「ビッグ~愛は奇跡<ミラクル>~」ダランが愛したのは…外見なのか、内面なのか

OhmyStar |

※この記事にはドラマ「ビッグ~愛は奇跡<ミラクル>~」の結末に関する内容が含まれています。
KBS

KBSドラマ「ビッグ」…カフカの「変身」を思い出す

ある日突然、ある人の外見が変わったら、その人のアイデンティティは変わった外見と見るべきか、それともその人の中身なのか。このような質問に多くの人は当たり前のように、その人の内面が重要であって、変わった外見は副次的なものだと答えるかもしれない。だが、本当にそうなのだろうか。

カフカの「変身」はその質問に対する正解に近い小説である。小説の主人公、グレーゴル・ザムザは、ある朝目覚めると虫になっていた。グレーゴルの内面は依然として彼自身だが、家族は彼を虫と見なし、彼を家族として認めない。内面は変わっていないが、外見が虫に変わったからだ。

「ビッグ~愛は奇跡<ミラクル>~」(以下「ビッグ」)も同じ質問を投げかける。ユンジェ(コン・ユ)とキョンジュン(シン・ウォンホ/CROSS GENE シン)の魂が入れ替わるという設定の「ビッグ」は、ダラン(イ・ミンジョン)が愛する男のアイデンティティが、ユンジェという“外見”なのか、それとも生意気な高校生のキョンジュンという“内面”なのか、視聴者に問いかける。ユンジェの肉体とその中にいるキョンジュン、その中でダランが愛する男は果たして誰なんだろうかと。

そして「ビッグ」はカフカの「変身」とは正反対の答えを視聴者からもらおうとした。ダランが惚れたのは外見(ユンジェ)ではなく、内面の高校生キョンジュンであるという結論にたどり着くように。これは序盤の生意気でわがままだったキョンジュンがダランに恋をして、徐々に大人になっていく、成長物語とも合う。

KBS

“クーガー女”の恋、それはそれでいいが…

それではダランは、不意に“クーガー女(若い男性を好む30歳以上で金銭的にも人間的にも余裕のある女性の事を指す)”になるわけだ。ダランがユンジェ(外見)を愛するのではなく、キョンジュン(内面)を愛するのであれば、キョンジュンとダランカップルは経済力のある年上女と年下男の恋になる。しかも幼い新郎と結婚する風習のあった昔でもないから、ダランは未成年者と恋に落ちる大人になってしまう。

しかし“クーガー女”の恋もトレンドになった昨今、ダランとキョンジュンの恋そのものが大した問題ではないかもしれない。それよりも記憶喪失のほうがもっと大きな問題になるだろう。キョンジュンの魂が元の体に戻るのはいいが、記憶がなくなるのは問題だ。これまでのダランとの甘い恋を何一つ覚えていることができないなら、その記憶をどうやってよみがえらせるか。

ところで、最終回をじっくり見ていると、ダランが本当にキョンジュン(内面)だけを愛していたのかと、疑問が生じる。1年後、ダランの傘の中に駆け込むキョンジュンの外見は、シン・ウォンホではなく、コン・ユのままだった。ユンジェ(コン・ユ)は元彼であって、ダランが現在好きな人はキョンジュン(シン・ウォンホ)のはずだ。

しかしダランはコン・ユの姿を見て喜ぶ。彼がユンジェなのか、自分が愛するキョンジュンなのかもまだ分かってないのに。こうなると、「ビッグ」は最後のシーンでダランがこれまで貫いてきた、カフカの「変身」とは違って内面のキョンジュンを愛しているということを、否定してしまうことになる。

ダランがキョンジュンだけを愛していたとすれば、自分の傘の中に駆け込んだ人がユンジェなのか、キョンジュンなのかちゃんと見分ける必要があった。しかし彼女はただコン・ユの外面だけを見て素直に喜んだ。彼が本当にユンジェなのかキョンジュンなのかも知らずに。

KBS

「ビッグ」のテーマは“内面への愛”のはず

ラストシーンのコン・ユが全ての記憶を失くしたキョンジュンなのか、それとも普段肌身離さず身につけていた腕時計をつけているから、ユンジェの体の中にいるキョンジュンが記憶を失くしていないのか、その判断は視聴者に任された。結末が謎のままに終わる、リドル・ストーリー的にドラマが幕を閉じたからである。

ただしコン・ユが誰なのかも確認せず、ダランが喜んだのは、最終回までの「ビッグ」のテーマを自ら壊してしまうことになる。全ての記憶をなくしたキョンジュンと再び恋をするのではなく、元彼のユンジェとよりを戻すかもしれない。ダランの嬉しそうな表情を見ると、映画「春の日は過ぎゆく」でユ・ジテがイ・ヨンエに言ったセリフ、「どうして愛は変わるんだ」が思い浮かぶ。

結末を視聴者の想像にまかせるのも、視聴者としては嬉しくないが、キョンジュンかユンジェか確認もせず、喜ぶダランの表情で、これまでの「ビッグ」のテーマ、“内面への愛”を覆すことになり、よりわけが分からなくなってしまった。

記者 : パク・ジョンファン