女優イ・ジュヨン、ハンバーガーの配達員から大御所のミューズになるまで

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落ち着いた眼差しと低い声が不思議な魅力を醸し出す。第21回釜山国際映画祭(BIFF)のオープニング作品「春の夢」(監督:チャン・リュル、制作:リュルフィルム)のイ・ジュヨンは今年の釜山で最も有意義な発見だ。

「春の夢」は独特なオーラを放つ3人の男イクチュン、ジョンボム、ジョンビンと、彼らのミューズ イェリが夢見る、彼らが生きる世界を描いた映画だ。映画監督パク・ジョンボム、ヤン・イクチュン、ユン・ジョンビンと女優ハン・イェリ、イ・ジュヨンが出演した。映画は、水色(スセク)駅近くで全身麻痺を患った父の世話をしながら小さな居酒屋を営むイェリと、彼女の心を捉えようとする3人の青年イクチュン、ジョンボム、ジョンビンとジュヨンの物語を切なく淡々と描いた。

チャン・リュル監督の目線はいつも境界に立った人々に向けられている。彼は今回も彼らに対する愛情を夢、映画、現実という3つの層の上で展開する。海外在住の韓国人、脱北者、同性愛、大林(テリム)洞、水色駅、白頭山などのキーワードが白黒のスクリーン上に淡々と描かれた。イ・ジュヨンが演じたジュヨンも同じだ。イェリに対する叶わない恋心を抱いたジュヨンは、イ・ジュヨン特有の不思議で絶妙な魅力が加わり、観客の目を引く。イェリの乳房を後ろから掴む時の震え、「詩です、お姉さんが」という積極性がイェリと観客の心を揺さぶる。余韻が深い。

2年前は観客として、昨年は役者として、今年はオープニング作品の主人公として釜山を訪れた彼女は、つい最近までバイクでハンバーガーを配達し、撮影現場を行き来していた生活力の強い役者だった。あえてイメージや計画、目標を決めず、瞬間瞬間を楽しみながら着実にフィルモグラフィーを築いていきたいと話す姿は、映画「春の夢」の中の“体も心も元気な”ジュヨンに似ている。

―チャン・リュル監督は現場でどんなタイプなのか。

イ・ジュヨン:ディレクションをたくさんするタイプではない。役者にあれこれ求めるのではなく、余地を残してくださる。監督との作業で一番良かったのは、現場に行くと思わず監督のキョル(きめ、雰囲気)について行けることだった。私だけなく、すべての人が自然に監督だけの雰囲気に溶け込む。ああ、本当に素晴らしいマスターなんだなと思った。

―チャン・リュルだけのキョルとはどんなものか。

イ・ジュヨン:最初はシナリオを読んでも明確な絵が浮かばなかった。しかし、撮影2日目になると、監督の頭の中にあった「春の夢」という絵が確かに浮かんできた。監督は、役者を自分の頭の中にある絵に溶け込ませる能力がすごい。数人のカメオが登場するが、誰一人として悪目立ちせず、雰囲気にうまく溶け込んだ。現場の雰囲気、水色という空間が与えてくれるイメージが監督によく似合うと思う。特に故郷居酒屋のセットがそうだった。いつもそこで出勤・退勤したけれど、仕事をしに行くという感じがしないほど気が楽だった。

―ジュヨンは登場人物のうち、一番奥深いキャラクターだ。

イ・ジュヨン:映画のジュヨンの目標、ジュヨンの感情はとても明確にしている。難しかったのはジュヨンの感情ではなかった。ジュヨンは10~15分に一度、突然登場し、雰囲気を換気する。それをどうやって周りの空気に自然に溶け込ませるかがカギだった。実はシナリオにはジュヨンに対する以前のストーリーがあった。

―どんな内容だったか。

イ・ジュヨン:ジュヨンの親が水色で長い間クリーニング屋さんを営んできたという設定だった。ジュヨンは外で遊びたいけど、親の仕事を手伝わなければならないから、無味乾燥な表情で座っている。そこにイェリが洗濯物を持って入る。するとジュヨンが突然立ち上がってイェリを手伝う可愛いシーンがあった。また、映画の中ではよく見ないと見えないことだけど、ジュヨンはいつも左の手首にブレスレットをしている。自殺を試みた痕跡を隠すという設定だ。

