小林薫「『深夜食堂』が韓国でも愛されている理由?正直分からない(笑)」

OSEN |

“適切な”癒しだ。確かに耳を傾けているが、解決策を出したり、評価したりはしない。彼がやることは頷くか、微笑むか、黙々と料理を作るだけだ。しかし、いつもそうであるように、いつでもその場で話を聞いてくれるはずという信頼、無言の彼の背中が与えてくれる妙な安心感がある。韓国で18日に封切られる映画「深夜食堂」(演出:松岡錠司、輸入:NK CONTENS)で小林薫が演じるマスターはまさにそんな人だ。そしてマスターの魅力に惹かれた寂しい人々が「深夜食堂」にやってきて、それぞれの事情を打ち明ける。

小林薫と「深夜食堂」の出会いは6年前。人気漫画「深夜食堂」は2009年にTBS系でドラマ化され、小林薫はその中心人物となるマスター役を担当した。そうやって始まった「深夜食堂」はその後シリーズ第3部まで制作され、映画化された。そして小林薫は「深夜食堂」の顔になった。映画「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~」(2007)、「秘密」(1999)、ドラマ「ナニワ金融道」シリーズ(1996~)等に出演した日本の国民的な俳優だが、韓国のファンにとっては「深夜食堂」のマスターとして、さらに親近感のある俳優となった。

そんな小林薫が8日、韓国にやってきた。映画のプロモーションのためだ。以前にも何度か韓国を訪問したことはあるが、仕事での訪韓は今回が初めてだった。落ち着いて理路整然と答えるが、たまにウィットを交えて柔らかい雰囲気を作り出す、マスターとはまた違った魅力を持つ小林薫。「深夜食堂」を愛する韓国のファンに会った彼の話を聞いてみた。

―「深夜食堂」は韓国でも人気だ。それは知っていたか?

小林薫:本当に嬉しく光栄に思っている。韓国でミュージカル化されたと聞いて、それほどであれば人気があるのだろうと思っていた。原作者の安倍夜郎と松岡錠司監督も韓国でミュージカルを見たと聞いた。

―今回、韓国でドラマ化される。

小林薫:韓国に来て知った。マスター役のキム・スンウさんのことは、実はよく知らない。しかし、きっと素晴らしいマスターになると思う。

―韓国の観客に会った気分は?

小林薫:韓国の観客たちが映画やドラマのことを心から好きなんだと感じた。この作品の心が韓国の観客に伝わっていることを、観客に出会って知ることができた。

―映画はナポリタン、とろろご飯、カレーライスという3つのエピソードで構成されている。ドラマに使われたエピソードはもっと多いが、抜けて残念だと思ったエピソードはあるか?

小林薫:ドラマに出てきたすべてのエピソードが映画化に適していると思う。ドラマと映画という2つの媒体はかなり違う。ドラマには30分の時間制限があり、CMなどを除けば実際には本編は26分となる。その中に起承転結をつけなければならない。一方で映画は時間的な制限が相対的に少なく、小さなエピソードに肉付けしていくことができる。今回のエピソードは監督の意図があったはずだし、おそらく監督の好みもあったと思う。

―30分のドラマでの演技と2時間の映画での演技に違いはあるか?

小林薫:映画を始めた時に監督から言われたことがある。ドラマには時間制限があるので、セリフが緻密になる傾向がある。しかし、映画は時間的な余裕があるので時間的な隙を置いてもいいとのことだった。時間がかかってもやりたいようにやれと。だからと言って演技そのものが変わるわけではないと思う。ただ、監督が余裕をくれた。映画のリズムを伝えようとしたのではないだろうか。ドラマが短距離走だとすれば、映画は長距離走だ。現場で俳優として大きな違いはないが、時間の余裕を持って演技ができるという違いがあった。

―ドラマと違う、映画版のマスターだけの特徴はあるか?

小林薫:特に違いはない。ただ、映画ではマスターの日常を覗くことができる。自転車に乗って買い物に行ったり、自分の住んでいるマンションで洗濯をしたりする。マスターの日常の一部を見せているようだが、もう少し深く入ると、マスターの日常からカメラが後ろに引き、新宿の高層ビルを見せる。どの路地に食堂があるか見せるが、全体の一部のような感じがある。新宿は非常に広いところだが、その奥まった路地に深夜食堂がある。全体の街から「深夜食堂」を見せたのは今回が初めてだ。そのシーンが非常に映画的で、映画でしか見られないシーンではないかと思う。

―ドラマとは違ってマスターの様々な表情を見ることができる。ドラマではずっとポーカーフェイスだったが、映画では違う表情も見せてくれる。

小林薫:ドラマは時間制限がある中で作らなければならないので、マスターの笑顔まで捉えることはできなかった。映画では自転車に乗って坂道を上がるなどの日常が出る。店の中ではポーカーフェイスだが、日常ではそうじゃないので、マスターの新たな姿が自然に出たようだ。監督の意図だったのではないだろうか。

―ドラマの中の調理過程は小林薫さん自身がやっているそうだが、完成品の味は?

