K-POP ― 古家正亨 2020年総決算 Vol.1

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新しい年が始まって、すっかり時間も経ってしまいましたが2021年、いかがお過ごしでしょうか? 第10回Gaon Chartミュージックアワード、第35回ゴールデンディスクアワードという韓国のその年を代表する音楽賞の授賞式も今月開催され、韓国のエンターテインメント、特にK-POPにおいては、2020年の総決算をようやく終えた感じでしょうか。

ということで、今回は、古家なりの“日本における”2020年の韓流・K-POP総決算と迎えた2021年を占っていきたいと思います。


#2020年、日本での韓流・K-POPを振り返る


『パラサイト』が塗り替えた韓国映画の記録

『パラサイト』©2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
まず、2020年の象徴的な出来事といえば、映画『パラサイト 半地下の家族』の米アカデミー賞で作品賞をはじめとする最多4部門での受賞とそれを受けての日本での大ヒットではないでしょうか。

これまでなかなか塗り替えられなかった映画『私の頭の中の消しゴム』(日本公開2005年)が記録した日本における韓国映画の興行収入第一位を大きく上回り、47億円を超える興収を記録。ただ、ちょうど日本公開時が新型コロナウイルスの感染拡大時期と重なったことから、もしコロナがなければさらに興収は上乗せされていたと見ていいでしょう。結局この後、日本では緊急事態宣言が発令され、映画館にとっては(『鬼滅の刃』公開まで)厳しい日々を送ることになったわけですが、そういう意味で日本の映画界においても興行的に『パラサイト』は大きな貢献を果たしたと言っていいでしょうね。これに合わせて、映画に登場する“チャパグリ”も巷で話題となり、2つのインスタントラーメンを買い求めに、奔走された方も少なくないはずです。


Netflixが火をつけた新たな韓流ドラマブーム

「愛の不時着」ポスター
ドラマは『愛の不時着』と『梨泰院クラス』の話題に尽きそうですが、ただ、この2つのドラマは、これまでのヒットドラマと違い、かなり局所的なヒットだったといえます。というのも、2つともNetflixによる独占配信作品だったため、この先、しばらくの間、日本国内では他メディアでの視聴は不可能となります。日本はご存知の通り、エンターテインメントにおいては他の国に比べ、かなり特殊な環境に置かれていて(配信ビジネスも広がりを見せているとはいえ)今も地上波やBS、CSを含むテレビやDVD、ブルーレイディスクなどのディスクメディアをレンタルショップから借りてきたり、購入したりして映像コンテンツを観る人が非常に多い。そのためコロナ禍前は、動画配信メディアの普及は他の国に比べて遅れていました。コロナ禍で登録者が急増したとはいえ、今もそういったメディアに頼りながら韓国のドラマを観ている人が少なくないのです。

「梨泰院クラス」ポスター
ですから、熱狂的な韓国ドラマファンの人であっても、Netflixに加入していない人にとっては、2作品とも未知の世界であって、かなり観ている人とそうでない人との温度差が大きい作品だったと言っていいでしょう。

もしこの2作品が、Netflixから火がつき、他メディアでうまく幅広く展開されていれば、コロナ禍であっても大きな社会現象になった可能性はありますが、残念ながらそうはなりませんでした。でも、Netflixで独占配信されたことで、これまで韓国ドラマを観る機会のなかった人々が、この2作品を機に、韓国ドラマの魅力に触れ、知っていただけたという点では良かったのではないでしょうか。


BTSの1位獲得、NiziUの登場…コロナ禍も盛り上がる音楽市場

写真=Big Hitエンターテインメント「BTS」
音楽に関していえば、2月以降、日本国内でオフラインでのイベントやコンサートの開催ができず、K-POPスターの来日がコロナのため困難になると、CD購入者対象のイベントもオンラインでの開催が主となってしまい、表向き盛り上がりに欠けた1年にも見えますが、実際にはBTS(防弾少年団)がアメリカでアルバムやシングルで1位を獲得するなど大きなニュースになれば、BLACKPINKも欧米で大人気となり、SMエンターテインメントとNAVERが仕掛けたオンラインコンサートのためのプラットフォーム「Beyond Live」が日本でも高い関心を集め、新聞やニュースでもK-POP絡みの話題は常に取り上げられていた、話題にこと欠かない1年でもあったとも言えます。

写真=JYPエンターテインメント「NiziU」
また、K-POPとは言えませんが、JYPエンターテインメントとSONY MUSICがタッグを組んだアイドルオーディション「Nizi Project」がコロナ禍で大人気となり、日本テレビのワイドショーで連日放送されたことも功を奏し、幅広い世代で話題となって、オーディションから誕生したガールズグループ「NiziU」は、デビュー前にも関わらず、国民的な人気を得るに至るなど、面白い展開もありましたね。

写真=Pledisエンターテインメント「SEVENTEEN」
さらに言えば、2020年後半になると、地上波テレビの音楽番組に、BTSをはじめ、SEVENTEENやTOMORROW X TOGETHERといったK-POPグループが頻繁に出演するようになり、ここ数年K-POPアーティストの出演がほとんどなかった日本の音楽番組も、その人気を容認せざるを得ないムードが感じられたのでしょうか。韓国から中継を結んで、コロナ禍においてもその姿が、幅広い世代の人々に観られ、知られた1年でもありました。


