「悪の年代記」ソン・ヒョンジュ“僕は演技の神ではない…今でも怖く、苦しい”

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写真=ホホホビーチ
俳優ソン・ヒョンジュを見ていると“人には皆その人の時がある”という命題が決して根拠のない話ではないことを改めて実感する。

1991年KBS 1TV4期公採タレントでデビューしたソン・ヒョンジュは十数年間お茶の間で黙々と自分の位置を守ってきた。同期であるイ・ビョンホン、キム・ホジンなどが主人公の座につき、スクリーンに活動の範囲を広めている間も端役、助演を問わず、数多くの作品で毎瞬間心を込めて演技を披露してきたソン・ヒョンジュ。

デビュー25年目である彼の名前の前にはいつの間にか“信頼して見られる”という誇らしい修飾語がつく。SBSドラマ「追跡者 THE CHASER」(以下「追跡者」)で人生の第2幕を開けた彼は2013年映画「かくれんぼ」で560万人の観客を動員し、「殺人の追憶」の記録を10年ぶりに破って韓国スリラー映画興行1位を記録し、デビュー以来最高の全盛期を迎えた。

そんな彼が2年ぶりのスクリーン復帰作「悪の年代記」(監督:ペク・ウナク、制作:BAエンターテインメント)で帰って来た。映画は特進を控えた最高の瞬間に人を殺してしまったチェ班長(ソン・ヒョンジュ)が、自分が犯した殺人事件の担当者となって事件を隠蔽し始めたことで、さらに大きな犯罪に巻き込まれる物語を描く。

映画は人のよかった、後輩の尊敬を一身に受けていたチェ班長がどうやって一瞬にして奈落に落ちるのかをチェ班長の感情線を中心に描いた。似ている設定のイ・ソンギュン、チョ・ジヌン主演の映画「最後まで行く」がスリラーにブラックコメディーを混ぜて振り返らず走っていく映画だとしたら、「悪の年代記」はスリラーという表皮の下にずっしりとした感情の波を盛り込んだ。

「僕が演技の神でもなく、どこまで感情を見せて、どこまで隠すか本当に苦しく、大変でした。本当に面白く呼んだシナリオが僕をここまで辛くするとは。僕みたいな平凡な顔は少しでもサボるとすぐに顔に表れます。最近の観客は本当に賢いです。人よりもっと走ってこそ、走ったように見えます(笑)」

彼は最高の瞬間に奈落に落ちたチェ班長のように、人生最高の全盛期を迎えた今が怖いと打ち明けた。特に「人のお金でやる芸術」である映画だけに、損益分岐点を越えなければならないというプレッシャーがあるという。「ここからさらに高いところへ行きたいという思い?僕がそんなこと考えられるわけがありません。今も怖いです。『悪の年代記』が損益分岐点を越えることを願います。僕のお金で撮った映画じゃないですから」

以下はソン・ヒョンジュとの一問一答である。

―シナリオのどんなところに惹かれたのか。

ソン・ヒョンジュ:まず、シナリオが面白かった。もちろん、面白く読んだだけに撮影が大変だったが。もし僕が実際にこんな状況に置かれたらどうだろうか。僕の同僚たちにどんな風に隠して、騙していいか。色々考えた。ペク・ウナク監督が繰り広げる「悪の年代記」はどんなものか、知りたくなった。もちろん、ペク・ウナク監督が憎くもあったが(笑) もっとも大変だったのは、僕の唯一の同僚であったオ刑事(マ・ドンソク)にも話せなかったという事実だ。誰にも話せないことに対する息苦しさが辛く、大変だった。チェ・チャンシクが最初から過ちを認めていれば終わっただろうに。生活の垢、歳月の垢を垢だと思わないところが「悪の年代記」の始発点だ。

―「不当取引」(監督:リュ・スンワン)、「最後まで行く」(監督:キム・ソンフン)など、似ているようなジャンルとどのような差別感を持って演じたのか。

ソン・ヒョンジュ:正直「最後まで行く」を最後まで見られなかった。「不当取引」もまだ見ていない。うちの映画の広告コピーに「最後まで行く」制作陣が付くので、理由を聞いてみたら、映画があまりにも重く見えそうでそうしたといわれたが、「最後まで行く」が面白い映画のようだ。

―撮影直前に甲状腺がんの手術を受けた。体力的、精神的なプレッシャーが大きかったと思うが、それでも「悪の年代記」を強行した理由は?

