Vol.1 ― “TWICEの作曲家”ブラック・アイド・ピルスン、韓国最新曲「FANCY」の狙いは?現代韓国人女性の恋愛観を表現
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TWICEが初めて日本の紅白歌合戦出場を決めた代表曲、「TT」を手がけた韓国の作曲家ブラック・アイド・ピルスンは、ラドとチェ・キュソンの二人による男性作曲家ユニットだ。キャリアの大きな転機は2015年のTWICEとの出会いだった。「それまでもヒット曲はあったが、TWICEのおかげで自分たちをより認知していただけた」と語る。
「Like OOH-AHH」「Cheer up」「TT」「LIKEY」と数々のヒット曲を輩出し、今年4月にはデビュー直後の楽曲から少しイメージを変えた「FANCY」をリリース。これまで何を思い、楽曲を手がけてきたのか。今回は2人のうち、ラド氏に話を聴いたインタビュー前編をお届けする。
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「新しいグループをつくろうとしている」。それがTWICEだった。
――まずは作曲家としてのキャリア、バックグランドからお教えください。ラド:スタートは、まず自分が歌手だったということですね。「Someday」というグループで、韓国でもリメイクされた「花より男子」の主題歌を歌ったこともあります。「分かってるの?」という歌です。ただグループは決して上手くは行きませんでした。苦境にもがいていくなかで、「有名な作曲家は、自分たちのような売れていないグループには曲を提供してくれないだろう」と考えました。当然のことですよね。だから「自分たちの曲は自分たちで書かないと」と思い、書き始めたんですよ。
――何歳の時の話ですか?
ラド:24歳……だったと思いますよ。
――24歳! 音楽は早く始めないといけない、という固定観念を変えてくれますね。必要に迫られ、はじめたという。
ラド:やっぱりヒット曲というのは、名前のある作曲家から出る傾向にあるものです。とはいえ、僕は昔も今も楽器を弾けないし、楽譜も読めません。PCを通じて作曲をしています。
――子供の頃はどんな音楽を?
ラド:黒人音楽に親しんできました。スティーヴィー・ワンダーや、マーヴィン・ゲイなどです。同時に、H.O.T.、神話(SHINHWA)、godなどのアイドルもよく聴いたんですよ。子供の頃は黒人音楽と、韓国アイドルの音楽を聴いていました。今思えば、それが原動力になり、今ダンス音楽をやっているような気もします。
――日本の音楽も少し聴いていたとか。
ラド:はい。CHEMISTRYをよく聴いてきましたよね。R&Bです。倖田來未さんや清水翔太さんもよく聴きました。
――その後、作曲家として本格的に活動を初め、09年に現在のユニットを結成。TWICEと出会うのは、作曲をはじめて何年目の話だったのでしょうか?
ラド:今、7年目になるので、出会ったのは5年前、私が31歳の時です。事務所(JYPエンターテインメント)との出会いは、TWICEの先輩グループ、miss Aからでした。2015年に彼女たちの最後のアルバムのタイトル曲「他の男じゃなくてあなた」という曲を手がけたのですが、それがうまくいき、続けて同じ事務所の男性グループGOT7の「君がすれば」という曲を書いて。その頃、事務所側から「新しいガールズグループをつくろうとしている」という話を聞きました。
――それがTWICEだったんですね。
ラド:はい。自然な流れで一緒に仕事をすることになったんです。TWICE以前にも、いくつかのアーティストに提供したヒット曲はあったんですよ。SISTARの「Touch My Body」
(2014年)は多くの方に知っていただく機会になりましたし。でも、1アーティストにがっつりと楽曲を提供し続けるというのは、TWICEが初めてでした。“ブラック・アイド・ピルスン=TWICEに楽曲提供”そんなイメージが出来上がっていきました。
「FANCY」で変化した部分、そのままの部分
――さて今年4月の楽曲「FANCY」についてですが、どういった経緯で作曲を?ラド:久々にTWICEと一緒に仕事をしました。「LIKEY」から一年半ぶりくらいでしょうか? 「FANCY」をやるにあたり、事務所側からいただいたリクエストは「カラーを少し変えたい。ここまではかわいいコンセプトばかりだった。これを変えられるのはピルスンしかいない」というものでした。
――変化をつけるのは大変な作業だったのでは?
