Vol.1 ― 「マイウェイ」のカン・ジェギュ監督「家族と映画なしでは不幸な人生」

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「そっちじゃなくて、こっちに座りましょうか?」会話する姿をもう少し撮影したいという写真記者のリクエストに、カン・ジェギュ監督はあえて固いプラスチック椅子を指差した。彼の意図に気づいたのは3秒後。どの角度から撮っても彼の後ろに「マイウェイ 12000キロの真実」(以下「マイウェイ」)のポスターが写る、絶妙なアングルだった。彼のペースに巻き込まれそうな不吉な予感がしたが、幸い、その予感は外れた。

ウォンビンも考えたが、やはりチャン・ドンゴン

「きっぱりタバコやめました」というカン・ジェギュ監督は、華奢に見えるほど体重が落ち、一目見ても興行成績が気に入らない様子だった。「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」に次ぎ、公開1週目に100万人を動員した「マイウェイ」の船長としてはプライドに傷がついたのだろう。しかし、焦ったり、不安そうな面持ちではなかった。まず、聞きづらい質問から。

―トーム・クルーズの力、強いですね。

カン・ジェギュ:予想はしてましたが、こんなに差が出るとは思いませんでした。「ミッションインポッシブル」や「シャーロック・ホームズ」のようなシリーズにはコアなファンがいるため、年末まで着実に観客が入るでしょう。しかし、「マイウェイ」はこれからが始まりです。長く、遠い道のりになればいいですね

―「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」と「マイウェイ」の配給会社は同じCJですが、損しているとは思いませんか?

カン・ジェギュ:思いません。映画館は現金で商売しているので、観客が集まる時間帯に映画を提供するようになっています。資本主義においてこれほど正確な論理はないでしょう。「マイウェイ」の評価は、最終的な結果が出てからでも遅くないと思います。今はまだ早いと思います

―チャン・ドンゴンの代わりにウォンビンをと考えたことがあるのでは?

カン・ジェギュ:もちろん、シナリオを書いていたとき、ウォンビンも考えました。しかし、私たちの映画のエンディングであるノルマンディーでの戦闘シーンを考えると、やはり重量感のあるチャン・ドンゴンにジュンシクを演じてもらいたいと思いました。ドンゴンとはお互いに対する信頼と尊重があるので、出演するしないのような消耗戦はありませんでした。一緒にやるのは決まっていて、どうやって上手くやっていくかということを議論しました

―戦争中も毎晩走る練習をするジュンシクの姿に違和感を覚えたという意見もありますが。

カン・ジェギュ:同意できない観客もいるでしょう。ジュンシクにとっては、一日も早く帰国し、ロンドン五輪に出場することが唯一の生きる理由であるはずなので、それを重点的に表現してみたかったのです。ジュンシクのキャラクターが味気ないという指摘もありますが、ジュンシクは自分の信念を最後まで貫き、他の人を変えていく人物です。おそらく、チャン・ドンゴンが普段から温厚な人なので、余計に味気なく見えたのかも知れません。ですが、それは予想していました


またアメリカに行きますか?と聞くと、「……」

「ブラザーフッド」を撮り終え渡米したカン・ジェギュ監督は、結果的にハリウッドで良い結果を残すことはできなかった。言葉の壁と独立系映画から始めなければならないハリウッドの方式が急ぐ彼の前に立ちはだかった。そのため、「マイウェイ」は彼がハリウッドの関係者たちに「俺はこんな人間だ」というのを見せ付ける作品だという解釈もある。「あなたたちが1000億ウォン(約67億円)をかけても作れない映画を、俺は280億ウォン(約19億円)で作った」という声なき叫びも見どころの一つだ。

カン・ジェギュはこの質問に即答する代わり「あちゃ」と天井を見上げた。やっぱり来たかという顔だった。彼は「そんなシーンが一部あるでしょう」と答えた。
「はじめてワーナー・ブラザーズとこの映画の話をしたときも、『あなたたちにはこの映画を絶対作れない。コストは少なくとも1億5000万ドル(約117億円)、もう少し抑えたとしても1億ドル(約78億円)以上はかかるだろう』と強く言いました。日中韓の微妙な心理を表現できるのも私、カン・ジェギュしかいないと説得しました」と話した。
一般的な映画の4倍の規模にあたる160回にわたる撮影で完成した「マイウェイ」は「プライベート・ライアン」にも負けない戦争シーンを作りあげ、280億ウォン(約19億円)という低予算(?)で効率よく成績を収めた模範事例として評価されている。

彼は「おそらく、アメリカで公開されたら、皆、びっくりすると思います」と笑った。しかし「マイウェイ」以降、再びアメリカに行くかという質問には答えの変わりに妙な微笑みを浮かべていた。「そうですね。私にもよく分かりません。とりあえず、それについては“…”にしておきましょうか」

記者 : キム・ボムソク