チョン・ヘイン「ビールの泡のような人気に心酔しないように…」
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栗の実のように短く端正なヘアスタイルにすっきりとしたスーツ姿、慎重でありつつもウィットに飛んだ喋り方も。5月、ソウルのあるカフェで出会った俳優チョン・ヘインは、彼が演じたJTBCドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」のソ・ジュニととても似ている。5月19日にドラマの放送が終了した後、溜まっていた広告撮影と海外スケジュールで忙しい日々を送っていたという彼は、おかげでまだソ・ジュニと完璧に別れられていないと吐露した。「インタビューしているのがチョン・ヘインではなくソ・ジュニみたいだ」と笑った。
※この記事にはドラマのストーリーに関する内容が含まれています。
チョン・ヘイン:僕はおかしなことにスーツが楽なんです(笑)。
――ドラマ「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」を終えていかがですか。
チョン・ヘイン:残りの撮影日数を数えながら、「終わってほしくない」と思わせてくれた作品でした。普通作品が終われば、虚しかったりすっきりしながらも残念だったりしますが、「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」はそんな言葉では表現するに足りません。こんな事は初めてです。それだけこの作品に集中して、この作品を愛していたんだと思います。
――ソ・ジュニとユン・ジナ(ソン・イェジン)が済州島で再会して幕が閉じました。結末は気に入っていますか?
チョン・ヘイン:残念な部分もあるけれど、再会してまた愛することができたのはよかったです。(残念なことは何かと聞くと)二人が別れてまた出会うまで3年という時間がかかりましたよね。それをどう表現していいか悩みました。作品の中では3年ですが実際には2日の間隔で撮影しなければいけなかったんです(笑)。1年半とか2年だったらどうだったかなと思うけれど、それだけお互いとても恋しく思い、愛していたという意味だと思います。
――ジナが嘘をついたり、お見合いをするシーンについて視聴者の意見がまちまちでした。もどかしいという意見もありましたが。
チョン・ヘイン:ジナはとても現実的なキャラクターだと思います。それに比べてジュニは恋しか知らないファンタジーな面がありました。ジュニは決定的な瞬間にも利益を考慮したりしないんです。僕から見てもそんな点はカッコよかったです。「30歳の男が果たしてそう出来るだろうか?」とも思いました。
チョン・ヘイン:そうですね。様々な理由があったとは思いません。ただジナだったから、ジナ自身を愛していたと思います。実際にドラマの中でジナが「私を好きな理由は何?」って質問するのですが、ジュニが答えられませんでした。結局「たくさんの理由がある訳じゃない。ただジナだから」と言うのですが、僕の好きな台詞の一つです。実際にもそうですよね。「君を好きな6つの理由がある」と言って恋愛する人はいますか?(笑)ただ好きなんです。好きだから長所もたくさん見える訳だし。
――「ジナだから好きだ」という言葉以外にも、好きな台詞はありますか?
チョン・ヘイン:最終回、済州島でジナに会ったジュニが「僕の傘はどこ?」って尋ねるんですが、僕はそれがたくさんの意味を含んだ詩的な台詞だと思います。「君がとても恋しくて会いたかった」という言葉を些細な小道具の中に込めて聞いているものですよね。ジュニを見せることのできる台詞のうちの一つだと思いました。そしてスンチョル(ユン・ジョンソク)とお酒を飲みながら、「ジナがあまり幸せじゃなかったらいいな」って言うシーンがあります。その台詞もとても心に響きました。
――ソン・イェジンさんは現場ではどんな女優でしたか?
チョン・ヘイン:僕の持っていたすべての偏見が壊されました。実は敏感で細かくて、どこか恐そうだと思っていました(笑)。でもサバサバしていて、よく笑う方だったんです。現場にいるすべてのスタッフ達と気楽に接する姿を見ながら、主人公が持つべき現場での態度についてもとても勉強になりました。
――“メロクイーン”と呼ばれる女優ソン・イェジンさんとの共演は格別だったのではないでしょうか?
チョン・ヘイン:格別という言葉には様々な意味が込められていそうですね(笑)。始めはとてもプレッシャーでした。肩の荷が重かったです。僕は初主演でしたが、先輩のキャリアはすごいですよね。僕の足りなさのせいで先輩が積み上げてきたものにひびが入るのではないかと思って心配だったのは事実です。でもそれが演技に出ていたみたいです。ある日、イェジン先輩がメッセージをくださいました。「ヘイン、あなたはソ・ジュニそのものだから、不自然なら不自然なように、よければ良い通りに、あなたの思い通りにしなさい」って。それが僕にとってとてつもなく力になりました。撮影中ずっとそのメッセージを見ていました。後輩もしくは相手俳優という以上に、僕を人間として尊重してくださっているという印象を受けました。おかげでもっと良いコミュニケーションがとれたと思います。
――だからでしょうか。2人が実際に付き合っているのではないかという反応もありました。
チョン・ヘイン:そうですね。さらには「付き合ってないのは知ってる。でもすごくお似合いだから一度付き合ってみたら」って言う人もたくさんいました。ハハハ。人の事はわからないって言いながら、心から応援してくれました。その度に満足な気分でした。フィクションだけれど心を込めて演じようと頑張りました。それが伝わったんだと思いました。
――制作報告会の時、「後でソン・イェジンさんに霜降り牛ロースを買ってもらう」と言っていましたが、おごってもらいましたか?
