キム・ナムギルがチョン・ドヨンという高い壁を楽しむ方法

TVREPORT |

俳優キム・ナムギルが生まれて初めてカンヌ国際映画祭を体験した。浮かれて当然だが、不思議にも落ち着いていた。カンヌ国際映画祭で初めて公式上映が行われた直後には涙も見せた。第68回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に正式招待された映画「無頼漢」(監督:オ・スンウク、制作:サナイピクチャーズ)で“カンヌの新生児”となったキム・ナムギルにフランス・カンヌで出会った。

「無頼漢」は本音を隠した刑事と、嘘でも信じたい殺人犯の恋人、2人の避けられない感情を描いた映画。「八月のクリスマス」(1998)の脚本、「キリマンジャロ」(2015)の演出を担当したオ・スンウク監督の15年ぶりの復帰作である。

キム・ナムギルは今作で、初めて経験する感情に揺れる非情な刑事チョン・ジェゴン役を演じた。映画は事件現場を肩を斜めにしたまま歩いて行く刑事チョン・ジェゴンの後ろ姿から始まる。仕事のことしか知らなかったジェゴンは殺人容疑者パク・ジュンギル(パク・ソンウン)を逮捕するため、スナックで働いているジュンギルの女キム・ヘギョン(チョン・ドヨン)に接近するが、自分でも気付かないうちにヘギョンに惹かれていく。

ジェゴンは犯人を捕まえるという目標にとらわれた刑事の孤独感、犯罪者との境界が曖昧になるほど乱暴な手段を使う冷酷さ、任務と恋の間で揺れる混乱を繊細な流れの演技でスクリーンに描いていった。

「無頼漢」でチョン・ドヨンと共演したキム・ナムギルは「ドヨン姉さんと一緒に演技をしたことのある男性俳優たちが『姉さんと共演すると自分が未熟な俳優だと実感するようになる』と訴えていた」と冗談混じりに話した。当時はその言葉の意味が分からなかったというキム・ナムギルだが、カンヌ国際映画祭で大きなスクリーンで「無頼漢」を見てから、ソン・ガンホをはじめとする俳優たちのその言葉がようやく分かってきたという。「僕の未熟さがあまりにもむき出しになっているように見えて、自分でも気づかないうちに目頭が熱くなっていたんです」

しかし、キム・ナムギルはチョン・ドヨンという名の高い壁を逆に思う存分楽しんでいるようだった。チョン・ドヨンの隣に立つと小さくなるが、同時に演技に対する悩みをさらに深くさせてくれるのがチョン・ドヨンでもあるためだという。

“カンヌの新生児”という愉快でありながらも誇らしい二つ名を手にしたキム・ナムギルは「カンヌに来たからと言って、俳優としての僕の歩みに変わりはないだろう」とし「これまで通り、毎回スタートラインに立つという気持ちで最善を尽くす」と覚悟を語った。

以下はキム・ナムギルとの一問一答である。

―カンヌを訪れた感想は?

キム・ナムギル:(チョン)ドヨン姉さんが不安に思っていることの半分の半分も知らない状態だった。僕はただ、カンヌ国際映画祭が世界的な場所だということが楽しかった。だが、「無頼漢」の初めての公式上映の時に大きなスクリーンで見て、韓国とはその感じが違うことが分かった。僕の未熟な部分がよりむき出しになっているように感じられるきっかけとなった。穴があったら入りたい気分だった。

―劇場の照明がついた後、涙を流した理由は?

キム・ナムギル:未熟な演技が見えたからだった。僕は全体的に力を抜いて演技をしようとしていた。でも、もっと表現しても良かったのにと思えてきた。昔、釜山(プサン)国際映画祭でソン・ガンホ兄さんや他の男性俳優の兄さんたちが「ドヨン姉さんと演技をすると、自分の演技は下手だと思うようになる」と話していたが、その時はその意味が分かっていなかった。カンヌで映画を見てから、兄さんたちの話が分かるようになった。なんて魔性の女なんだ!

―チョン・ドヨンの演技に埋もれるのではないかという不安はなかったか?

キム・ナムギル:むしろドヨン姉さんが「シークレット・サンシャイン」の時は大変だったと苦労話をよく話してくれた。僕が演技的なことで混乱していると、ドヨン姉さんはそれに正確に気付いてアドバイスをしてくれた。ドヨン姉さんはいつもアンサンブルを重視していたが、それが本当にありがたかった。ドヨン姉さんのおかげで、あの程度ではあるが僕も演技ができたと思う。ドヨン姉さんと演技をすると、終わった時にいつも呆然とする。

―「無頼漢」への出演を決めた時、カンヌ国際映画祭に対する期待はなかったか?

キム・ナムギル:みんな期待していた。海外メディアのインタビューに応じた時も、相手役がチョン・ドヨンなのでカンヌ進出を期待してはいなかったかと質問された。実は本当にカンヌに来られるとは思っていなかった。カンヌの招待が決まって、周りから「おめでとう」と言われた時も、外国で開催される釜山国際映画祭のようなものだろうと思っていた。しかし、いざ来てみたら違った。ドヨン姉さんのように長く演技をしてきた俳優もカンヌに来るたびに刺激を受けると言うから、僕は言うまでもないだろう。

―どのような刺激を受けたか?

キム・ナムギル:さらにたくさん悩み、もっと激しく頑張らなければならないと感じた。演技的にもっと深く悩むようになった。

―“カンヌの新生児”という新たな呼び名ができたが、今後の歩みに影響はあるだろうか?

キム・ナムギル:カンヌに来たからといって、今後の歩みが大きく変わることはないと思う。これまで通り最善を尽くしたい。「無頼漢」に出演することを決めた時、周りからは相手役がチョン・ドヨンなので、それに巻き込まれず演技を上手く運ぶ必要があると言われたが、僕は毎回新しい心構えで演技をしている。「無頼漢」も同じだった。カンヌに来たけれど、これからも毎回スタートラインに立っているという気持ちで演技をしていきたい。僕がドヨン姉さんに匹敵するような俳優になるのは、今すぐにはもちろん無理だと思う。今の状況で僕にできるのは最善を尽くすことだけだ。男性俳優たちがドヨン姉さんと演技をしてから自分の未熟さを感じるのは当然だと思う。それを受け止め、もっと発展的な考えをしてこそ良い俳優になれると思う。

チョン・ドヨン:不思議。私はサポートの上手い女優なのに!

―カンヌでの今後のスケジュールは?

キム・ナムギル:着いてから海外の俳優や関係者を見ようとしばらく歩きまわったが楽しかった。外国で行われる釜山国際映画祭という考えは愚かだった。

―「無頼漢」の上映直後にチョン・ドヨンのサインをもらう海外のファンを見て感じたことは?

キム・ナムギル:僕は限りなく小さくなった。韓流スターはいつも見ていたけれど、海外の映画関係者がドヨン姉さんにサインを求めているのを見て、すごく胸が一杯になった。ドヨン姉さんがとても大きく見えた。

―「無頼漢」の上映後に劇場の照明がついた時の気持ちはどのようなものだったか。

キム・ナムギル:僕はサナイピクチャーズのハン・ジェドク代表が「オールドボーイ」の時に17分間のスタンディングオベーションがあったという話をしていたので、どんな表情をすればいいかとても悩んでいたが……。聞いていたものとはかなり違っていたので、驚いた(笑)

記者 : キム・スジョン、写真 : ムン・スジ