キム・ヘスク「趣味やしたい事はないけれど、仕事が好きで幸せです」

10asia |

俳優という仕事はいつも仮面を被っている。だからテレビや映画という枠から解放された場所で会うと、彼らの姿は頭の中のイメージとは違う。キム・ヘスクとの出会いもそうだった。インタビュー場所のカフェで彼女を見ても気づかなかった。田舎っぽいパーマをかけて趣のある方言で愛嬌たっぷりに話していた映画「ママ」でのオクジュの面影が残っていたからか、目の前に立っている、あの若くてお洒落な女性が“国民の母”と呼ばれているキム・ヘスクとは思えなかった。実際の姿は“カリスマ性のある一番年上の女性”のような印象が強かった彼女は、数多くのドラマや映画でたくさんの娘、息子を胸に抱いて世話をする“優しいお母さん”として記憶に残っている。その理由を彼女との対話から発見した。演技以外には特別な趣味もなく、演技が好きすぎて、そこから力をもらって、その力で生きている“プロフェッショナル”な女優、キム・ヘスクに会ってみた。

― 最初「ママ」にキャスティングされたと聞いた時は正直、“ママ”という単語が一番に似合っていて、あまりにも当たり前なことだったから、そんなに驚いてはいませんでした。ところが逆に映画を見てから驚きました。このような表現は失礼かもしれませんが、演じていたオクジュがとても可愛かったです。

アハハハハ。ありがとうございます。

―実は「ママ」という作品自体には少しがっかりする部分がありました。しかし、多少、子供っぽいけど愛嬌たっぷりの少女のようなお母さん、オクジュと息子であるスンチョル(ユ・ヘジン)の陽気で切ない母子との関係が映画の足りない部分を埋めてくれる役割をしました。キャスティングを提案された後、オクジュをどのように解釈したのか聞かせてください。

最初、シナリオをもらった時からとても気に入りました。3人のお母さんと娘、そして息子の話をオムニバス形式で繰り広げていくのが、日常的な出来事のようで、個人的にもオクジュのキャラクターが凄く気に入りました。何故なら、オクジュはその年齢にも関わらず、とても明るくて、いまだに女性として夢を持っていて、少女みたいだった。お母さんとして子供に対する愛が足りないのではなく、子供を夫のように、また恋人のように扱う姿が少女みたいで可愛かったと思います。ある面では新たなお母さんの姿なのかもしれません。そんなオクジュが凄く魅力的でした。

「私の中にも色んなお母さんがいます」

― お話したように「ママ」でオクジュの少女みたいな一面が表れたシーンが印象的でした。乳がん宣告を受けて、胸を切らなければならないと聞いた時、「胸が片方しかないよ、もう健康ランドには行けない」と悲しんでいて。結局、初恋の人に会うためにボトックスを注入するハプニングもあります。ある面では少女のように可愛く、ある面ではみっともないと評される役です。母である前に女でいたいオクジュに共感しましたか。

実際に私の周りにも彼女のように正直で少女のような明るいお母さんたちがいます。彼女のように明るくて、楽しく生活しているお母さんがたくさんいます。また、オクジュが「いつの間にこんなに年を取ってしまったのか」と残念に思って1人で泣くシーンがあります。私ももう年ですので、過ぎていった時間と年に対するあの気持ち、何か理解できるんです。ところが、オクジュは悲しみに陥らず、初恋を探す女なんです。些細なことですが、この人物はこれを通じて、悲しみを乗り越え、そこから希望を持つ姿が好きでした。

― 前作の映画「実家の母」と今回の「ママ」では全羅道(チョルラド)の方言を使っていて、大人になった子供がいるという共通点がある反面、娘には無条件で献身的な母と、親孝行している息子に頼る母という違いがある。この二つは明らかに違う。どちらのお母さんにより感情移入できましたか。

私は両方とも好きです。女優というのは役が私に“合っている、合っていない”を考えるより、その役に合わせていくことだと思います。それに、お母さんの中には色んな種類のお母さんが含まれていると思います。私の中にも色んな性格のお母さんがいます。

―“国民の母”と呼ばれるほどお母さん役をたくさん演じてきましたが、その中で映画「乾き」と「無防備都市」のことも言わざるをえないでしょう。この二つの作品では単純に主人公の母役ではなく、鮮明なキャラクター性を持った役でした。だから女優としてはやりがいのある演技だったと思います。「無防備都市」のインタビューでその役自体が快楽であって、挑戦であると話していましたね。

そうですね。「無防備都市」のカン・マンオクという役の時も「乾き」のラ夫人を演じた時も、いつも新たな挑戦であって新たな母でもありました。だから女優として、とても楽しかったです。実は「乾き」のラ夫人は想像できないキャラクターだったので、その演技をしながら私も知らなかった自分の姿も表現できるようになり、これからも数え切れないほど色んな面を表現できると思います。そんな役を演じているといつも興奮してしまうんです(笑)

