“巧い”俳優ヒョンビンに心揺さぶられる!2つの人格の境界が崩れ始めてからが怒濤の面白さ…「ジキルとハイドに恋した私」 鑑賞コラム

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あぁ、やはりいい俳優だと思う。素敵な俳優。作品ごと、観るたび確実にそう思う。とても巧みでありながら、それが自然で嫌味や押しつけがない。相手に合わせ、状況に合わせ、自在に形を変える、澄んだ水のような俳優。感情の爆発演技で押し倒すのではなく、静かに心のドアを叩くような。どんな奇想天外な設定であろうと、あまりに自然に(しかも魅力的に) そこにいるので見過ごしてしまいがちだが、実は繊細な演技を得意とする“巧い”俳優だ。

そんな俳優ヒョンビンの魅力を上書き更新したのが、「ジキルとハイドに恋した私 ~Hyde, Jekyll, Me~」だ。本作でまず語られるのは、多重人格障害を患う主人公の“一人二役演技”という面だろう。神経質で冷酷な御曹司ソジン(主人格) と、彼の中に現れた心優しい自由人ロビン(副人格)。顔が同じにもかかわらず、身にまとう空気が違い過ぎて初めは翻弄されるのだが、やはりどう見ても別人!

ソジンのふりをするロビン
そこで思い出すのが、「シークレット・ガーデン」だ。ひょんなことから、ヒロインのライムと魂が入れ替わってしまうという、ある種の一人二役演技。見た目は御曹司ジュウォンなのに、仕種や表情、立ち姿や口調はまるでライムというマジック。奇妙な“男なのに女”状態にもかかわらず、それがコントになってしまわぬ絶妙なさじ加減、非現実をリアルに感じさせてしまう高度な演技力に、どれだけ魅せられたことか!

そして、「ジキルとハイドに恋した私 ~Hyde, Jekyll, Me~」である。ここでは、「シークレット・ガーデン」同様に表情、声のトーン、歩き方や立ち方で、1人の人間のまるで異なる別人格を演じ分けたわけだが、そこはヒョンビン! それだけでは終わらなかった。たとえば、ロビンでいるとき、突然ソジンに戻ってしまい、ロビンと思いこむ皆の前で必死に“ロビンの振りをするソジン”のぎこちなさ(愛らしい!)。ソジンであるべきときにロビンの人格が現れてしまい、“常務ソジンの代役を務めるロビン”の機転(カッコいい!)。互いの振りをする姿は、それぞれの魅力を倍増させてみせる結果に。また、彼らの内面、その脆さ、危うさに触れていくうち、どちらも気になり、目が離せなくなる。2人は知らぬ間に見る者の心に浸食し、ソジンか、ロビンか、イイ男対決が繰り広げられることになるのだ(どちらもヒョンビンなのに!)

ロビンのふりをするソジン笑み
さらに、ヒロインのハナとの交流により、徐々に2つの人格の間に混乱が生じ、ソジンとロビン、はっきりと分かれていた彼らの境界が崩れ始めていく。ここからが、怒濤の面白さだ。そう、実はこのドラマにおける“俳優ヒョンビン”の魅力、本領は、一人二役を超えたところにある。

とりわけ、トラウマの生んだ過去の誘拐事件の真実が明らかになって以降! 本格化するソジンとロビン、ハナの三角関係の切なさたるや! と同時に、トラウマを乗り越えたソジンの中にロビンの感情・記憶が吸収されていく様の“心揺さぶり感”たるや!

たとえば、現れるはずのロビンが現れず、ソジンがロビンの振りをしてラジオ番組に出る場面だ。ロビンがハナのために準備していたサプライズを、“ロビンとして”することになったソジン。はじめは緊張で顔をこわばらせつつも、ハナを前に、その表情、口調、まとう空気が柔らかさを帯び、周りの人間が気づかぬほどごく自然に、“ロビンの笑顔”を浮かべるソジンに、鳥肌! 素敵! 感動! の入り交じり!

ラジオ番組でロビンのふりをするソジン
2つの人格で始まったそのキャラクターは、物語が進むにつれ、互いに影響し、色がにじみ、1つになっていく。それにより切なく揺らぐ三角関係に、胸締め付けられるは、泣かされるは……。1人が異なる2人に分かれることの苦しみは多く描かれてきたが、2人が1人に戻っていくことの切なさは、見る側にしても初めて味わう感情で、しばし心喪失させられたほどだ。

と、いくら言葉でも説明しても、この「ソジンの中に溶け込んでいくロビン」「ロビンが浮かび上がるソジン」の繊細な魅力、圧倒的な揺さぶり感は、到底伝えることができない。つまり……観て! ということなのだが、最後に1つだけ、個人的とても好きなシーンをあげさせてほしい。

それは、最終話。ソジンがハナを前にこう口にするシーンだ。
「ハナシ、サランヘ(ハナさん、愛してる)」……表情はソジンでありながら、その口調はロビンだった。そこには、ごく自然にソジンの中に生き続けるロビンが浮かび上がり、思わず泣いた。つまり……ヒョンビン最高! ということだ。

エンタメライター 高橋尚子

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記者 : Kstyle編集部