デビュー15年目のトップバンドNELLが見て来た音楽シーンと今日本を目指す理由

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ジョディ・フォスター主演の映画『NELL』(1994) は、未開の森で育てられ、独自の言葉を発するネルという少女のストーリーだ。この映画を観た18歳の青年4人は、少女ネルのように、自分たちだけの音楽が放つストーリーを伝えたいという思いからバンド名にNELLと付けた。まさにそのバンド名の様に、韓国唯一無二の音楽性と世界観が支持されて、NELLはインディからメジャーシーンに羽ばたき現在もトップクラスで活躍する数少ない1組だ。結成から17年・デビュー15年目を迎えた彼らが、バンド大国の日本で近々本格的なライブ活動を展開すると耳にした。今なぜ日本なのか。そしてどんな音楽環境の中を渡って来たのか、NELLの軌跡に耳を傾けてみよう。

80~90年は音楽が本当に好きな人にとって、本当に音楽を愛せる時代だった

―4人は80年生まれの同い年だが、どのように出会ったのか。

ジェギョン(ギター):僕とジェウォンは小学校からの友だちで、ジョンワンが中学校の同級生、ジョンフンは高校の同級生だ。最初ジョンワンが高3のときに先輩たちとバンドを組んだが、一ヶ月も持たずに楽器メンバーが僕らに変わった。結成から少ししてからNELLというバンド名を付けて、ここまで同じメンバーでやって来た。

ジョンワン(ボーカル):スタートしたのが99年3月で、高校を卒業した直後の時期だった。

―当時バンドを始める環境はどうだったか。

ジョンフン(ベース):あの頃はバンドがたくさんいた時期だった。90年代半ばにインディシーンが出来て、2000年前後にちょっとしたバンドブームになった。インディシーンのみだが。ホンデを中心にライブハウスも増え、バンドの数も一気に増えた。しかし当時バブルのようにバンドが生まれて、あっという間に居なくなり……その後残っているバンドがほぼ居ない。

ジェウォン(ドラム):当時、Limp Bizkit(リンプビズキット) が全盛のころだから、ハードコアやメタルバンドが一番多かった。

ジェギョン:僕らが10代の頃……90年代は、洋楽をいちばん楽しめる環境だったと思う。当時ラジオが流行っていて、洋楽番組もたくさんあったし、ロックや洋楽の雑誌も一杯あった。当時YouTubeなんて無いから“音楽鑑賞室”というのがあり、リクエストしたらMV番組のビデオを流してくれた。CDショップ自体も今より沢山あって、洋楽も豊富にあり、本屋へ新刊を探しに行くように新しい洋楽CDを求めてよく通ったものだ。80~90年は音楽が本当に好きな人にとって“探す楽しみ”もあった、本当に音楽を愛せる時代だったんじゃないかと感じる。

―音楽を始めた頃は、こうしてバンドが職業になると思っていた?

ジェギョン:全く思っていなかった。バンド自体を楽しんでいたら少しずつ評価されるようになって、ファンも徐々に増えて行き、自然と職業になったようだ。

ジョンワン:僕たちバンドを始めて7年くらい、まともな収入は無かった。韓国では一般的にバンドは辛いとか大変だと言うが、置かれた環境を自から辛いと思えば辛くなってしまうけれど、これも一つの過程だと思えば何ともない。お金をたくさん稼ぎたくてバンドをスタートしたのでは無いし、一生懸命続ければうまく行くだろうという確信が自分の中にあったように思う。

ジェギョン:例えば裕福な家の子が音楽を始めて、派手にスタート出来るのも面白いと思う。でも若いうちは、苦労も楽しみの一つ。僕たちお金が全く無くても、小さなライブハウスでゼロからスタートして、次は一回り大きな会場に、その次は週末のライブに呼ばれて…というふうに、一つずつ上っていく楽しみがあった。

―インディで話題だったNELLが、2003年にソテジさんのスカウトを受けてメジャーシーンへ移ったことが人々に知られる大きなきっかけだったと思う。

ジェギョン:2002年頃にソテジさんが、インディのアーティストを発掘して支援をしようと考えたそうだ。300チームほどの音楽をモニタリングした中から、僕らに連絡をくれて。お会いすると、僕らの音楽を理解してくれて、サポートへの思いも強かったので、とてもうれしかった。すごく良い環境のスタジオで作業ができて、良いスタッフにも出あえて、今になっても良い経験だと思える。