―今回の「ママ」のオクジュを見ていて浮かんだ人物がいます。明るくて愛嬌がたっぷりなところでは「拝啓、ご両親様」のオクファ、そしてSBS「別れ」のジョンイムみたいな人は年を取るとオクジュのようになるかもしれないと考えてみました。

「別れ」のジョンイムは愛嬌がある点は似ていますが、オクジュとは少し違います。オクジュは信念があります。息子を愛していて、信じているから、息子のことを恋人のように思って愛嬌をみせる時もあるけど、重要な時は子供のために何でもできる女なんです。結局、最後は息子には母親として残ります。それに比べてジョンイムは可愛い面があったけど、大人げなかったですね。

― 同じ母親の役でも映画とドラマは違うと思います。映画は短くて強烈な役を演じることができるけど物理的な時間は短いです。しかしドラマは、キャラクターは限られているけど映画よりは長時間登場できて、説得力のあるキャラクターを演じることも可能だと思います。

そうですね。特にドラマでは社会的な制約があります。ドラマはテレビをつけて見ることしかできないもので、守らなくてはならない道理があって、倫理から外れることはできません。だけど映画は、ドラマでは表現できないことも可能にしてしまう魅力があります。だから「無防備都市」や「乾き」の母を演じられたと思います。

―それでは女優として演技をしている時、映画の方にもっと愛着がありますか。
そうでもありません。私は映画とドラマ、両方とも好きです。ドラマはそれなりの魅力があって、映画もそれなりの魅力があります。もちろん私が若い女優だったら、また違っていたかもしれません。でも今はドラマも映画もみんな好きと言える年になってしまいました。この世にあることが全部良い、全部悪いとは言えません。長所と短所があります。特に私はドラマの演技から始めたのでドラマが好きだし大事にしています。

「一緒に共演した子供達は今、みんなトップスターになりました」

―昨年終了したSBS「美しき人生」のキム・ミンジェの役は非常に現実的な人だったが、平凡ではないお母さんでした。色んな役割を持った「美しき人生」のキム・ミンジェが一番自分に近いと言われたりしました。

「美しき人生」で自分と似ている部分は、私は女優で彼女は料理研究家だけど、2人ともとても忙しくて、仕事も愛して家族も愛している点でした。仕事をしているからと言って家族や家事を疎かにしません。そして、とても前向きでエネルギーが溢れる人物です。この点が私と凄く似ているところだと思いました。エネルギーが溢れているからこの仕事ができるんです。いくら演技が好きだと言っても、活力がないと大変です。もちろん、私は演技が好きだから、その熱望でエネルギーを充電させます。ミンジェも仕事が好きだから、全部やり遂げて、家族に対する愛、仕事に対する愛が力を出せる原動力になっていました。その点は私も同じです。

―前にも話したように、ドラマは映画と違って社会的制約があって、表現にも制限があります。しかし「美しき人生」ではソン・チャンウィさんが演じた息子役を通じてドラマではあるが、制限された部分を積極的に突破しようとしたのではないでしょうか。そして、それが視聴者に受け入れられたことは演じられていたキム・ミンジェの役割が大きかったと思います。

その時は本当に大変でした。でも、もしそのような状況だったらどうしたか、自分に聞いてみたところ、私だったら理解すると思いました。その心を基本として演技しました。「美しき人生」でこの部分を最も大事に思った理由は、彼らは自分たちが願ってそうなったわけではないからです。彼らは私たちと同じ人間で賢くて、大事な息子と娘であって、もしかしたら私の子供になるかもしれないのに、ただ生まれつき変だからと言って、それをまるで人間じゃないように軽蔑するのは正しくありません。私も演技をしながら、何となく義務感を持っています。テレビドラマであるということは、誰でも見られるものだから、この社会の模範となるストーリをドラマを通じて習えると思います。同性愛という素材をドラマの興行要素として考えずに、もっと深くて現実的に彼らの痛みを正直にそして明確に描いてくれたので、ドラマを見て彼らの立場や気持ちを多くの人が理解するようになったと思います。もし私の子供が同じ立場でも抱きしめてあげたと思います。ドラマではキム・ミンジェとして息子を抱きました。ミンジェだは強かったから耐えることができたけど、もしキム・ヘスクだったら号泣したと思います。

―女優であるから自分が同意しない価値観や状況でも、演技しなければならない部分もあるけど「美しき人生」では全てが本物だったんですね。

私にはそうでした。私がいつも強調している俳優としての演技理論はこういう時はこうすると計算することではなく、演じる人物に最も近づくことが正解だと思います。その人物になれた時、本物の演技ができるんです。だから「美しき人生」を撮影した時はミンジェになってミンジェとして過ごしてきました。

