「セシボン」キム・ヒョンソク監督“チョンウとハン・ヒョジュのキスシーン後、尊敬していると伝えました”

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キム・ヒョンソク監督(42)の描く男たちは一言で言ってくだらない。ラブストーリー映画の男性主人公なら、ロマンチックで見事な告白でヒロインの心を揺さぶって当然なのだが、なぜか彼の作品の男たちは皆隙だらけで素直だ。「クァンシクの弟クァンテ」(2005)のクァンシク(キム・ジュヒョク)がそうであり、「シラノ:恋愛操作団」(2010)のビョンフン(オム・テウン)もそうであった。しかし、そのくだらなさはキム・ヒョンソク流のラブストーリーが長らく愛されてきた力でもある。スクリーン越しの遠い国の話ではなく、手を伸ばせば届きそうに近い、横を向けばすぐ目が合いそうな私たちの経験談のようであるためだ。

スリラー映画「タイム・クライム」(2013)でしばらくよそ見(?)をしていたキム監督は5日に韓国で公開された映画「セシボン」(制作:Jフィルム)で再び忠武路(チュンムロ、韓国の映画街)のロマンチストとして戻ってきた。「やはり人は自分が一番上手いことをやらないと」という筆者の冗談に、キム監督は「『タイム・クライム』がなかったら『セシボン』もなかった」と淡々と語った。

写真=映画「セシボン」スチールカット

実際のセシボンの先生たちはクールに許してくれました

「セシボン」は1970年代、若者の街だった武橋洞(ムギョドン)の音楽観賞室セシボンを舞台に、韓国のフォークミュージックの伝説のデュエットTwin Folioに第3のメンバーがいたという想像力から始まった。実在の人物であるチョ・ヨンナム(キム・イングォン)、イ・ジャンヒ(チン・グ、チャン・ヒョンソン)、ユン・ヒョンジュ(カン・ハヌル)、ソン・チャンシク(チョ・ボクレ)と仮想の人物であるオ・グンテ(チョンウ、キム・ユンソク)、ミン・ジャヨン(ハン・ヒョジュ、キム・ヒエ)が作り上げる青春の夢と恋を音楽映画、ラブストーリー映画というジャンルの中で描いた。

「セシボンの20代の頃の物語は大きな枠は実際と同じです。シナリオを書いていた時に、実際セシボンの先生たちがMBC『ユ&キムの遊びにおいで』でおっしゃった面白いエピソードや先生たちが書いた本を探して見ました。セシボンの先生たちは映画のシナリオを全部お読みになったんです。音楽を長い期間なさった方々であるためか、映画後半のあの事件(大麻)についてもクールに許してくださいました」

ストーリーの大きな筋はコニー・フランシスの曲を翻案したTwin Folioの「ウェディングケーキ」の歌詞から、映画のテーマはイ・ジャンヒの代表曲「私あなたに全部あげる」からヒントを得た。他にも「When the saints go marching in」「それは君」「愛する心」など当時の珠玉のようなヒット曲が映画の中で終始流麗に流れる。特に映画「星たちの故郷」(1974)のOST(劇中歌)としても有名な「私あなたに全部あげる」は、これまで映画やドラマでコミカルなラブストーリーのシーンで使われたりしていたが、「セシボン」を見終わると同曲の真価が改めて感じられる。

「選曲に対する自信はありました。45年以上過ぎた曲なのに、今聞いてもダサくないですから!不思議ですね。特にこの映画は『私あなたに全部あげる』の再発見と言っても過言ではありません。恋に対する僕の姿勢とこの歌の歌詞は、接点があります。結局、全部あげるのが恋なんです。それがこの映画のテーマでもあります」


「セシボン」はキム・ユンソクの後ろ姿から始まる映画

「建築学概論」「サニー 永遠の仲間たち」が過去と現在を交差させる編集で着実に感情を積み重ねていったとすれば、「セシボン」は20代の物語が全部終わってから40代となった主人公たちが登場する。映画の後半に新しく始まる40代のオ・グンテ(キム・ユンソク)、ミン・ジャヨン(キム・ヒエ)の物語は観客によっては多少違和感があるかもしれないところでもある。交差編集という楽な道を選ばなかったことについてキム監督は「突然40代のオ・グンテ、ミン・ジャヨンが登場して、『夢から目を覚まして!これが現実なんだ!』という思いを与えたかった」と語った。

「シナリオを書くときから、40代の物語から始めました。『セシボン』は40代のオ・グンテ(キム・ユンソク)の後ろ姿から始まる映画です。20年間我慢してきた涙を流す中年男性の後ろ姿です。クリエイターとして、その甲斐があったのも40代の物語です。40代の物語は完全にフィクションですから。キャスティングも40代の役からでしたし。キム・ユンソク先輩が真っ先にキャスティングされました!キム・ヒエ先生とハン・ヒョジュさんはキャスティングの過程でじっと見ていたら、お互いに『キャスティングされてほしいな』と思っている感じでした(笑)」

