「オフィスの女王」スーパー派遣社員キム・ヘス&新米チョン・ユミ:SPECIAL INTERVIEW

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「戦場では誰もが傷を追う。その傷が誰かには明日も期待したくなる恋に、誰かには今日も生き残ったという安堵に、もしかすると誰かには二度と騙されたくないという願望になるかもしれない。その傷が何であっても、いかに深くて大きいものであっても、今日も私たちはみんな出社する」―KBS 2TV「オフィスの女王」第5話、チョン・ジュリ(チョン・ユミ)のナレーションより

あらゆる資格を持ち、正社員3人分の仕事をサクサクこなすというスーパー派遣社員ミス・キム(キム・ヘス)、そして毎日ミスの連発で3ヶ月後の未来が見えない新米派遣社員チョン・ジュリ。同じ非正規雇用だが、成果も待遇も期待も月とすっぽんのようなこの2人。しかし考えてみるとミス・キムの過去がチョン・ジュリで、チョン・ジュリの未来がミス・キムではないだろうか? 最近毎朝Y-Jangオフィスに出社している2人の派遣社員キム・ヘスとチョン・ユミに会った。

◆ベテラン派遣社員、キム・ヘス

―「オフィスの女王」の第1話を見てつい“さすがキム・ヘス!”という声が出ました。期待を裏切らないキム・ヘスです。

キム・ヘス:実は落とし穴だったり。ありがたいことですが、私にそのように資格があるかどうかよく分かりません。期待に応えられないこともあり得ますし。なのでお互いもっと肩の力を抜いたほうが良いと思います。

―原作「ハケンの品格」の大前春子(篠原涼子)というキャラクターをどう表現するか気になっていましたが、まず見た目からきちんとしたパンツスーツにまとめ髪…私の予想は外れました。

キム・ヘス:あら、どんな姿を予想されたんですか?

―制作発表会の姿?ポスターでも体のラインに沿ったシルエットのドレス姿でしたよね。

キム・ヘス:私は台本に従うほうです。“ヘアネット”は意味のある設定です。脚本家と話し合ってこれは絶対に生かしたいと思いました。パンツだけにこだわるのも理由があります。実は私は一着でいこうと思っていましたが、プロデューサーが汚くみえるとおっしゃって(笑)もう一着を用意しました。今着ているのがそれです。

―キム・ヘスさんといえば、見ごたえのあるユニークなファッションで有名ですが、その意味ではご本人のトレードマークを諦めたのではないでしょうか?

キム・ヘス:役柄に合わせるのが当たり前だと思います(笑) 前作のファッションでは運よく色んな服装にチャレンジができる役だったので、色々トライしてみましたが。私は今回のミス・キムが大好きです。初登場はミステリアスというか、悪く言えば正体不明の女でした。でも第3話の“カンジャンケジャン(カニを醤油につけた韓国料理)”エピソードの場合、主婦の目線に合わせた本物の“仕事のできる女”、プロを見せなければならなかったです。チャン・ギュジク(オ・ジホ)が見て「あんな女だったのか」と感心できるように。音楽や編集でカバーできたかも知れませんが、私がどんな態度なのかが一番重要でした。「キム・ヘスは様々な姿を見せるんだな」という程度で留まると失敗です。

「もっと見たら意識してしまいそうでした」

―原作にはないシーン、例えば“タンバリン”シーン、お肉を切るシーンなどが話題になっています。

キム・ヘス:私は原作を第1話だけ見ました。日本のドラマは常識的なレベルながらもキャラクターのディテールや発想などがユニークで新鮮ですよね。最初の打ち合わせで原作を参考にしてもいいかと伺いました。見てもいいだろうと言われたので第1話を見たら、既に大前春子が完璧に表現されていて。もっと見たら意識してしまいそうでした。うっかり真似してしまったり、逆に差別化を図ろうと頑張ったり…どちらもダメだと思って止めました。よく考えてみると再構成し、新しく取り入れたシーンはどこがどう違うのか良く分かりません。ただこの与えられた台本が凄く気に入っています。脚本家と笑いのツボが良く合っていると思います。ト書きにすべてのヒントがあります。タンバリンシーンの場合は「五輪選手並にする」と書かれていました。タンバリンを持って楽屋であれこれやってみて、どうすればもっと面白くなるか結構悩みました。

―カラオケにはよく行かれますか?慣れているように見えました。

キム・ヘス:あまり行きません。コ・ジョンド課長(キム・ギチョン)の台詞にもありましたけど、「キム君、結構遊んでた?」って(笑) 基本的に“ミス・キム”は何でも驚くほどテキパキこなさないといけないと思います。「私の仕事ですから」ということは、ある意味単純労働です。それをいかに人並み外れて、“上手くこなせるのか”をお見せするためにはそれしかないと思います。「あれほどなら手当てを上げてもいい」と言われないと。撮影の時にタンバリンの達人がいらっしゃったんですが、到底真似できなくて。それで私なりに準備したとおりにしました。でも音は多分達人のものを録音して使ったと思います。その他にも技術的なことは代役がいます。お肉を切るシーンもそうでしたし。新しい台本が出ると、すぐ準備に入ります。専門的に見えるために。

―非正規雇用について考えたことがありますか?

