Vol.2 ― “TWICE「TT」も手がけた作曲家”ブラック・アイド・ピルスン、デビュー当時のメンバーの印象は?

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TWICEが初めて日本の紅白歌合戦出場を決めた代表曲、「TT」を手がけた韓国の作曲家ブラック・アイド・ピルスンは、ラドとチェ・キュソンの二人による男性作曲家ユニットだ。大きな転機は2015年のTWICEとの出会いで、「それまでもヒット曲はあったが、TWICEのおかげで自分たちをより認知していただけた」という。

TWICEとの出会いを通じ、一気にヒットメーカーとして知られていく。「Like OOH-AHH」「Cheer up」「TT」「LIKEY」。そして韓国での最新曲「FANCY」。今回は2人のうち、ラド氏に話を聴いた。デビュー当初のメンバーの話から、作曲秘話、今後の活動についても、たっぷりと語ってくれたインタビュー後編をお届けする。

【インタビュー&プレゼント】“TWICEの作曲家”ブラック・アイド・ピルスン、韓国最新曲「FANCY」の狙いは?現代韓国人女性の恋愛観を表現

デビュー曲時は「最初のレクチャーに2~3時間かけた」

――事務所(JYPエンターテインメント)との出会いから、自然な流れでTWICEと一緒に仕事をすることになったお二人ですが、TWICEの最初の楽曲「Like OOH-AHH」は、楽曲のコンセプトをどういうふうに作っていったのでしょうか。

ラド:ジニョンさん(所属事務所パク・ジニョンJYP代表)からは当初、「TWICEのコンセプトは、いろんなジャンルが混ざっているものにしたい」というリクエストがありました。ちょうどその時、私たちが作り貯めていたインストがあったんですよ。急にプレゼンテーションをすることもあるだろうと。その時聴いてもらったリズムは、我ながらに「お、これはいいんじゃないか」と感じさせるものでした。事務所側も気に入ってくださり。そうやって、実際の作詞作曲へとつながっていったのが「Like OOH-AHH」です。

――当時のTWICE、まだまだ幼かったのでは?

ラド:はい、若々しかったですね。初対面の時をよく覚えていますよ。最初に、彼女たちにレクチャーをしにいったときのことです。「楽曲のなかでのパート分担を決めていこうかな」と、約束の場所に行ったんです。パッと見て、驚いた記憶があります。化粧もしていない9人がめちゃくちゃかわいいんですよ! ソファーか何かに座っていて。それが第一印象です。

――レクチャーはどんな感じで進行していったのでしょうか?

ラド:レクチャーは少しだけ大変でしたね。なにせ、私たち自身も9人という人数をパート分けするのは初めてだったので、そこはちょっと難しい作業でしたね。それまで、私たちが手がけたのは多くてもApink の6人でした。SISTARは4人だったので、パートを分けることはそれほど難しくない作業だったんです。なので、メンバーが9人いるTWICEの最初のレクチャーは2~3時間かかった記憶があります。一人ひとりを呼んで、話をして、そうやってパートを分けていきました。

――各メンバーの歌声がどういったものなのか、そういったことを確認しながら?

ラド:そうですね。実際に会うまで、実は把握ができていない部分もあって。なので一人ひとり確認をしながら進めました。



――韓国人メンバー以外も、4人所属していますしね。

ラド:そうです。なので4人には、歌詞の内容をしっかり伝えるところから始まりました。しかしですね、この4人、つまりサナ・モモ・ミナ・ツウィは韓国語が本当に上手で、想像したほどの難しさはなかったんです。事務所で本当にしっかりレッスンを受けてきたんだなという印象でした。ただ、日本の3人は一番最初はパッチム(KやLなどの子音で終わる音。日本語にはない発音)が難しそうな印象でした。今は克服していますが、当時はね。

――TWICEでのボーカルといえば、ナヨンの歌声が印象的です。リードボーカルの役割は最初から決まっていたのですか?

ラド:いいえ。私たちが任せました。もちろん、ナヨンのボーカル面での良さは知っていましたが、実際に聞いてみるとアイドルとして最適化されていると感じました。メイン部分はナヨン、ジヒョ、ジョンヨンの3人に任せてみようと思いました。サナ・モモは中間のキーリングパートで歌ってもらうのがよいだろうと。だから後の「CHEER UP」で話題にしていただいた“シャシャシャ”の部分を歌っていますよね。たしかに2人はパートは長くはないですが、本当に大事な核心の部分で出てきてもらっています。そしてラップはダヒョン、チェヨン、中間でのリードはミナ、ツウィに任せようと。

――その後、「CHEER UP」を経て、「TT」を手がけます。日本の紅白歌合戦にも出場。この曲の認知度はスゴイです。日本でも「「TT」を作った人に会う」と話をすると、周囲の人はちょっと尊敬の眼差しで見てくれます!

