神話 ドンワン「『ヘドウィグ』に出演するからといってファンがいなくなるとは思わない」

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最もドンワンらしくなく、最もドンワンらしい選択、2011年5月14日に幕を上げたミュージカル「ヘドウィグ」と彼との出会いはこのように要約出来る。ジョン・キャメロン・ミッチェルの映画をもとにした伝説的なロックミュージカル。東ドイツ出身のトランスジェンダーロック歌手ヘドウィグの音楽と人生のすべてを詰め込んだ「ヘドウィグ」と、みんなが知っているドンワンとの接点を見つけるのは決して簡単なことではない。98年デビューし、そして依然として健在な“1世代のアイドル”神話(SHINHWA)のメンバーであると同時に、派手な舞台の外では堅実な若者役がオーダーメイドの服のようによく似合う演技者ドンワンが、この見慣れない魅惑的な人物のモノドラマでどんな姿を見せるのかまだ見当がつかない。だが「評価されることを一度も恐れたことはない」と言い切る「ヘドウィグ」に対して「危険な選択だとは全く思っていない」という彼の新しい挑戦は、お決まりでなくより興味深い。止まらない33歳、ドンワンに会った。

―兵役を終えた後、初めての復帰作は“当然”ドラマや映画だと思っていた。

ドンワン:ドラマや映画に出演しようとしたけれど、作品が良かった時は役が僕と合っていなかったし、役が良かった時は作品が僕と合っていなかった。以前はあれこれ考えずに「話が来た時は何でもやる」という考えを持っていたけど、選択する時は色々考えて真剣に決めた方が良い。選択は冷静で自己中心的に決めて、選択したらその時からは謙虚な姿勢で熱心にやるけど、控えめに選択をして仕事をしたら、僕がおかしくなるかもしれないと考えるようになった。

―以前はそんなことを考えない方だったか。

ドンワン:考えていなかった。運命論者だったから、ただ僕に回ってきた仕事はどんな仕事でもする方だったし、ほとんどそれが僕にピッタリ合っていた。歌手は所属事務所の中で作り出す家内制手工業に近いから問題はなかったけれど、演技者はそうではなかった。シナリオを検討してくれるマネジャーが重要で、制作者も重要だった。そして、周囲の人々からの助言も必要だということが分かった。

「『ヘドウィグ』が商業的な要素を持っているという話は嬉しかった」

―それならなぜ「ヘドウィグ」だったのか。

ドンワン:まずはこんな大作にキャスティングされる機会がそんなに多くない。ここで大作というのはスケールが大きいということではなく、ミュージカル界で「ヘドウィグ」は指折り数えるほどしかない作品ということだ。それに「ヘドウィグ」がとても難易度が高いキャラクターだという点も気に入っていた。「自分が知らない分野が知りたい時はわざとそれに関するインタビューのアポを取って、1ヶ月程度の期間の間にそれに関して勉強すること」というアン・チョルスさんのお話がある。僕もやっぱり「ヘドウィグ」がたくさんのことを勉強するいい機会だと思った。もちろん“勉強をする”という考えで公演に臨むことは絶対ないけど(笑)

―実はキャスティングの発表後“神話のドンワンが「ヘドウィグ」に出演する”ということに対して「驚いた」「意外だ」などの反応が多かった。どのように感じたのか。

ドンワン:「似合わない」「上手に出来るか心配だ」「『ヘドウィグ』が商業的過ぎる」など。取り敢えず、商業的過ぎるという話は嬉しかった。以前ソロ活動をした時「最近はみんな顔だけで歌手をしているようだ。何であんな人が歌手をしているんだろう」という悪質な書き込みをされた時の気持ち良さのように(笑) そして似合わないという言葉も刺激になった。実は僕は誰かに「君には出来ない」とでも言われない限り何かに対して頑張れない性格だ。「ヘドウィグ」の演出家であるイ・ジナ先生に「君の歌は上手でも下手でもない」と言われた時、本当に共感した。僕は今まで上手でも下手でもない芸能人として生き残ってきたけど、僕に似合わない舞台を完成させていけば、もう少し上手になれると思う。

―しかし、俳優としてのドンワンに対して今まで人々が期待してきたこと、あるいは積み重ねてきた信頼がこの難易度の高い課題によって崩れるかもしれない。

ドンワン:それが心配だったら演技をしてはいけない。評価されることを恐れたことはなかった。「ヘドウィグ」はミュージカル界の鉄人3種競技だと聞いたことがある。女装をして、偏見の中に包まれたキャラクターを演じなければならないし、一人芝居という面もあるから。だから僕は得ることは多いけど失うことは何もない。肺活量を鍛えるような感じだ。「ヘドウィグ」でイメージが壊れることはないと思う。このキャラクターに偏見を持つほど頭が固い人とは僕も一緒に仕事をしたくない。