キム・ヘス:私も“非正規雇用”です。でも私は選ばれた者、恩恵を享受できる非正規雇用かもしれないですけど…。「私も私なりに辛いことがありますよ」と言ったらダメですよね。でも芸能人も実は上位の0点何パーセントを除くと、生活が厳しい方も結構多いです。1ヶ月の食事代、車代にもならないのに公演をする方も多いし、上位に入るとしても一時的なことに過ぎない場合も多いと思います。でも正社員も一緒ですよね。周りを見ても私と同年代の人が退職するかどうか悩んだりしています。正社員も派遣社員も多くの労働者が生活に苦しんでいるわけです。そのようなことを知れば知るほど、そのような話を聞けば聞くほどこの台本に夢中になります。痛快さと笑いだけがあるのではなく、重要なメッセージが入っていてもっと好きです。

「私自身もミス・キムから癒されたり、刺激を受けたりします」

―チョン・ユミさんはキム・ヘスさんの台詞が現実的に心にしみたと言いました。ガリガリの体云々の台詞がありましたよね。本当に先輩が後輩に話しているみたいだったと。

キム・ヘス:なるほど。“チョン・ジュリ”は“ミス・キム”の過去かもしれないし、ミス・キムがチョン・ジュリの未来かも知れませんから。ストーリーよりもドラマの性格を保ちながらメッセージを伝えるのが大事ですが、それぞれのキャラクターがよく生かされていて何よりです。これからどう保ち発展させて、さらに共感を得るのか、どんなメッセージで締めくくるのか、ミス・キムの退場と同時にどんな余韻を残すかが重要です。少しの間であっても人生にどんな影響を与えて受けるかも大事でしょうし。多分脚本家さんもそれで色々と悩んでいらっしゃると思います。私もミス・キムから癒されて刺激も受けています。視聴者の皆さんが代償行動をするように私もそうです。

―チョン・ユミさんが現場で演技以外にもたくさん学んでいると言っていました。

キム・ヘス:私もいつもそうです。今回はみんなハマり役、最高のキャスティングです。オ・ジホさんもそうですし、チョン・ユミさんもそうです。チョン・ユミさんの演技は以前から好きでした。いつも役にぴったりの女優さんです。しかも“チョン・ジュリ”がこのドラマの実質的な主人公ですよね。飾らず繊細でさりげなくて好きです。また“ム・ジョンハン”は、優しい男だから目立たず埋もれがちだけど、イ・ヒジュンさんの心のこもった演技が視聴者に伝わっているみたいで…キャスティングディレクターがすごいですね(笑)

―イ・ヒジュンさんは本当に作品ごとに別人のようです。きっと生まれつきの役者さんなんでしょうね。ところで2AMのチョグォンさんが「ハッピートゥゲザー3」でキム・ヘスさんが「頑張ってね」と言ってくれたと喜んでましたよ。モニタリングできるように直接撮影もしてくださったと。

キム・ヘス:チョグォンさん、すごく上手です。普通は出番がない時ほど頑張って目立ちたがります。そうすると全体的なバランスが崩れちゃいますよね。実は私はチョグォンさんがバラエティ番組に出演しているところを見たことがありません。歌が上手なことだけは知っていましたが。彼はいつも現場で台本をずっと見ています。それにオーバーアクションもせずちょうどいい演技を披露するんです。簡単にできることではないのに。撮影はマネージャーさんが迷惑をかけてしまうのではないかと心配していたようだったので、私が代わりにやっただけです。

―現場の雰囲気がとりわけ良さそうです。ちゃんと仕切る方がいらっしゃるからでしょうね?