―“国民の母”は栄光の呼び名ではありますが、心残りもあると思います。多くの制限がありますが、最近、ヘスクさんの年齢の女優は誰かのお母さんとしての演技ではなく、他の役を演じるチャンスが増えたと思います。映画ではユン・ヨジョンさんが、またMBC「ロイヤルファミリー」のキム・ヨンエさんもカリスマ性のある財閥会長役を演じました。

だんだんそのような役が作られると思います。ドラマでは私もMBC「白い嘘」で財閥の会長役を、KBS「真珠のネックレス」ではミュージカル企画会社の社長の役も演じました。映画はドラマより役の幅が狭かったんですが、これからは映画も役の幅が広くなると思います。

―長い間、演技をしてきました。若い時に同じ作品で共演した人たちと共に年を取りながら演技をすることが多いと思います。若い時、相手役として会った時と、年を取って一緒に演技することはまた、違うと思います。

昔は今の若い後輩たちがやっている演技をしたけど、今はその子の母親の役を演じているから人間として「あ、私たちもこんなに年を取ってしまったのね」と思う時があります。私たちも人間だから(笑)だからと言って、若くなれません。もう年だから、特別な感情はなく、ただ会ったら嬉しい。また、女優はプロフェッショナルな職業です。私の仕事は女優だから何よりもプロフェッショナルでないとダメです。

―プロフェッショナルという観点から、先輩女優として最近の若い俳優たちと違うと思った時がありますか。KBS「キム・スンウの乗勝長駆(スンスンチャング)」ではシン・ウンギョンさんのことを褒めていましたが、彼女のように良いと思う後輩がいると思います。

最近の後輩たちはとても熱心です。今まで会った俳優たちはみんな最善を尽くして頑張っていましたし、その姿がとても良かったです。演技をする時、相手役を愛さないと決して良い演技はできません。私は先輩で大人だから先に愛さないと、彼らが先に愛してくれることは難しいです。このように一緒に共演した俳優たちを心から愛していたので、今までもずっと連絡が取れたと思います。今もみんなを大事にしていて、その中から1人を選ぶことはとても難しいことです(笑)私の共演した後輩の中で気に入らなかった人はいなかったです。それに今、私の子供役を演じた後輩たちはみんなトップスターになりました。みんな演技も上手で、自分の任務をちゃんと果たしています。

―娘がいるお母さんと息子がいるお母さんとして、気持ちが少し違うと思います。実際に2人の娘さんがいらっしゃるとお聞きしたのですが、やはり娘役との演技のほうがしやすいですか。

親にとって子供が息子なのか娘なのかは関係ないように、演技をする時もそうです。私に娘がいるから演技しやすいことはあまりありません。息子との演技も楽しいです。本当の息子のようにお尻を叩いたりして凄く楽しく気楽に撮影しています。実際に息子がいないから、作品の中で堪能しています。

「一番親しい友達のようなお母さんになりたいです」

―家ではどんなお母さんですか。

普通のお母さんです。友達のようなお母さんになりたくて、頑張っています。娘が今32歳と33歳ですが、もう大人なので色んなことも相談できて、とても心強いです。私の母は厳しかったので、私は厳しいよりは友達のような母になりたいです。でもダメなことははっきりダメといわなければならない厳しさと優しさが共存している、一番親しいお母さんになりたいです。

―ヘスクさんのお母さんは厳しかったそうですが、お母さんが1人でヘスクさんを育てながら、気品と自尊心を失わなかったとお聞きました。今回「ママ」の試写会でお母さんの体調が悪くて心配だとおっしゃいました。今までお母さんの役はたくさん演じてこられましたが、今回はまた違ったことを感じられたと思います。

みんなは私のことを一人娘だと信じてくれませんでした。母の強かった姿をずっと見ながら育ったので、私もやっぱり強いです。私は母を立派だと思っていて、それが尊敬している理由でもあります。試写会の時、涙を見せたのは私だけではないと思います。お嫁に行った娘だったら、実家の母の声を聞くだけでも感情が込みあがって泣きたくなります。本当はそういう感情をその時に表さなければならないのですが、すぐ忘れてしまいます。母と娘の関係は年とは関係なく、母と娘であればみんな同じだと思います。私はもう50歳を超えていますが、私の母は、私が出かける時、ちゃんとご飯は食べたか、車に気を付けるようにと子供扱いをします。私が母から聞いている心配が、私が娘に思っている心配でもあります。「お母さん、私の年がいくつだと思ってそんなこと言うの」と聞くと、「あなたも年をとると分かるわ。みんな同じよ」と言ってくれたんですが、私も同じことを娘に言っていました(笑)