―演出家イ・ジナ先生との仕事はどうなのか。

ドンワン:ちゃんと出来なかった時は怒らずに、嘆かわしく思っていらっしゃる(笑) 僕が持っていないものを無理矢理に引き出すのではなく、まだそんな時期ではないので手をつけずに待ってくださる。「準備が出来た時に話してくれる。君の実力を最大限に引き出した時、間違えている部分だけ指摘してあげるから」と言われた。それが一番適切だと思う。

―ヘドウィグというキャラクターは単純に性的少数者という設定を越えて自由、欠乏、孤独、そして異邦人としての人生など、多様な主題を含んでいるが、特にどんな面に重点をおいて表現したいのか。

ドンワン:許すこと。最後にはすべてを許すから。そして僕が考えているヘドウィグは美しくて人間的でアーティスト的な人だ。どんなに厳しい状況でも自分が好きな分野に没頭して自分の世界をずっと持っている点が良い。

―それなら舞台の上で表現するヘドウィグはどんな感じになると思うのか。

ドンワン:今の僕なのかもしれない。若いにも関わらず海千山千の経験を積んだ。僕も20代の時、本当に多くのことを経験したし、そんな状況で本当に“1人”だと感じた時がある。明らかにヘドウィグはもっと深刻な状況を経験したと思う。僕とヘドウィグはそんな面が似ている。大いに怒らず、大いに悲しまず、淡々としているけれど、いつも心の奥底でくすぶっている苦痛の時間が。

「僕が現実逃避するために探したものは積極的に生きること」

―開幕の初舞台に立つことになるが、緊張するのではないか。

ドンワン:緊張し過ぎると自分でも楽しめないし、見る人もぎこちないと思う。特に「ヘドウィグ」は1時間40分のマラソンコースなので、ストレスを受けず、自然に身につけられることを待っている。映画「回し蹴り」の撮影を終えて残念に思ったことは、頑張りすぎて撮影の間一度もお酒を飲まなかったことだ。今考えると、その時一週間に一回でも共演する俳優たちとお酒を飲んでいればもっと呼吸を上手く合わせることが出来たと思う。後悔している。わざと自分の頭を軽くするために練習をしている。それでこそもっと詰め込むことが出来るから。

―映画「回し蹴り」やKBSドラマ「悲しみよさようなら」などの演技者として、出演作が少なくないが「ヘドウィグ」のように破格的なキャラクターは初めてだと思う。

ドンワン:練習中の露骨なシーンや誰かを誘惑するシーンでは気恥ずかしい時もあるけど、舞台の上ではスッキリすると思う。今まで時間が経って年を取ってもイメージはデビューの時の姿で止まっていたことが僕の壁だったけど、その壁をぶち壊すからといってアイドル時代のファンたちがいなくなるとは思わない(笑)

―今までドンワンという人の主なイメージは“芸能人でありながら珍しく真面目な男”という点だったが、それを投げ捨てることで感じるカタルシス(解放感)もあるのか。

ドンワン:演出家イ・ジナ先生にお会いして怖いと思ったことは、僕の優しい面を単純な“優しさ”ではないということを見抜いていたことだ。「君は若い頃遊んでもみたし、やりたいこともやってみたし、栄耀栄華を経験したから今のようにうわべだけの親切さがあるのね」と言われた(笑) 本当にそうだ。あらゆることを経験したので、大抵のことには余り怒らなくなって、大事じゃなければ気にしないように努力している。

―「美しくて幸せな作品は好みではない」と話していたことがある。だから「ヘドウィグ」が気に入ったと言っていたが、俳優としてそして観客として、どんなストーリーに惹かれるのか。

ドンワン:どんな素材でもよく作られた作品であれば惹かれる。庶民的な話が好きだと話したことがあるけど、庶民に関するストーリーでも出来の悪い作品は好きではない。そのような面で美しくて幸せな話もよく出来ている作品ならばしたい。もちろん奇妙なドラマや映画も存在しているし、僕もダメな俳優の中の1人だということもあるだろうけど、いい俳優になるために努力している。

―ヘドウィグが現実逃避するために探したものが音楽であって、音楽はヘドウィグが生きていく理由でもある。自分にもそんな分野があるとしたら。

ドンワン:歌だと思う。音楽ではない……積極的な面かな(笑) 積極的な面を見せる道具として歌や演技があったようだ。

―以前はブログに頻繁に書き込む方だったが、今は全部非公開にしている。今後Twitterやミニホームページを続けるつもりはないと書いたままだ。人々と話すことが好きな性格だと思ったが、なぜ書き込みは“積極的”にしないのか(笑)

ドンワン:ブログはファンたちと交流しようと思って作ったものだけど、今は作品のために書き込みをしていない。最初は非公開にしようとしたけれど、どうせいつか書き込みが広がるからいっそ公開しておいて僕が間違っていたら、誰でも「これは違う」と思った時、早く話してくれるようにしておいた(笑) そして少なくともわざわざブログを見に行くことに比べて、Twitterは繁殖力が非常に優れているので嫌いな人まで僕のことを監視しているようで好きではない。誰かが書き込むことも嫌だし。僕一人で話していたい(笑)