写真=映画「春の夢」スチールカット
―ジュヨンはイェリの3人の男(ジョンボム、イクチュン、ジョンビン)よりも堅固な人物として描かれる。なのにどうして自殺を試みたと思うか。

イ・ジュヨン:一見堅固に見えることはある。イェリの理想のタイプが「体も、精神も健康な人」じゃないか。でもジュヨンも中身はとても脆い子だ。イェリへの叶わない恋に対する心の傷もあるだろうし。

―イェリに向けたジュヨンの恋心、だから同性愛を表現するのは容易ではなかったはずだ。特にジュヨンがイェリの乳房を手で掴むシーンは、映画全体を考えても非常に直接的なシーンだった。

イ・ジュヨン:イェリを愛している。私もイェリに愛されたい。一見明確な感情かもしれないが、演じる立場としては難しかった。イェリに感情を積極的に表現するそのシーンでも私の感情のテンポはとても遅かった。「ごめんね」というイェリの拒絶を聞いても、簡単に立ち上がることができなかった。しかし監督は早いテンポを求めた。実は元々はイェリが「ごめん、私は女性を愛することができないの」と言うと、ジュヨンが「人間は変われるんです」と答える予定だった。そのセリフがイェリが「ごめんね」と言ってジュヨンが慌ててその場から去る設定に短くなったのだ。

―ジュヨンはイェリのために詩を書く。中でもイェリに白頭山の天池を見せたいという内容の詩は胸を打った。自分で書いたのか。

イ・ジュヨン:監督に自分で詩を書いてみなさいと言われて、たくさん悩みながら書いたけど、詩は本当に難しかった。本当に誰もが詩人になれるわけではないと思った。自分でも自分が書いた詩が足りないと思ったので映画では使わなかった。

―ところで、ハン・イェリに似ている。

イ・ジュヨン:最近よくそんなことを言われる。雰囲気や声が似ているそうだ。現場ではまったく感じなかったけど(笑)

―現場には監督が4人いた。

イ・ジュヨン:ハハハ。現場では3人の監督(ユン・ジョンビン、ヤン・イクチュン、パク・ジョンボム)は全員役者だった。監督たちは役者として活動しているハン・イェリとイ・ジュヨンに迷惑をかけないように気遣ってくれた。面白いのは、ユン・ジョンビン監督が映画で着ている服が私服だということだ。みんな情熱がすごかった。

―3人の監督から次回作に出演してほしいとは言われなかったか。

イ・ジュヨン:ハハ。監督たちも私もそんな話を自分から言い始める性格ではない。もちろん役者対役者として会ってから役者対監督として会うのも良い縁だと思う。

―先日イム・スジョンが所属している事務所(YNKエンターテインメント)と専属契約を締結した。

イ・ジュヨン:早く事務所に入りたいという焦りはなかった。一人でやれるだけやってみたかったけど、映画と違ってドラマは一人でやるのがシステム的に大変だった。ちょうどいいタイミングに事務所から連絡があり、良い選択をしたと思う。

―映画の撮影現場をマネージャーなしに一人で行き来していたのか。

イ・ジュヨン:「春の夢」でジュヨンが乗っているバイクは実際に私のものだ(笑) バイクに乗って撮影現場を行き来した。昨年までバイトとして7ヶ月間、マックでデリバリーの仕事をしていた。普段からバイクに乗って風に当たるのが好きだし。

―“キョル”という言葉をよく使う。どんなキョルの役者になりたいか。

イ・ジュヨン:自分が望むイメージや青写真を描いてから動くタイプではない。ただ乗り越えたい限界はある。演じる時に実際の自分の姿を持ってきてキャラクターと密着させるタイプだが、キャラクター性が強かったり、技巧的に強烈に表現しなければならない演技の場合は難しい面がある。私がもっと発展させなければならない地点だ。より幅の広い役者になりたい。

記者 : キム・スジョン、写真 : チョ・ソンジン