「極秘捜査」キム・ユンソク“埋もれてしまう作品を助ける俳優になりたい”

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ゾッとする狂気で観客を凍らせる俳優キム・ユンソク(47)が、少し柔軟で優しくなった父として観客のもとを訪れた。存在感では誰にも負けないキム・ユンソクが力を抜いて素朴な姿で登場すると、少しは違和感もあったが、むしろ新鮮で興味深かった。無口な慶尚道(キョンサンド)の父の手本を見せたキム・ユンソクの変身が、今回も観客を笑わせ、泣かせる予定だ。

1978年に韓国で大きな話題となった事件でもある、四柱推命を使って誘拐された子供を見つけた刑事と導師の33日間の物語を描いた犯罪映画「極秘捜査」(監督:クァク・キョンテク、制作:ジェイコンカンパニー)。劇中で子供を探すために信念を貫く極秘捜査を展開する刑事コン・ギリョン役を演じたキム・ユンソク。唯一子供の生存を確信した彼は自身の意見に賛成してくれた法大出身の導師キム・ジュンサン(ユ・ヘジン)と手を組む。

忠武路(チュンムロ:韓国映画界の代名詞)でかけがえのない俳優となっているキム・ユンソク。そんな彼とユ・ヘジンが出会ったため、もう言葉は要らない。キム・ユンソクは自身のフィルモグラフィーにもう一つの名作を刻み込んだ。

「俳優たちが作品を選ぶ基準は全部違います。僕の場合は、キャラクターよりはシナリオをもっと重要に考えます。どんな物語なのかにさらに関心を持ちます。シナリオに接する時に、時には予算が大きな映画ではないけど、ぜひ作られてほしい作品があるんです。そのような作品は、大体興行力がある俳優が出演しないと、投資が受けられず死蔵される、あるいは無かったことになる場合が多いです。僕はそんな大事な映画が死蔵されないように助ける俳優になりたいです。後でフィルモグラフィーを振り返った時に、恥ずかしい作品はなかったと思えるようにですね。今までもそうでした。悔しくなるほど後悔しそうな作品には出演していません。もちろん、もう少し準備をして、慎重に選んだらよかったと残念に思う作品はありますけど。ハハハ」

以下はキム・ユンソクとの一問一答である。

―「極秘捜査」の評価が良い。

キム・ユンソク:最初にシナリオを見た時と、映画の完成版が似ている。外見的に華やかではないけど、内的なディテールが上手く表現されている。まるでひよっこだった作品が鶏に成長した気分のような。まずは、新鮮だ。二人の家長の話を描いたけど、お互いに異なる環境にあるし、科学的な捜査を原則とする警察と運命や迷信を信じる導師の出会いであるから。これこそが人生だ。

―人々はキム・ユンソクと言えば強烈なカリスマ性から思い出す。

キム・ユンソク:必ずしもそうではない(笑) 明るいキャラクターもたくさんやってきたのに、不思議なことにまず怖いと思われる。全部生存のために頑張るキャラクターだったので、そんな部分で強烈さが感じられただけだと思う。自らを破滅させながら表れる狂気のためにそのような偏見ができたようだ。もし俳優がそのようなイメージを気にしていたら、常に明るい作品だけに参加するようになる。すると、良い映画が出るはずがない。

―「極秘捜査」は強烈な事件が発生したり、犯人に対するミステリーがあったりはしない。序盤には投資に難航があったそうだが。

キム・ユンソク:クァク・キョンテク監督もそう言っていた。「極秘捜査」は投資会社であまり喜びそうなシナリオではなかったと。今までジャンル物は強烈で華やかなものが定番だったのに、この作品は静かな感じだったからだと思う。けど、確かに真実のこもった、緻密な構成のディテールが隠れている。そのようなものは、結局は通じるものだから。最近出た捜査物の中では一番新鮮だ。常に使われる題材であるサイコパスの犯人でもなく、超人的な力を持つ刑事でもないから、そのような部分が淡白だ。信念を貫いて一人の生命を助けたということだけで十分価値のある人生だったと言える作品だ。

―父でもあるキム・ユンソクだから、誘拐事件を描いた今回の作品に出演するまでかなり悩んだのでは。

キム・ユンソク:実際に事件の結果がよくなかったら、「極秘捜査」を選ばなかったと思う。僕も子供を持つ親だから、残酷な結末は演じるのが辛い。もちろん犯人が誰なのか、結末がどうなるのか知った上で始めた映画だから、それがとても心配でもあったが、やってみる価値のあるストーリーが隠されていたので、確信が持てた。エンディングが全部ではないから。

―「極秘捜査」を演じながら、人生を振り返ったか。

キム・ユンソク:そうだ。ヒットした作品も、そうでなかった作品も経験してきて、自分自身では虚しい感じがあった。まるで中身が空っぽのお菓子のような感じだったけど、そのような困難を乗り越えるきっかけとなった。俳優として誠実に演技をして勝負をかけると、伝わるというのを感じたとも言えるだろうか。喉の渇きが解消された感じだ。