「家族には親切になれるが、神話のメンバーにはそうではない」

―公益勤務(身体的な事情等で軍務につくのが無理な人が、国の機関や地方自治体、公共団体、社会福祉施設で勤務すること)の時、f(x)のソルリが生きる力の源だったと話し、ファンたちが「娘だ娘!」と叫んだことがあるほど、最近の新人アイドルとは年齢差が大きい。時々バラエティ番組で共演して“1世代のアイドル”としてとても優遇される時もあるが、どんな気持ちなのか。

ドンワン:面白い。恥ずかしい時もあるけど、IU(アイユー)も近くで見られて(笑) 最近活動しているアイドルを見ているとカッコいいと思う。実を言うと彼らと同じ年齢の時、僕はそんなに頑張っていなかった。1枚目のアルバムが上手くいかなかったため2枚目の時までは一生懸命頑張ったけど、3枚目の時からは遊んだ。10年間遊んだ(笑)

―しかしH.O.T.のムン・ヒジュンはグループ活動の時を振り返って「神話の自由な雰囲気が羨ましかった」と話していたが、やはり緊張していなかったから楽しむことが出来たと思う。

ドンワン:神話として活動する時はいつも遊んでいる気分だった。一人で活動する時はとても緊張して大変な時が多かったけど、今でも神話として活動している時は緊張しない。長い間芸能生活をしていると家族にまで親切にお客様のように接する時があるけど、神話のメンバーにはそうではない。メンバーじゃなかったら誰が僕にそんな意地悪なイタズラをするだろうか(笑)

―経済的に厳しい環境で育って、10代から20代まで苦しい時間を過ごしてきた。平凡な人がちょうど社会で自分の居場所を探して生きていく時期である30代前半である今、20代を生きる後輩に伝えたいメッセージがあるとしたら。

ドンワン:物事が上手くいっても自分のおかげではなく、上手くいかなくても自分のせいでない。僕は幼い時苦労をしたから若い時の苦労は勉強だと思っていたけど、ただ学校にだけ通って平凡に生きてきた若者は、最近、大学の登録料も高くて、色々な面で本当に大変だと思う。だけど“大変なこともあるけど立派に生きられる”と言いたい。無理してじたばたして生きる必要も、無駄に生きる必要もないということを伝えたい。

―20代の自分はどうだったのか。

ドンワン:誰かが「お前は本当に遊ばない人だ」と言ったら「俺、いっぱい遊んでいるよ」と答えたりしたけど「お前が仕事をしている時は遊ばないから、みんなは遊ばない人だと思っている」と言われたことがあった。それは、当然のことだ。仕事をしている時になぜ遊ぶのか。例えば、撮影の前日にはお酒を飲まない。撮影の前日にお酒を飲んで大変なことはお酒のせいで、仕事のせいで大変なのではないから(笑) もしお酒を飲んでも、何ともない体質だったら、お酒を飲んだと思うけど、二日酔いもひどくて、肌もすぐ悪くなるタイプだった。そんなコンプレックスが多かったことが役に立っていたようだ。

―今でもコンプレックスがあるのか。

ドンワン:あるけどもう気にしていない。以前よりもっと前向きに生きている。

―考え事や悩み事がたくさんありそうな性格なので、一生芸能人として生きる気があるのか知りたい。

ドンワン:時々休んだり、他の仕事に挑戦する計画もあるけど、きっぱりと辞めることは出来ないと思う。僕は積極的だから、飲食店を経営してそこで積極的に仕事をしてもその規模は小さいけど、どうしても芸能の仕事をすれば国民的に積極的な芸能人になれる(笑) みんなが僕を求めてくれるのならばずっと続けていたい。最近、僕の年齢の芸能人は辞めたがる人も結構いて、考えてみたら僕も公益勤務をする前まではそんなふうに考えていた。キッパリ辞めたいというよりは、少し休みたかった。生きることは本当にマラソンのようで、僕たちは20代前半に早くスパートをかけ過ぎたせいでオーバーペースになったようだ。

―これからはどんな人生を送りたいのか。

ドンワン:気楽に生きたい(笑) 今までは特にすることもなかったのに“本当に忙しい”人生を生きてきたけど、あえてそんなに忙しく生きる必要はないと思う。みんなを大きく失望させなければそれで良い。撮影の前々日まではお酒を飲んでも良いけど、前日には飲まないようにする(笑) だから今後の人生計画は気楽に生きること。とりあえずやってみて、間違っていればまたやり直せばいい。

―“やり直せばいい”の精神を通して得たものはあるのか。

ドンワン:熟睡だ(笑)

記者 : チェ・ジウン、ジャン・ギョンジン、写真:イ・ジンヒョク、翻訳:チェ・ユンジョン