チョン・ヘイン:制作報告会をした日、すぐにおごってもらいました。僕のスタッフ達とイェジンさんのスタッフ達がみんな一緒にいて、会計が結構高くつきました。食べながら少し顔色を伺いました。ハハハ。
チョン・ヘイン:はぁ……現代版「ロミオとジュリエット」でもあるまいし……(一同爆笑)演じている時はお母さんがすごく恨めしかったりもして「ちょっとは許してくださっても、一度だけ信じてくださったら……」と思いました。でもドラマが終わってから考えてみると、母親の立場としては十分にあり得ることだと思います。でも視聴者はジュニやジナさんの立場で見てくださって、反対がひどすぎると思われたんだと思います。
――自分だったらどうだと思いますか? 愛する女性がいるのに、両親に反対されたらどうしますか?
チョン・ヘイン:簡単ではないと思うけれど、ぶつかってみると思います。簡単じゃなさそうだけれど。両家に反対されれば、すごく大変な状況ですが……それでもぶつかると思います。
――“本物の恋愛”を見せようとした作品です。“本物の恋愛”は何か、どうすればいいのか理解できましたか?
チョン・ヘイン:ドラマを撮影しながら、愛について深く考えるようになりました。どうやって恋愛をするべきなのか考える契機になったというか。まず相手とたくさん対話を交わさなければならないと思います。「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」の15話と16話を見ればわかります(笑)。お互いに願うのは同じだけれど、表現方法が違います。もちろん眼差しだけ見ても、相手の気持ちが分かったりしますし。でもそれを肌で感じるためにはたくさんの考えを共有して、正直に話さなければなりません。何よりも恋愛には勇気が必要だと思いました。最初にジナさんがジュニの手を握った時の勇気、ジュニが済州島に行った勇気のようにです。
――ご自身が一番大きな勇気を出した瞬間はいつですか?
チョン・ヘイン:初めて演技をしようと決意した瞬間です。19歳から20歳に変わる頃でした。僕に取って一番大きな挑戦で冒険でした。
――何がそれほど怖かったのですか?
チョン・ヘイン:この職業は漠然としていますよね。たくさん愛されて楽しい職業でもあるけれど、瞬間ごとに挑戦しなければいけない職業だからです。
――デビュー後、いわゆる“ブレイクした”と言うまで時間がかかりました。
チョン・ヘイン:ただの一瞬も後悔したことはありません。一瞬も躊躇したことはなかったし、一瞬もイライラしたりしませんでした。そしてそれはこれからも同じだと思います。落ち着いて、これまでしてきたように黙々と歩いて行く計画です。
――ご自身は変わらないと言いますが、環境はとても変わるでしょう。アドバイスしてくれる人も増えると思いますが。
チョン・ヘイン:ポータルサイトで僕の名前を検索してみても、違うと感じます(笑)。上がってくる記事数も増えて、僕をジュニと呼ぶ人もたくさんいます。嬉しいし感謝していますが、一方では肩の荷が重くなる気持ちになる時もあります。先輩や監督が言ってくださるアドバイスも一生懸命聞いています。でも結局、決定するのは僕の役目で、責任も僕が取るものだと思います。
――自分に向けられた反応が変わったので、これまでの姿勢を守って行くのは楽ではないと思いますが。
チョン・ヘイン:中心をとることが難しいと思います。「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」を応援してくださった方々が僕にたくさんの修飾語をつけてくださったのですが、そこにあまりにもハマっていたら中心がずれてしまうかもしれないと思うんです。僕はビールが好きです。でも人気というのはビールの泡に似ていると思います。ビールを注いで話をしていると、ある瞬間泡が消えていますよね。そんな風に人気を満喫しすぎたり心酔していれば、本質を忘れやすくなります。だから今僕が感じる感情の半分だけ感じようと思います。今までそうだったように、一喜一憂しないようにいつも努力しています。
――“メロの達人”とか“国民の年下男”という表現についてはどう思いますか?
チョン・ヘイン:逃げたいです(笑)。ありがたいですが、プレッシャーに感じる時もあります。次の作品をしながら、僕が解くべき宿題で、超えるべき山だと思います。結局修飾語というのは作品がくれるタイトルですよね。次の作品で僕がどんな姿を見せられるのかによって、修飾語が変わると思います。
――次回作は決まりましたか?
チョン・ヘイン:いくつかシナリオを検討しています。近いうちに次回作を決定しようと思います。アン・パンシク監督が僕について「演技を本当に愛している人で、自分の外見が消費されるのを嫌がる」とインタビューで答えているのを見ました。本当に感謝でした。監督の言葉のように演技に対する愛着が大きいです。演技で僕をお見せしたいです。
――忙しいのは大変じゃありませんか?
チョン・ヘイン:とても幸せでありがたい日々なので、辛いとは思いません。今のように話す時間も幸せですし。作品のおかげで日本に行って、プロモーション活動をしたのも幸せでした。肯定的に感じようと努力するのではなく、状況が幸せなので肯定的になるしかありません。ハハハ。
――ジュニを見送る準備は出来ましたか?
チョン・ヘイン:作品が終われば、自分を空にする時間が必要ですが、「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」が終わった後はまだ一人だけの時間を持つことはできていません。溜まっていたスケジュールをこなすのに、一日も休めていません。そして7月に日本で「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」が放送されるので、おととい3泊4日で日本にも行ってきました。忙しく一生懸命過ごせば、ジュニを忘れることができると思いましたが、ふと大きな打撃が来るんです。今ここにジュニが座っていると思っていただいてもいいです。(一同笑)明日からはチョン・ヘインに戻る準備をしなきゃいけませんね。
記者 : イ・ウノ、翻訳:浅野わかな