「弁護人」キム・ヨンエ“ソン・ガンホは恐ろしい俳優、自分も気を引き締めなければ”

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女優キム・ヨンエ(62歳)はこれまでの作品で主にカリスマ性溢れる姿で人々の前に立ってきた。KBS 2TVドラマ「ファン・ジニ」、MBC「ロイヤルファミリー」と「太陽を抱く月」にいたるまで、針で刺しても血の一滴も出てこないような芯のあるしっかりとしたキャラクターを演じてきた。

しかし、キム・ヨンエは「一番嫌いな言葉が“カリスマ”だ」と言うほど、実際の姿はか弱い少女のようだった。化粧っ気のない姿で一人でバスに乗るほど気さくな彼女は、「実際はカリスマ性どころか、むしろ静かな方だ。普段より強い感じで演技しようとすると毎回エネルギーがなくなった」と打ち明けた。

昨年12月18日に公開され、観客動員数800万人を突破してヒットを飛ばしている映画「弁護人」(監督:ヤン・ウソク、制作:ウィダスフィルム)で、彼女は人間味溢れるクッパ(韓国風雑炊)屋の店主スネ役を演じ、真心が感じられる演技で観客に熱い感動を届けている。女優人生の第2幕が開けたと言っても過言ではない彼女は、「弁護人」のヒットに「最近、人々に良く気づかれるようになった」と恥ずかしそうに笑った。

「『弁護人』を見た知人たちの特徴があります。みんな泣いているような声で電話をかけてくることです。泣きそうな声で電話が来たら、『あ、映画を見て電話をしてきたんだな』と思っても良いほどです。私もそうですが、『弁護人』を見ると、なぜか誰かと話したくなるような気分になるんですよね」

事業を始めてから毎朝新聞を熟読するという彼女は「弁護人」への出演を躊躇った理由として、「政治や社会的話題の真ん中に立つことを躊躇したため」と明かした。新聞やテレビを見て嘆いたり怒ったりもしたが、前面に出て自分の立場を明かすより、“良い女優”として覚えられたいという願いの方が大きかったそうだ。

しかし、映画を見るとなんだか借りがあるような気分になったというのが彼女の説明だ。彼女は「寄付をしたことはあるが、親戚、兄弟以外の誰かのために何をやったのか、借りがあるような気がした。私の利益と安否を投げ出して、真実と正義をどれぐらい考えたのか振り返るようになった。そんな人たちがいたからこそ、今日があるのではないか」と本心を打ち明けた。

「太陽を抱く月」以降、SBS「わが愛しの蝶々夫人」、映画「弁護人」と「めまい」、そして最近放送終了したMBC「メディカルトップチーム」まで。息つく間もなく走ってきた2年間だったが、むしろ現場にいる瞬間だけは元気だった。2012年、すい臓がんの手術後、「感情的に起伏が激しく、苛立ちが多かった」という彼女は「演技をすると身体は疲れても、感情は落ち着いた」と伝えた。

「『めまい』で妄想障害のある女性を演じましたが、その後、しばらくの間うつ病になりました。元々作品が終わったら、キャラクターからすぐ抜け出す方ですが、『めまい』はそうではありませんでした。その後、『メディカルトップチーム』を撮影しながら一週間に4~5日徹夜をして、身体の調子がかなり悪くなりました。だから先日一週間の間、何もしないで休みながら、これまでたまっていた記事も読んだりして、失った気力をかなり回復しました」

以下はキム・ヨンエとの一問一答である。

―芸能人の間でも「弁護人」ブームが巻き起こっている。

キム・ヨンエ:本当にこんなにも愛されるとは予想しなかった。個人的な願いとしては、映画そのものを評価して欲しいということだ。映画を見て感じる感想は、人それぞれのものだ。もちろん、すべての関心に感謝しているが、どちらか一方に偏った評価ではなく、映画を映画として見てもらいたいという願いの方が大きい。

―共に熱演した俳優たちはどうだったか?

