「王の運命」イ・ジュンイク監督“『期待しないで欲しい』という僕の言葉、効果がありましたか?”

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最近は観客動員数1000万人を動員した映画が珍しくなくなってきたというが、たった3年前は1000万人を突破した映画の誕生は驚くべきことだった。そんな忠武路(チュンムロ:韓国映画界の代名詞)でイ・ジュンイク監督(56)は、言葉通り伝説の中の伝説であった。10年前に映画シーンを揺るがした「王の男」は2回、3回はもちろん、10回以上観覧するリピーターも相当存在していた。珍しい再観覧のブームを巻き起こし、韓国映画のルネサンスを切り開いた。

このように忠武路の歴史を書き直したイ・ジュンイク監督の10年はとても多事多難で、公私多忙であった。「王の男」以降、成功の道を歩むだけだと思っていた彼だったが、「ラジオスター」(2006)以降、ヒットの失敗が続いた。特に得意である時代劇でも後光を浴びることはできなかった。「雲を抜けた月のように」(2010)、「平壌城 Battlefield Heroes」(2011)が連続して振るわなかったが、それでも諦めなかった。4度目の刀を研いで立ち上がったベテランの大将、イ・ジュンイク監督だ。

「平壌城 Battlefield Heroes」以降、4年ぶりに届けるイ・ジュンイク監督の時代劇映画「王の運命-歴史を変えた八日間-」(制作:タイガーピクチャーズ)。父英祖(ヨンジョ)によって米櫃に閉じ込められ、8日で死亡した思悼世子(サドセジャ)を再照明した作品だ。

今年の秋夕(チュソク:日本のお盆に当たる韓国の祝日)シーズンの映画シーンで最も関心を集めている作品として、公開前の早い段階での試写会で蓋を開け、自信を見せた。その自信が通じたのか、メディアの評価も期待以上の好評が続いている。多分イ・ジュンイク監督の作品の中で最も高い評価を受けている作品ではないかと見られる。

「ハハハ。期待しないでほしいという僕の話が効果があったのか、予想よりずっと良い評価が出ています。実はすごく不安でした。『王の運命-歴史を変えた八日間-』の記事のコメントには『また二番煎じか』『ありきたりの思悼世子の物語』『ありふれた題材』など多くの非難が殺到していたんです。認めるしかないのが、思悼世子の話はこれまで何回も描かれてきたんですね。関心を引くような新しさがないので、不安なのも当然でした。まだ公開前ですが、(試写会後) ひとまず安心しています。本格的な決戦の日は16日ですが、『ふう~』と患っていた虫歯が抜けたような感じです。ふふふ」

イ・ジュンイク監督を大衆は「王の男」の監督だと認識しているのが現実だ。このような状況で何回も「期待値を下げてほしい」と言ってもそれが通じるわけがない。それでもイ監督は制作報告会でも、試写会でも引き続き「期待しないでほしい」と話していた。観客に失望を与える監督になりたくはないという望みが大きかったためだ。自信がいつでも万能ではないということを、これまでの歳月を通じて学んだ。

「若かった時は豪気というのがありましたので。それだけを信じて、隙があってもとりあえず意地を張りました。『大丈夫、これくらいならいい』と(笑) 意地を張った歳月がとても長かったです。ハハハ。けど、今の年になってみると、そんな豪気がすごく恥ずかしくて笑えるのです。私が意地を張ったところで、観客が騙されるわけがありません。そんな風に意地を張って失敗した作品も1、2本ではありません。ククク。その心だけは変わらないつもりですが、ミスを認めて受け止め、次の作品ではもっと成長したものを見せると観客もとりあえず鞭を手にすることはないと思います」

そんな意味で今回の「王の運命-歴史を変えた八日間-」は、イ・ジュンイク監督の努力が多く注がれた作品だ。切歯腐心し、粉骨砕身した。シーンごとに心血を注いだことが感じられた。何より125分の間、真心がぎっしり込められているような印象だ。そこで、映画館の扉を開けて出てくると余韻がずっと続く。何回も振り返ってみたい余地を残す名作だ。

「できれば観客に『王の運命-歴史を変えた八日間-』を2回以上見てほしいです。ヒットのためではなく、ただこの映画では英祖(ソン・ガンホ)、思悼世子(ユ・アイン)、正祖(チョンジョ、ソ・ジソブ)、暎嬪(ヨンビン、チョン・ヘジン)、恵慶宮洪氏(ヘギョングンホンシ、ムン・グニョン)など各キャラクターを中心に展開されるそれぞれのストーリーを感じてほしいです。『王の男』の時もそうでした。リピーターが多かった理由は、最初に見た時と2度目に見た時とは感じが全く違うんです。『王の運命-歴史を変えた八日間-』も英祖に焦点を当てると英祖の心理が、思悼世子に焦点を当てると思悼世子の心理が見えますので。僕、欲張りすぎでしょうか?ハハハ」

イ・ジュンイク監督の言葉通り、キャラクター別の様々な観点からストーリーを展開できたのは英祖、思悼世子、正祖まで3代に渡る広範囲の背景があったおかげだった。映画を見る前は、3代に渡る悲劇を2時間に圧縮するというのは簡単ではないように見えたが、映画を見るとなぜ必ず3代である必要があったかが十分説明されており、納得できる。

「そうですね。思悼世子が4歳だった頃から、恵慶宮洪氏が還暦祝いをする場面まで出ますので。56年間のストーリーを2時間に圧縮しました。僕が思っても欲張りました(笑) ですが、思悼世子だけを色んな角度から見るとしても、その人を完全に理解することができるのでしょうか?思悼世子の父や母、そして彼の知人たち、妻、息子まで全て見てこそ本当の思悼世子を知ることができると思いました。思悼世子が亡くなって、英祖まで死んだらそれで終わりでしょうか?幼かった世孫(王の跡継ぎとなる孫、イ・ヒョジェ)が米櫃に閉じ込められた父の思悼を目にしながらも、水一杯をあげることができなかったその気持ちを、歳月が過ぎて父の墓ででも一杯の水を渡す息子の痛恨を描くのが本物の『王の運命-歴史を変えた八日間-』のストーリーです」

かなり計算的で緻密だったイ・ジュンイク監督の設計。ありふれた題材のストーリーだった「王の運命-歴史を変えた八日間-」が決してそうではないと感じられた理由でもあった。ただソン・ガンホ、ユ・アインの名演技だけが理由ではなかったことを証明している。

「映画という芸術そのものが、『覗き』から来ているんです。英祖と思悼世子だけの物語ではありません。今の私たちの世界が投影されてもいます。英祖と思悼、正祖の傷とトラウマを思う存分覗いてください。そして、その残像が自分の傷と接点を持つ地点を探ってみてください。そうやって僕たちは克服すればいいです。カタルシス(解放感)、そうですね。『王の運命-歴史を変えた八日間-』は観客にきっとカタルシスを与えることができます」

記者 : チョ・ジヨン、写真 : チョ・ソンジン