Vol.1 ― シン・ヒョンジュン、彼が今年残した足跡:SPECIAL INTERVIEW

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「感嘆の連続」という言葉がある。俳優シン・ヒョンジュン、彼がこの2012年の1年間を歩いてきた足跡を見て感じる気持ちが、この表現にピタリと当てはまる。今年3月にSBS「愛の贈り物」でこれまで見たことも聞いたこともない、気難しい天才“チェ・ゴマン”というキャラクターを作り上げて人々を驚かせたと思えば、立て続けにKBS「カクシタル」では、馬鹿と英雄という正反対の二つの顔を演じ、再び私達を驚かせたシン・ヒョンジュン。それまでも私達を笑わせ、泣かせたが、それで終わりではなかった。

秋からスタートしたKBS「ウララ・カップル」での完璧な変身。男性と女性を行ったり来たりしながら、ここでも二つの顔を見せた。彼は1年間に、なんと5つものキャラクターを演じたことになる。時代背景も、ジャンルも全て異なり、似たところ一つもない全く別の人物を、どうすればあのように自然に演じることができるのだろうか。しかし、告白してしまうと、“シン・ヒョンジュン”と言えば思い浮かぶ映画「家門の栄光」シリーズの軽いイメージの影響からか、あるいは何回か映画授賞式で起こしたハプニングのせいか、私は彼がそれほど演技のうまい俳優だとは知らなかった。もしかすると、彼に凝りもせず付きまとってきた噂による先入観が原因だったかも知れない。素晴らしい実力に気づかなくて申し訳ないと謝罪もしたかったし、どのような苦労と努力があってあのような個性豊かな人物が誕生したのかも気になったので、先週、厳しい大雪をかいくぐって彼に会ってきた。

「教え子たちのお手本になりたかったんです」

―2012年はシン・ヒョンジュンさんにとって忘れられない1年になったと思います。3本のドラマで、5つのキャラクターを演じて、ほとんど休まずに続けてきました。

シン・ヒョンジュン:選択の問題でした。今、仁徳大学の放送芸能学科で学生たちを教えていますが、教え子の中には「僕はダンスはできるのに演技は下手なんです」「歌はできるのに踊れないんです」と訴える子たちがいます。これは、愚かな質問だと思います。最近はマルチな時代じゃないですか。だから僕は、全部やらなければいけないと教えます。「少女時代を見なさい。歌も歌って、演技もできるじゃないか。やればできる」と。でも考えてみると、そう言いながらも自分は映画ばかりやっていました。教え子たちにはうまいこと話し聞かせながら、いざ自分はマルチではなかったのです。このままではいけないと思っていたら、芸能情報番組からMCのオファーがきたので、学生たちに見せるために引き受けました。ドラマもそうです。作品が良かったし、キャラクターが良かったので一生懸命やったのもありますが、教え子たちがいなければ1年に3作もできなかったでしょう。その点、彼らには感謝しています。

―どのようにして学生たちを教えることになったのですか?

シン・ヒョンジュン:実は、母のせいです(笑) 僕が教授になることを望んでいたんです。僕は聞いていないふりをしていました。そんな中で僕が病気になったことがあるのですが、治ってみると母の夢を叶えてあげたい気になりました。テストもちゃんと受けたし、正式な手続きを踏んで採用されました。母のために始めたのですが、僕としてもまた違う人生を生きることになりました。僕の年齢って、余裕がある年なんですよね。物質的な余裕でなく、怠慢になりがちな年なんですが、学生たちの眼差しを見ていると、余裕ぶっている時間なんてないと思うようになったんです。僕の20歳の時の眼差しと同じですから。その情熱を、僕の心の中にも入れたいです。

―それでも、準備ができていなければ、あんなにも多様なキャラクターを作ることはできなかったでしょう。「愛の贈り物」の“チェ・ゴマン”は、これまでのドラマでは見られなかったキャラクターでした。あんな純愛ぶりを、見たことがありません。

