チョン・ソグォンがおすすめする「演技の幅を広げてくれた作品」

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チョン・ソグォンを動物に例えると、ゴールデンレトリバー。肩幅が広く、がっちりした身体を見て、真っ先にドーベルマンが浮かび上がったという人もいるだろう。しかし、彼が話している姿を見れば、それが先入観だとすぐに気付く。相手を真っ直ぐに見つめる優しい目つきや笑うとしわくちゃになる悪戯っぽい笑み。そして言葉でうまく表現できない時に、しきりに身振り手振りで話してくるこの男は、今すぐにでも胸の中に飛び込んでくるような人懐っこさがある。

“力があって、強い感じを与える”彼のように恵まれた体は、海兵隊出身の青年にアクション俳優になる近道を作ってくれた。大抵の主人公は身長が高いので、身長が一番高かった彼に仕事が回ってくることが多く、先輩に嫌われたりもした。“世界最高の武術監督になろう”という夢を抱いてソウルアクションスクールを卒業した彼は、偶然にも同じ海兵隊出身の芸能プロダクションの社長の目に留まり、俳優になるチャンスをつかんだ。高く、そして遠くまで跳ぶためには助走が必要なように、長い間毎日欠かさずやってきた運動は、SBS「ドクター・チャンプ」で運動選手を自然な動きで演じるのに役に立った。また、家族や親しい人といる時は、おしゃべりで、いたずら好きで、おっちょこちょいな性格は、KBS2「烏鵲橋(オジャッキョ)の兄弟たち」で、ユーモアに長け、ふてぶてしく、時には厚かましい役(キム・ジェハ)を演じるのに役立った。

「運動は毎日欠かさずやることが大切で、演技も同じことだと思います」と語る彼にとって、演技と運動は同じもの。勉強が苦手だったので、「分析することを知らなかった」彼には台本を読んで把握する課程は「ベンチプレスを数百回も持ち上げるより大変な作業だった。でも楽しい作業でもあった」と言う。感情表現も同じだ。準備運動をきちんとしないで次の段階に進んでしまうと“100%怪我をする”ように、感情表現をきちんと練習しておかないと、自分でも“恥ずかしい”と思うし、“視聴者たちも失望する”ということを、今の彼はよく知っている。自分も他人も怪我をしないためには、適切な筋肉が必要であるように、演技も同じだと語る彼にとって、今から紹介する映画は彼の演技に影響を与えてくれた作品である。


1. 「酔拳2」(Drunken Master 2)
1994年/ラウ・カーリョン


「元々アクション映画が好きで、ジャッキー・チェン、ジェット・リー、ドニー・イェン、ジャン=クロード・ヴァン・ダムが出てる映画はほとんど観ました。その中でも一番おもしろく、本当に衝撃を受けた映画が「酔拳2」です。この映画のアクションは今でも再現するのが難しいです。本当にいい映画です。ジャッキー・チェンの演技と拳一つ一つに感情が込められていて、本当にソウルがあるアクションです。お酒がないから工業用アルコールを飲んで顔が真っ赤になって戦うシーンは、ビデオテープがすり切れるほど観ました。身の毛もよだつその戦慄は観れば分かっていただけると思います」

1994年「酔拳2」をPRするために来韓したジャッキー・チェンは、マスコミのインタビューで、「観客がお金を出して見たいのはスタントマンでないジャッキー・チェンの演技です。それで私は私の作品に代役は使いません」とコメントした。ジャッキー・チェンを一躍スターダムに登らせた「酔拳」(1979年)から15年ぶりとなるこの作品は、保身を図らない彼の演技哲学が克明に現れた作品であり、香港アクション映画の古典的な名作である。

2. 「ラストサムライ」 (The Last Samurai)
2003年/エドワード・ズウィック
 

「僕にとってこの映画は“アクションの教科書”です。ソウルアクションスクールの学生たちとよく観ました。100回くらいは観たと思います。 アクションはもちろん、映像も本当に素晴らしかったです。 親子だけど、サムライなので階級がはっきり分かれています。父親がそれまで抑えてきた感情を爆発させるシーンはすごく感動的です。トム・クルーズに付いて回りながら監視する年老いたおじいさんもカリスマがあってよかったです。 実際にスタントマン出身だと聞いたのですが、剣を振り下ろすシーンからは彼のエネルギーが伝わってきます」

