チェ・ジニョク、彷徨の果ては成長であった

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※この記事にはドラマのストーリーに関する内容が含まれています。
「太い、男らしい、芯がありそうだ」

彼の第一印象に関する表現だ。思っていたイメージは合っていた。その若さには似合わない確固な信念があり、恋愛の際には男の中の男になる。作品のためなら一歩も下手には進まないこだわりもあった。俳優チェ・ジニョク(29)がそうだ。

チェ・ジニョクのデビューは華やかなものであった。2006年にKBS 2TV「サバイバルスターオーディション」で大賞を受賞し、その可能性を予告した。すべてが上手く行くと思っていた。そうやって5年が過ぎた。振り返ってみると、可能性をチャンスに変える時間であった。2011年のtvNドラマ「ロマンスが必要」を皮切りに、MBC「九家(クガ)の書 ~千年に一度の恋~」(2013、以下「九家の書」)、SBS「王冠を被ろうとする者、その重さに耐えろ-相続者たち」(2013、以下「相続者たち」)に出会ってから暗かったトンネルから完全に抜け出した。人気を実感する前に、彼は間もなく次回作を選んだ。そうやってtvN「エマージェンシー・カップル」で演技歴8年のチェ・ジニョクは初主演を手にした。

4月のある日、ソウル三清洞(サムチョンドン)の某カフェで医師の白いガウン(チェ・ジニョクは「エマージェンシー・カップル」で医師役を演じた)を脱いだばかりのチェ・ジニョクに会った。徹夜の撮影を終え、半日間の休息をとってから出てきた彼は、まだ疲れが取れていないような顔だった。目は赤く充血しており、目立つほど痩せていた。しかし、表情だけは明るかった。「ドラマを撮影しながら、一日もオフがありませんでした。筋肉は落ち、お腹は出て…目立ちますか?それでも休みたいとは思っていません。今まで、十分休んでいたので」中低音の静かな笑い声とともにインタビューは始まった。


主演までなんと8年…今がタイミング

最近韓国で放送終了となった「エマージェンシー・カップル」は、病院の救急救命センターを舞台に離婚した夫婦の再会を描いたラブコメディドラマだ。チェ・ジニョクは劇中で世間知らずでお茶目な男性主人公オ・チャンミン役を演じた。デビューしてから一度も演じたことのなかった、砕けた言葉でいうと少し“情けない”キャラクターだ。

「チェ・ジニョクとオ・チャンミンのシンクロ率は、50%程度です。明るい性格は似ています。実はその部分が気に入りました。ぜひ演じてみたいと思ったんです。これまでは重い役を主に演じてきました。『九家の書』もそうですし、『相続者たち』でも同じでした。そのようなイメージを破りたいと強く思いました。オ・チャンミンは悪口も言うし、声も上げるし、テーブルをひっくり返したりします。このように壊れる役も僕は演じられるというのを見せたかったです」

もう一つ欠かせないのはオ・チャンミンそしてチェ・ジニョクの成長だ。オ・チャンミンは前妻のオ・ジニに再会し、彼女の真価に気付いてから本物の男に変化していった。チェ・ジニョクも主演俳優としての基盤を整えるに良いきっかけを迎えた。

「オ・チャンミンとオ・ジニは二人とも幼かったです。状況に飲み込まれ、お互いの長所を見ることができず別れてしまったんですね。そこでまた再会し、当初は気付いていなかった相手の性格に好感を感じて愛に気付きます。二人のキャラクターの真摯な成長が気に入りました」

「最初はすごくプレッシャーを感じていました。助演と主演の問題ではなく、とりあえずリーダーシップを発揮しないとという気持ちがありました。『私の娘コンニム』を撮影していた当時のチョ・ミンス先輩の影響が大きかったです。当時先輩は『主人公は雰囲気をリードしないと』とアドバイスしてくださいました。スタッフと俳優たちの間で架け橋になりたかったです。それが主人公の担うべきもう一つの仕事であると思いました。初撮影からかなり気を遣っていました。スタッフや俳優たち一人ひとりと対面し、『よろしくお願いします』と挨拶をしました。主人公が元気がないと、周りの人も元気がなくなるでしょう?いつも頑張ろうと努力していました」

別れてまた再開する恋愛は勧めない

劇中でオ・チャンミンとオ・ジニは2度目の出会いで愛を叶える。チェ・ジニョクにも再会の経験があった。最初よりもっと本気で接したが、結末を変えることには失敗した。ドラマと現実は違うものなのだ。

「別れてから、復縁することはあり得ることだと思います。しかし、結局は問題が生じますね。忘れていると思っていたよくない記憶を、突然思い出したりします。仕方ないことです。別れを日常のように何回も繰り返す友人のカップルがいました。結局はみんな別れるんですね。信頼は引き続き落ちていくしかないので。僕が視聴者の立場から考えてみても、オ・ジニはオ・チャンミンに戻ってきてはいけませんでした。胸を傷付けた記憶をどうやって忘れるんですか。ククチーフ(オ・チャンミン&オ・ジニと三角関係を形成した人物)を選んだほうが、色々な面で正しかったと思います。ハハハ」

チェ・ジニョクの恋愛の仕方はオ・チャンミンと似ている。唐突で率直だ。愛すべき相手にまだ出会ってないだけで、情熱だけは溢れている。

「冗談で言うことではなく、本当に恋愛をしなくなってかなり経ちます。わざわざ避けていたわけではなく、チャンスがありませんでした。実はやや深く夢中になる性格なので、心配もありますね。恋愛をするなら…そうですね。では、この辺で理想のタイプを公開しましょうか!僕は清純派でキュートな女性が好きです。ただ、愛嬌は僕だけにね。あまりにも痩せている女性は好きではありません。誰か、良い人いませんか?ハハハ」


30代、そしてスランプの克服…癒しの時間

かなり長かった無名時代であった。その中にはスランプも、暗黒期もあった。俳優という職業を諦めたいと思った瞬間もあった。お酒もたくさん飲んだ。克服のための特別な方法はなかった。ただ耐えてまた耐えるのみだった。心を強くして根性で耐え抜いたら、彷徨の果てまで来ることができた。そこにあったのは“癒やし”だった。

「演技的な悩みが一番大きかったです。自分で思っても、あまりにも物足りないように感じました。『この仕事を続けるべきなのか』と苦しんでいました。デビュー当初は監督から『殴りたい(ほど下手)』と言われたこともあるほどでした。かなり良くないことも言われましたね。26~27歳の頃までは演技を楽しむことができませんでした。これ以上悪いことを言われるのは嫌だと思い、歯を食いしばって努力しました。今は当時よりは良くなったと思っています。ハハハ。20代が切実さに追われていた時期だったとしたら、数え年で30代となった今は少し気楽になった感じです」

現在チェ・ジニョクはソウル警察広報隊に最終合格している。年内には入隊する。「幼い頃から、軍隊が怖いとは思っていませんでした。2年間仕事ができなくなるというのが残念なだけですね。湧き出るように溢れる情熱で、また戻ってきます!」

記者 : キム・プルイプ、写真 : イ・ソンファ