「棚ぼたのあなた」は元々の企画分量通りなら8月に放送終了したはずのドラマだった。しかし8回も放送終了が延長されたドラマだ。“国民ドラマ”との愛称が付くほど多くの声援を受けた、今年成功したドラマの代表例であるため、延長放送ができたのである。同放送局が韓流スターを前面に掲げ、意欲的に企画した某ドラマが、悲惨な視聴率で放送終了したこととは対照的だ。

社会的イシューに対する適切な“風刺”で、痛烈な批判

それでは、「棚ぼたのあなた」がこれだけ視聴者から愛された理由は何だろうか。1つは、社会的イシューを適切に“風刺”することによる痛烈な批判である。チャ・セグァン(CNBLUE カン・ミンヒョク)はパン・ジャングン(クァク・ドンヨン)にKAIST(韓国科学技術院)に通っていることを証明するために在学証明書を渡す。

しかしパン・ジャングンはチャ・セグァンの在学証明書を見ても、世の中に同名の人はいくらでもいるとしながら信じようとしない。むしろ“チャ真要(チャ・セグァンに真実を要求しますの略)”まで結成するに至る。

当時「棚ぼたのあなた」は何を批判したくて、このような演出を試みたのだろうか。それは、TABLOが学歴を証明したにも関わらず、数多くの疑惑を生み出し、無実な歌手の芸能活動と彼の家族まで侮辱した“タ真要(TABLOに真実を要求しますの略)”を批判するための痛烈な風刺だった。

今は忘れ去られた昔の人気歌手、ユンビン(キム・ウォンジュン)のオーディションのエピソードもそうだ。ユンビンが放送局とインタビューした内容とは違って、賞金目当ての無礼な歌手の卵だと誤解される羽目になるエピソードは、とんでもない編集の犠牲になりかけたユンビンから、「SUPER STAR K」の“悪魔の編集”事件を連想させる。オーディション番組の“悪魔の編集”を批判する勇気も見せたのである。

パロディで視聴者から共感を得る

「棚ぼたのあなた」の2つ目の理由は“パロディ”だ。最終回でゴールインするチョン・ジェヨン(イ・ヒジュン)とパン・イスク(チョ・ユニ)の恋愛初期のころ、チョン・ジェヨンはパン・イスクに「1秒だけ目を瞑って欲しい」としながらキスをする。

しかしそのキスは“1秒”を遥かに超えた。「1秒がどれだけ長いかわかるのか」とのチョン・ジェヨンの台詞は、ロンドン五輪で1秒の誤審で悔しくも判定負けした、フェンシングのシン・アラムをパロディしたものだ。

チョン・ジェヨンが想像の中でパン・イスクとする“泡キス”は「シークレット・ガーデン」のキル・ライム＆キム・ジュウォンカップルの“泡キス”のパロディだ。チョン・ジェヨンのトレーニング服はキム・ジュウォンを、パン・イスクの服装はキル・ライムをそのまま真似たもので、当時の視聴者は「シークレット・ガーデン」のパロディシーンであることにすぐ気づくことができた。

一度も男性と付き合ったことのないオム・スネ(ヤン・ヒギョン)がドラマで「チャックン(相棒の意味)」という番組に出演するエピソードもそうだ。男たちから注目されず、寂しく撮影現場を後にしたオム・スネに思いを寄せていた男子4号がいたという事実を後になってから知ったオム・スネの悲しいエピソードは、「チャク」(SBSのリアルバラエティ番組)をパロディしたエピソードで、シットコム(シチュエーションコメディ：一話完結で連続放映されるコメディドラマ)よりも面白かった。

オム・スネがパロディしたのは「チャク」だけではない。「なぜその人が私だと言えないんですか」とするオム・スネの台詞は「パリの恋人」のキム・ジョンウンのパロディだ。

最終回ではDVDの中のイースターエッグのように懐かしい面々がカメオとして登場する。キム・ナムジュの実際の夫キム・スンウが出演するのである。彼は屋根部屋の受験生として出演し、ドラマでのキム・ナムジュに「僕の妻は生活力があり、何をしてもサポートするからソウルに行って自由に夢を叶えろと言ってくれた。だからソウルに来た。世の中にこのような女はどこにもいない。真のスーパーウーマンだ」とセンスのある台詞を言う。

正確に読み取った“主婦のファンタジー”その中核にはパン・グィナムのキャラクター

「棚ぼたのあなた」が国民的人気を集めた3つ目の理由は“主婦のファンタジー”を作家が正確に読み取ったという点だ。「棚ぼたのあなた」の中で主婦のファンタジーを代弁する人物はパン・グィナム(ユ・ジュンサン)だ。しかし養子として育ったパン・グィナムがやっとの思いで捜した家族はただの家族ではなかった。

彼と結婚するチャ・ユニ(キム・ナムジュ)が直面する夫の家族の規模は、他の家庭の規模とは違う“ビッグサイズ”で、チャ・ユニの立場からすれば“棚ぼたのシーワールド”(嫁と姑の対立)に足を入れるどころか、どっぷりはまることになる。

それにも関わらず、チャ・ユニとパン・グィナムの結婚がシーワールドのせいで終わりを迎えなかったのは、いや、シーワールドと大規模な戦争をせずに済んだのは、パン・グィナムが、チャ・ユニとシーワールドの間での緩衝作用を見事に果たしたためだ。

結婚した女性なら誰もが恐れるシーワールドということから、妻を守る役割を果たさなければならないのは夫だが、現実世界の夫はその役割をあまり果たせていないことが事実だ。

結婚した男はほとんど姑と妻の間で右往左往しがちだ。賢くない夫はこの両者のどちらかの見方をし非難される。しかし「棚ぼたのあなた」のパン・グィナムは、完璧に異なる世界、妻とシーワールドという2つの世界を適切に調整できる男だった。

「棚ぼたのあなた」のパン・グィナムは、主婦であれば誰もが夢見たであろう完璧な夫のファンタジーをドラマで見せる。視聴者はこれを通じて現実を補償される。

現在週末ドラマは「棚ぼたのあなた」以外はほとんど“マクチャンドラマ(日常では起こらないような出来事や事件が次々と起きる韓国特有のドラマ)”が溢れている状況だ。「棚ぼたのあなた」も、姑と嫁の話を火花散らす闘争記にすることもできたが、作家はここで“マクチャン”を使わず、家族主義というものを改めて見てほしいとの思いで、ストーリーを書き、結局視聴者の共感を得た。「棚ぼたのあなた」は“マクチャン”を使わずとも、週末ドラマがいくらでも成功できるということを証明したドラマだ。