#2020年、韓国国内のエンタメを振り返る


新型コロナウイルスの影響を大きく受けた映画業界

『新感染半島 ファイナル・ステージ』グローバル・アートワーク
では、本国韓国ではどうだったでしょうか。

まずは映画界からです。韓国映画振興委員会によると、2020年の韓国国内の観客動員数は5000万人強となり、2004年の公式集計以来、過去最低を記録。昨年が2億人を突破し、過去最高を記録したので、今年の落ち込みがどれだけ大きいかわかると思います。なお、この傾向は今月1月に入っても続いていて、1月第2週の週末(8~10日)の観客数も歴代最低となる8万0741人にとどまり、新型コロナウイルスが深刻化する前の昨年同期177万人余りの5%にも至らなかったということです。もちろん、これはコロナの影響が大きく、社会的距離の確保が2.5となった韓国では家族や友人と劇場を訪れても座席を1席ごと空けて座らなければならず、こういった状況もあって、映画館に足を運ぶこと自体から遠ざかる人が増えたことが、客足の大きな影響を与えています。そのため、日本でも1月1日から公開が始まりヒット中の『新感染半島 ファイナル・ステージ』などの話題作が、思ったよりも興収を上げられず、それを危惧した映画会社、配給会社が、映画館での上映を先送りするなど、上映作品の確保も難しかったことが、映画界全体へのダメージとなってしまいました。知り合いの韓国の映画関係者は「日本は『鬼滅の刃』があって羨ましい」と語っていたほどです。


WEBドラマが主要コンテンツとして浮上

「A-Teen」ポスター
ドラマはここ数年顕著となっていますが、地上波作品よりも、tvNのようなケーブルテレビやJTBCのような総合編成チャンネルで放送される作品の方が話題性の高かった1年でした。そういった中で、かつては低予算、無名の俳優で制作され、学園もの一辺倒だったスマホ視聴向けのWEBドラマが人気を得て、ドラマシーンの主要コンテンツとしてその人気が浮上してきたことは注目すべき点でしょう。日本でもファンミーティングが開催されるほどの人気を得た『A-Teen』のような作品が、これからどんどん出てきそうです。また最近では地上波テレビ局やIPTVとタッグを組んでより本格的な作品を制作するようになってきており、時間も5分から15分程度の作品だったWEBドラマが、30分程度の作品になり、WEBドラマという呼び名からデジタルドラマと言われるようになってきています。


配信チャートで強さ見せたIUとZICO、そしてドラマOST

写真=KOZエンターテインメント「ZICO」
音楽界はアルバムの輸出額が過去最高を記録するなど、音盤(CD)の販売が好調でした。これはセールス上位を独占したBTSのアルバムの売り上げが大きく貢献していますが、同時に、SEVENTEENやNCTといったボーイズグループ、BLACKPINKやTWICE、IZ*ONEといったガールズグループのCDセールスも好調だったことが挙げられます。

一方デジタルチャートでは、今年はIUとZICOが圧倒的な強さを見せ、特にZICOの「Anysong」がTikTokを通じて社会現象になるなど、楽曲そのものがカルチャーとして一人歩きしたことがヒットの要因になりました。また、チョ・ジョンソクの「アロハ」(『賢い医師生活』)、Gahoの「Start」(『梨泰院クラス』)など、ドラマOSTからのヒットも数多く、さらにOSTで言えばB1A4のサンドゥルが歌ったWEB漫画『趣向狙撃の彼女』のOST収録曲「酒気を借りて」が7月発売以降超ロングラン大ヒットとなり、2021年もドラマだけでなく、WEB漫画のOSTがデジタルチャートのヒットを席巻する可能性が高まっています。


後半では、古家個人の2020年のベストをご紹介。さらに、2021年の韓流・K-POPシーンに期待することもお伝えしていきたいと思います。

古家正亨×Kstyleコラム Vol.7

古家正亨(ふるやまさゆき)

ラジオDJ・テレビVJ・MC
上智大学大学院文学研究科新聞学専攻博士前期課程修了
2000年から韓国音楽を中心に、韓国の大衆文化をあらゆるメディアを通じて紹介。昨年までは年平均200回以上の韓流、K-POP関連のイベント等のMCとしても活躍。

現在もNHK R1「古家正亨のPOP☆A」(水曜21:05~)、NORTH WAVE「Colors Of Korea」(土曜11:00~)、CROSSFM「深発見!KOREA」(土曜18:30~)、Mnet「MタメBANG!~ただいま打ち合わせ中」(毎月第1、3、5木曜23:30~他)を通じて日本から韓流、K–POP関連の情報を伝えている。

最近では、YouTubeチャンネル「ふるやのへや」を立ち上げ、妻でアーティストのMina Furuya(ホミン)と共に料理やカルチャーなどの情報を発信中。

Twitter:@furuyamasayuki0

記者 : Kstyle編集部