シン・ヒョンジュン:SBS「愛の贈り物」は、パク・ゲオク脚本家のおかげで始めました。ある日電話が来たんです。「シン・ヒョンジュン先輩、ロマンス1本どうですか」と言うので、「冗談だろ?」と応えたんですが、「バカと天才の恋物語、どうですか?」と言うんです。その言葉に、ピンと来るものがありました。それで「誰がバカなの? 僕がバカなのか?」と尋ねましたが、相手がバカだと言うんです。僕が天才の役だけど、一任するので僕に作りあげて欲しいということでした。天才がバカを愛するなんて、面白そうじゃないですか。それで、天才を研究してみました。天才にも色んなタイプがあります。スティーブ・ジョブズがいれば、アマデウスやエジソンもいますし。バカと天才は紙一重と言いますが、“チェ・ゴマン”がスティーブ・ジョブズだったら面白くなさそうでした。それで選んだのが、バカみたいに見える天才でした。脚本家も満足してくれました。脚本家がOKを出してくれなければできなかったでしょう。


「定型化された人物は、つまらないんです」

―キャラクターを作ることを楽しむ方なんですね。

シン・ヒョンジュン:そうです。定型化された人物は、つまらないんです。もちろん、そのような試みを嫌がる脚本家もいますが、パク・ゲオク脚本家は僕に任せてくれました。それで、二人で色々と話し合いました。声のトーンや衣装も一緒に研究しました。そうして生まれたのが、“チェ・ゴマン”というキャラクターです。ストーリーも良かったので嬉しかったのですが、終盤へ向かうほど悲しくなり過ぎてしまいました。バカが死ぬのが悲しくて、後半には相手役のハ・ヒラさんの顔もまともに見れないほどでした。

―不治の病を始め、ありきたりの題材でしたが“チェ・ゴマン”のキャラクターのおかげでユニークなドラマになりました。

シン・ヒョンジュン:僕の年で恋をするなら、どんな恋だろうと思いました。20代の恋と、30代、40代の恋が違うことを知っているので、表現も変えてみたんです。最後の撮影が、病院のガラスドアを挟んで、バカのキム・ソニョン(ハ・ヒラ)が書いた手紙を読むシーンだったのですが、感情を一度に発散しようと思い、演出部がくれた手紙を撮影の本番まで読みませんでした。撮影に入って、書き間違いだらけでめちゃくちゃな綴りの手紙を目にした瞬間、悲しくてしょうがなくなりました。手紙一つもまともに書けない女性が、一人の男性に感謝している、幸せだと言って自分の娘を預けて死んでいく内容ですから。わあわあ泣きました。何事かと思って、病院の医者たちが駆け込んでくるくらいでした。後で映像を見て、自分でもびっくりしました。血管まで丸見えになるほど、大泣きしてたんです。

―そうかと思えば、KBSドラマ「カクシタル」ではまた全然違う人物でしたね。バカと独立運動家。「何だ、この人は?」と思うほどでした。

シン・ヒョンジュン:ディテールの戦いだと思いました。2番目のバカな役なので、映画「裸足のギボン」を30回以上見ました。どうやったら違って見えるか、いろいろと悩みました。観客と視聴者の目が高くなっているので、いまや俳優がさらに悩む必要があります。淘汰されるのは一瞬ですから。

「“カクシタル”、チュウォンさんが上手く引き継いでくれて、感謝しています」

―“カクシタル”に扮した時、すごいカリスマ性でしたね。大体、子役から成人役者に変わる時はストレスが多いと言いますが、チュウォンさんは“カクシタル”のカリスマ性を引き継ぐために相当プレッシャーを感じたのではないでしょうか。

シン・ヒョンジュン:チュウォンさんが上手く引き継いでくれて、感謝しています。もともと俳優には、それぞれのエネルギーがあるんです。映画「ア・フュー・グッドメン」で、ジャック・ニコルソンはトム・クルーズに比べると小さいけれど、存在感がありますよね。それを上手く引き継いで行かないといけません。勝とうとしたらダメです。チュウォンさんがそこを上手く抑えてくれました。それで僕も生きて、チュウォンさんも生きたんです。

―KBS「ウララ・カップル」では、いいかげんで単純でした。良くない面をもれなく持ち合わせた男性が女性に変身して、特にキム・ジョンウンさんをそっくり真似するのが不思議でした。

シン・ヒョンジュン:女性の演技を、一度やってみたかったんです。女装は上手くやっても元を取れないことが多いのですが、どうしたら非難されずに演じれるか、いろいろ工夫しました。

―「カクシタル」に出演している時、すでに「ウララ・カップル」の出演を予定されていたんですか?