―「キム・スンウの乗勝長駆(スンスンチャング)」に出演して初めて、テレビで女優や演技の話ではなく、プライベートな話をしました。

初めてでした。バラエティ番組には出演しなかったから。今まであまり気にしていなかったけど、私があまりにもバラエティ番組に出ないから、周りのみんなが私のことを知りたがっていました。それに何よりも飾り気のない真面目な番組だと思っていました。バラエティではありましたが、最もトーク番組らしい番組でキム・スンウさんも俳優だったし、一回ぐらいはその番組に出て私の話をするのも悪くないと思ったら、大丈夫そうでした。私は話すことは好きですが、笑わせることはできないんです。それに意外に正直なところがあって、心配しました。私と気が合う番組だと思って出演しましたが、たくさんの方たちが驚いたり、笑ったりしたそうです。幸いにも高い視聴率を取ったそうです(笑)

―その番組でもお話したように、事業が失敗して、自殺まで決心した人の気持ちを理解するようになったと。それを乗り越えるために三つのルールを決めたことを聞いて驚きました。

正直になりたかった。私が正直じゃないと、その番組に出た意味がないですから。私のことを知りたい皆さんに正直にお話したかったです。私は辛いことがあっても、みなさんに公開したことはないですから、それを知っている人は殆どいなかったです。周りの方たちも知らなかったので、この番組を見て驚いたそうです。

―幼い頃、ピアノをずっと弾いていたそうですね。時々、作品の中でも直接演奏していますね。最近もよくピアノを弾きますか。

高校一年までピアノを弾いていました。でもそれ以来、弾かずに放っていたので、今はほとんど忘れています。でも、年を取ったせいか、もう一度ピアノを弾いてみたいです。いつも演技だけして、家と演技しか知らないので、趣味を楽しむ時間もあまりないです。仕事をして家に帰ると疲れていて、家の中ではお母さんとしてやることがあるから。それなりにとても忙しいです(笑) 音楽をしていたからか、運動もあまり好きではなく、静穏なことが好きで、外に出かけるのも嫌いで、友達に会うことも楽しまないです。

―女優ではなく母でもない、個人のキム・ヘスクの時間にはどんなことをしているか気になっていたのですが、そんな時間はないですね。

本当にあきれています。この前はこれでいいのか、こんな風に生きていいのか悩んで、うつ病になりそうでした。私は特に好きなこともなく、やることも特にないんです。でも考えてみたら「私は自分が好きな仕事をしているから幸せな人であり、みんなは違うところで楽しみを探しているけど、私は仕事をしながら楽しみを探せるから、これより良いことはない」と思いました。もちろん家にいる時はテレビを見たり、音楽を聴いたりして過ごします。映画が好きですが、最近はテレビでも映画のチャンネルが多くて、あちこち探してみて面白そうだったら見たりします。

―次回作の映画「10人の泥棒たち」にも期待が大きいです。伝説的な窃盗犯、“ガム”の役として出演しますね。「無防備都市」でも、スリ界の女王の役を演じました。また違う雰囲気でチェ・ドンフン監督の映画は描かれそうです。この作品では香港の俳優イム・ダルファとのラブストーリもありますね。どんな準備をしていますか。

今回の映画では大きく変身できそうで私も興奮しています。プロの泥棒の1人ですが、キャラクターはまだ分析中です。なにしろ大作なのでたくさんの準備が必要です。個人的にパク・チャヌク監督とチェ・ドンフン監督、二人とも好きです。パク・チャヌク監督のファンで、一緒に仕事をしてみたかったんですが、「乾き」で達成しました。そしてチェ・ドンフン監督とも是非一緒に仕事してみたかったんですが、今回一緒に撮影することができて、今は凄く嬉しくて幸せです。監督に対する信頼が大きくて、とてもときめいています。完璧な変身をするつもりです。今は「10人の泥棒たち」に集中しています。なにしろ大作で期待している作品でもありますので、他の事を考える余力がないです。

―女優だから、いくら多くの役を演じたとしても、命が終わる時まで満足できないと思います。女優として今、ヘスクさんが直面した状況や年、性別は抜きにして考えたら、どんな人物を演じてみたいですか。

私がやってみたい演技、そして誰とどんな作品をするかより、私そのもの、キム・ヘスクという女優を見せられる作品に出演できたらいいなと思います。範囲が広すぎますが、敢えてどんな役なのか、どんなジャンルなのかを決めるよりは、女優キム・ヘスクの明確な存在感を示せるような作品が好きです。

記者 : キム・ヒジュ、写真 : イ・ジンヒョク、編集 : イ・ジヘ