「ラストサムライ」は変わりゆく世の中で、今の自分を支えてきた根源の価値観が消えて行くことに挫折した男たちの話だ。祖国と名誉のために戦場に赴いた「アルグレン大尉」(トム・クルーズ)と、国と天皇のために命をかけて忠誠を尽くした最後のサムライ「カツモト」(渡辺謙)。東洋と西洋の文明が衝突する時代を生きた二人は、お互いから自分の姿を見つけることになる。

3. 「ひまわり」 (Sunflower)
2006年/カン・ソクボム


「一発逆転があるキャラクターや映画が好きなんですね。『ひまわり』は軍隊にいた時に観たのですが、本当におもしろかったです。テシク(キム・レウォン)は素朴で無邪気な人なのに、何であの人が刑務所に入ったのかが気になって仕方なかったんです。学生たちに殴られている時、タトゥーが見えたのがとても格好よかったです。『やっぱりあの人は訳ありなんだなあ』と思いました。テシクが酔っ払って(モノマネをしながら)「俺は! 」と叫ぶシーンには鳥肌が立ちました」

人は誰しも失敗をし、挫折する。その過程で誰かを傷つけたりもする。誤ちは人生を変えるときもあれば、償うことさえできないこともある。この映画は、世の中が“狂犬”と呼ぶテシクと彼を無限の愛で抱え込むトクチャ(キム・ヘスク)を通じて、“希望”を諦めてはいけないことを教えてくれる作品である。

4. 「バンジージャンプする」 (Bungee Jumping Of Their Own)
2000年/キム・デソン


「昔見た映画なんですが、最近観なおして驚きました。実は『ドクター・チャンプ』の時、チョン・ギョウンさんとパク・ジホンの役を巡って競争したんです。その時監督からイ・ビョンホンさんのような演技をしてほしいと要求されました。それでこの映画を観なおしたんです。以前は気づかなかったことを改めて知ることができて、新鮮でおもしろかったです。表情一つで喜怒哀楽を表現するイ・ビョンホンさんの演技は、最高に素晴らしかったです」

バンジージャンプが怖いのは、高いという理由だけではい。あなたには全てのものを捨て、絶壁から飛び降りる勇気があるのかを聞いていたからである。この作品は「人生の絶壁から飛び降りても、その下にまだ終わりはない。愛しているからではなく、愛するほかに術がないのであなたを愛します」と言った、一人の男の運命を表現した愛を描いている。

5. 「白い牙」(White Fang)
1991年/ランダル・クレイザー
 

「外国に住んでいる親戚が多かったので、ディズニーのような外国映画をたくさん買ってもらいました。『アラジン』『ライオン・キング』も韓国で公開される前に観ました。『白い牙』もそのときに観た映画なんですが、子供の私にとっては衝撃的な映像でした。オオカミと主人公がお互いに心を分かち合うのを観て、本当に素晴らしいなあと思いました」

イーサン・ホークの子役時代の出演作「白い牙」は、少年ジャックが雪原で母を亡くした子狼と友達になる話だ。 小さい頃に親を亡くして一人で生きていかなければならいジャックと狼にとって、お互いの存在は親子のようなものであった。熊に襲われるシーンや闘犬のシーンがリアルで、印象的な作品である。


「僕はものすごい努力家なんです」と照れくさそうに語る彼の表情に頼もしさを感じるのは、何事にも全力で取り組み、学ぼうとする姿勢が伝わってくるからである。 海兵隊時に、炎天下で基本訓練を何時間もやらされ、足ひれをつけた状態でグラウンドを4kmも走らされる厳しい訓練にも耐え抜いた彼。映画「秘密のオブジェクト」で「これ、おいしかったんだよな? 何の味だったけ」と3ヵ月間同じ言葉を繰り返す“難しくて退屈な役”を演じたことで、演技の筋肉を鍛えた。気が狂うほど大変だったのは言うまでもない。

歯を食いしばって持ち上げたベンチプレスが強い筋肉を作ってくれるように、今までの苦労もこれからの俳優人生の糧となるだろう。

「髪は直毛なのかくせ毛なのか、普段どんな服を着ている人なのか、よく行くとこはどこなのか」と細かいところまで監督と話し合って作った「秘密のオブジェクト」のイ・ウサンは、四十路の女、へジョン(チャン・ソヒ)の忘れかけていた欲望を呼び覚ましてくれる人であった。また、観客にはスーツがよく似合う俳優としての印象を与えてくれた。美しい体だけではなく、彼の顔の表情も気になっているのなら、彼の努力が報われている証拠であろう。

記者 : キム・ヒジュ