シン・ヒョンジュン:いいえ。「カクシタル」を終えてからは、ドラマでなく映画をやるつもりでした。そんな中、ある日学校の先輩で、以前歌手もやっていたチョ・ハムン牧師が携わる教会に行く機会がありました。その教会が、信徒の人数に比べて狭すぎるんです。建築献金を、ちょっと多めにあげたいと思いました。そんな時に、ちょうどシナリオを提案されたんです。最初はシナリオだけ一度読んで見ようと思いましたが、読む間にはまってしまって、引き受けることにしました。それに、キム・ジョンウンさんは女優の中でもコメディがうまいことで定評のある役者ですから。引き受けてすぐ、キム・ジョンウンさんに対する研究を始めました。SNSで、今回おばさん役を演じることになったけれど、どんな風にすれば良いかと質問もしました。

―他の女性というより、キム・ジョンウンさんそのものでした。

シン・ヒョンジュン:俳優が足の不自由な役を演じることになると、そのような方だけ目に入るように、関心を寄せているとどこに行ってもおばさんだけ目につくのが面白かったです。おばさんたちは、本当に大きく笑って、力も強いんですね。キム・ジョンウンさんに、僕はこんな演技をしたいけど、ちょっと見て欲しいと事前にお願いしたこともあります。キム・ジョンウンさんとはもう、最高の相性でしたね(笑)

―キム・ジョンウンさんもシン・ヒョンジュンさんの真似がうまい方でしたが、シン・ヒョンジュンさんはそれはもう抜群でした。そのせいか、キム・ジョンウンさんには、似たり寄ったりのコメディ演技という指摘もありましたが。

シン・ヒョンジュン:それは申し訳なかったです。そんな風に比較され始めると、自信を失くしてしまうんです。演技は自信から始まるのに。実は女性の演技より男性の演技の方が難しいはずなのですが、キム・ジョンウンさんは最後まで上手くやってくれて有難かったです。

「『ウララ・カップル』キム・ジョンウンさんも僕も、結婚について悩む時間になりました」

―ところで、序盤は爽やかなお笑いだった「ウララ・カップル」が、終盤へ向かうほどシリアスになってしまって残念でした。結末も気に入らなかったですし。週末ドラマでもない、ミニシリーズなのに、それぞれの道を歩んだ方が良かったのではないでしょうか? 公営放送のKBSだからあんな選択になったんでしょうかね。

シン・ヒョンジュン:僕達俳優も、少しそんな気はしました(笑) でも、この夫婦が別れられない理由がたった一つありました。シノプシス(ドラマやステージなど作品のあらすじ)に言及されているのが成熟と成長痛ですが、演技する前にはピンとこなかったんです。ナ・ヨオクの成熟ってなんだろうと思いました。ところが演じてみると分かるようになりました。息子のギチャンだったんです。

―それは説得力のない言葉ですね。ナ・ヨオク(キム・ジョンウン)はギチャンに対して気を使うことのできる母親ではありませんでした。コ・スナム(シン・ヒョンジュン)に体が入れ替わって出社したら、ギチャンのことが気になるはずなのに、全然気にしてなかったですから。“チェンジ”という設定は月並みですが、「ウララ・カップル」が嬉しかったのは男性と女性がお互いの立場を理解することになる点でした。ところが、最後に子供のせいでよりを戻す設定に当惑しました。お互いにこれは違うと思ったら、別の人を探した方がいいのではないでしょうか。ビクトリア(ハン・チェア)は心からコ・スナムのことを愛しているし。ましてや、コ・スナム&ナ・ヨオクカップルは本当に熱烈に愛して結婚したわけでもありません。

シン・ヒョンジュン:最初の設定は、ビクトリアが綺麗な女性ではなかったんです。ビクトリアが綺麗だから好きなのではなく、お互いの傷を癒せる女性として表現したかったんです。とにかく、スタートとは随分変わりましたが、独身の僕とキム・ジョンウンさんにとっては結婚について真剣に悩む時間になりました。

文:コラムニスト チョン・ソクヒ

「NAVER スペシャルインタビュー」では、注目が集まっている話題の人物にコラムニストのチョン・ソクヒさんがインタビューを実施。韓国で一番ホットな人物の本音をお届けします。

記者 : チョン・ソクヒ、整理 : チェ・ジョンウン、写真 : studios キム・ソンウン、オム・ジス