キム・ヨンエ:ソン・ガンホという俳優が本当に演技が上手な俳優であることを改めて感じた。映画を見ながら気を引き締めなければと思った。私はその瞬間の集中力と感性だけで演技をする。ソン・ガンホさんは感性と集中力、分析力がすごい。本当に恐ろしい俳優だ。また、エキストラの方々まであれほどまでに演技が上手いとは。43年間演技をしてきて、自分に対する期待というものがあるじゃないか。「キム・ヨンエ、しっかりしないと」と自然に思えるようになった。オ・ダルスさんは緊張しないでリラックスして演技をするので、不思議に思って聞いてみると、それなりに緊張しているそうだ(笑)

「弁護人」に出演するすべての俳優全員、初めて見る俳優たちだった。ZE:Aのシワンとは「太陽抱く月」に一緒に出演はしたが、その時は顔は一度も合わせなかった。私の最初の撮影は、ソン・ウソク(ソン・ガンホ)の弁護士事務室を訪れ、泣きわめくシーンだったが、初めて会ったソン・ガンホさんを相手に演技することにかなり緊張した。本当に緊張したが、ソン・ガンホさんがリラックスできるようにしてくれた。

―あまりにも謙遜するではないか。

キム・ヨンエ:私はいつも作品に出演する度に、初夜を迎えるような気分だ。嫁ぐ気分とも言えるだろうか。いつもひどく神経質になる。上手にやらなければならないという思いからすごく緊張するし、撮影現場でも気楽ではいられない。ソン・ガンホさんを見て驚いたほどだ。何十年もやっていれば気楽に出来そうなものだが、全然そうではない。私が少し気を緩めて演技をしたシーンはすぐ分かる。

―マスコミ向け試写会で「弁護人」への出演を迷ったと明かした。

キム・ヨンエ:政治的なイメージに見えることに対する躊躇いがあった。正直に言うと、ソン・ガンホさんが出演する映画は映画関係者の方がたくさん見るじゃないか。ソン・ガンホさんが出演するというので、「弁護人」に出演した部分もある(笑) 事業を7~8年間ぐらいやっていると、キム・ヨンエという女優はかなり忘れられていた。女優として再び自分の居場所を作るのはそれなりに難しかったが、業界の人々に女優キム・ヨンエの存在を示したかった。また、私には怖いくらいのカリスマ性溢れるイメージが強いが、実際はまったく違う。キム・ヨンエの色を変えたいという気持ちも大きかった。

―「グッバイ、マザー」と「弁護人」の母性愛演技にはどんな違いがあるのか。

キム・ヨンエ:私は分析して、計算をしながら演技をする方ではない。ただ、台本を熟読して、その人物が動くままに演技をする。「弁護人」で今でも忘れられないシーンは、息子であるジヌ(シワン)と初めて面会したシーンだ。シワンが近づいて、イスに座るとき、すべてが止まったような気がした。シワンの目を見られなかった。その瞬間は少し特別だった。呆れて、胸がつぶれるような思いだった。

―実際の釜林(プリム)事件の被告人たちに会ったのか。

キム・ヨンエ:それは全くない。今でも毎朝、新聞を何時間も熟読する。特に、事業を始めてからは政治、社会面をよく読むようになったが、誰かに政治後援金を出したくても、積極的に動けなかった。言い訳をすると、どうやって出すのかも知らなかったし、生きることがあまりにも忙しかった。

―女優キム・ヨンエの経歴において「弁護人」はどんな意味を持つだろうか。

キム・ヨンエ:これから私にどれぐらい演技が出来るか分からないが、43年間演技をしてきて、素晴らしい作品に出会うということは考えているよりも簡単なことではない。10本の指で数えられる程度だ。時には、自分が出演したことを忘れた作品もあった。「弁護人」は恐らく、10本の指に入る作品になるのではないだろうか。100万人の観客を集めることがどれだけ大変なのかよく分かっている。本当に感謝しており、光栄だ。

記者 : キム・スジョン、写真 : ムン・スジ