キム・ヘス:オ・ジホさんです。いつも笑顔で頑張っています。誰にでも優しくて思いやりがあって一人ひとりに気を配って挨拶も忘れず。びっくりしました。

「私もこの“ミス・キム”が好きです」

―桜の下のキスシーンでぼーっとしていたオ・ジホさんの表情、今でも頭に浮かびます。ところで恋愛要素について色々と意見が分かれています。私は“ム・ジョンハン”であれ“チャン・ギュジク”であれ、2人とも“ミス・キム”には似合わないと思います。実はSBS「放浪食客・食事しましたか?」を見てからはこの器に合うような韓国の男性はいないだろうと思ってます。

キム・ヘス:案外多いですよ(笑) 少し時間が経つと2人とも似合うと言うかもしれません。私が普段から気の強い役柄をよくやっていて、完璧主義で怖いというようなイメージがありますが、全く違います。気難しい人は私も苦手で。でも実はオ・ジホさんが演じるから可愛く感じるけど、実際にあのような男性は(笑) 原作でも恋愛が始まるかどうかだったと聞きました。このドラマもそうなるのではないでしょうか。

―ハム・ヨンフンプロデューサーはドラマの基本は恋愛だとおっしゃったんですが。

キム・ヘス:そうなんですか? それは知らなかったですね(笑) 恋はいつもどこにでもある、くらいに解釈したいです(笑) “チャン・ギュジク”に惹かれなくても巻き込まれることはありかもしれません。現実ではミス・キムのような人はいないでしょうね。でもミス・キムのような人が多くなって、希望と可能性を見せながらミス・キムは立ち去って、そしてミス・キムのことを懐かしく思っていつの間にか自分がミス・キムになっている、このように流れたらと思っています。

―考えてみたんですが、この役はキム・ヘスさんじゃないと誰もできなさそうです。

キム・ヘス:多分この“ミス・キム”は私みたいにはできないでしょうね。また別のミス・キムならできると思いますけど。もちろん私もこの“ミス・キム”が好きです(笑)


◆ミスだらけの新米派遣社員、チョン・ユミ

―ドラマ出演をずいぶん間を置いてしますよね。それでtvN「ロマンスが必要2」が終わってから何年間見られないのかなと思っていました。今回は結構早かったですね。

チョン・ユミ:出なかったのではなく出られなかったんです。もちろんその間に映画も撮影しました。私は「ケ・セラ・セラ」が終わってから自信がついたというか、何日か休んだらすぐまた演技がしたくはなったのですが、残念なことに縁のある作品に出会えなかったんです。だから、しなかったのではなく、出来なかったというほうが正しいですね。

―MBC「ケ・セラ・セラ」のハン・ウンスも、「ロマンスが必要2」のチュ・ヨルメも、まさにその人物のように感じられます。楽園商店街やユン・ソクヒョン(イ・ジヌク)と一緒に住んでいたその家に今も住んでいるような気がします。

チョン・ユミ:どうやってできるのかは私も良く分かりません(笑) 役作りをどうしようか考えるより台本を選ぶ時に十分に考えるほうです。決めてからはそのままを信じようとしています。与えられたストーリー、台詞、状況に夢中になりたいとそればかり考えます。

「この台本が私を癒してくれています」

―真面目な役を主にやってきたので、今回のコメディが意外でした。

チョン・ユミ:私もコメディだと思って参加したわけではありません。台本を見てすぐ「私が見逃しているものがこんなに多かったんだ」と気づきました。この社会を生きながら経験することなど、そのようなことをされている方々が感じていることが見えました。でもドキュメンタリーのように、リアルだともっと辛いですよね? 笑いの中にそのようなものが混ざっていたほうがいいと思います。私のキャラクターが出たら見ているだけで辛くなるという方々もいらっしゃるみたいですけど(笑) 実は私も“非正規雇用”なんです。多くの役者が望む通りに仕事をしているわけでもありません。私はそれでも選ばれた者だと思いますし、運も良かったと思います。

―ナレーションも“チョン・ジュリ”がやっていて、真の派遣社員は“チョン・ジュリ”ですから、原作より重みのある役ですよね。

チョン・ユミ:実は私もこの台本を初めて頂いたとき、いい状況ではありませんでした。やりたかった台本があったんですが、出来なかったんです(笑) 自信あるのにどうしてやらせてくれないのだろうと思っていた頃でした。その時にこの台本を頂いて、この台本が私を癒してくれたんです。ちょうどいいタイミングで癒されて良かったです。それで私が癒された分、良く考えて感じて表現したいと思いました。

―“チョン・ジュリ”が初めて出勤した時、きょろきょろしていた姿がチョン・ユミさんご本人の姿かもしれないと思いました。ドラマの現場は不慣れではないでしょうか?

チョン・ユミ:作品のせいか偏見を持たれるようになったみたいです。自主制作映画にしか出ない女優みたいな認識というか、でも実は自主制作映画もそんなにたくさん出ていません(笑) 最近本当に出勤する感覚で現場に来ているのですが、面白いです。見ていると色々と勉強になります。みんな結構違いますから。

―2AMのチョグォンさんが演じる“ケ・ギョンウ”が“チョン・ジュリ”に片思いをするようになるみたいですが、アイドルとの共演も新しい経験ですよね?