ジョンワン:事務所の内部的事情があって2年だけの在籍となったが、ソテジさんも、この先僕らがどうするのがべストかという話を何度もしてくれた。そして次の事務所を探しているときにEPIK HIGHのTABLOが、今の事務所の代表に話をしてくれたらしい。他の事務所からも話があったが、代表のマインドがとても若くて話が通じる方だったので、すぐに決めた。そこから10年変わらずにいる。今はINFINITEが稼いでくれているから安心だ(笑)


他人の視線など気にせずに、自分自身に視線をフォーカスするんだ
肩の力を抜いて生きてみよう、という話を伝えたかった

―NELLの音楽といえば、幻想的なメロディと、どこか憂うつな歌詞の世界観を持っているのが特徴だ。加えて“UKサウンド的”と例えられることが多い。ジョンワンさんは幼少期に海外に住んでいたそうだが、その影響もあるだろうか。

ジョンワン:僕は子供の頃、カナダ、スイス、バーレーンなどに住んでいた。小6~中3の最初まで韓国に帰ってきたが、小学校~高校までのほとんどを海外で暮らしていた。なので子供のときに韓国の音楽を聴く機会が無かった。音楽は突然新しいものが出てくるのでは無く、これまで聴いて感じたものを積み上げてベースになるわけだから、どうしても子供の頃に聴いた欧米の音楽が、現在も音作りの感性として活かされているのだと思う。

―NELLの作詞作曲はジョンワンさんが中心に手掛けているが、他のメンバーに異論は無いのか?

ジェギョン:僕たちも自分だけで曲作りはしているし、編曲は全員で行っている。でもNELLの音楽を考えたとき、ジョンワンの作品が一番似合っていると思う。自分の満足だけのためにバンドをするわけにはいかないし、完全に仕上がったものが必要。短編小説の作品集ならばバラバラの話が並んでも本になるが、アルバムと言うのは1つのストーリーであり、そのストーリーが揺らいではいけないと思うから。

―9月にリリースした最新曲「Star Shell」は、NELLらしい爽快なロックでありながら、人々の背中を押すようなポジティブな歌詞が、これまでに無かったスタイルに思える。



(歌詞一部:口先だけうるさく 騒ぎたてるのは彼らの役割だ それくらい罵られたのが何だ 夢を追う者よ 君のその旗を掲げて There's nothing wrong 1日に数百回も We rise and fall 気にする必要はない They all come and go They come and go)

ジョンワン:僕にとってはポジティブな歌詞と言う感覚ではない。“上手く生きていけ”“気にするんじゃない”こんな言葉をチョイスすること自体が、そもそもポジティブでは無い状況だと思う。人は他人との比較をすごくしたがる。でも他人の視線など気にせずに、自分自身に視線をフォーカスするんだ、肩の力を抜いて生きてみよう、という話を伝えたかった。

ジェギョン:最後に“forever young”という歌詞が出てくるが、これを最初に聴いたとき、“気持ちが年老いていれば、どんなに若くても老人だ”という言葉を思い出した。老けるというのは、気持ちが老けたからであって、年齢の数字ではないということを改めて感じて、カッコイイな! まだまだ頑張らなきゃ! という気持ちになった。


どんなシーンであれ、音楽を楽しんでやっている人であれば皆同じ

―最近はメジャーシーンにも若手バンドが増えて、バンドシーンに注目が集まりつつある。後輩バンドたちと付き合いはあるか。

ジョンワン:CNBLUEとは番組で活動時期が重なってから親しくなった。バンドを一生懸命やっているし、演奏も上手でしっかりしていると感じる。確かに彼らはアイドルでスタートしたが、もう十分な経験値もあるし同じ音楽人だ。むしろ彼らの方が音楽的な会話が好きで、色んな楽器などについてすごく聞いてくるので、僕の方が知らないくらいだ(笑)