「セシボン」は俳優たちの演技を見る面白みだけでも豊かな作品だ。キム・ユンソク、キム・ヒエ、チャン・ヒョンソンの貫禄の演技は言うまでもなく、ソン・チャンシクと100%のシンクロ率を誇るチョ・ボクレ、『母なる証明』以降久しぶりにスクリーンで本人にぴったりの洋服を着たような演技を披露してくれたチン・グ、最近ホットなカン・ハヌルの落ち着いた演技が逸品だ。特にチョンウは「応答せよ1994」で見せてくれた得意の図々しい演技をより一層発展させることに成功した。ハン・ヒョジュも口調や仕草まで計算したディテールな演技でセシボンのミューズであるミン・ジャヨン役に完璧に溶け込んだ。

「僕は俳優たちを放し飼いするタイプです。チョンウの場合は、彼の長所を最大限引き出そうと思っていました。ウハハ。チョンウは最初は『監督は僕のことが信じられないのか?』と思っているようでした。それでも放置しました。その後は僕を信じて、思うがままに遊んでくれました。ヒョジュさんはとても驚きました。レベルの高い女優です。テイクごとに違う感じで演技をしながらも、大きなフレームから見ると監督が望んでいる正確な演技をします。すごいです」

キム・ヒョンソク監督は劇中でチョンウとハン・ヒョジュがキスをしながらお互いへの気持ちを確認するシーンを撮影した後、二人に「尊敬しています」という言葉で感謝の気持ちを伝えたという。

「キスシーンでもあり、最近の言葉で言うとSome(Somethingの略、男女がお互いに好感を持っている段階)が始まるシーンです。その微妙な感情を生かすのがとても重要でまた難しいシーンでした。なのにチョンウさん、ヒョジュさんの呼吸が本当に良かったです。セットの外でモニターで二人の演技を見ながら『お二人さん、尊敬しています』と話したほどでした。ヒョジュさんがそのシーンを撮影してから携帯電話のメールを送ってきました。『ジャヨンはグンテのことが好きだったんですね』と。実は、グンテに対するジャヨンの態度って曖昧でしょう?(笑) 少なくともあの瞬間だけは本気でグンテのことが好きだったんです」

写真=映画「セシボン」スチールカット

僕の映画の男たちはなぜみんなくだらないのかって?

「クァンシクの弟クァンテ」「スカウト」「シラノ:恋愛操作団」「セシボン」に至るまで。キム監督の映画の中の男性は揃ってくだらなく、女性の前では隙だらけだ。「恋愛下手な男性のストーリーを好む理由は何か」と質問するとキム監督は「不完全なキャラクターを描く時にもっと面白い。不完全な人が完全になるために孤軍奮闘する時に面白みを感じる」と答えた。

今も振り返られる「クァンシクの弟クァンテ」でのイ・ヨウォンの名台詞である「女性は勘だけで動いたりはしないよ」から、「セシボン」のハン・ヒョジュの「女性はとりあえず褒めるのよ。それが嘘だとしても」まで。恋愛下手な男性主人公たちが男性観客の支持を得ているなら、まるで女性の心を覗き見たようなキム監督流の名台詞は女性観客の熱い支持を得ている。

「台詞だけ記憶に残るのは、良くない映画だと思います。もちろん、その台詞が作品の全体的な脈絡の中で重要なものなら話は違ってきますが。例えば『スター・ウォーズ』の名台詞である『I'm your father』は台詞そのものも良いですが、映画を貫通する重要な台詞なんですね。自分の口で言うのもなんですが、『クァンシクの弟クァンテ』のイ・ヨウォンの台詞も映画のテーマと接点があるのは事実です。うはは。けど、素敵な台詞を書こうと意識すると決して良い台詞は出てきません。気付いていないうちにそんな台詞が出てくる時があるんです」

キム監督はラブストーリー映画を作る時に最も重要なものとして「ときめく心」を挙げた。セシボンにミューズのミン・ジャヨンがあったように、仮想のミューズでも心の中に収めてシナリオを書く必要があるという。キム監督が「シラノ:恋愛操作団」が終わった後に「二度とラブストーリーはやらない」と宣言(?)したのもドライに変わった心のためだった。

「『クァンシクの弟クァンテ』からもう10年前ですね。この間、偶然また見たのですが、あの頃は根拠のない勇気があって、無謀でした。『シラノ:恋愛操作団』を終えてから、すべてを嘘みたいだと思うようになりました。僕の人生はここまで乾燥しているのに、ラブストーリー映画を撮るのは大変でした。そのため、次回作が『タイム・クライム』だったわけですが…(笑) けど、それがあったからこそ「セシボン」に挑戦することができました。次回作は『警察隊の美術班』にしようかと悩んでいます。警察大学の美術サークルの3人の友人に関するストーリーです。警察隊と美術班とは…異質的ですよね?」

記者 : キム・スジョン、写真 : チョ・ソンジン