ラド:本当にありがたいことです。「TT」は、かなり時間をかけてつくった曲です。サビのメロディーだけでも6回作り変えました。もともとは「이미 난 다 컸다고 생각하는데(私、もう大人になったと思ってるんだけど)」という歌詞でもメロディーでもなかったですし。いくつかのバージョンがありました。その中から採用されたものです。




作曲スタイルは「タイトル最優先」

――前編でも少しお聞きしましたが、ブラック・アイド・ピルスンの作曲スタイルについてより詳しくお聞きしたいです。まずは楽曲の組み立て方です。例えば、文章で長いノンフィクションを書く時、取材で得た結論をまず考えるものです。そこから逆に前半部分を考え、説得力を持たせようとする。一番言いたいこと=結論が先にある。作曲する際にはどう組み立てるのですか。

ラド:確かに、文章を書く場合には結論が最初にあるのかもしれません。似た考え方なのですが、僕はタイトルからまず考えますね。「FANCY」なら「ファンシーとは何か」というテーマを突き詰めていく。メロディや歌詞、ビートは何かと考えるんです。常にタイトルが優先順位の第一位です。するとそれに沿ったメロディや歌詞が出てくる。少しそれがそろったところで、あらすじを立てる。そうやって作っていきます。ちなみにタイトルは、依頼主である事務所からもらうのではなく、自分たちから提案します。

――作曲家のなかには、タイトルを最後に付ける人もいるでしょう? 例えば、すべて作った後に事務所側と共に、チャートで結果が出そうなものを探るという。

ラド:確かに、そういう方法もあると思いますよ。でも自分たちはそのスタイルは採りません。「TT」のように、なにかインパクトのあるものを作ろうとしたら、まずはタイトルを定めて、メロディを書き始めますから。何もない状態から、書くのは難しいですよ。楽曲の場合、結論でもあるタイトルが定められていたほうが、自分たちはやりすいです。例えば、タイトルを「フランス」とつけたなら、「フランス~ 私は大好き」と書けますが、それがないと、日本が入ったり、韓国が入ったりする。道なき道を行くようなものです。車を運転する時だって、カーナビで「東京」と住所を打てば、早く目的地に行けるでしょう。でも目的地を打たないと、どう進めばいいか分かりません。まあスタイルの違い、というところではありますけどね。


男性ながらに「女性心理」を描く。その”取材方法”とは?

――以前からお聞きしたかったことをもうひとつ。男性ながらにTWICEなどの楽曲で女性心理を描くことはどんな気分なのでしょう? 難しくはないですか?

ラド:いえいえ。むしろ男性だから良い部分もありますよ。なぜなら、男性というものはいつも女性の話になるものなんです。“普段からの何気ない会話を、歌にしている”そういう面もありますよ。周囲のスタッフや友人から「あーあ、彼女に優しくしたつもりなのに、なぜか怒ってるんだよね」という愚痴を聞く。すると「お、これは女性の側から見るとどう見えているんだろう」と分析するんです。

――とはいえ、女性心理を描くために“取材”や“分析”は行っているのでは?

ラド:特に何かをやる、というか、やっぱり普段の会話ですよね。一緒に仕事をしている仲間の恋愛に関するぼやきを聞き、問題の解決法を考えたりしながら。「ちょっと他の女の子とスマホでやりとりしただけで、彼女が嫌がるんですよね~」とか。すると「なんであなたは他の子と連絡するの?」という女性目線が見える。あとは、会社の女性スタッフとの会話ですよ。若いスタッフが多いので、彼女たちとの何気ない話から察する。

――作曲するにあたり、普段から努力されていることは?

ラド:努力があるとすれば、「若いマインドを保とう」という心がけですよね。何かというと、聴いてくれる対象のことを考えるということです。TWICEなら10代後半から20代中盤といったところでしょうか。

――この作曲家ユニットのブラック・アイド・ピルスンが定めた対象が、女性であると。

ラド:僕は 女性が好む音楽を多く書いてきました。なぜなら、これはあくまで体感なんですが男性より女性のほうが一つのことを好きになると、ずっと好きでいてくれるんですよ。男性はあちらこちらと目移りする傾向がありますよね。すると作る側としても当然、女性が多く聴いてくれる音楽を作りたいなと考える。男性であろうが、女性の心理に立って書くというのは必要なことですよね。

――女性心理も、時が経つにつれて変わったなと感じることはありますか?

ラド:韓国でも90代の音楽は「ああ、あなたを愛しています」といった純情な感情を表現していたものですが、最近は「好き」「付き合う?」みたいな簡潔でストレートな表現になっています。「私の心に気づいて」というものよりかは、好きなら堂々と表現する。確実に変わりましたよね。

――ラド氏が、男性心理を描くとしたら?

