イ・キチャン、デビュー19年目にも溢れ出すエネルギー「やったことのない音楽をやり続けたい」

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写真=FEエンターテインメント
1990年代の音楽界は、いわゆる“ルネサンス”と呼ばれるほど様々な音楽が人気を集め、全盛期を迎えた。18歳でデビューした歌手イ・キチャン(36歳)はデビュー曲「PLEASE」をヒットさせ、当時の音楽界の一端を担った。彼は第1世代アイドルの善戦の中でも「また恋は過ぎ去って」「Viva、My Love」「風邪」など多くのヒット曲をリリースして人気を集めた。2000年代の後半でも、彼は「美人」「恋も、別れも」などを通じて人々から大きく愛された。

イ・キチャンは慎重であると同時に着実な歩みを見せた。軍を除隊した後も彼は急がず、ゆっくりと自分だけの速度でアルバムを作った。そして、「Twelve Hits」を誕生させた。当時、彼は多くの名曲をビッグバンド・ジャズスタイルでリメイクし、アルバムを作り上げた。今回のアルバムはその後、約2年ぶりの新譜である。イ・キチャンは「会えて嬉しい人が多くて、喜んでくれる人も多かったです」とカムバックの感想を伝えた。

「久しぶりに曲をリリースしたにもかかわらず、喜んでくれる人がいて、感謝の気持ちが大きいです。タイトル曲『Beautiful Tonight』はバラード曲ではありますが、以前のように悲しい雰囲気の曲ではありません。愛を告白する明るい内容を盛り込みました。色んな歌詞を書いて、その中で曲の雰囲気と最もよく合う歌詞を選びました。また別の収録曲である『楽談』はブラックミュージックの匂いが強い曲です。バラードを歌う時とは少し違う歌い方で歌いました」

空白期間を考えれば、新曲の数が少し物足りない感じがするのも事実だ。イ・キチャンは「年齢のため、休まずに活動するのが大変です」と笑った。その代わり、彼は曲の完成度に集中した。「Beautiful Tonight」と「楽談」はいずれもイ・キチャンが作詞、作曲した曲だ。20数年間積み上げてきた感覚を、この2曲を通じて存分に発揮した。

「音楽市場のパターンが多く変わりました。それで、まずはシングルを着実に出そうと思っています。そうするうちに、曲が多く集まったらそれをフルアルバムで出す予定です。たぶん来年くらいには完成すると思います。僕は曲の作業を、その時その時で進めるタイプなので、実は書いておいた曲はあまりありません。以前はアルバムをたくさん出して、休まずに活動しましたが、この頃は少し大変に感じます。やはり年齢がありますから(笑) 空白期間を少し持って休んだり、作業の他にも面白いことが多くて、様々なことを試みています」

イ・キチャンはこれまでミュージカル、演技、バラエティ番組など多方面で活発な活動を行ってきた。2005年、初めてミュージカルに足を踏み入れた彼は「LOVE STORY」「TOXIC HERO」「FIVE COURSE LOVE」などの舞台に上がった。イ・キチャンは「数作品やってみたら体力的にも大変で、何よりミュージカル俳優に申し訳ない気がしました。あちらの市場は非常に狭いから、歌手や俳優まで進出することが申し訳ないと思いました」と話した。当分、ミュージカルに出演する計画はないというのが彼の説明である。

だが、演技に対する意欲は格別だった。イ・キチャンは最近、アメリカでウォシャウスキー姉弟が制作した初のテレビドラマ「SENSE 8」(センス・エイト)に女優ペ・ドゥナと共に出演し、話題を集めた。彼は英語の台詞を上手く消化するのはもちろん、優れた感情演技を披露して人々を驚かせた。「ハリウッド俳優みたいという反応も多かったです」と伝えたら、イ・キチャンは照れくさそうに笑って「良く見てくれて感謝します」と感想を述べた。