小林薫:ドラマを含めて映画まで、「深夜食堂」の中の料理はすべてフードスタイリストの飯島奈美さんが作った。すべての料理を彼女が指導・監修して、彼女が持ってきた材料で作る。材料を炒めたり、フライパンを返すシーンなど、作る過程は僕がやるが、完成品は飯島さんや彼女のスタッフの作品だ。飯島さんが作る料理は本当に美味しい。特に調味料が入ったわけでもない。母が家で作るような平凡な料理だが、役者たちがそれを食べると、魔法にかかったように表情が変わる。

―マスターが料理を食べるシーンは登場しないが、飯島さんの料理の中で一番美味しかったものは?

小林薫:現場では主に弁当を食べる。お腹が空いたら飯島さんのところに行って、撮影で残ったものはないかと聞いて食べたりしていた。お茶漬けを食べる3人組のOLが出てくるが、梅干し、鮭、たらこの3種類をそれぞれが別々に食べる。3つ全部を入れて作って欲しいと頼んで、すごく贅沢なお茶漬けを食べたことがある。すごく美味しかった。

―「深夜食堂」をする前から料理に興味はあったか?

小林薫:元々料理に興味を持つタイプの人間ではない。料理が好きかどうかも曖昧だ。一人暮らしをしていた時は缶詰を開けてそのままご飯にのせて食べていたほど料理をしなかった。繊細に味を追求するタイプではない。好き勝手に食べるタイプだ。最近は夕食を食べないが、酒と一緒に刺し身や枝豆、おでんなどつまみを食べるくらいだ。スーパーに行くと半製品がたくさん売っているが、それを3~4種類買ってきて温めて食べるレベルだ。それは料理とは言えないと思う。

―出演者たちに自分で料理を作ってあげたことはないのか?

小林薫:ない。信頼してもらえない(笑)

―「深夜食堂」が韓国で愛されている人気の秘訣は何だと思うか?

小林薫:正直分からない(笑) 韓国でミュージカルで作られたことが、日本で認識した韓国での初めての反応だ。本当にすごいと思った。韓国はインターネット環境が良いので、日本でドラマが終わってすぐに韓国語字幕がついた映像がYouTubeに上がってくる。びっくりした。中国人で取材のため日本に来た方がいた。中国でも人気があるという。すごく驚いた。その後、台湾と香港で「深夜食堂」が公開され、ヒットしていると聞いた。最近はインターネットが発達しているため、これまでドラマを見慣れている方々が映画を見てくださっているようだ。香港でインタビューを受けた時、逆にこちらから記者に質問をした。「このドラマは香港の人々に見慣れない日本の文化を元にしているのに、なぜ人気があると思うか?」と。「ドラマが面白くて、傷ついた人々が癒される内容は普遍的であるため共感している」ということだった。感情というものは国境を超える共通のものだと思った。このような経験の中で我々が伝えようとするメッセージが国境を超えて伝わっていると感じた。自信を持って理由を説明することはできないが、そんな理由ではないかと思う。

―エピソードごとに登場する平凡な人々のストーリーに癒やされているみたいだ。

小林薫:バブル後に成功できずに苦労しながら生きている人々が登場するドラマに人々が共感しているんだと思う。

―6年という長距離走をしている。マンネリになったことはなかったか? あったとすれば、どうやって乗り越えたか?

小林薫:セリフというのが主に「いらっしゃい」「あいよ」だ。マンネリになるにはセリフがなさすぎる(笑) セットに撮影に行けば、実際の食堂のような雰囲気がある。まずはセットの力、そして他の役者たちの演技、最後に現場の雰囲気があって、演技が特に難しかったりはしない。マスターを演じるときにあまり多くのことは考えない。過剰な表現をしてはいけない役だし、現場ではマスターとしての態度を見せなければならないので、片耳でお客さんの話を聞きながら料理に専念する姿を見せようとしている。営業時間を過ごすように、そうやって時間が流れていく。お客さんと共有はするが、適切な距離感を持って演技しようとしている。

記者 : キム・ユンジ