チョン・ドヨン「カンヌの女王?すごく乗り越えたい言葉だった」

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「カンヌの女王だなんて呼ばれるのは韓国でだけなんです。ここに来ると小さくなりますよ」

すでに4度目のカンヌである。2007年にイ・チャンドン監督の映画「シークレット・サンシャイン」でカンヌ国際映画祭の主演女優賞を獲得し、世界を驚かせたチョン・ドヨンは3年後の2010年にイム・サンス監督の映画「ハウスメイド」でまたもカンヌ国際映画祭のコンペティション部門進出を果たした。4年後の2014年には韓国の俳優としては初めてカンヌ国際映画祭の審査員に抜擢され、世界的な映画関係者たちと肩を並べた。すでに気付かれたと思うが、女優チョン・ドヨンの話である。

そんなチョン・ドヨンが映画「無頼漢」(監督:オ・スンウク、制作:サナイピクチャーズ)で人生4度目となるカンヌ国際映画祭にやってきた。第68回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に正式招待された「無頼漢」は、本音を隠した刑事と、嘘でも信じたい殺人犯の恋人、2人の避けられない感情を描いた映画だ。チョン・ドヨンは16日、フランス・カンヌの海辺で韓国から駆けつけた取材陣と映画に関するインタビューを行った。

「無頼漢」は第68回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に正式招待された。「八月のクリスマス」(1998)の脚本、「キリマンジャロ」(2015)の演出を担当したオ・スンウク監督の15年ぶりの復帰作だ。チョン・ドヨンは崖っぷちの人生でも愛を求める女性キム・ヘギョン役を務め、もう一度誇らしい代表作を生み出すことに成功した。

韓国でチョン・ドヨンという名前は多くの意味を含みもつ。その中で最も重いのはおそらく“カンヌの女王”という言葉だ。チョン・ドヨン本人には長い時間“あまりもプレッシャーで、抜け出したかった、乗り越えたかった”言葉であったが、いつの間にか女優としての人生をともに歩む同伴者となったという。

「振り払うことのできない言葉から、あえて抜けだそうとしていた過去の私の考えが愚かでした。今思うと、もっと素敵な俳優になれるように可能性を開いてくれている言葉が“カンヌの女王”だと思うので、とてもありがたいです。私の女優としての人生を一緒に歩んでいるような感じです」

「カンヌ国際映画祭は来るたびに自分を小さくさせる」「私がどんな俳優、どんな人間なのかを悩ませる場所」と語ったチョン・ドヨンは「毎回『今回が最後』という思いでカンヌ国際映画祭を訪れている」と打ち明けた。

果たしてチョン・ドヨンは次にどのような作品で「今回が最後」という思いを持って、再びカンヌ国際映画祭のレッドカーペットに登場するのか、世界の映画関係者の関心が集まっている。

以下はチョン・ドヨンとの一問一答である。

―カンヌを訪れた感想は?

チョン・ドヨン:正直に言うと、リラックスした気持ちで来れるのではないかと思ったのに、今までで一番プレッシャーが大きかった。「無頼漢」の意味を上手く伝えられるかどうかがプレッシャーになって、不安でもあった。

―昨年は審査員として訪れ、今年は逆に審査を受ける立場だが、どちらがより難しいか?

チョン・ドヨン:評価するのも難しいし、評価されるのも難しい。どちらも楽ではない。両方ともプレッシャーが大きい。

―「無頼漢」に出演し、カンヌ国際映画祭に進出できるかもしれないという期待はなかったか?

チョン・ドヨン:全く思ってもいなかった。最初、現場で監督を見て「新人監督よりも下手」と思っていたくらいだ。監督にとっては15年ぶりの現場だったので、現場にあまり馴染んでおらず、それを見て少し怖くなった。現場編集のこともよく分からないようだった。後半は監督が手がけた「無頼漢」のシナリオ通りに進めていけたので、それを見て安心できた。

キム・ナムギル:僕たちはドヨン姉さんが出るからカンヌ国際映画祭に行けるとみんな期待していたのに(笑)

チョン・ドヨン:キム・ナムギルさんがカンヌ国際映画祭の話をするので「そこは誰でも行ける場所じゃない」と言ってあげた(一同爆笑) 昨年、審査員として出席してみて、その真剣さや集中度の高さに本当に驚いた。

―カンヌ進出という話を聞いて、どんな気分だったか?

チョン・ドヨン:カンヌ国際映画祭に出品されるという話を聞いた時、心の中では「カンヌはそんな簡単な場所じゃない」と思った。招待されたという話を聞いてからは、監督が最も祝福されるべきだと思った。撮影現場で一番心が痛かったのは、監督がいつも「これが僕の最後の作品になるかもしれない」と話していた時だった。「無頼漢」がカンヌ国際映画祭に進出できて、監督が次回作を撮れると思うと嬉しかった。

―“カンヌの女王”という言葉を重く感じたことはないか?

