「ゴールデンタイム」イ・ソンギュンの演じる最悪の主人公

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写真=MBC

「ゴールデンタイム」、特別な何かがあるドラマ

脚本家チェ・ヒラと演出家クォン・ソクチャンがタッグを組んだMBC新月火ドラマ「ゴールデンタイム」。始まったばかりのドラマを評価するのはとんでもないことだろうが、このドラマには他のドラマとは違う何かがある。単なる医療ドラマだと言うにはもったいない。さらに大きな何かが「ゴールデンタイム」にある。これまで見たことのない特別なドラマの誕生の兆しが見られる。


最悪の主人公イ・ソンギュン

ドラマ「ゴールデンタイム」の第2話まで、最も視聴者に深く印象付けたのは、俳優イ・ソンギュンが演じる主人公イ・ミヌだった。ドラマの初放送前に紹介された資料を見て多くの人は「イ・ミヌはずうずうしい医師だろう」と思っていた。

イ・ミヌは最悪だった。「人の命を救う医師?」そんなことはイ・ミヌとまったく関係のないことである。医科大学を卒業したイ・ミヌは専門医になることを諦めた。その代わりに漢方病院で億台の年俸を稼ぎ楽に働いていた。漢方病院で彼の仕事は午後出勤して漢方医は処方できない薬を処方したり、CT撮影の指示をするだけである。退勤すれば、米国の医療ドラマの翻訳に時間を費やした。

しかし仲良しの先輩に頼まれて他の病院の救命救急室でバイトをしていたイ・ミヌは命が危ない子供に出会う。医師としてできることは何一つないイ・ミヌは子供の命を救うことができなかった。ただ震えていただけだった。後になってセジュン病院の医師チェ・イニョク(イ・ソンミン)を訪ねるが、子供は息を引き取った後だった。チェ・イニョクはイ・ミヌに向かって「まさか死亡宣告ができなくて僕を呼び出しましたか?」と怒鳴った。

イ・ミヌは他の医療ドラマの男性主人公とは違って決してかっこいい医師ではない。責任を取りたくなくて死に掛けている患者から目を背けて、常に怯えた目をして震えてしまう。

一言で言って最悪の主人公イ・ミヌだが、これがドラマ「ゴールデンタイム」の魅力だと言える。あまりにも卑怯で笑えてしまうイ・ミヌが今後いかに変わっていくかが「ゴールデンタイム」の見どころである。子供の死で医師として感じたこともあったはずだが、イ・ミヌの眼差しからは依然として患者の死に対する不安が感じられる。


「ゴールデンタイム」の手術は耳で聞く!

第1話でチェ・イニョクが執刀した手術シーンは従来の医療ドラマとは違う何かがあった。

それは“音”である。手術シーンを詳細に映像化したわけではない。その代わりに手術器具が作り出す鋭い音などの手術中の音で手術シーンをアピールした。

またこのシーンだけでなく、救命救急室を背景にしたドラマ「ゴールデンタイム」では、主要シーンに心拍計の「ピーピーピー」という音がBGMのように流れる。BGMもドラマのシーンにピッタリだが、何より心拍計の音は視聴者の病院への不安と苛立ちを感じさせる。

韓国の病院システムの裏側

ドラマ「ゴールデンタイム」は「病院と医師の存在理由とは何か?」という根本的な問いを投げかけている。救命救急室の外傷外科チームを中心にストーリーが展開され、韓国の病院システムの裏側を明かす。

病院で患者を積極的に治療するのではなく、責任を問うことに集中して病院にとって利益になる患者の治療を優先する、悪しきシステムのせいで命を失いかねない状況はドラマ「ゴールデンタイム」が描く病院の現実である。

このような状況にチェ・イニョクは一人で立ち向かう。チェ・イニョクを演じる俳優イ・ソンミンは制作発表会で「韓国の病院システムは重症外傷患者への迅速な対応が難しいことが分かった。視聴者がこういう病院システムの状況を理解しつつ、ゴールデンタイム(救急室に運ばれてきた外傷の患者が命を取り戻せる時間)に間に合って、重症外傷患者の命を救えるシステムを整えるべきだということにぜひ共感してほしい」語った。


視線を引き付ける演出力

「ゴールデンタイム」は、一つのシーンに登場する人物を様々な角度から撮った映像が交差する。また主要シーンは、救急車で患者が運ばれてきた瞬間から手術が終わるまで撮影する“ロングテイク”という手法を使って、救命救急室の緊張感をさらに引き上げた。

特に第2話の演出が興味深かった。インターン面接を受けにきたイ・ミヌにチェ・イニョクは「医師が一番怖がることは何だと思いますか?」と質問した。その後映ったシーンは、イ・ミヌが質問に答えるシーンではなく、インターンになったシーンだった。

この演出のため「イ・ミヌがどんな答えを返しただろうか?」と、好奇心をくすぐる。彼の答えは第2話の後半で公開されたものの、第2話で描かれたイ・ミヌの姿がチェ・イニョクの質問に対する回答でもあった。インターンとなったイ・ミヌが患者の前で怯え続けたからである。クォン・ソクチャン監督はイ・ミヌの回答を直ぐ公開するよりイ・ミヌが怯えている姿を見せることで、視聴者が自らイ・ミヌが感じている不安を感じるようにしたのである。

またイ・ミヌが病院のベッドに横になり、自身のせいで死んでしまった子供を思い出すシーンで、イ・ミヌはトラウマを経験する。

この時、子供の首にメスを当てて怯えていたイ・ミヌの前にインターン面接で会ったチェ・イニョクが現れて「医療スタッフ、研修医、助けてくれる人が誰もいないときに、一人でショック状態の患者に対応しなければならない状況になると、どうしますか?僕の代わりに誰かが解決してくれるという心構えは患者にも、医師にも致命的です」と語った。

イ・ミヌは冷や汗を流しながら「やってみます」と言ったものの、チェ・イニョクは「やってみて失敗したら、その時はまた助けてくれる誰かを呼ぶつもりですか?」とイ・ミヌを刺激した。

このシーンはイ・ミヌが子供の死を見て苦しむトラウマを見せるシーンであり、弱い主人公イ・ミヌにとって最高の医師チェ・イニョクはどんな存在なのかを予感させたシーンでもある。特に俳優イ・ソンミンの鋭い眼差しとイ・ソンギュンの怯えた眼差しが画面に映った瞬間は、クォン・ソクチャン監督の優れた演出力を認めざるを得なかった。

記者 : イ・スンロク