「江南ブルース」イ・ミンホ、うごめく“本能”が蘇った

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「クム・ジャンディはク・ジュンピョという星から永遠に離れられない月だから」

2009年、ラーメンを頭にかけたような天然パーマの現実離れした男ク・ジュンピョ(道明寺司)が、星の形のペンダントを差し出しながら悲運のヒロインだったクム・ジャンディ(牧野つくし)に伝えた告白だ。聞いている方が恥ずかしくなるほどの名台詞だが、ク・ジュンピョは間違いなく当時の女性ファンの心をときめかせた大財閥の御曹司だった。

全身から特別なオーラを放ち、どうしようもないロマンスを6年も続けてきた御曹司。そんな御曹司が、突然顔を泥まみれにしてスクリーンに足を踏み入れた。それだけではない。悪臭が鼻に刺さる古汚い洋服を着て、綺麗な口に似合わない汚い言葉まで存分に披露した。どこから見ても、人々が知っていたク・ジュンピョことイ・ミンホ(28)ではない。雄の本能がうごめいている、馴染みのない男イ・ミンホになって現れた。

アクションノワール映画「江南(カンナム)1970」(監督:ユ・ハ、制作:モベラピクチャーズ、配給:SHOWBOX)で裕福になりたいという夢のために一発逆転を狙って江南地域開発の利権争いに裸で飛び込んだ怖いもの知らずの青年キム・ジョンデを演じたイ・ミンホ。彼が「うちの学校のET」(2008、監督:パク・グァンチュン)以来7年ぶりに観客の前に姿を見せた。2009年、KBS 2TVドラマ「花より男子~Boys Over Flowers」(以下「花より男子」)のク・ジュンピョから、MBC「個人の趣向」(2010)のチョン・チノ、SBS「シティーハンター in Seoul」(2011)のイ・ユンソン、「相続者たち」(2013)のキム・タンを経て初めて披露する衝撃の変身だ。

初めて目にした彼の変化に、少なからず当惑した女性ファンも多いはずだが、イ・ミンホはかなり前からこのような変身を徐々に、緻密に準備してきた。綺麗で裕福なキャラクターは20代前半に思う存分やったと言う彼は、30代にはもう少し重みのあるキャラクターを表現していきたいという抱負を持っている。懸命に賢く30代の男になる準備をしてきたのだ。

「みんな『相続者たち』の後になぜ『江南ブルース』をするのかととても反対しました。どちらかと言うと『相続者たち』のキム・タンのイメージのほうが商品性が大きいのは事実ですから。でも、これはお金のためにやった作品ではないんです。30代の男性俳優になる日が近づいてきているので、もっと深く、生まれ変わりたいという思いがありました。20代前半に綺麗な役はたくさんやったので、もうそろそろ重みのある男の魅力を見せてもいい頃でしょう? 僕は自分の変身に満足しています」

―これまでのイ・ミンホの歩みから見て、簡単に選べるジャンルではない。

イ・ミンホ:ハハハ。そうですか? まず僕の中の基本的な信念として、映画を選ぶ際により成熟した雰囲気の作品をやってみたかったんです。年齢で言えば20代後半くらいになったら挑戦してみたいと思っていました。実は「花より男子」の後、かなり愛していただけて、映画のオファーもたくさんあったのですが、やってみたい作品も、上手くできそうな作品もなく、先送りにしてきました。なんとなく映画は自分が責任がとれる年齢になったら撮りたいと思っていました。そんな僕のポリシーに当てはまったのが「江南ブルース」でした。

―「江南ブルース」のオファーが来た時、悩んだりはしなかったか。

イ・ミンホ:そうですね。27歳の時にユ・ハ監督に初めて会って、シナリオを渡されました。もともとユ・ハ監督の映画が好きでしたし、シナリオも気に入りました。でも、どちらかと言うと早すぎるという気がしたんです。そこで、ラブストーリーの「相続者たち」を撮ってからで大丈夫かとお願いしたのですが、ユ・ハ監督は快く待って下さいました。頑張って「相続者たち」を撮って、終わった直後にすぐ「江南ブルース」に合流しました。

―27歳ではなく、28歳での挑戦に満足しているか。

イ・ミンホ:もちろん僕は自分で演じて自分の演技もたくさん見ているので客観的とは言えませんが、映画の中の僕の姿に違和感があったり、無理やり作り出したような感じはしなかったです。待ってから映画を撮って良かったと満足しています。イメージ的にはこれまでなかった一面を披露したという評価を受けて良かったです。観客はどう見るか分かりませんが。ハハハ。

―「江南ブルース」はユ・ハ監督の“街3部作”完結編だ。

イ・ミンホ:“街3部作”は最初から意図されていたものなのか、僕も気になっていました。ユ・ハ監督に聞いてみたら、3部作と決めていたわけではないけれど、シリーズにしたいとは思っていたそうです。僕が最終走者になれて意義深いですし、感謝しています。でも、果たしてこれで本当に最後なんでしょうか? 僕はユ・ハ監督がまた“街シリーズ”を作ると思います(笑)

