アイドルオーラを消し本格派俳優イ・ジュンへ!「風の便りに聞きましたけど!?」ベテランから若手まで見事なキャスト陣 ― 鑑賞コラム Vol.2

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できちゃった婚で姻戚関係になった超セレブ一家のハン家と、典型的な庶民のソ家。両家の対照的な暮らしぶりを描くことによって、格差社会を風刺したドラマ「風の便りに聞きましたけど!?」を見ると、まるで他人の家をのぞき見しているような感覚にみまわれる。その理由は、ドラマではあまり使われない手法、フルショットのロングテイクによるものだ。普通のドラマでは細かいカットのつなぎによってシーンが作られていくが、長回しで俳優の自然な動きをカメラに収めた本作では、セリフを発する者が背中向きになることもあたりまえで、まるでドキュメンタリーを見ているような臨場感が味わえる。ドラマ「密会」でも禁断の愛ゆえに結ばれた2人を会話だけで想像させる破格的なベッドシーンで世間をあっと言わせたアン・パンソク監督が、本作でもその演出手腕をいかんなく発揮。視聴者は、まるで自分が家族の一員、あるいはハン家の使用人のひとりにでもなったような気分でドラマにハマりこんでしまうことだろう。


本格的に俳優への転向に成功した、イ・ジュン

そして、その韓国ドラマ界の鬼才アン・パンソク監督に抜擢され、新境地を開拓したのが男性主人公インサン役のイ・ジュンだ。2014年11月に本格的に俳優への転向を図った彼は、これまでもドラマ「カプトンイ」のサイコパス役や、「Mr.Back 人生を2度生きる男」でのトラブルメイカーの財閥2世役などで存在感を発揮していたが、元アイドルゆえのカリスマ性を生かしたキャラクターが多かった。しかし本作ではセレブ一家の御曹司ではあるものの、親の言いなりで反抗したこともない気弱な優等生。撮影当時27歳だった彼が、制服を着ていることに最初の数分間こそ違和感があったものの、彼女の妊娠を知って右往左往する姿からは完全にアイドルオーラが消され、おどおどした普通の高校生にしか見えなくなる。

特に第1話のエンディングで、彼女を自分の家に連れていく途中のタクシーの中で、運転手に「僕たちキスしてもいいですか?」と許可を求めたうえでキスするシーンは、大人の目を配慮する優等生の顔と、キスしたいという欲求を抑えられない年頃の青年の顔をあわせ持つインサンの感情を見事に表現して、視聴者を萌えさせるとともに、大絶賛された名場面だ。父親の敷いたレールの上を歩んできたゆえに純粋無垢だが優柔不断でもあるインサンは、アクの強いキャラクターではないゆえにつかみどころがなく、演じるのも簡単ではなかったはずだが、イ・ジュンはいたって自然にインサンと同化してドラマの完成度を高めると同時に、俳優としての評価も高めることに成功した。


少女から大人へ変貌をとげる子役出身のヒロイン、コ・アソン

一方、ヒロイン・ボム役のコ・アソンにいたっては、子役から活躍して演技力に定評があるが、2006年の映画『グエムル―漢江の怪物―』から約10年が経っても子役のイメージから脱皮できずにいたために、本作のような大胆な作品に出演することを決めたそうだ。出産によって少女から大人に変わろうとするボムは、子役から成人俳優に変貌を遂げる彼女の素顔とも重なり、まさにハマり役。素朴でありながら、実は計算高くもあり、新米夫のインサンをうまく操縦する多面性の持つボムは、並大抵の若手女優では演じきれなかったはずだ。撮影中は、芸歴で大先輩のコ・アソンが年下のイ・ジュンを弟のようにリードしていたそうで、まるでボムとインサンのよう。2人のケミストリーから生まれる初々しくてかわいらしいラブシーンにもぜひ注目して欲しい。


若手&ベテランの共演、どのジャンルにも当てはまらない新感覚の面白さ

さらに、外せないのはユ・ジュンサン、ユ・ホジョンらベテラン陣の名演技だ。作品によって、誠実だったり軽薄だったり、いろんなキャラクターをカメレオンのように演じ分けるユ・ジュンサンは、本作でもジョンホの誠実そうにふるまう表の顔と、偏った感覚のプライドと俗物根性にまみれた裏の顔をいったりきたりさせながら視聴者を皮肉たっぷりに笑わせ、名優ぶりを発揮している。セレブ夫人にぴったりの美貌のユ・ホジョンは、普段は優雅にふるまっていても、セレブ同志が集まる会合では幼稚な見栄を張りあったり、賢い嫁ボムにやりこめられて泣きわめいたりと、ヒステリーをおこしながらもキュートさを失わず、愛すべきキャラクターにしてしまうのがさすが。他にも、ボムの父親役のチャン・ヒョンソン、母親役のユン・ボギンを筆頭に、ジョンホの部下たちにも実力派のベテランが勢ぞろい。また、人気急上昇中の新人女性アイドルグループTWICEのメンバー、ジョンヨンの姉としても知られる新鋭女優コン・スンヨンがボムの姉役で出演、輝かしく妖艶な美貌で男性視聴者を虜にした。

若手俳優とベテラン俳優が見事なアンサンブルを奏でて誕生したブラックユーモア・ラブコメディ。既存のドラマのどのジャンルにも当てはまらない新感覚のおもしろさにハマることうけあいだ。

韓国エンターテインメントライター:安部裕子

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記者 : Kstyle編集部