ラド:自分にとって簡単なのは、自分と同じ30代中盤から後半の男性を対象とした曲を書くことです。書くとしたら「酒、一杯」「ビール」、そういったタイトルにします。でもTWICEにこれは提供できません、大事件です。だから「チョコレートアイスクリーム」や「青い空」といった表現にしています。そう考えると、作った立場からすると、TWICEも2015年に歌った「TT」は少しずつ歌いにくくなってくるんじゃないかと思います。というのも、「好きな人が振り向いてくれない。だから“TT”」って泣くことは難しくなっていくでしょうから。

――時が経つにつれて、アーティストも変化していくということですね。

ラド:年齢を重ねながら、考えも重ねていく。だから今の年齢ではTWICEも、堂々と「FANCY YOU」と伝える。自然な流れですよね。少女時代だって、デビュー当時「Kissing You」では“Kissing You Baby”と歌い、その後「Gee」と歌い、今はそういったかわいいラインの楽曲は歌わないでしょう。

――とはいえ、大衆というのは「あの代表曲、歌ってよ~」と求めるところもありますよね?

ラド:ここから先、TWICEの音楽性は変わっていくのではと見ていますよ。年齢に合う、強いものも出てくるでしょう。少しずつね。


TWICEメンバーの個性、サナは「典型的な大阪スタイル」

――いよいよインタビューも締めくくりの時間となってまいりました。最後に聴いておきたいのは、TWICEの各メンバーのことです。先生からみた彼女たちについてお聞きしたいです。まずサナさんは、どんなメンバーですか?

ラド:サナはエネルギーに溢れていますよね。フルパワーで、彼女がいると、雰囲気がとてもよくなります。大阪の出身だそうで、よく聞く話なのですが、「大阪の人は韓国人に通じるところがある」を思い起こさせてくれる存在です。「オッパー~! アンニョンハセヨ~!」と元気いっぱいに挨拶してくれます。僕とも波長がよく合います。

――ミナさん、モモさんは?

ラド:ミナは女性らしい女性ですね。おしとやかに「アンニョンハセヨ」と挨拶してきます。彼女とは……実は通っているジムが一緒なんですよ! 「ああ! ここにいるんだ!」と盛り上がって。そりゃもう、一生懸命トレーニングしてますよ。モモは典型的な日本女性のイメージです、恥ずかしがり屋で。でもステージに立つと、これが堂々としたもので。そのギャップにいつも驚かされます。カメレオンのようにその場に合わせ、自分を変えていけます。

――韓国のメンバーはどんな感じですか?

ラド:ダヒョンは今回、私たち作曲スタッフに「お疲れ様でした」とハンドローションをプレゼントしてくれました。手紙が添えられていて、感動しました。周囲のスタッフへの配慮も忘れないメンバーです。ナヨンは社交性に飛んだ性格ですよね。周囲に声をかけていくのが上手い。メンバー皆がそうなんですが、彼女は本当にTWICEというグループへの関心、自分たちへの関心が高く、音楽的な話も多く交わすメンバーです。ジョンヒョンは 口数が少ないようでいて、実はよくおふざけをするメンバーです。ジヒョはシックな女性ですよね。まさにTWICEのリーダーというところです。チェヨンはまだまだ子ども、といった面もあるんですが、彼女もまたTWICEへの関心が高いです。今回のFANCYでもポイントとなるところでたくさん歌っていますよね。楽曲への関心が高かったんですよ。

――そして最後に台湾のメンバー、ツウィさんは?

ラド:ツウィは本当に……美しい。ただそこに座っているだけでも、ああ美しいな、と。もちろん全員がかわいいんですが。韓国語も上手ですし、考えが深く、言葉も慎重に選んで話す。大人っぽいですね。

――ラドさん、ご自身の今後の活動はいかがでしょう?

ラド:「ハイアップエンターテイメント」という自分たちの会社を2017年6月に設立し、今年で2年になります。これまでは外部のグループを中心に作業をしていたのですが、ここからは自分たちの会社のグループも手がけていきたいと思っています。2月に、最初のボーカルグループ「415(サイロ)」という男性の2人グループがデビューしました。

――どのような男性グループなのでしょうか?

ラド:ビジュアルがよく、作詞・作曲を私たちが手がけたアーティスト志向のグループです。先々、日本でのプロモーション活動も考えています。やはり、彼らをプロデュースするにあたっても「女性に好んでいただける音楽はどういったものだろう」と考えて作っています。甘く切ない音楽をやっていくチームです。まだまだ始まったばかりですが、多くの関心をお願い致します!

――女性グループのデビュー予定は?

ラド:来年にはブラック・アイド・ピルスンがつくったガールズグループがデビューする予定です。画期的で世界を目指せるチームにしていきたいなと、野心をもって準備していっています。K-POPの新しい音楽を見せていくつもりです。新鮮な目で見ていただきたいです。楽曲は当然、私たちが作っていますから、すごくいいです!

――最後に日本のK-POPファンへのメッセージをお願いします。

ラド:K-POPを愛してくださり、感謝しています。K-POPをプロデュースする立場として、常にハイクオリティのものを作らねばならないという意識を持っています。一方で、いまや時代は「K-POP」「J-POP」という括りではなく、アメリカのビルボードを目指す時代になりましたよね。グローバルに聴いていただけるものを考えていくべき、という使命感を持っています。いい意味での競争相手として、切磋琢磨していけたらいいですよね。我々も世界で聴いてもらえる音楽を作れるよう、取り組んでいきます。

取材:吉崎エイジーニョ

記者 : Kstyle編集部