―ユ・ハ監督の「街シリーズ」はクォン・サンウとチョ・インソンというスターを誕生させたが。

イ・ミンホ:そうですね。今回が完結編なので、クォン・サンウ先輩やチョ・インソン先輩の演じた役よりも、ジョンデという役が盛り込んでいるメッセージが多いような気がします。観客も映画を見れば深さが感じられると思います。

―ユ・ハ監督から特別に注文されたディレクションはあったか。

イ・ミンホ:最初は顔があまりにもテカっているとおっしゃいました。テカっているというか、ジョンデ役なのに幼少期を裕福に過ごした人のようだという意味でした。あの頃の僕はジョンデというキャラクターに溶け込めていなかったと思います。そこで、良くないこと、悪いことを考え続けようと努力しました。ビジュアル的にも艶があったらダメだと思い、顔にローションも塗らず、鏡も見ませんでした。そうやって4ヶ月撮影をしていたら、実際に周りから「顔がやつれている」と何回も言われたんです。フフフ。

―物乞いに変身した姿を見て、どう思ったのか。

イ・ミンホ:「うわ、本物の物乞いだ」と思いました。ハハハ。スタッフもみんな「物乞いみたいだ」とおっしゃいました。僕的にはあの時のジョンデをもう少し明るく解釈しようとウィンクを飛ばしたりもしましたが、ユ・ハ監督の考えはそうではありませんでした。そこで次からはウィンクなどは止めて、明るい雰囲気も消しました。

―初めて残酷なアクションも披露したが。

イ・ミンホ:最初はゾッとしましたが、中盤からはストーリーの流れがあったからか残酷だとは感じなくなりました。どちらかと言うと残酷なことをたくさん考えてみたことが役に立ったんだと思います(笑) ファンの皆さんは「花より男子」の頃からずっと応援してくださる方が多いのですが、そんな方々は人間的な本来の僕のこともよくご存知なので、残酷な役を演じたからといって驚いたりはしないと思います。不満もあるとは思いますが、最終的には好きになってくれて、支持してくれると信じています。

―「江南ブルース」では土地に執着しているジョンデ役を演じたが、イ・ミンホ自身もジョンデに似ているか。

イ・ミンホ:ハハハ。個人的に持っている土地などはありませんよ。ただ僕名義で家を一軒持っているだけです。財テクは主に両親がやっているので、僕はそういったことはよ
く分かりません(笑)

―映画の舞台が1970年代だが、1987年生まれのイ・ミンホが当時の情緒についていくのは大変だったのでは。

イ・ミンホ:1970年代の情緒を(今の時代に)どこかで感じられるわけではないので頑張りました。共感の糸口を見つけようとしました。ジョンデが持っている未来に対する不安、もう少し良い人生を生きようとする心のようなものです。結局、ジョンデが望んでいたのは愛する家族とぐっすり眠って温かい食事ができる単純な衣食住だったんです。それは今の時代も同じだと思います。そのような部分から、ジョンデの感情についていこうと努力しました。

―劇中、ヨンギ役を演じたキム・レウォンと対立し、微妙な競争心も見えていた。

イ・ミンホ:「花より男子」の時も、「相続者たち」の時も、常にライバルがいる作品を演じてきたので、特に今回の作品だから競争心を感じたということはありません。常に雰囲気は良かったです。それに、キム・レウォン先輩は僕が演技を始めた頃から知っている仲だったので、さらに良かったです。キム・レウォン兄さんは僕にとって、競争心を抱けなるような存在ではありません。兄さんも僕に自分の過去の経験を教えてくれて、気をつける部分だったり、これから生きていく上で役に立つアドバイスをたくさんしてくれました。たくさん耐えて、我慢するようにと。ハハハ。

―中華圏の王子様として生まれ変わったが、周りから「変わった」と言われたりはしないか。

イ・ミンホ:人は誰でも変わっていくんだと思います。もちろん僕に対して変わったと言う人も、変わっていないと言う人もいます。それは自然なことだと思います。昔は友達とネットカフェやビリヤード場に気楽に行けたのですが、今はそうはできません。「変わった」という言葉をクールに認めるほうです。幸いなことにまだ「良くない方に変わった」とは言われていないので、ありのままを受け止めようと思っています。

―顔が変わったという声もあるが。

イ・ミンホ:整形したという噂も、胸を張れる卒業写真があるのであまり気にしていません。ハハハ。もともと顔がよくむくむ方なので、ユ・ハ監督も撮影現場で驚いていました。朝はボトックス注射を打ったかのようにむくんでいても、夕方になるといつそうだったのかと思うくらいスリムになります。もちろん昔より外見的な部分も気にしているのは事実です。ファンのみなさんがカッコいいとおっしゃってくれるので、そのイメージを保つために皮ふ科にも行きますし、いろいろなケアも受けています。でも、他の俳優たちに比べると怠けているほうだと思います。

―2015年のイ・ミンホの計画は?

イ・ミンホ:今年はチャンスがあれば映画を一本、ドラマを一本やりたいです。無職の人や村のゴロツキのようなキャラクターも演じてみたいですし。まずは、犬のように牛のように黙々と頑張って仕事をしていきます。ハハハ。

記者 : チョ・ジヨン、写真 : キム・ジェチャン