「演技は以前も少しやったことがあります。今後も機会があれば続けるつもりです。今回はアメリカドラマに出演し、台詞を英語で言わなければなりませんでした。英語がとても上手いわけではありませんが、以前カナダに少し住んだことがあって、その後もずっと勉強したり、個人レッスンを受けてきました。習って準備しておけば、機会が来ると思います」

イ・キチャンが再び人々の前に姿を現したのは、職種を隠して覆面をかぶったスターたちが声だけで実力をアピールするMBCの音楽バラエティ番組「僕らの日曜日の夜-覆面歌王」を通じてだった。彼は“イルタサンピ・アルカキマン”という名前で出演し、キム・ボムスの「最後の愛」とイ・ソラの「記憶して」を熱唱し、変わらない歌唱力を披露した。彼は「僕が仮面をかぶって歌を歌ったら、皆どんな反応を見せるだろうと気になりました」と出演のきっかけを伝えた。

「普段、面白く見ていた番組です。フォーマット自体が面白く、意外な人物が出たりもするからです。そして、新曲発表と似た時期に出演することになりました。楽しい経験でした。すぐに脱落しましたが(笑) 喜んでくれる人が多くて嬉しかったです。また、チンジュさんやIVY(アイビー)さんのように、以前一緒に活動した方々に久しぶりに会えてとても嬉しかったです」

デビュー19年目、“バラードの皇太子”と呼ばれたイ・キチャンだが、彼の音楽の根にはブラックミュージックがあった。だが、韓国で正統なR&B音楽をやることは決して簡単ではない。適切な妥協点が必要だった。彼は「自分がやりたい音楽と人々が好きな音楽の間で、ある程度の折り合いが必要でした。たぶん他の歌手も同じだと思います」とし「自作曲の場合もアルバムごとに着実に収録してきましたが、だからといって『必ず自分が書いた曲だけ歌わなければならない』とは思っていません。僕が歌ってより良くなる曲であれば、外部の作曲家とも協力を続けるつもりです」と話した。

そのおかげでバラードをはじめ、R&B、ジャズに至るまで、イ・キチャンの音楽の幅は広くなった。そして、これはイ・キチャンの果てのない欲心につながった。彼は「やったことのないことは、すべてやってみたいです。また、ダンス曲も歌ってみたいです」と明らかにした。年齢の話が無意味に感じられるほど、彼のエネルギーは溢れ出していた。

「幼い頃からブラックミュージックが好きでした。1980年代のR&B音楽をたくさん聞きました。マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)やビル・ウィザース(Bill Withers)、ホイットニー・ヒューストン(Whitney Houston)などの歌です。でも、時間が経つにつれ、様々な音楽が好きになりました。最近は本当に多様なジャンルの音楽を聞いています。ほぼ“雑食”です。それで、僕自身も多様な音楽をやってみたいという意欲が湧いてきたんです。あえてジャンルを区分するよりは、色んなことを試みています。これからもやったことのない音楽をやり続けたいです。ダンス曲も良いし、最近のスタイルのEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)もやってみたいです」

だが、ヒットに対する欲はむしろ減った。過去のヒット曲を乗り越えるという負担も、今は心の中から消えた。誰よりも激しい20代を送ったからだろうか。音楽に対するイ・キチャンの姿勢はより気楽になっていた。彼は「大きな期待はしていません」と繰り返して話したものの、悲観的というより、むしろそんなことを乗り越えた感じがした。イ・キチャンはもう自分だけの速度と方向をよく知っているように見えた。

「負担感はありません。数回ヒットしたことがあるので、むしろヒットしたいという欲は大きくありません。もちろん、上手くいったら嬉しいのですが、ヒットを期待すると、後でその分失望が大きくなるからです。欲を消したら、作業する時も気楽な気持ちでやりたい音楽をやるようになりました。今望んでいることは、僕と同い年の方々に聞いてもらって、楽しんでほしいということです」

記者 : イ・ウノ、翻訳 : ナ・ウンジョン