【K-ローカル・シリーズ Vol.03<イ・ジョク>】来日は20数回、山下達郎、はっぴいえんど、くるりまで邦楽にも精通…6月に日本初ライブへ

Kstyle |

イ・ジョクの顔や名前を知らない人でも、アイドルたちが度々カバーしている彼の名曲「良かった」や「ガチョウの夢」は、きっと耳にしたことがあるだろう。彼のライブを初めて観たのは、「良かった」がロングヒットしていた09年の秋フェスだった。1万人を収容する屋外メインステージのヘッドライナーに登場し、芳醇な歌声が夜空をふるわせ、男女問わずうっとり聴き惚れていたものだ。そんな韓国トップクラスのシンガーソングライターが、6月に日本で初ライブを行うのを前に取材へ伺うと、なんと日本からの取材は約10年ぶりとのこと。それが相当な日本ツウで、日本語能力試験1級を持つほど日本語が達者。加えてベテランなのに、とても気さくで温かい人柄が会話の中からあふれ出る。どうして彼のことを私たちは知らなかったのだろう。
音楽ワークから日本との繋がりまで、ていねいに応えてくれた貴重な超ロングインタビューだ。

【プレゼント】“6月初の来日公演決定”イ・ジョクさんから動画コメントが到着!直筆サイン入りCDを3名様に!

―90年代はパニック(ラッパー/キム・ジンピョとのユニット)、カーニバル(キム・ドンリュルとのユニット)、Gigs(プロジェクトバンド) と、様々なグループで活躍されましたが、ソロとグループそれぞれの良さは?

イ・ジョク:ユニットやグループは、僕にない部分を持っている音楽人たちと組むことで、学ぶ点も多いし、僕自身も気づかなかった僕の中にある良さを引き出してくれると思います。ソロでやることは、一人で作る大変さもありますが、頭から最後まで僕自身で作ったストーリーがあり、僕がやりたいこと全てを、誰かに気を遣わず完成できる良さでしょうか。

―カーニバル時代の歌で「ガチョウの夢」は、様々なアーティストがカバーしているので、日本で知っている人も多いです。インスニさんの歌と思っている人も多いですが。

イ・ジョク:インスニさんが大ヒットさせた曲なので当然だと思います(笑) 「ガチョウの夢」を収録した僕たちのアルバム自体(『Carnival』/97年) はすごくヒットしたんですが、カーニバルとしてはテレビにほとんど出なかったので、知る人ぞ知る曲だったんです。でもインスニさんが歌ってからは(07年)、まるで国民的な歌となって広く知れ渡り、人々の背中を強く押す曲となりました。僕としてもうれしいですよ、自分が作った曲がより多くの人に知れ渡って、感動や癒しの存在にまでなったなんて。想像もしなかったことですね。

―昨年のセウォル号転覆事故のときも、希望の歌として改めて注目されました。歌詞が大きなポイントだと思いますが、どんな風に作られたのでしょう?

イ・ジョク:曲をキム・ドンリュルさん、歌詞を僕が書いたのですが、先にメロディがあって、僕の後ろでドンリュルさんが「早く書いてよ」と急かしてきたから、僕は必死にパソコンに向かって書き上げたというのが現実です(笑) でも曲から受けるイメージが勇気や希望だったので、一気に書きあがりました。すごく気に入った部分は、この歌の“話者”が、冒頭の優しいメロディでは「私には夢があった…」と自信なさげだったのに、力強いサビでは「そうだよ、私には夢がある」と、メロディと一緒に何かを示すような感じとか、「私」が何度もくり返す感じが、歌っていても気分がいいんです。

―ソロの曲としては、「良かった」が日本でもよく知られています。大衆音楽賞で4冠を取り、ご自身にとっても大きな意味のある歌となったのでは。

イ・ジョク:この曲より前は、パニックのデビュー曲「かたつむり」が僕の代表曲で、“パニックのイ・ジョク”というイメージが強かったと思います。この曲がヒットしてからは、“「良かった」のイ・ジョク”として、ソロアーティストとして認められたと実感しました。あと、本来ロマンチックな曲を歌う方では無かったのですが、この曲から“ロマンチックな曲を歌うアーティスト”というふうに、イメージも大きく変わりましたね。でもこの曲はリリースして7~8ヶ月かけてゆっくり知れ渡り、ある時期から「良かった」が好きだという声が聞こえだしたんです。誰かが歌って口伝いに有名になったり、祝いの席で歌われたり、カラオケでも人気になったりして、すごく今ドキらしくないスタイルで広まりました。先ほどの「ガチョウの夢」もしかり、僕の曲は時間を経てヒットするケースが多いので、やっぱり音楽はヒット曲を作ろうとするんじゃなく、一生懸命に作るものだと実感します。ちゃんとした曲を作れば、いつかは必ず誰かが受け止めてくれると曲が教えてくれました。


居酒屋のメニューが読めず日本語を猛勉強?!

― 一番最近の作品となるアルバム『孤独の意味』は、どんな部分にこだわりましたか?

イ・ジョク:すごくたくさんの曲を作りましたね、本当に作っては消してを繰り返しました。アイデアは良くても何度か聴くと飽きそうな曲は外し、何度聴いても長く愛されると感じる曲だけを残してアルバムに込めました。このアルバムのリード曲「Lie Lie Lie」で、音楽番組『ミュージックバンク』で久々に1位を取ったんです。僕自身にとっても特別なひとときでしたね。エレクトロな「愛は何だ」は、少しだけ要素を入れてチャレンジしてみました。クラブで流れるといいなと思って作ったのですが、ぜんぜん掛からなかったです(笑)

―日本初ライブを6月に開催されますが、日本でライブをしたいと思ったきっかけは?