ラド:私たちがこれまでTWICEに提供してきた楽曲が非常にいい反応をいただいていたので、今までのものを捨てきることはできないなとも感じていました。つまりは、全く違う音楽を作ることは非常に難しい作業で、不可能でした。そこで考えたのが、TWICEのカラーは残したうえで、少しだけ……うーん、例えるならここまでは高校生から大学1年、2年生の音楽だとしたら、今は大学4年生くらいの……ちょっと成熟したイメージを作ろうと。少し違うイメージですね。
――なぜ、変化の必要性があったと思いますか?
ラド:TWICEは、すでに10枚近いアルバムを出しました。多くが「Like OOH-AHH」「CHEER UP」「TT」の延長線上のようなイメージでしたよね。事務所側としても、そのままでいくと、一般層が飽きる心配があると考えたのかなと思います。だからこそ今回のアルバムからは少しカラーを変えようしたのではないでしょうか。
ラド:確かに。ファンではない一般の層というのはそれほど注意を払ってくれているものではありません。でも怖いのは、その層に同じスタイルの曲を繰り返して作って聞かせると、「注意深く気は払っていないにもかかわらず、飽きた」という現象が起きるのです。これが恐ろしい。で、重要なことは“そう感じさせた時にはもう遅い”ということです。「お、この子達、ずっと同じことやってるな」と感じさせた瞬間には、もう遅いんですよ。だからこそ制作者側は、ワンテンポ早く、一般大衆の広い層に対して新しいものを提供しないといけないのです。退屈されないように。
――ちなみに「FANCY」では、メンバーごとのパート分担をどう考えたのですか?
ラド:今回は特に強い考えはありませんでしたね。もう5年のキャリアのあるメンバーたちなので、誰か一人のメンバーに重点的にパートを与えようという考えはありませんでしたね。最初の頃は若くて、こちらが決めていくこともできた。でも今は成長したアーティストですから。
――レコーディングでメンバーたちが難しそうにしていた点は?
ラド:全体的な音域が高かったことでしょうか。私たちが作る曲の全般的な傾向でもあるんですが、サビではいずれにせよ弾ける感じが必要なので、高い音が必要になる。今回の「FANCY」では、ジヒョとナヨンがパートが多かったこともあって、少し大変そうな様子でした。
「FANCY」の歌詞で表現したかった、現代韓国人女性の恋愛観
ラド:これまでTWICEの楽曲の歌詞は「彼の方から近づいてきてほしい」という内容が多かったのですが、「FANCY」の表現はストレートになっています。「こちらから相手を望む」という、度胸のある女性。歌詞の中に「넌 장미 같아(あなたは薔薇みたい)」というフレーズがありますが、これは以前のTWICEには出てこない強いものです。サビ部分でも「아무나 원하지 않아(あなた以外は何も望まない)」と言う。以前はそういう彼女たちではなかったのですが。
――たしかにかなり強い。全体的な雰囲気として、強く「私を見なきゃだめ」とすら言っているようにも見えます。
ラド:最近の韓国の女性の考え方にあるものなんですよ。「누가 먼저 좋아하면 어때(どちらかが先に好きって言うのはどう?)」という歌詞もあります。女性も堂々と男性と会えるし、堂々とアピールできる。そういった部分を曲を通じて代弁したいと。
――いっぽうで楽曲のなかでは、サビの前の「달콤한 초콜릿 아이스크림처럼(甘い チョコレートアイスクリームみたいに溶けちゃう)」というフレーズが印象的です。QUEENの「ボヘミアン・ラプソディ」ばりに、まるで違う曲が挿入されたよう、というか。
ラド:サナが歌うパートです。ここがサビと同じくらいのインパクトがあるんです。前後はシックでセクシーなのに、急にかわいらしい女の子になります。この部分こそが、TWICEの既存のイメージを残した部分です。これまでの彼女たちらしさを感じていただけるのではないでしょうか。
――楽曲は、どのような順番で作られていったのですか?