―ロックフェスなどに出るバンドと、今話に出たようなCNBLUEはアイドルと区別する傾向にあるが、この点についてどう思うか。

ジョンワン:どんなシーンであれ、音楽を楽しんでやっている人であれば皆同じだと思う。区別を付けられるのは、マーケティングの違いではないか。僕たちのようなインディからスタートのバンドは、ライブを重ねるうちに人々に知られて行くが、デビューからマネジメント事務所が付いている場合、放送が重要な韓国ではテレビに出ていく過程を踏まざるを得ないのだろう。そうしてテレビを中心に活躍したチームは一様に“アイドル”と言われる。なぜならテレビを通した印象が強くて、ちゃんとライブをやれても、その姿を知られる機会が難しいからだ。

―バンドでは無いが、事務所の後輩INFINITEのソンギュさんにも、今年ソロアルバムを全面プロデュースした。

ジョンワン:ソンギュからずっと一緒にアルバムを作ってほしいと言われていたが、今作は時間的にうまく合ったので一緒にできた。僕も彼の歌声が好きだし、音楽に対する姿勢もすごく真剣なので、アルバム制作の過程の楽しさを教えたかった。自分のアルバムへ更に愛情が湧くように、曲作りから仕上げるまでの過程を見せてあげたくて、付きっきりで作業をした。僕にとってもNELL以外の作品をまるごとプロデュースするのは初めてで、新鮮で楽しかった。


日本で新しいフィードバックも感じて、お互いエネルギーを与え合う
そんな関係をライブで築きたい

―ところで今月東京で単独ライブを開催するが、メンバーたっての希望で実現したと聞いた。日本デビューでもなく、アルバムリリースでもなく、なぜライブだけで日本行きを決意したのか。

ジョンワン:自分たちの音楽を好きな人が居る場所ならば、どこであってもライブをしてみたい、という思いはミュージシャンなら誰しもあるだろう。最近はネット環境も発達しているので、日本をはじめアメリカやヨーロッパにも僕たちのファンが居るようだ。欧米は簡単に行ける場所では無いが、日本は近いし、違う文化を持っている。新しいフィードバックも感じて、お互いエネルギーを与え合う、そんな関係をまずライブで築きたい。

ジェギョン:そもそも韓国ではライブツアーをするのが難しい。今回のライブを機に先々、日本でツアーを組んでみたい。またミュージシャンをサポートするスタッフもすごくプロフェッショナルで、ライブに来る人たちも音楽に対して豊かな耳を持っていると感じる。そういった場でライブを積むことが、今後の僕たちの音楽にも良い影響をもたらしてくれると思っている。

―日本のライブで初公開の曲を演奏する予定だとか。

ジョンワン:ライブに来てくれる日本の皆さんにとって、ささやかなファンサービスになるかなと思った。書下ろしの新曲か、これまで作っておいた未公開曲か、どちらを披露しようかと悩み中だ。期待していてほしい。

―いずれ日本語で曲を出す可能性も?

ジョンワン:僕は日本へよく遊びに行くが、日本語はほとんどできない(笑) 言葉の上手な友だちが日本に沢山いるから。韓国語から翻訳した日本語を丸覚えして歌うこともできるが、それは僕にとって100%の歌ではないと思う。僕が日本語を完璧に理解して、僕の言葉で歌詞を作って歌ってこそ、聴く人にきちんと伝わると思っている。そのために、まず日本人の彼女でも作らなきゃいけないかな?(笑)

―日本に行けば、K-POP、K-ROCK、ワールドROCK……どう呼ばれるのが理想的か。

ジョンワン:僕の考えでは2008年頃から、音楽も映像も、またファッションや映画なども含めて、文化的に全てがボーダレスになってきている。僕らをどう呼ばれてもNELLはNELLなので気にしない。そういうのは文字上の区別でしかなく、どんなカテゴリーへ分けられても、“僕らは僕らの音楽だ”という自信があるから。ライブでそれを証明できると思っている。



インタビュー:筧 真帆

「2015 NELL LIVE ~Healing Process in Tokyo~」
日時:11月13日(金) OPEN 18:00/ START19:00
開場:赤坂BLITZ
TICKET:¥7,500 (税込 / 1Fスタンディング・2F指定席) 別途1ドリンク500円
チケット発売中
詳細:http://www.creativeman.co.jp/artist/2015/11NELL/

記者 : Kstyle編集部