―「極秘捜査」のキャスティングの段階で、クァク・キョンテク監督とキム・ユンソクの組合せは似合わないという懸念もあったが、結果的には成功だった。

キム・ユンソク:そうだ。そのような懸念が周りでかなりあった。クァク・キョンテク監督はいわゆる男性性の強い、タフなストーリーを多く扱ってきた。特に暴力団員の人生や男同士の友情を描く映画を多く作ってきたが、僕は個人的にそのようなジャンルを好む方ではないので、監督と出会う機会がなかった。けど、今回はクァク監督がハードボイルドな作品の代わりに刑事物を試みていたので、僕も参加するようになった。いくつかの試練の末に、クァク監督自らも内面が変わってきたようで、進化したようで(笑) 実はクァク監督と僕は幼い頃に釜山(プサン)に住んでいたし、しかも同じ西(ソ)区に住んでいた。「極秘捜査」の実話が実際に釜山の西区で発生した事件だし、僕が小学生の時に接した事件だったので、クァク監督とは共感できるものが多かった。監督と会ってシナリオについて話し合っていると、幼い頃の話も出てお喋り会になったりもした(笑)

写真=映画「極秘捜査」スチールカット
―実際住んだことのある地域で発生した事件だったのでもっと共感できたか。

キム・ユンソク:シナリオの2ページを見た時に、その事件を思い出した。僕が小学生の時だったけど、あの頃は貧しかったから誘拐が流行のように発生していた。誘拐されたとしても、犯人がすぐ捕まるような時代でもなかったし、子供を失ってしまう場合も多かった。映画で登場する背景も似ている。父はいつも床でテレビばかり見ているし、コブッソン(亀甲船)タバコの匂いが香水の匂いのようについていた時代だったから。幼い頃を思い出し、監督と僕で子供時代の駄菓子の名前を誰が多く挙げられるかという賭けもした。ハハハ。

―幼い頃は女の子のように可愛かったというけど、ご両親の心配が大きかったのでは。

キム・ユンソク:僕も常にホイッスルを首にかけていた。もちろん可愛い子だったけど、すごくやんちゃ坊主だったので両親もそこまで心配が大きくはなかったと思う。ハハハ。

―クァク・キョンテク監督の作品には必ず登場する釜山弁。釜山出身のキム・ユンソクが大活躍した。

キム・ユンソク:クァク・キョンテク監督が今まで一緒に仕事をした俳優の中で僕が唯一の釜山出身の俳優だ。釜山弁がきちんと使える俳優は初めてだった(笑) これまで監督は俳優たちに釜山弁を教えることで苦労していたけど、今回はそんな苦労がなかった。ハハハ。ただ、やや過剰なオリジナルの発音だったので、ユ・ヘジンがそんな部分はチェックしてくれた。

―ユ・ヘジンとの呼吸も言うまでもないと思う。

キム・ユンソク:演技を合わせてみる必要もなかった。もともと合わせたりはしないけど、即興的に出てくるそんな息がすごく良かった。振り返ると、「タチャ いかさま師」(2006、監督:チェ・ドンフン)の時はアグィ(キム・ユンソク)がコ・グァンリョル(ユ・ヘジン)に会った初対面の場で彼の手の甲にナイフを刺す。「チョン・ウチ 時空道士」(2009、監督:チェ・ドンフン)では、ファダム(キム・ユンソク)はチョレンイ(ユ・ヘジン)を人として見てくれない。ハハハ。人と人として出会って会話をしたのは今回が初めてだ(笑)

―最近、ユ・ヘジンがカッコよさのアイコンとして浮上しつつあるが、ユ・ヘジンとのビジュアルをめぐっての神経戦はなかったか。

キム・ユンソク:ハハハ。何を言っている。美貌が重要な女優と違って、男優たちはそんなことは気にしない。女優たちには申し訳ないけど、男優というのは外見よりはその魅力に惹かれるものなのでは。各自の魅力が強烈だから、そんな神経戦はまったくなかった。

―4日、「プリースト 悪魔を葬る者」(監督:チャン・ジェヒョン)の撮影を終えたが、これも期待していいか。

キム・ユンソク:これこそビジュアルが期待できる作品だ。カン・ドンウォンが出るのだから(笑) 多分、忠武路で見たことのない新しいジャンルが誕生するだろう。面白い作品が出来上がりそうだ。

―今後の次回作は準備中か。

キム・ユンソク:「プリースト 悪魔を葬る者」の撮影が終わったばかりだし、「極秘捜査」のプロモーションもあるので、当分は少し休みたいと思う。休みながらシナリオを色々と読んでみて、次回作を決めたい。

記者 : チョ・ジヨン、写真 : ムン・スジ