【CLOSE UP】ユン・シユン ― 大きい樹は深い根を張る

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※この記事は2010年「製パン王キム・タック」放送終了当時のものです。
ロイヤルローダー、王道を歩く人。これは韓国ゲーム業界で使われる言葉で、PCゲームのスタークラフトでリーグ戦に初出場して初優勝する人を意味する。これを俳優世界に置き換えたとき、俳優ユン・シユンほどこの言葉がしっくりくる人間もいない。デビュー作であるMBC「明日に向かってハイキック」で、高校生のジュニョク役を通じてチョン・ジョンミョンからチョン・イルに続くキム・ビョンウク監督のスーパールーキー系譜に名を連ねた彼は、2作目であるKBS「製パン王キム・タック」で主演を務め、平均視聴率36%、最終回の視聴率は50%という高視聴率をたたき出した。これは自他ともに認める“皇帝”イ・スンギさえも成し遂げられなかった快挙だ。しかし、ユン・シユンは高い人気を誇っているこのときも「『そうか、キム・タックをやったんだから、今回も主役やれよ!』という人はいないでしょう」と淡々と話す。短期間で彼が歩んできた、あるいは作ってきた王道より、その上に立っているユン・シユンという若者に対して興味が湧いたのもそのためだ。

ユン・シユンが持っている才能と美徳

正直に言うと、「僕が視聴率50%という高視聴率をたたき出したドラマの主人公になれるなんて、誰も思っていなかったのだろう」という彼の言葉は、謙遜というよりは現実を正しく捉えた判断に近い。「明日に向かってハイキック」で繰り広げられる恋の四角関係の一人として、数多くの年上女性ファンを虜にした彼だったが、「製パン王キム・タック」の台本読み合わせの現場では、集まっている先輩の「半分以上が彼の存在を知らなかった」ほどの新人であった。そのため、「製パン王キム・タック」が大ヒットを飛ばした時も、彼の演技よりはその作品にスポットライトが当たっただけだった。しかし、重要なのは、20代半ばという若さで、人気に浮かれることもなく、こういった正確な自己分析ができるというところだ。言い換えれば、彼は俳優であると同時に自分自身に対する冷静な批評家であり分析家なのだ。そしてそれは、彼が俳優として持っている才能であり、美徳でもある。

少し厳しい言い方かもしれないが、ユン・シユンは演技がとても上手だとは言えない。もちろん片思いしている女性が洗濯している時に、自分の下着を見られるのではないかと心配するジュニョクの姿は、年齢を忘れさせるほど初々しかったし、「製パン王キム・タック」が放送されている間ずっと続いた演技力に対する批判は別にしても、チョン・グァンリョルとチョン・インファなどのベテラン俳優に気後れせずに堂々と演じてみせたところは合格点を与えても良いだろう。これはあくまでも想像だが、声を荒げてソ・インスク(チョン・インファ)に歯向かうという激情的なシーンを見るたびに、精魂込めてタックを演じようとする俳優ユン・シユンの姿が垣間見られる気がする。彼はテクニカルな演技力を持ってはいない。だが、「自分でも発声、発音、演技力、感情、動きすべてのものが足りないということを知っている」ので、その足りなさを「役に対する愛」で満たしているという。台本の読み合わせで喉がかれてしまったのを見ても、彼がどれほど頑張ったのか、その情熱が見て取れる。また、前向きすぎてデリカシーに欠ける時があるタックに対して、「悲しみを心の中に閉じ込めておくことができない人がいる。それは優しい人だからじゃなくて、それを堪えるのがしんどいからだ」と話す。25歳の若さでなぜこれほどの鋭い人物の解釈ができるのか、不思議でならない。そしてこのように解釈したタックと自分を一体化させて、苦難がやってきても動じないタックのキャラクターを具現化する。決して繊細な演技とは言えないが、彼はドラマの中核をなす重要な役割を担っている。自分の足りないところを認めるときに、俳優としての根がしっかり育つことにつながる。

深い根を張っている木はそう簡単には揺れない

今までに成し遂げた素晴らしい成果は別として、ユン・シユンという俳優がこれから歩んでいく道が期待されるのはそのためだ。確かに彼がここまで成功できたのは、キム・ビョンウク監督との出会いをはじめとして、自ら絶えず強調しているように、いい人に恵まれているからかもしれない。だが、すべての幸運の主人公が「人間関係のおかげというのは、僕がここに種を蒔いたからといってここで実が出るわけではない。重要なのは、そのように種を蒔く時、僕以外に愛を与えてくださる方がいることだ」「些細なことでも最善を尽くしたので、その方(キム・ビョンウク監督、イ・ジョンソプ監督)が僕に愛を与えてくれたと思う」とは話さないだろう。また、他の俳優を褒めるときも「セギョンさん、チェ・ダニエルさん、ジョンウンさん、皆敵わない人々だ。経験の違いがあまりにも大きすぎる。その方々に同僚として認めてもらったのが、とてもうれしかった」として、彼らに恥ずかしくないように頑張ろうとするその謙虚さは、生まれつきのものであるとしか言いようがない。要するに、偶然訪れた幸運が彼を成長させたのだ。周囲の人々に「あなた方が絶対必要です」と思いっきり叫ぶ彼の姿は、まるで水に向かって根を張る木を連想させる。それは水は高いところから低いところへ流れていくのではなく、渇きのあるところへ向かって流れることを意味する。

またそれは、ユン・シユンという人間が、良い人間かあるいは良い俳優かという質問に対する興味深い結論かも知れない。この真っ直ぐな若者は、自分の足りなさにも簡単に挫折することもなければ、短時間で成し遂げた成功を威張ることもない。その代わりに彼は、自身の足りなさを満たしてくれるものを忘れず、他の人々との関わりの中で学び続け、受け入れることで俳優としての成長を図った。「とても誠実で謙虚な人で、演技にも真面目に取り組んでいるし、いろいろな面で驚かされる後輩だ。いろんな若手俳優と仕事をしてきたが、その中でも可能性を秘めている人はどこかが違う。彼はその中でもとびきりで、これは大物になるぞと思った」という先輩俳優キム・スロの評価は、彼の誠実な態度が俳優としての力量につながるということを物語っている。もちろん彼が持っているそのひとつの長所だけで、イム・ヨファンや、イ・ユンヨル、マ・ジェユン、イ・ジェドンなどといったロイヤルローダーのような時代の寵児になれるかどうかははまだ分からない。だがひとつ確かなのは、深く根を張る木は簡単には揺れないし、簡単に揺れない木は、いつかは枝が伸びて枝葉が茂り、豊かに実を結ぶということだ。それは暗い地中に深く根を張っている木の見えない力なのだ。

記者 : ウィ・グンウ、編集 : イ・ジヘ、翻訳 : ミン・ヘリン