Vol.1 ― ナム・ギョンジュ“適宜”がわかる俳優…「ゆっくりと…しかし確実に」

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写真=AGA Company

ミュージカル「ラ・カージュ・オ・フォール」の俳優ナム・ギョンジュに会った

ミュージカル界でナム・ギョンジュという名前は、“元祖ミュージカル俳優”“第1世代ミュージカル俳優”として通じている。それだけ貫禄ある俳優であり、同時にミュージカルが大衆化する前から一貫してステージを守ってきた俳優だったため、このような称号で呼ばれる上で少しも遜色のない、大俳優である。それにも関わらず、新しいことへの挑戦に一瞬もためらわず、昔から今までずっと変わらない情熱一つで突っ走ってきた俳優だ。

インタビューを通じてわかったことが多かった。一言の質問に答える彼の回答は、人生というステージを通じて悟った、様々な貫禄が溶け込んでいるものだった。インタビュアーさえも感心させる貴重な回答が、隅々まで溶け込んでいるインタビューだった。

ミュージカル「ラ・カージュ・オ・フォール」(以下「ラカジ」)は、1983年に始まった公演だ。しかし、韓国ではミュージカルが始まってから29年後に初めて観客に披露された公演である。韓国初演のミュージカルを準備する上で、どのような困難があったかを尋ねた。

「ラカジ」アメリカのトニー賞を3回も受賞…同性愛の題材で韓国では初演

「最初は練習が、パズルのように1ピース1ピースが合わなくてみんな苦労するんです。今回の練習は他のライセンス公演に比べて少し大変でした。原作をできる限り毀損しない範囲内で脚色し、内容自体は変わっていないとはいえ、演出者が多いに手を加えた作品なんです。

俳優はそれをステージで演じ切らなければならないので、論理的に理解できない動きがあったら、ステージの上で自分が苦労することになるんです。理解できない部分をやり切るために苦労しました。でも、こうして観客の皆さんの反応がいただけるので、やり甲斐も感じますし、達成感も大きくなるような気がします」

ミュージカル「ラカジ」で、息子ジャン・ミシェルの結婚しようとする相手側が超保守主義者である。息子が向こうから結婚をすんなりと認めてもらうためには、ジョルジュ&アルバン夫婦が同性愛夫婦だということを何があっても隠さなければならない。相見礼(サンギョンレ:結婚前にお互いの親が顔合わせをすること)を無事に済ませるためには、夫ジョルジュが妻アルバンをどうしても説得しなければならないのだ。「ラカジ」のジョルジュのどの部分がナム・ギョンジュのどの姿と似ているのかが気になった。

「妻アルバンを心から愛するジョルジュの姿が、結婚してから私が感じる感情に似ていると思います。妻一筋でアルバンだけを愛するジョルジュの姿も、現実の私の姿ですし。劇中で息子のジャン・ミシェルへの切なくて愛おしく思う気持ちは、私が愛らしい娘に感じる感情とまったく同じだと思いました。ナム・ギョンジュがジョルジュを演じているけれど、私自身なのかジョルジュなのか勘違いするほど共感できる部分が本当に多かったと思います」

1984年と2005年、2010年と3回もアメリカのトニー賞を受賞したが、同性愛を題材にしているという特殊性からこれまで韓国では紹介されなかった、同性愛という特別な題材を取り上げる「ラカジ」を準備するうえで困難だった事はなかっただろうか。

「ゲイカップルのことを描く作品なので、観客が偏見を持つかもしれないという点が最大の心配でした。でも、僕の心配は杞憂に過ぎませんでした。なぜなら、観客はゲイというアイデンティティに注目するより、彼らも他の平凡な人たちと同じ人間なので、例えば悩みを抱えているならそれをどう解決しようと頑張っているかをご覧になりたがるわけで、ゲイに焦点を合わせて観覧することはなかったようです。

私が最近出演した作品のなかで、『ラカジ』のように爆発的な反応を呼んだ作品は、『I LOVE YOU 愛の果ては?』以来だと思います。当時『I LOVE YOU 愛の果ては?』は中劇場くらいの規模の公演でした。『ラカジ』のように、大劇場規模の公演で爆発的な反響は初めてです。最初は当惑するほど、反応が良すぎました。

この観客の爆発的な反応を、どう解釈すべきかと悩むほどでした。でも見てみると、主人公が置かれている厳しい状況の中で事件を解決しようと心から頑張る姿が、観客に面白く受け入れられたのではないかと思います」


ナム・ギョンジュの初演作連続出演…マンネリへの戒め

ナム・ギョンジュが出演した最近の作品は「Next to Normal」と「シカゴ」「ラカジ」だ。リバイバルのレパートリー作品の「シカゴ」を除いては、2作とも韓国での初演作という共通点を持っていた。もし馴染み深いものにだけ安住しようとし、挑戦する精神を持たないなら、韓国での初演作を連続して選択するはずがない。ナム・ギョンジュは、リバイバルのレパートリー作品だけ繰り返す、マンネリに陥ることを戒めていた。

「図星ですね。私はいつも同じ所に留まっていることが大嫌いなんです。結婚してから一定期間、自分の結婚が遅かったもので、幸せな結婚生活のために、妻のために、子供のためにもう少し時間を費やすべきだと感じ、新しい挑戦を少し見送ったんです。

言い訳のように聞こえるかもしれませんが、私なりに『ちょっとゆっくり行こう。これからもいくらでも機会はあるし、結婚生活を送りながら感じる感動的なことが、俳優生活においても絶対に役に立つ』という信念を持って、家庭に多くの時間を割愛して生活を充実させようとしました。

ある程度家庭が安定して子供も育って、留まっている自分の姿が嫌になり『もう一度勇気を出してみよう』と思うようになりました。それで『Next to Normal』と『ラカジ』という新しい2作品に挑戦しましたが、やっぱり確実な作品よりは不確実な作品に挑戦した時のほうが、はるかに多くのものを得ることができました。新しいものに挑戦すること自体が、人生の挑戦だと思います。安住せず、新しい作品に挑戦し続けられる自分になろうと努力しています」

水が貯まるといつかは腐敗することを、彼はよく知っていた。ミュージカル演技においても、彼は水が貯まることを警戒していた。しかし、家庭が安定する前までは、新しい作品や新しい演技に挑戦することは負担が大きかった。そのため彼は、時期を待った。新しい演技に挑戦すべき“適当”な時期を。俳優ナム・ギョンジュは、馴染み深さを拒否して新しさを追求するが、家庭が安定する時期を待ち、真の意味の“適宜”がわかる俳優であった。

息子に勝てる親はいない。ミュージカルのジョルジュ&アルバン夫婦も、息子のジャン・ミシェルの無理なお願いを断れず、息子の円満な相見礼のために頑張ることになる。ナム・ギョンジュも娘の要望を聞いてやるために妻を説得することがあったのだろうか。

「当然あります。子供がなにかをねだる時、私から見れば大丈夫そうなのに、妻はそれ以上はやらせない時があります。そんな時私は『どうした、私が傍で見守るから、許してあげて。もし危険なようであれば私がやめさせるから、子供の言うとおりにしてあげよう』ということもしばしばあります」

記者 : パク・ジョンファン