ラド:僕らが音楽を作る時、つねに「映画のように作りたい」とも考えるんですよ。ストーリーがあるものをつくりたい。映画だってそうでしょ? 細かい話がいくつか繋がっているものです。アクションばかりが続かない。愛があって、悲しみがある。楽曲もそうあるべきだと思っているんですよ。愛情があって、あるフレーズではぐっと上手くいき、そして落ちるときもある。ジェットコースターみたいにね。それがダイナミックじゃなきゃいけないと思っています。
――「FANCY」では、強くあろうとしながらも、少し揺れる女の子の気持ちも表現されていますよね。それにしても突然「달콤한 초콜릿 아이스크림처럼 녹아 버리는 (甘い チョコレートアイスクリームみたいに溶けちゃう)」とは!
ラド:その歌詞は、彼女たちの気分を表現したんですよ。チョコレートアイスクリームは甘い。あなたを思う私の気分もそうだと。「딸기 맛(イチゴ味)」ということもできたんでしょうが、何か合わない感じがしますよね。やっぱりチョコレートじゃないかと。
――女性心理を本当に音楽でしっかりと描けば、女性にとっての共感を得られ、さらに男性も関心を持つ。そういったところがあるでしょう。「ああ、そういうものなんだ」と気づかせてくれるというか。コアなファンに的を絞って書いているのだが、結果、幅広い層に支持されるという。
ラド:そうです! TWICEで我々が手がけた他の楽曲「CHEER UP」では「여자가 쉽게 맘을 주면 안돼(女の子が簡単に心をあげちゃダメ)」というフレーズがあります。これは男性が見ても「ああ、女性はそう考えているんだ」と思うんじゃないんでしょうか。「ああ、簡単にあげない、という心理はあるんだな」と。歌詞の力、というのは本当に重要ですよね。
――いっぽう、「FANCY」のサビ部分では「FANCY YOU」というフレーズが繰り返され、印象的です。
ラド:イギリス英語で「あなたが好きだ」というストレートな表現なんですよ。若い人たちの間で、すごく一般的な。「I FANCY YOU」といえば、「あなたがすごく好き」。「I LOVE YOU」と同じです。
――強い表現です。そうでありながら以前のフックソングよりは、少し静かなリズムでもあります。
ラド:そこのところは、「そういう流れが良い」と感じました。作り手としての直感ですよね。その前の「チョコレートアイスクリーム」のフレーズが以前のTWICEだとしたら、ここは新しいTWICEということでもあります。「TT」のサビ“I'm like TT”や「CHEER UP」の“Cheer Up Baby”のような大きく弾ける方向に行くこともできたのですが、そうはしませんでした。
音楽番組でのランキング等に関係なく、こういう変化は決して悪いものではないと思います。変化をしてこそ、彼女たちの未来がより見えてくると思うんです。新しいことをやってこそ「ああ、こういう方向にも行くことができるんだな」という点を見せられる、という。
――では今回、「FANCY」というタイトルはどこから出てきたのですか?
ラド:日々、あれこれとアンテナを張って情報を取っていく中で見つけました。この「FANCY」という単語を聞いた時、決して軽くはないイメージを感じ取ったのです。それでいて、10代や20代をパッと思い浮かべることができました。“I LOVE YOU”というより“FANCY”と言ったほうが今っぽいというか。ヒップホップっぽくて。韓国では「ヒップっぽい」というイメージは流行ですから。
――まあ、30代から40代の日本のおじさんが聞いたら、「FANCY」とは「かわいい」という意味が思い浮かびますよね。「ファンシーな文房具」というような。
ラド:そうですよね。韓国の30代の私も、最初はそういう意味だと捉えていました。時代が巡ると、単語の意味も変わってくるんだな、と感じたものです。ファッションだって巡るでしょう。マイケル・ジョーダンのバスケットシューズが再び流行し、ある時にはブーツカットのジーンズが流行ったりして。単語も同じことですよね。最近は「ファンシーだね」というと「カッコいい」というニュアンスもあるんです。
――ああ、謎が解けました。タイトルは「FANCY」なのに、なぜ楽曲はセクシーなイメージなのか、と。
ラド:ちょっと上の人たちは、「かわいい」と捉えるでしょうね。でも若い層には「ファンシー」=「かっこいい」世代のギャップですよ!
取材:吉崎エイジーニョ
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記者 : Kstyle編集部