ソン・ヒョンジュ:もともと昨年5月にクランクインすべきだったが、僕のためみんな待ってくれた。僕が好きで選んだ作品を最後まで終えたかった。

―体力的に辛い部分はなかったのか。裏通りでの追撃シーンはかなり大変そうに見えたが。

ソン・ヒョンジュ:最近観客の皆さんの目がとても高くなって、適当に走るとすべてばれる。顔が平凡なので、さぼるとすべて顔に現れる。人よりもっと走ってこそ“あ、走ってる”と思われる。何よりも適当に走ってもいい役割は入ってこない(笑)

―一番辛かった、監督が一番憎かった瞬間はいつだったのか。

ソン・ヒョンジュ:何よりも観客と僕だけが知り、同僚には隠さなければならないことが難しかった。ばればれだと面白くないし、あまり表に出さないと隙間が埋められなく、辛く大変だった。感情が消耗されたこともあった。本当に面白いシナリオだったが、辛くて難しかった。一度はペク・ウナク監督が僕の目だけをクローズアップしたシーンで「目を動かさないで喜び、悲しみ、怒り、挫折、悔恨など8つの感情を表現してみてください」と話した。その場で笑って席を外した。再び戻って「監督がやってみてください」と話した。お爺さんのような顔してすごく細かい(一同爆笑)

―感情が消耗されるというのはどんなことなのか。

ソン・ヒョンジュ:僕が演技の神でもなく、たくさんのことを現さずに感情を引き上げなければならないので、すごく苦しかった。元々あまりモニタリングをしない方だ。モニタリングをするといわゆるカッコつける演技をするようになる。流れを逃してしまうので。今回の作品は監督とたくさん会話をしながら撮った。

―感情の配分をどのようにして演じたのか。

ソン・ヒョンジュ:俳優たちが論理的に動くとは思わない。“このシークエンスまではこんな風に演じよう、これぐらいだけ演じよう”という風にはしない。いや、そんな風にはできない。それが出来るのか?大きな絵を描いて、すべてのシーンを流れるような気分で演じる。シーンごとにわざわざ何か作って演じると観客にすぐにばれてしまう。

―助演からいつのまにか主演の座まで上がった。特に「かくれんぼ」で意外なヒットを飛ばしてからの作品だ。もしかしたらダメかも知れないという怖さはないのか。もしくは、もっと高いところまで行きたいという渇望とか。

ソン・ヒョンジュ:そんな思いはない。怖い。「かくれんぼ」もすごいムン・ジョンヒ、チョン・ミソンがいて、「悪の年代記」もマ・ドンソク、チェ・ダニエルなどとみんな一緒にやったものではないか。もちろん怖い。今も怖いのは事実だ。映画は人のお金でやるものではないか。損益分岐点を越えなければならないという怖さはある。

―テレビドラマで主に活動したときは、小市民の代表格だったが、ここ何年間かスリラージャンルで頭角を現している。今撮影している映画「リバイバル 妻は二度殺される」もスリラーだ。

ソン・ヒョンジュ:ドラマをたくさん撮影したとき、映画「シークレット・ミッション」が入ってきた。分量を離れて教官のキャラクターがどんな風に描かれるか気になった。5ヶ月間武術訓練を本当にがんばったが、その時期がとても楽しかった。正直、スリラージャンルが特別好きでスリラーを立て続けにやっているわけではない。もちろん、入ってくるシナリオの70%がスリラーだが(笑) あ、だからといってシナリオがすごくたくさん入ってくるというわけではない!

記者 : キム・スジョン