チョン・ドヨン:最初はプレッシャーだったし、克服したかった。“カンヌの女王”という言葉を乗り越えて、抜け出したかった。他の映画祭でも賞が取りたいという意味ではなく、他の作品を通じてこの言葉を乗り越えたいという思いが強かったが、今は違和感がない。私の女優としての人生を一緒に歩んでいる感じだ。韓国では“カンヌの女王”と呼ばれているけれど、カンヌに来るといつも刺激を受ける。私がどんな女優で、どんな人間なのかを絶え間なく質問する時間になる。今は“カンヌの女王”という言葉は私が良い女優になれるように可能性を開いてくれる言葉だ。抜け出すことができないのに、抜けだそうとしていた自分を愚かに感じる。

―「無頼漢」の公式上映でのドレスが印象的だった。

チョン・ドヨン:コンセプトが“シック”だった。実は時間がなくて、ここに来てから急いで用意したドレスだった。個人的には「無頼漢」のように節度あるシンプルなイメージのドレスが良かったけれど、満足している。実はキム・ナムギルさんがスタイリストさんに私が何を着てくるかを何度も質問してきたらしい(笑)

―「無頼漢」の公式上映が終わってから、海外のファンがサインを求めていたが。

チョン・ドヨン:私もすごく驚いた。気分が良かったのは、「無頼漢」も「無頼漢」だったけど、私の昔の作品に言及してくれた時だ。私はカンヌで小さな存在だと思うけれど、それでもそれなりの意味は持っているとような気がして嬉しかった。

―20~30代女優の中で注目している後輩はいるか?

チョン・ドヨン:一緒に来た(キム)ゴウンちゃん?(笑) 「メモリーズ 追憶の剣」で共演したが、すごく可愛く見える。ゴウンちゃんが選んだ作品もすごく良い。内面にあるものを引き出そうとしている意欲がとても可愛く見える。素敵な女優に成長すると思う。

―「シークレット・サンシャイン」での演技が自身最高の演技だと思っているか?

チョン・ドヨン:自身最高の演技をしていると思いながら演技をしたことはない。もちろん、「シークレット・サンシャイン」で賞(2007年のカンヌ国際映画祭で主演女優賞を受賞)をいただいたので、私の頂点、あるいは最高の演技に見えるかもしれないけれど、一方ではそれが私の限界でもあるという意味になる。最高というよりは、引き続き素敵な作品を通じて観客に会いたいという思いのほうが強い。

―“カンヌの新生児”キム・ナムギルさんにも絶賛をお願いしたい。

チョン・ドヨン:「無頼漢」の撮影の前までは、プライベートで会ったことがなかった。男前な男、ハンサムな外見と呼ばれているのを記憶していた。だからすごく期待していたのに、初対面の時にその幻想が崩れてしまった。子供か弟みたいで、町でボールを蹴りながら遊んでいる子供のようだった。一方では不安があった。チョン・ジェゴン役は人生の重圧がずっしりとのしかかっている男性なのに、それをナムギルさんにできるのか、疑問を感じた。けれど、演技への欲望は表には出ていなかったけれど、彼の内面に一応存在していたのだ(一同爆笑) ナムギルさんのおかげでキム・ヘギョンという人物を夢と恋に希望を抱く女性として演じることができた。そんな面ですごくいい俳優だ。ああ、やっと収拾できた!(笑)

―「無頼漢」の公式上映の後に、劇場の照明がついた時の気分はどうだったか?

チョン・ドヨン:困惑した。劇場の照明がついたら人々が急いで外に出るので驚いた。劇場に行く道で、オ・スンウク監督が「パク・チャヌク監督は『オールドボーイ』で17分間もスタンディングオベーションになっていた」と話していた。私も「ある視点」部門は初めてだったので、みんなが外に出て驚いた。映画をきちんと理解してくれたのか心配になった。(上映時間が)かなり遅い時間でもあったし。今日(16日)フォトコールの時に現地の関係者に聞いてみたら他のスクリーニングは観客が満員なので心配しなくて良いと教えてくれた。

―作品を選ぶ時は、映画祭を念頭に置いて選んでいるか?

チョン・ドヨン:違うと言ったら信じてくれるかな?(笑) 私が選べる作品が多いわけでもないし、その中から映画祭用の映画を選ぶというのは至難の業だ。

―海外から出演オファーが来ているのではないか?

チョン・ドヨン:具体的なオファーが来ないわけではない。特に昨年、カンヌ国際映画祭に来た時に一緒に仕事をしようという話はたくさんあった。その時、みんな座っている私を囲んで「なぜ君は英語を勉強しないのか? 君は本当に変だ。君も世界的に知られている女優ではないか」と言っていた。その言葉が私には「君は本当に怠け者だね」というふうに聞こえた。「今に見ていろ!」と思って英語の勉強を始めたけど、撮影が忙しすぎて授業を2回受けたきりで止めた。宿題が多いのに撮影も多いし、大変だった。けれど、外国語をいかに頑張ったところで限界があるだろうと思う。言語的な問題は私にとってとても大きなものである。

記者 : キム・スジョン、写真 : ムン・スジ