チョン・ユミ:神話(SHINHWA)のエリックさんと共演したことがあります(笑) チョグォンさんは自分のエネルギーがある人です。私とは違って。だから新鮮というか面白いです。

―これまでのキャラクターの中で最も愛着のあるキャラクターは何ですか?

チョン・ユミ:これまでの私のキャラクターや相手役みんな好きです。でもこのドラマをやっているから“チョン・ジュリ”のことしか思い浮かびません。今は“ミス・キム”が一番魅力的ではないかと思います。私は“ミス・キム”のことが大好きです!


「私もキム・ヘスさんのOKだけを待っていました」

―“ミス・キム”はキム・ヘスさんではない“ミス・キム”は想像できません。

チョン・ユミ:私もキム・ヘスさんのOKだけを待っていました(笑) 私も主役を演じたいという欲はあります。でもこの作品で“ミス・キム”をキム・ヘスさんが演じるなら、他のどんな役でもかまわないと思っていました。

―2人の演技とても相性がいいですね。

チョン・ユミ:あ、本当に共演できるとは思ってもいませんでした。2人は違う感じじゃないですか。多分映画ではもっと無理だと思います(笑) ドラマだから可能になったというか、特にこのドラマだからこそできたことでしょう。運が良かったんです。ところで私が“ミス・キム”をやったら、おかしいですよね?

―そのような役はやはりちょっと…できないとは言えませんが。

チョン・ユミ:いつかはこのパワーを頂いて見て学んだら、できないことはないでしょうけどね(笑)

―逆にチョン・ユミさんがこれまでやってきた役もチョン・ユミさんだけができると思います。以前エリックさんから聞きましたけど、「ケ・セラ・セラ」も現場の雰囲気がとても良かったと。キム・ユンチョル監督もすごい方ですね(笑)

チョン・ユミ:はい、私も色々と助かりました。ドラマが初めてだったので心配事もありましたけど。困難にぶつかるたびに一つ一つ説明してくださって。それでも演技はまだまだ厳しいです。毎日のように壁にぶち当たっています(笑)

―チョン・ユミさんにはマニアがいますよね。なぜあんなに好かれているんだと思いますか?

チョン・ユミ:目の肥えた方々です(笑) 私は目立つタイプでもないですし。作品に出演するだけなのに、それでも私のことを信じて応援してくださるから、本当に感謝しています。

―プロデューサーさんたちもそうですし、みなさんがなぜチョン・ユミさんを起用したがるのか、ファンはなぜあんなにチョン・ユミさんのことを愛しているのか分かりました。

チョン・ユミ:なぜですか?

―可愛らしいです。

チョン・ユミ:(笑) 本当ですか? ラッキーですね、私は。ひたすら運が良かったわけではないですが、それでも選ばれたと思います。もっと頑張りたいです。実はどうすればいいのかよく分かりませんが、それでもベストを尽くしたいと思います。

―今回久々の地上波ドラマ出演、ファンたちも喜んでいますよね?

チョン・ユミ:はい、でも残念がる方々もいらっしゃると聞きました。主人公ではないと。でもこの作品ではこうやって、映画のように端役とか脇役もやることもあるだろうし、機会さえあれば何でも気に入る役はやれると思います(笑) 私は残念がる理由はないと思います。

―ナレーションが回を重ねるごとにだんだん深くなりますね。

チョン・ユミ:ですよね? こんなこと言ってもいいのかな? これからもっともっと良くなります。台本を読んで大笑いをしていても最後のナレーションを見ると胸がきゅんとなります。こんなにいい作品に私が出演しているなんて、嬉しいです!

エピローグ
“ミス・キム”のことが大好きだと、キム・ヘスさんと共演できて本当に嬉しいとずっと自慢していたチョン・ユミさん。そしてこのドラマの実質的な主人公は“チョン・ジュリ”だと、彼女の演技はさりげなく自然だとしきりに褒めるキム・ヘスさん。全く違うように見えてお互い通じる何かがあるに違いない。吸い込まれそうな深く澄んだ瞳、短く切った端正な爪、アクセサリー一つつけてないところも一緒で、何より爽やかな笑顔がそっくりだった。私も彼女たちと一緒に出勤したい。おばさん派遣社員もいるだろうし。しばらく一緒にいると、少なくとも思わず笑顔になってしまう、あの無邪気な笑顔だけは少し真似できるのではないだろうか。

文:コラムニスト チョン・ソクヒ

「NAVER スペシャルインタビュー」では、注目が集まっている話題の人物にコラムニストのチョン・ソクヒさんがインタビューを実施。韓国で一番ホットな人物の本音をお届けします。

記者 : チョン・ソクヒ、チョン・デチョル