イ・ジョク:30歳のときに初めて日本へ行ったんですが、何もかもが面白くて。まず日本語を勉強しなきゃと思ったきっかけが、居酒屋のメニューでした(笑) すごく美味しいものばかりなのに、注文もできないじゃないですか。漢字は多少読めるから大丈夫かなと思ったのですが、“手羽先”と書いてあるのを見て、手と羽根と先…これは何だ?! と、隣にいた日本の友達に聞いてわかりました(笑) 漢字だけ読めてもダメだ、やっぱり勉強しなきゃと思ったんです。それから必死に勉強をして、2年経った頃に自分がどれくらい日本語ができるか知りたくて、日本語能力試験を受けたら1級を取れました。そして日本の友達も増えて行って、年に1度は日本へ行くようになりましたね。でも遊びに行くんじゃなくて、歌手という仕事をしているんだから、日本で僕の歌を聴いてもらえたらどんなにいいだろう……という気持ちが少しずつ大きくなってきたんです。

―日本へは相当来られているようですが、日本人の印象はどうですか?

イ・ジョク:おそらく20数回は行っているでしょう。日本の方は、何でも控えめですよね。以前、イ・スンヨプ選手の出る試合を見るため東京ドームへ野球観戦に行ったときに、観客が本当に静かなことに驚きました! ほとんどがジャイアンツのユニフォームを着た熱心なファンなんですが、まるでテニスの試合を見るように集中していて。イ・スンヨプ選手が出てきて、思わず「ワー!」っと立ち上がったけれど、明らかに浮いていたので、「すみません……」と静かに座りました(笑)

―ぜひ知っておいて頂きたいのが、日本のライブで客席が静かでも、楽しんでいないのでは無く、集中して観ているので心配しないで下さい。

イ・ジョク:ええ、それは知っています。もし静かでも傷つきませんよ(笑) なので韓国のライブみたいに過度にはあおらないで、様子を見ながら進めようと思っています。自然と盛り上がってくれると一番いいですね。


来日は20数回、山下達郎からくるりまで邦楽にも精通

―日本の音楽で、好きなアーティストや曲があれば。

イ・ジョク:日本の音楽は大人になって興味を持ったので、少し渋い音楽が好きなんですよ。例えば山下達郎さん。ユ・ヒヨルさんが「君の好きそうな音楽だ」と、シュガー・ベイブ(山下達郎の出身バンド/'73-76) を勧めてくれたんです。聴いてみると……こんな音楽を70年代にやっていたなんて! それも20代の人たちが! とすごく衝撃を受けました。聴けば聴くほど、「こんなアーティストがこの世にいたんだ」と感動しましたね。今年シュガー・ベイブのリ・マスタリングアルバムが出るみたいだから、必ず買おうと思っています。あと昔のアーティストでは、はっぴいえんども好きですよ。最近のアーティストでは、くるりや、大橋トリオさんとか。以前Twitterに、くるりが好きだと書いたら、ファンがくるりのメンバーに伝えてくれて、ご本人から返事が来たことがあり、うれしかったです。

―イ・ジョクさんを知らない人のために、日本のアーティストで例えるなら? 同年代のソロアーティストの平井堅、山崎まさよし、森山直太朗、福山雅治から選ぶとすると。

イ・ジョク:なるほど、面白そうですね。(全員のMVを見ながら) 福山さんは俳優もなさっていましたね、ちょっと男前すぎて恐れ多いです(笑) 平井堅さんは映画の曲(「瞳をとじて」) で韓国でも有名ですが、ちょっと僕とは違うかな。スタイルとしては山崎まさよしさんが近くて、森山直太朗さんとの中間という感じかな?

―日本の男性シンガーは全体に声が高いのですが、韓国のシンガーはイ・ジョクさんを始め、低く深い声質の人がたくさんいるのは、なぜでしょうね?

イ・ジョク:声帯は同じだと思うのですが、喋るときに使う部分が違うからじゃないかと思うんです。たとえば英語で歌うと上手なのに、韓国語だといまいちだったり。日本語と韓国語でも発音の違いで、声の成り立ちも変わって来るのかもしれませんね。

―日本の人は、韓国アーティストの低音に惚れる人も多いのですよ。

イ・ジョク:(超低音で) アンニョンハセヨ~。こんなふうに? ハッハッハ!

―イ・ジョクさんが日本の皆さんに紹介したい、「K-ローカル」アーティストは?

イ・ジョク:すでに知られているかもしれませんが……、キム・ドンリュルさん、チャン・ギハと顔たち、事務所の後輩ジョン・パク、ヒップホップのリッサン……などかな?

―日本でライブを待っている皆さんにメッセージを。

イ・ジョク:一度も日本公演を行っていないにも関わらず、僕の音楽を聴いてくれている人がいるのなら、本当にうれしく思います。今回のライブで皆さんに会えることを、心より楽しみにしています!

イ・ジョク「Lie Lie Lie」


■ライブ情報
LEE JUCK~The 1st Live in Tokyo~
(イ・ジョク ~ザ・ファースト・ライブ・イン・トーキョー~)

6月4(木)、5(金) 東京キネマ倶楽部
OPEN 18:00/ START 19:00
TICKET:¥7,500 (税込・別途1ドリンク500円 / 自由席)
問い合せ:クリエイティブマン 03-3499-6669
企画・制作・招聘:クリエイティブマン
協力:MUSIC FARM、LOEN エンターテインメント
詳細:http://www.creativeman.co.jp/artist/2015/06leejuck/


執筆/日韓音楽コミュニケーター 筧 真帆
2004~2007年韓国在住。韓国の音楽を日本へ、日本の音楽を韓国へ、双方をつなぐコミュニケーションを担い、メディア発信からアーティストやライブのエージェントを手掛ける。

記者 : Kstyle編集部